負荷変動に柔軟に対応するためにサーバーレス構成に移行を決断
ビジネスの急成長を支える基盤を確立
2021
スマートフォンで撮影した動画や写真をテレビで楽しむためのサービス『まごチャンネル』の開発・運営を行う株式会社チカク。2016 年の一般販売以降、順調に利用者数を伸ばしています。特に 2020 年にはコロナ禍での対面自粛といった背景もあり、利用者が急増しています。その影響により、サーバー負荷変動に対する対策とサーバー管理の負荷増大という 2 つの課題に直面していました。そこで、同社は、AWS Lambda によるサーバーレス化を決断。ビジネスの急成長を支える基盤を確立しました。
システムに制約があると、需要が高まってもセールスを伸ばすことができません。AWS Lambda によるサーバーレス化で制約がなくなり、思いっきり事業のアクセルを踏めるようになりました
梶原 健司 氏
株式会社チカク
代表取締役
プロトタイピング時から AWS を選択
AWS Activate も活用して構築
スマートフォンで撮影した動画や写真を、離れた実家にあるテレビで視聴できるサービス『まごチャンネル』を提供する株式会社チカク。自分の子供の動画や写真をスマートフォンアプリで撮影・送信すると、親である祖父母世帯のテレビに設置したセットトップボックスに直接送信される仕組みです。データ通信 SIM を内蔵しており、ネットワーク環境の準備は不要。ケーブルをさすだけで、使い慣れたテレビのリモコンで視聴ができるよう設計されています。
「私は淡路島で生まれ、3 世帯で暮らしていました。その頃の生活が心の礎となっています。しかし、大学進学で故郷を離れてからは親になかなか会えなくなりました。現在は子供が二人いますが、淡路島にいる親に孫を会わせられる体験を作れないかと思い、このサービスを企画しました」と語るのは、株式会社チカクの代表取締役の梶原健司 氏です。
スマートフォンやタブレットなどを使ったコミュニケーションは普及したものの、シニア世代はうまく使いこなせないという課題がありました。そこで梶原氏は誰もが使えて臨場感もあるテレビに着目し、2015 年にクラウドファンディングによって製品化を実現、2016 年から一般販売を開始しました。
サービスのプロトタイプ開発時点から、柔軟にリソースを伸張できるクラウドサービスに着目し、AWS を採用。スタートアップ企業向けの支援サービス AWS Activate も活用してシステムを構築していました。
チカクの共同創業者で、システム開発を担当する桑田健太氏は「前職では名刺管理の Web サービスを開発しており、そこで AWS を使っていました。画像を大量に扱い、プライバシーにも配慮することが共通していたこと、価格の優位性などを考慮すると AWS 一択でした。スタートアップ企業に無料のツールやリソースなどを提供いただける AWS Activate に関してはインフラ代金のほか、AWS テクニカルサポートなどオンサイトサポートなども利用させていただきました」と語ります。
ユーザー増に伴いインフラ管理負荷が増大
サーバーレス化によって解決
サービス開始当初は、コンピューティングリソースとして Amazon EC2 、データベースに Amazon RDS 、ユーザーのコンテンツ保管に Amazon S3 によるシンプルな構成でした。画像や動画を扱うため、各種データ処理においても高い負荷がかかっており、ユーザーが増えると負荷分散のためにサーバー台数が増えていきました。
「それでもユーザーが増えるにつれ、画像や動画データの処理がしきれず、エンジニアが夜間や休日などにサーバーを追加するといった緊急対応する事態が発生していました。特に、お盆、年末年始などの長期休暇と平日の利用の差が大きく、サーバーの需要予測がうまくいかない日々が続いていました」(桑田氏)
また、同社には結婚して子供がいるスタッフも多く、休日や深夜など、時間外対応は、大きな負担となっていました。こうした課題を解消するため、ユーザーから送信される画像と動画を処理する部分に AWS Lambda を採用し、負荷変動に柔軟に対応するシステムへ移行することを決断しました。
「当時、サーバーレス環境構築の経験があるスタッフはいませんでしたが、これまでのノウハウやドキュメントを参考にすることで、無事構築できました。サーバーレスによっておそらく、管理しなければならないサーバーの台数は以前の 1 割程度まで減らせたと思います。これによって精神的、経済的負担も減らすことができました」(桑田氏)
