AWS Startup ブログ
“脱炭素化社会”を実現するために。DATAFLUCT 社のサービスと AWS を活用する意義。
脱炭素化とは、地球温暖化の大きな要因である二酸化炭素(以下、CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を、実質ゼロにすることを目指す運動です。地球の環境を守るために、世界全体で脱炭素化のための取り組みが推進されています。
脱炭素化を支えるサービスを開発・提供しているのが「埋もれているデータから新たな価値を生み出し続けるデータビジネス・デベロッパー」である株式会社DATAFLUCT。同社は、日々の行動によって生じる CO2 排出量を外部データ連携やアンケートによって可視化・定量化できる「becoz(ビコーズ)」を提供しています。
今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの桑原 弘二とスタートアップソリューションアーキテクトの Torgayev Tamirlan が、DATAFLUCT 社の「becoz」事業責任者の吉岡 詩織 氏と、「becoz」テックリードおよびデータサイエンティストである早川 敦士 氏に、脱炭素化の現状と課題や「becoz」のサービス概要などを伺いました。また、サスティナビリティ領域を専門とするソリューションアーキテクト 佐藤 賢太のコメントも記事内に掲載しております。
上昇の一途をたどる CO2 濃度
桑原:DATAFLUCT 社の事業概要や提供サービスの概要を教えてください。
吉岡:DATAFLUCT は 2019 年 1 月創業のスタートアップであり、同年の 6 月に JAXA ベンチャーに認定されています。事業概要を説明しますと、私たちはマルチモーダルデータ活用サービスと呼んでいるのですが、人工衛星のデータを含む各種データを用いて、AI や機械学習、データ分析などを活用したシステムを提供したり、企業の DX 支援を行ったりしています。
DATAFLUCT 「becoz」事業責任者 吉岡 詩織 氏
早川:サービスの具体例としては、非構造化データなどの多種多様なデータを掛け合わせ新たなインサイトの理解や課題を解決する「AirLake(エアーレイク)」、機械学習と外部データを活用した自動需要予測・ダイナミックプライシングサービス「Perswell(パースウェル)」、あらゆるビッグデータをひとつのエリア軸で統合し、持続可能なまちづくりを推進する地理空間データプラットフォーム「TOWNEAR(タウニア)」などを提供しており、そのなかに「becoz」があります。
桑原:世界各国の CO2 排出量の現状や、CO2 濃度の上昇に伴って生じている課題をお聞かせください。
吉岡:私たちは創業年である 2019 年に、人工衛星いぶきのデータを用いて温室効果ガスの濃度を可視化するプロダクトをローンチしました。CO2 という気体は一度排出されると長期にわたり空気中に残るため、その濃度は年を経るごとに右肩上がりに上昇します。2019 年における世界的な CO2 の排出量は約 335 億トン、濃度としては 400ppm を超えています。
<参考>
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge04
https://data.worldbank.org/indicator/EN.ATM.CO2E.KT
上記のような変化に伴って世界中で平均気温が上昇しています。地球の環境に変化が起き、熱波や猛暑、大型の台風や干ばつといった実害が生じており、物価の上昇や損害保険金の増加といった実体経済への影響も出ています。こうした影響に対して、政府や企業は CO2 可視化をはじめ、炭素税の導入、排出量取引市場の創出、技術投資などの対策を講じているというのが近年の動きです。
脱炭素化のための 3 要素
桑原:持続可能な社会の実現のためには「CO2 の正しい可視化」「CO2 の排出量削減」「CO2 排出量の相殺(オフセット)」などの施策が欠かせないと伺っています。これらの施策に取り組むうえで障壁になっている要素はあるでしょうか。
吉岡:「CO2 の排出量削減」「CO2 排出量の相殺(オフセット)」については、実施するための方法が比較的わかりやすく、すでにさまざまな形で実行に移されています。「CO2 の排出量削減」は、再生可能エネルギーを調達・利用する、省エネの製品に置き換えるなどのやり方があります。また、「CO2 排出量の相殺(オフセット)」はカーボンクレジットを活用できます。
