AWS Startup ブログ
QueryLift社が挑む AI 検索最適化「GEO」 ─ 信頼性と拡張性を実現するアーキテクチャとは
生成 AI に質問し、その回答をもとに商品やサービスを選ぶ行動が広がっています。企業や商品が生成 AI にどう認識され、どの情報を根拠に紹介されるかを分析する GEO(Generative Engine Optimization)への関心も高まっています。
QueryLift株式会社 は、生成 AI 上での企業の見え方を観測し、Web コンテンツの改善と効果検証を支援する GEO プラットフォーム「QueryLift」を提供しています。本記事では、同社がこの領域で起業した背景と、セキュリティや拡張性を重視した AWS 基盤を少人数で運用する工夫に迫ります。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの中川 裕基と、ソリューションアーキテクトの冨山 英佑が、QueryLift 社 CTO 兼共同創業者の小松 秀輔氏、エンジニアのウルフ ジャスティン氏と大賀 光輝氏にお話を伺いました。
検索行動の「地殻変動」から生まれた QueryLift
中川: まず、QueryLift 社を創業したきっかけを教えてください。
小松: CEO兼共同創業者の野口がLINEヤフーでリサーチャーとして、検索クエリのビッグデータ解析などに携わっていました。その中で、人々の検索行動に「地殻変動」のような変化が起き始めていると感じたことが創業のきっかけです。ChatGPT が登場した時期から、ユーザーの情報探索行動には明確な変化が見られました。大きな構造変化や歪みが起きるところには、新しい事業機会が生まれます。そこで、共同創業者の野口とともに2025年5月に「AI × 検索」をテーマとして起業しました。
中川: 創業後、お客様の GEO に対する認識はどのように変わりましたか。
小松: 創業当初、「GEO」という言葉を知る企業はまだ限られていました。現在は、必要性は理解していても具体的に何をすればよいか分からないという段階へ移っています。「SEO 投資の効果が不透明だったため踏み出しにくい」「AI からの見え方を測る KPI や検証方法が分からない」「AI サービスが自社や競合をどう認識しているか分からない」といった声を伺います。Web サイトのリニューアル段階から AI を前提に設計したいという相談も増えています。
中川: GEO プラットフォーム「QueryLift」は、そうした課題をどのように解決するのでしょうか。
小松: お客様が自社にとって重要な問い(プロンプト)を設定すると、QueryLift が複数の生成 AI の回答を定期的に取得します。自社や競合の言及に加え、回答内容、引用元、評価や比較の文脈を確認できるため、生成 AI が自社をどう認識しているか、競合との違いは何かを把握できます。
小松: 可視化だけでなく、回答や引用元、競合との差分から、不足するトピックや一次情報、改善すべきページを特定します。企業が持つ Web ページや資料を AI が参照しやすい構造へ整え、公開後は同じ問いを再分析します。この「収集・分析・改善・検証」のサイクルを一つのプロダクト上で回します。研究開発も続けており、直近では CIKM 2026 に論文が full paper として採択されました。
将来の成長を見据え、創業初期からつくり込んだ AWS 基盤
中川: 創業初期からセキュリティや運用を丁寧に設計した理由を教えてください。
ウルフ: 権限、ネットワーク、デプロイを含む基盤の設計が、プロダクトの安定稼働に直結します。また、初期の利便性を優先した構成に機能や運用を積み重ねると、事業の成長後に変更するコストが大きくなります。
そこで、創業初期から専任のインフラエンジニアが参画し、Terraform と Terragrunt による Infrastructure as Code (IaC) を前提として、セキュリティ、可用性、保守性を基盤へ組み込みました。事業が成長しても開発速度を落とさないための先行投資です。結果として、創業から現在までインフラ起因のサービス障害は 0 件です。
冨山: アーキテクチャ全体では、どのような考え方を重視しましたか。
大賀: 少人数でも安定して運用でき、事業の成長に応じて拡張できるよう、AWS のマネージドサービスを中心に構成しました。実行基盤には AWS Fargate 上の Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS)、データベースには Amazon Aurora PostgreSQL-Compatible Edition の Aurora Serverless v2 を採用しています。
分析やバッチ処理は、同期的な処理から切り離して実行できる構成とし、配信、認証、デプロイ、監視も可能な限りマネージドサービスへ寄せました。AWS リソースは Terraform と Terragrunt で管理し、環境をまたいで同じ設計を再現できるようにしています。
IaC で実現するセキュリティと少人数運用
冨山: セキュリティ設計で重視した点は何でしょうか。