同社では今後もさまざまな処理を切り出してサーバーレス化を進めていく予定だといいます。
柔軟性のあるインフラを手に入れ積極的なセールスが可能に
AWS Lambda によるサーバーレス構成は、ビジネスにも好影響をもたらしています。2016 年の一般販売から、サービス品質の改善を優先した結果、解約率の低いサービスとして磨きをかけてきたといいます。同時に蓄積してきたマーケティングの知見から 2019 年後半より積極的なセールスを展開し、ユーザー数が積み上がってきました。コロナウイルスの影響でシニア層が対面でのコミュニケーションがしにくくなっている状況で、テレビでもサービスが大きく紹介されるなど、さらに認知が広がっています。
「おかげさまで 2020 年は、大きく契約を伸ばしています。システムに制約がある状況では、セールスにブレーキをかけざるを得ませんでしたが、サーバーレス化によって、セールスを伸ばすためのアクセルを思いっきり踏むことができたと実感しています。一方で緊急対応の数は大きく減っています」(梶原氏)
さまざまな可能性を秘めた『まごチャンネル』
『まごチャンネル』は、2020 年 7 月には大阪府泉大津市の高齢者向け情報伝達の実証実験に採用されています。家族からだけではなく、自治体から高齢者に対して行政情報を届けるための取り組みです。
「コロナの影響で、自治体が高齢者向けのケアを対面でできなくなってしまいました。そこで、自治体が自ら動画を作って配信する、“デジタル回覧板”のような取り組みを実施しました。実験の結果、自治体が驚くほどの良い結果が出ました。高齢者が動画を視聴するだけではなく、運動するなどの行動にまでつながったのは驚きです」(梶原氏)
さらに 2020 年 9 月には、「東京都スタートアップ実証実験促進事業(PoC Ground Tokyo Project)」に参加し、最先端 IoT 領域の実証実験採択企業に選出されました。
『まごチャンネル』の経験を活かし、高齢者の方々でも簡単に使える、シニア向けテレビ電話のプロトタイプの開発からユーザーの検証が企業、自治体とともに行われています。
「まごチャンネルの端末は拡張性を持っています。現在は、お子さんから実家のおじいちゃんやおばあちゃんに写真と動画を送るだけですが、カメラやマイクをつけて双方向でコミュニケーションできる、インタラクティブなビデオ通話サービスもできるのではと思い、実証実験に参加しました」(梶原氏)
ビデオ通話機能においては、 AWS の ビデオチャットソリューションの Amazon Chime SDK を活用したサービス化も検討しているといいます。
今後の展望について「日本にはシニアのみ世帯が 1300 万世帯以上あり、年々増え続けています。私たちのサービスをより多くの方々にお届けしたいと思っていますので、数百万ユーザーでの利用に耐えられるスケーラブルなサービスにしていきたいと思います」と梶原氏は語ります。
梶原 健司 氏
桑田 健太 氏
カスタマープロフィール:株式会社チカク
- 設立年月日: 2014 年 3 月 12 日
- 従業員数: 20 名
- 事業内容:スマートフォンで撮影した動画や写真を実家のテレビに直接送信・視聴できるサービス『まごチャンネル』の開発・運営
AWS 導入後の効果と今後の展開
- サーバーレスのシステムを開発し、急激な需要に耐えられるように
- サーバーレス化をさらに進め、管理業務やコストを削減
- 端末の拡張性を活かし、テレビ電話サービスを新規開発
ご利用中の主なサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
Amazon S3
Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。
AWS Lambda
AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。
Amazon ECS
Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) は、完全マネージド型のコンテナオーケストレーションサービスです。Duolingo、Samsung、GE、Cook Pad などのお客様が ECS を使用して、セキュリティ、信頼性、スケーラビリティを獲得するために最も機密性が高くミッションクリティカルなアプリケーションを実行しています。