AWS Samurai の北海道テレビ放送 三浦氏に聞く、開発未経験からのコミュニティ活用術

2020-06-01
インタビュー

三浦 一樹 氏
北海道テレビ放送株式会社 コンテンツビジネス局
ネットデジタル事業部 兼 編成局編成部

撮影 : 山下 智晃 氏 (JAWS FESTA 2019 SAPPORO 撮影スタッフ)

北海道テレビ放送の看板バラエティ番組「水曜どうでしょう」のファン交流イベント「水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019」が、2019 年 10 月 4 日から 3 日間にわたり、さっぽろばんけいスキー場で開催されました。2002 年にレギュラー放送が終了したローカル番組でありながら、いまも全国に多くのファンを抱える「水どう」のイベントということもあり入場チケットは即完売。そこで同局は、有料ライブ配信の実施によって、会場に足を運べないファンの期待に応えました。この有料ライブ配信を実現したのが、同局のネットデジタル事業部で新規マネタイズ施策に携わっている三浦 一樹氏です。
イベント開催の 1 年前まで、有料ライブ配信はおろかシステム構築経験すらなかった三浦氏は、JAWS-UG (AWS Users Group – Japan) を中心としたユーザーコミュニティへの関わりを始めていくことで、社内提案からわずか 7 週間で AWS のマネージドサービスを使いこなし、有料ライブ配信システムを内製することができたと言います。さらに数々のコミュニティへの貢献が認められ、JAWS-UG 最大のイベント「JAWS Days 2020」では AWS Samurai としても表彰されました。

今回はそんな三浦氏に、社外コミュニティに参加することで得られるメリット、またそのメリットを最大化するための考え方、振る舞い方などについてオンラインインタビューを行いました。

「100 回の参加より 1 回の登壇」を実践したら・・・

— 技術職とはいえ放送の世界にいらした三浦さんが、どのような経緯でクラウドをはじめとする Web 技術と接点を持つようになったのですか ?

三浦氏
テレビのリモコンについている d ボタンを押すと、画面にデータ放送用のコンテンツが表示されるのをご存じですか ? 2015 年から 1 年ほどクロスメディアコミュニケーションセンターという部署で、このデータ放送用コンテンツのディレクター業に携わるようになりました。その流れで、2016 年頃からクラウドを利用した視聴データの分析なども行うようになり、徐々に Web 系の技術へのかかわりを深めていくようになりました。

— AWS との出会いはいつ頃だったのですか ?

三浦氏
2016 年中には、データ放送コンテンツの見直し作業が一息ついたので、翌年から東京や札幌で開催されているベンダー主催のイベントや、IT 系のカンファレンスに参加するようになりました。AWS Summit Tokyo 2017 の放送メディア向けのセッションもその 1 つで、フジテレビの伊藤正史さんによる「放送・通信連携時代のメディア技術開発におけるAWS活用」という講演を観て感銘を受け、自分から積極的に AWS の情報を取りに行くようになりました。

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— コミュニティとのかかわりはその頃からですか ?

三浦氏
2018 年に入ってからですね。最初に参加したのは、開始 1 時間くらい前にネットで見つけて参加した「アジャイル札幌」というコミュニティの勉強会でした。確か勉強会のテーマは「アジャイルの向こう側」だったと思います。伊藤さんの講演に刺激を受けた直後でしたし、アジャイル、スクラム、CI/CD について関心を持ち始めていたタイミングだったので、思い切って飛び込んでみることにしました。

— エンジニア中心の勉強会ですが、気後れはなかったのですか?

三浦氏
確かに、データ分析に R や Python は使うことはあっても、私自身はエンジニアではありません。無意識のうちに開発者向けの勉強会は、自分には関係ないとシャットアウトしていたせいか、札幌でこうした IT 系の勉強会があることすら知りませんでした。もともと人見知りなところもありますし、「アジャイルのこちら側」も知らない自分が参加してもいいのかわかりませんでしたけれど、どうにかなるだろうと (笑)。気後れより好奇心が勝りました。

— 参加された感想はいかがでしたか?

三浦氏
みなさん本当に親切に接してくれたおかげでとても勉強になりました。一番の収穫だったのは、こうした勉強会やコミュニティが、技術レベルが高いエンジニアのためだけのものではないということがわかったことですね。最初の勉強会で懇親会まで参加したことがよかったんだと思います。

— どんなところがよかったのでしょう ?