大賀: 最も重視したのは、外部からのアクセスを入口で防ぐだけでなく、構成変更や脆弱性を継続的に把握し、環境間の影響範囲を限定できる構造にすることです。
Amazon CloudFront と AWS WAF でエッジを防御し、アプリケーションとデータベースはプライベートサブネットへ配置しています。外部へ公開する範囲を必要最小限に抑え、エッジ、ネットワーク、アプリケーション、データの各層で守る構成です。
検知の面では、AWS Security Hub を中心に、構成変更、脅威、脆弱性、外部公開のリスクを継続的に集約しています。さらに、AWS Organizations で開発、ステージング、本番、研究用の各環境をアカウント単位に分離し、AWS IAM Identity Center でアクセスを一元管理することで、環境間の影響範囲と権限境界を明確にしています。
冨山: これらを少人数で維持するために、どのような工夫をしていますか。
大賀: 「IaC そのものを運用ドキュメントにする」という考え方が中心です。Terragrunt の unit をライフサイクル、影響範囲、管理責任、state の単位で分け、依存関係を明示します。コードから構成と環境差分を追えるため、変更の影響を判断しやすく、知識の属人化も防げます。
AI エージェント向けにも、Terraform、IAM、AWS WAF、検証、デプロイのルールを正本として整備しています。実行基盤や CI/CD、Slack 通知も共通化し、既存の IaC から新しいサービスを追加しやすくしました。非本番環境には Fargate Spot、本番環境には通常の AWS Fargate を使い、運用品質とコストのバランスを取っています。
「スケールするつもりなら最初から AWS」
中川: 数ある選択肢の中で、AWS を選んだ理由を教えてください。
ウルフ: チームに AWS の利用経験があり、サービスの特性や運用方法を理解していたことが最初の理由です。また、インフラを複数のプロバイダーへ分散させるより、一つのプラットフォームへ集約する方が、IaC による一元管理、保守性、学習コストの面で合理的だと判断しました。アーリースタートアップ支援プログラムの AWS Activate も採用を後押ししました。
実際に使うと、実現したい機能の多くを AWS のマネージドサービスで構成できます。サービス単体の価格だけでなく、連携、保守、監視、セキュリティ、学習コストまで含めると、少人数で運用するうえで総合的な効率が高いと感じています。
もう一つ重要なのが、ドキュメントと IaC の成熟度です。Terraform AWS Provider を含め、参照できる情報が豊富にあります。人間が読んでも AI が読んでも解釈のずれを抑えやすいことは、AI エージェントを開発へ組み込むチームにとって大きな利点です。創業時の構成を事業とチームの成長に合わせて再現、拡張できる。その実感から、私たちの結論は「スケールするつもりなら最初から AWS」です。
このように QueryLift 社では、将来の成長を見据え、創業初期からセキュリティと拡張性を基盤に組み込んできました。AWS のマネージドサービスとドキュメントを活用し、IaC と AI エージェントを組み合わせることで、少人数でも構成を再現、拡張しやすい運用の仕組みを整えています。
「人間のための Web」から「AI のための Web」へ
中川: 最後に、QueryLift 社が目指す未来について教えてください。
小松: 私たちは創業当初から「Web4AI(Web for AI)」というビジョンを掲げています。Web は長く、人間が読みやすく、探しやすく、行動しやすい形へ最適化されてきました。しかし今後、Web を読み取る主体は人間だけでなく、AI エージェントや LLM へ広がっていきます。Web は、人間が直接訪れるページであると同時に、AI が世界を理解するために参照する情報基盤へ役割を広げます。
QueryLift 社は、既存の Web を AI が理解し、参照しやすい情報源へつくり替える立場から、企業の Web と情報発信を AI 時代に合わせて刷新していきます。「人間のための Web」から「AI のための Web」へ。その変化を支える存在になることが、私たちの目指すところです。
中川: GEO の研究開発と、それを支える基盤づくりに取り組む QueryLift 社の今後が楽しみです。AWS は技術支援や AWS Activate を通じて、同社の事業成長と「Web4AI」の実現を引き続き支援していきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
著者情報
中川 裕基
AWSスタートアップ事業本部 アカウントマネージャー。創業直後~シリーズAのアーリースタートアップを担当。学生時代は橋を建てたくて土木領域を専攻。学生起業を経てスタートアップ世界の面白さを学ぶ。好物はパン。高所が苦手。
冨山 英佑(Eisuke Tomiyama)
AWS Japanのスタートアップソリューションアーキテクトとして、幅広いスタートアップのお客様への技術支援を担当しています。