3 要素のうち最も実施におけるハードルが高いのが「CO2 の正しい可視化」です。なぜなら、この取り組みを行う際には、所属する従業員の通勤や出張などの行動に伴う排出量の開示が企業に求められるためです。正確に可視化をするためのデータ収集が課題となります。
特に BtoC のビジネスを展開する企業においては、最終顧客である一般消費者が製品を使い、捨てる過程での排出量の開示も求められます。いずれも、サプライチェーン排出量のうち Scope3 と呼ばれる部分です。
また、企業の努力だけでは NDC(国別削減目標)を達成できません。日本においては 2013 年対比で、2030 年の CO2 排出量を 66% 削減する目標が掲げられています。企業を通した生活者への働きかけや、生活者による自主的な取り組みと消費行動の変容などが不可欠です。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップソリューションアーキテクト Torgayev Tamirlan
Torgayev:御社の提供する「becoz」が「CO2 の正しい可視化」を実現するうえで有効である理由を教えてください。
吉岡:「becoz」は、生活者の環境負荷や CO2 削減行動の可視化と、行動変容に特化したサービスです。大きく分けて 3 つの基本機能があり、1 つ目は 9 つの質問に答えると今月の大まかな CO2 排出量がわかる機能です。
2 つ目がクレジットカードとの連携機能です。クレディセゾン社と協業し「SAISON CARD Digital for becoz」という専用のクレジットカードをリリースしました。このカードは、環境版家計簿である Web サービス「becoz wallet」と連携することで、クレジットカードの利用明細という個人の購買データから手軽に CO2 排出量の可視化が行えます。
3 つ目が行動変容のためのオプションで、CO2 削減を行っているプログラムに寄付をすることで、自分自身の CO2 排出量を相殺するカーボンオフセットの機能です。これらを「becoz」でサービス提供し、「CO2 の正しい可視化」を実現しています。
AWS を利用することで脱炭素化に貢献できる
Torgayev:DATAFLUCT 社はクラウドサービスとして AWS を利用されていますが、その理由をお話しください。
早川:AWS は、やはりスタートアップ各社で多くの採用事例があることで、安心感を持って利用できます。また、サーバーレス系サービスを用いた開発・運用ができるのも重要な点です。
サービスの初期フェーズではなるべく小規模なインフラから開始したいですが、toC の事業を提供している以上は、将来的なユーザー規模の成長を見据えてスケーラビリティを担保する必要があります。そのためには、AWS のサーバーレス系サービスを用いることが有効な選択肢になります。最初は必要最小限のコストから始められるため、コストメリットも大きいです。
さらに言えば、AWS ではユーザーが AWS を利用することで CO2 排出量がどの程度削減できたかを確認できる「Customer Carbon Footprint Tool」も提供されています。エンジニアとして、システム運用の過程で発生する CO2 は関心の高いポイントです。それを可視化できることも、AWS を使い続ける理由のひとつになっています。
DATAFLUCT 「becoz」テックリード・データサイエンティスト 早川 敦士 氏
<ソリューションアーキテクト 佐藤 賢太のコメント・AWS を利用することによって生じる“脱炭素化”の利点>
ここでは、AWS を利用することで実現できるサステナビリティの観点での価値を 2 つに分けてお話しします。1 つ目はお客さまのワークロードの CO2 排出量の削減、2 つ目はより広い範囲でサステナビリティの課題を解決するソリューションを AWS クラウド上にデプロイすることです。
AWS が提供するサービスを利用する場合、お客さまのワークロードは AWS が管理しているデータセンター上で実行されます。この場合、AWS 利用に伴う排出量はお客さまにとっては先述の Scope 3 排出量に該当します。この排出量を削減するために、AWS とお客さまは責任を共有し、それぞれでサステナビリティの実現に取り組む必要があります。
AWS はクラウドのサステナビリティに関して責任を持ちます。サーバー使用率、電力と冷却の効率、カスタムデータセンターの設計、および 2025 年までに 100% 再生可能エネルギーを目標として AWS の運用を強化する道のりの継続的な発展により、一般的な企業のオンプレミスデータセンターに比べて約 80% カーボンフットプリントを削減できます。