三浦氏
懇親会に参加すると、登壇ではあえてぼかして表現されていたことや、わからなかったことについて、登壇者ご本人から詳しく聞けるじゃないですか。お酒の勢いもあって話は盛り上がりますから、セッションや講演より、むしろ懇親会に参加することを目的に、いろいろなコミュニティの勉強会に参加するようになりました。何より飲み会として楽しいですしね (笑)。札幌だとコミュニティや勉強会に参加する人の顔ぶれが重なることも多いので、誘ったり誘われたりしているうちに、友人も増えました。

— ご自身が登壇されるようになったのはいつ頃だったのでしょうか ?

三浦氏
私の人生初 LT は、2018 年 7 月に札幌で行われた、決済プラットフォーム「Stripe」のユーザーグループの勉強会で、「テレビのリモコンだけでお買い物できるか !?」というテーマで登壇しました。受信機で直接マネタイズしたかったけれど、結局うまくいかなかったという失敗談です。

— 大勢の人の前で失敗談を話すことに抵抗はありませんでしたか ?

三浦氏
懇親会で運営メンバーのみなさんとお話しするうち、登壇者を集めることがどれだけ難しいかよくわかりました。大した経験はしていませんが、なんとか力になりたかったですし、参加者のみなさんに自分の失敗談を聞いてもらったら、登壇することに対する敷居が下がるんじゃないかという思いもありましたね。

— 初登壇の感想ははいかがでしたか ?

三浦氏
失敗談とはいえ、そこに至るまでの経緯を人前で説明するわけですから、下調べもしますし、なぜダメだったのか自分なりに考察もします。単に参加するだけよりも勉強になったというのが率直な感想です。
あとは懇親会でビール片手に手持ち無沙汰にらなくなったのもよかったですね。登壇した段階ですでに自己紹介が終わっているので、興味を持ってくださった方から話しかけてもらえますから(笑)。JAWS-UG のステートメントに「100 回の参加より 1 回の登壇」という言葉がありますが、あれは本当にそうだなと思います。

— 2019 年 2 月には JAWS-UG 横浜支部の協力で開催された Media-JAWS #0 の勉強会で JAWS では初登壇され、6 月の第 2 回にも再登壇されましたね。そこからは本格的にコミュニティ活動を ?

三浦氏
勉強会に参加し始めた頃、たまたまパラレルマーケターの小島 英揮さんの講演を通じて、「コミュニティマーケティング」という考え方があることを知りました。それまで、なぜベンダーが人や場所、お金を提供してまでコミュニティを支援するのかわからなかったんです。ちょっと怪しいぞって(笑)。
でも、製品やサービスのファンを増やすことが、結果的にベンダーの収益につながっていることがわかり、それからは気兼ねなく参加するようになりました。ちなみに、2019 年の 1 年間で参加したイベントや勉強会の数は 52 、そのうち 17 回登壇しました。ちょっと多すぎますかね (笑)

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プロのアドバイスは素直に実践してみる

— 2019 年 10 月に実施された「水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019」では有料ライブ配信に挑戦されました。三浦さんと 2 人のプログラマーで内製されたと聞きましたが、どんな経緯で実現されたのでしょうか ?

三浦氏
提案したのは 2019 年の 8 月下旬だったと思います。同じ年の 7 月に組織変更で、広告以外の領域で新たな事業の柱を作る新規マネタイズの担当になったこともあり、10 月開催予定の「水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019」の有料ライブ配信案を会社に提案しました。私以外の 2 人はデータ放送用の開発言語 BML (Broadcast Markup Language) のプログラマーで、だれも有料ライブ配信システムを構築したことはありません。文字通りゼロからのスタートでした。

— 初めての開発で不安はなかったのでしょうか ?

三浦氏
そもそも 3 日間限定のサービスなので、継続的な運用について考える必要はありません。当時、すでに Media-JAWS や JAWS-UG 札幌の運営メンバーにもなっていたので、コミュニティ活動を通じてなんとなく技術選定のポイントやシステム構成のイメージもありましたし、クリティカルな問題については、クラスメソッドさんにコンサルに入ってもらうことで対処できるだろうと。それでいけると判断しました。 運営メンバーになることで選定のイメージを持つことができました。

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撮影 : 内村 和博氏 (JAWS FESTA 2019 SAPPORO 撮影スタッフ)

—開発期間は約1カ月。大変だったのでは ?

三浦氏
AWS が提供する各種マネージドサービスと、AWS のメディアサービスを組み合わせ、外部の課金や認証プラットフォームとつなげば、サーバーレス環境で実行できる見込みが立ったので、あとは、不明点や不具合が出る度に、その都度手分けして調べたり相談したりして、順次課題をクリアしていきました。その道のプロがいうことはとりあえず素直にやってみるというスタンスで、ベンダーの公式ドキュメントはもちろん、企業や個人の技術ブログを参考にしながら、コードも含め利用できるものは何でも利用して形にした感じですね。もちろんコミュニティで知り合ったエンジニアのみなさんにも、ずいぶん助けていただきました。

— ライブ配信の結果はいかがでしたか ?

三浦氏
結果的に同時接続が 1 万人でも耐えられる環境を整えることができ、3 日間にわたる有料ライブ配信は滞りなく終了しました。システムを用意するにあたって資産購入もしませんでしたし、システム開発に費やした費用、コンサル代や出演者への報酬を差し引いても、十分黒字化することができました。

— 社内からの評価はいかがでしたか ?

三浦氏
局長賞をいただいたり、今回の有料ライブ配信について書かれた記事を読んだよと、他部署の方から声を掛けてもらったりと評価していただけました。個人的に一番うれしかったのは、イベントのあと、局内でAWSの入門書を読んでいる人を何人も見かけたこと。もし自分たちの取り組みがサービスの内製化への呼び水になったとしたら、頑張ってやった甲斐はあったなと思います。

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水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019 は、2013 年に続き、6年ぶりに開催されたファン交流イベント。トークショー、音楽ライブ、グッズ販売、飲食サービス、全国200 館以上の映画館でのライブビューイングも行われた。

非エンジニア上司から理解を得るための 2 つの方法

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— 多くのエンジニアが外部の勉強会に参加し、その場で吸収したモダンな開発手法を社内に持ち帰ろうと試みるものの、新しい技術や手法に対して保守的な上司になかなか受け入れてもらえないという悩みを聞くことがあります。三浦さんにはそういうご経験はありましたか?

三浦氏
そうですね。「AWS のこの機能を使ってこんなことがしたい」と、構成図を見せながら詳しく説明し要としても、局内に AWS に関して詳しい人間はほとんどいませんから、どうしても関係各所の了承を得るのに時間がかかってしまうということはありましたね。

— どんな工夫で乗り越えたのですか ?

三浦氏
言葉や文字で説得するのは諦めて、2 つのことに集中しました。
1 つは上司にコミュニティの空気に触れてもらうこと、もう 1 つがどんなにボロくても構わないのでプロトタイプを見せるという 2 点です。

— 詳しく知りたいです。

三浦氏
直属の上司を小島さんが主宰するコミュニティマーケティングの勉強会に連れ出したことがありました。上司はその場の和やかな雰囲気と熱心な意見交換を目の当たりにして「お前がいつも遊びに行っているのはこういうところなのか」と、ちょっと安心してもらえたようでした。もう 1 つ、私の知らないところでコミュニティのメンバーに力添えしてもらったこともありましたね。

— どんなことがあったのですか ?

三浦氏
ちょうど有料ライブ配信の企画を立ち上げる直前の 7 月に、所属していた部署が再編され直属の上司が代わりました。それで、お互いのことを知ろうと時々飲みに行くようになったのですが、ある晩、コミュニティ界隈の人たちが集まる店に行き、たまたま居合わせた顔見知りのエンジニアたちも交えて一緒に盛り上がったことがありました。
あとで上司に聞いて驚いたんですが、私がトイレに立った隙に「うちの三浦はどうですか ?」と彼らに尋ねたそうなんです。「正直言って何をやっているかわからない」と。そうしたらそのエンジニアたちが「三浦さんなら大丈夫ですよ」と、すぐに太鼓判を押してくれたおかげでホッとしたと聞きました。ずいぶんあとになって、上司から「彼らの言葉を聞かなければ、有料ライブ配信は止めていたかもしれない」といわれたときには、改めて外部からの評価って大事だなって思いましたね。

— すごくいいお話しです。もう 1 つのプロトタイプを作って見せるというのも面白い試みですね。

三浦氏
技術に詳しくない人に、いくら詳細な企画書や構成図を見せて詳しく説明しても、かえって戸惑いや不信感を増幅させてしまうことになりかねません。たとえ紙の企画書では通らなかった内容であっても、目の前に動くプロトタイプがあるだけで「もっとこうした方がいい」とか「ここをこう変えたらよくなるんじゃないか」といった建設的な意見が促され、企画も通しやすくなるというのは実感としてありました。
サービス開発に携わる人はよく「ユーザー体験が大事」といいますが、上司へのプレゼンも同じ感覚で望むべきでなんだと思います。  

勉強会のオンライン移行で地方に広がる学びのチャンス

— 今後どんなことに挑戦していきたいですか ?