一方、お客さまはクラウド内のサステナビリティに関して、ワークロードとリソースの使用率を最大化し、全体で必要とされるリソースを最小化する責任を持ちます。クラウド内のサステナビリティに関して最適化する取り組みには AWS Well-Architected Framework のサステナビリティの柱をご活用いただけます。
サステナビリティを導入し、組織がクラウドにおけるサステナビリティを向上できるよう支援しています。これは、あらゆる種類のワークロードのエネルギー削減と効率化に重点を置いた継続的な取り組みです。実際には、この柱は、デベロッパーとクラウドアーキテクトがトレードオフを明らかにし、パターンとベストプラクティスを強調し、アンチパターンを回避するのに役立ちます。
たとえば、効率的なプログラミング言語の選択、最新のアルゴリズムの採用、効率的なデータストレージ技術の使用、適切なサイズでの効率的なインフラストラクチャのデプロイなどです。具体的には、ワークロードの状態や、定義されたサステナビリティ目標に関連する影響、これらの目標に対する測定方法、直接測定できない場合をモデル化する方法について、組織がより深く理解できるよう支援することを目的としています。
また、「最もハードルが高いのが『正しく可視化』の部分」というお話しがありましたが、全ての AWS のお客さまに無料でご利用いただける「Customer Carbon Footprint Tool」を利用することで、お客さまの AWS ワークロードによる CO2 排出量を可視化できます。このツールは、理解しやすいデータの視覚化により、お客さまの AWS 利用に伴う CO2 排出量の履歴データの提示、AWS 使用量の増加に伴う排出量傾向の評価、オンプレミスデータセンターの代わりに AWS を使用することによって回避された推定 CO2 排出量の概算、および現在の使用量に基づく予想排出量のレビューを行います。排出量の予測値は現在の使用状況と AWS のデータセンターで 100% 再生可能エネルギーを実現するための AWS の取り組みが、二酸化炭素排出量にどのようにプラスの効果をもたらすのかについての予測を、時間の経過に合わせて確認できます。
デプロイされたワークロードの影響を最小化することに加え、より広い範囲でサステナビリティの課題を解決するソリューションを AWS クラウド上にデプロイすることもできます。これをクラウドを通したサステナビリティと呼びます。例として、炭素排出量の可視化、削減やエネルギー消費量の削減、水のリサイクル削減など、組織内の他の領域にも適用できます。DATAFLUCT 社の「becoz」もクラウドを通したサステナビリティのソリューションのひとつです。
今後もさらに地球環境への貢献を
アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 桑原 弘二
桑原:これからさらに「becoz」は機能拡張していくと思いますが、そのマイルストーンについて教えてください。
吉岡:クレジットカード以外のデータとも連携できる機能を開発し、生活者の環境負荷や、環境貢献行動をより正確に評価することを目指しています。そして、環境貢献行動を促すようなインセンティブ設計も進めています。
たとえば、人の移動データや車の運転データを連携することで、そのユーザーが環境に配慮した移動手段を採用しているか、燃費の良い運転をしているかなどがわかるようになります。また、住宅データの連携に関する実証実験も進めており、IoT 家電や HEMS(Home Energy Management System)の連携による住宅でのエネルギー使用量の最適化を行うことで、「becoz wallet」をより強化したいと考えています。
別の切り口では、循環型社会という文脈でも実証実験を始めています。リサイクル製品の購入と回収貢献に関するデータを収集し、インセンティブを返す仕組みを検討しています。
早川:「becoz」はこれから各種の機能をスピーディーに開発していきますので、それに耐え得るような開発組織作りやインフラの設計に取り組みたいです。また、さまざまな企業とのデータ連携も増えてくると思いますので、それをスムーズに実施できるようなシステム基盤の設計・構築も進めていきます。
桑原:地球環境を守るうえで「becoz」が非常に有益なサービスであることがわかりました。今回はありがとうございます。
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