三浦氏
いま全国に 127 局ある民放各社は、広告以外の収益源を作ろうとどこも必死です。地方局はとくに厳しい状況ですが、どの局にも人気のコンテンツはあるはずですし、番組を観て支えてくれるファンもいます。私は放送局もクラウドを活用した C 向けのビジネスやサブスクリプション型のビジネスを模索すべきだと思っていますが、いまのところどの局もグッズ販売以外の手法が確立されておらず、大半は議論すらなされていないのが現状です。
しかし、いまや数十万円の予算があれば、有料ライブ配信のシステムも組める時代になっています。試行錯誤を繰り返してもダメージが少ないクラウドは、放送局にとっても有効な武器になるのは間違いありません。私たちはこれからも再現性のある取り組みに挑戦していくつもりなので、真似してくださる地方局が 1 つでも多く出てきたらうれしいと思っています。

— 今回の取材もリモートで行っていますが、ここ数カ月勉強会やイベントがオンラインに移行しています。コミュニティ活動に興味を持っている方にどんなことを伝えたいですか ?

三浦氏
リアルに交流できない状況はやはりさみしいですが、見方を変えると地方にいても東京にいてもネットを通じて同じ体験を共有できる状況になったとも言えますよね。

— オンラインなら地域の壁、情報の壁は簡単に越えられますからね。

三浦氏
どのコミュニティにも厳しい参加資格があるわけでもありませんし、途中退出しても咎め立てられることもありません。技術力があってもなくても関係ないですし、好奇心と人を敬う気持ちがあれば、だれでも楽しめますし、多くの見返りが得られるのがコミュニティの魅力です。気後れする必要なんてありませんから、気になる勉強会を見つけたら、ぜひ参加してみてほしいですね。

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— オンライン化によってコミュニティ活動が広がる機会が訪れているのかもしれませんね。

三浦氏
ええ。ただ逆に言うと、勉強会に出ないのは「地方に住んでいるから」という言い訳が通用しなくなるということでもあります。つまり、自覚的に参加する人とそうでない人、勉強会の存在を知っている人とそうでない人の差がつきやすくなるわけです。そういう意味では、期せずして新しい時代に入ってしまったんだなと感じます。

— 三浦さんの活動が今後さらに広がることを祈っています。本日は貴重なお話をありがとうございました !

三浦氏
最後に一言。地方に住む人たちの間では、まだまだ勉強会の楽しさや面白さが伝わっていない印象があります。多くの参加者を集められるよう、私たちも努力するので、ぜひ、お気に入りのコミュニティを見つけて参加してみてください。
本日はありがとうございました!


* AWS Samurai とは ?
1 年にわたる JAWS-UG コミュニティでの活動を通じて、ユーザーコミュニティの成長および AWS クラウドの普及に大きく貢献または影響を与えたユーザーを表彰する制度。AWS Samurai の多くは、所属する支部運営だけでなく他の支部やユーザーコミュニティを超えた市場に対し、多大な影響力を発揮する存在として、多くのエンジニアのみなさんに認知されています。

プロフィール

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三浦 一樹 氏
北海道テレビ放送株式会社 コンテンツビジネス局
ネットデジタル事業部 兼 編成局編成部

1986 年生まれ。2012 年東京工業大学卒業後、北海道テレビ放送に入社。サーバーや電源の保守管理を行う技術部門に配属される。2015 年からデータ放送コンテンツの開発、アクセスログ解析などに従事。 2017 年 5 月、AWS Summit 2017 のメディア業界シンポジウムに参加したことをきっかけに、放送×クラウドの可能性に開眼。各地のコミュニティに参加するようになる。2020 年 3 月、コミュニティ活動への貢献が認められ、JAWS DAYS 2020 で「AWS Samurai 2019」に認定された。

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