国立大学法人 弘前大学COI研究推進機構

人々の健康増進を目的に健診データを
収集・蓄積するデータプラットフォームを
クラウド上に 6 か月で構築

2022

青森県民の健康増進に向けて、産学官民連携で健康長寿の総合研究を行う国立大学法人 弘前大学COI 研究推進機構(以下、弘前大学COI)。同機構は、県民の健診データを収集・蓄積するデータプラットフォームをアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築し、研究機関や参画企業に提供しています。データプラットフォームは、約 6 か月の短期間で構築。AWS のサーバーレスアーキテクチャを用いて、スケーラブルな構成としました。現在、メタボ、口腔、ロコモ、認知を中心とした健診データを蓄積しており、将来的にはビッグデータとの連携を進めていく計画です。

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要求仕様が固まらない中、柔軟にプロジェクトを支援していただけたことに感謝しています。1 年単位で予算や研究内容が変わる大学のプロジェクトにおいて、6 か月の短期間で構築していただけことも助かりました

玉田 嘉紀 氏
弘前大学COI研究推進機構 データ解析部門長

健康ビッグデータを用いて 健康長寿社会の実現へ

青森県は、厚生労働省が行う平均寿命ランキングで男女ともに最下位になっています。そこで弘前大学は、短命県の汚名返上を目標に掲げ、2005 年から 10 数年にわたり弘前市の岩木地区の住民を対象に、大規模住民健康調査『岩木健康増進プロジェクト健診』(以下、岩木健診)を毎年実施しています。

岩木健診は 20 歳以上が対象で、1 回の健診で血圧、肥満度、家族との会話頻度、労働環境などを約 3,000 項目にわたって調査し、住民の健康増進活動を支援するものです。健診には毎年 1,000 名前後の住民が参加し、これまでに得られた住民の健康情報は延べ約 2 万人以上に達しました。

弘前大学COI は、2013 年に弘前大学が文部科学省から革新的イノベーション創出プログラム『COI STREAM』の 1 つとして採択されたことを受けて誕生しました。弘前大COI は岩木健診で得られた研究成果をもとに、2019 年度より社会実装の 1 つとして健康長寿社会に向けた啓発型健康診断『QOL健診』事業を開始しました。『QOL健診』は、検査項目をメタボ(内科健診)、ロコモ(骨密度、体力測定)、口腔保健、うつ病・認知症の 4 つの領域に絞り込み、測定から 2 時間で結果を本人にフィードバックする健診プログラムです。データを使ってその場で健康教育(啓発)を行うことで、受診者に行動変容を促すことを目的としています。2030 年までに国内外の 100 万人への提供を目指しており、その一環として青森県内の事業者を対象に健診プログラムを実施することにしました。

しかし、『QOL健診』のデータを統合管理する環境がありませんでした。「これまで健診データは Excel で作成したファイルを PC や NAS 上で管理し、学内外の共同研究者からのリクエストに応じて個人データを匿名化してから提供していました。今後、受診者が増えていくことを考えると、拡張性や利便性が重要になります。そこで、健診データを収集 / 蓄積し、大学や参画企業へ研究データを提供するためのデータプラットフォームの構築を決定しました」と語るのは、データ解析部門長の玉田嘉紀氏です。

データを蓄積するデータレイクと 外部とデータ連携する API を開発

データプラットフォームの構築に向けて弘前大学COI は当初、業者に相談したものの、オンプレミスの提案で億単位する見積金額を見て断念。2019 年 8 月に AIoT /AI / クラウドで実績のある IoT.kyoto(株式会社KYOSO)と株式会社ヘプタゴンに相談したところ、AWS の活用を提案されました。

「柔軟性、迅速性、コスト面において、AWS は圧倒的に有利で、健診データの増加に合わせてストレージが容易に拡張できることが採用の決め手になりました。個人情報を含むデータのセキュリティについても、自前で対応するより AWS の標準に合わせたほうが安心です。近年は研究機関でも AWS の導入が進んでおり、最先端の技術を研究できることも魅力的でした」(玉田氏)

プロジェクトでは、データを蓄積するデータレイクと、外部の参画企業や研究機関とデータ連携するための API 開発がポイントになりました。データレイクは、DB(Amazon DynamoDB)のデータを匿名化したうえでストレージ(Amazon S3)にエクスポートし、研究者が Amazon S3 内のファイルに対して Amazon Athena からクエリーを実行する環境を構築。API 連携では、フルマネージドサービスのAmazon API Gateway を採用し、開発・運用効率を高めています。

開発を支援した IoT.kyoto の辻一郎氏は「将来的に個人の生涯データを扱うライフログデータベースに進化していくことを考慮して、フルマネージド型の NoSQL データベースで、高いパフォーマンスとシームレスな拡張性を持つ Amazon DynamoDB を採用しました。AWS Lambda などサーバーレスアーキクチャを構成することでコスト面での負担も軽減しています」と語ります。API 連携を担当したヘプタゴンの立花拓也氏は「多くの参画企業やパートナーと連携できるように API エコノミーを前提とし、研究の進捗に合わせてアジャイルに必要な機能が追加できるようにしました」と話します。

玉田氏は「要求仕様が固まらない中、柔軟にプロジェクトを支援していただけたことに感謝しています。1年単位で予算や研究内容が変わる大学のプロジェクトにおいて、6 か月の短期間で構築していただけことも助かりました」と語ります。

研究者がデータレイクにアクセスし 疾患の予兆発見の開発などに利用

AWS 上に構築したデータプラットフォームは現在、青森県内の企業で適時実施されている『 QOL健診』のデータ蓄積 / 分析で利用されています。初年度の 2021 年は数千人が『 QOL健診』を受診しました。データプラットフォームには、弘前大学COI の研究に参画する内外の研究者がアクセスして疾患の予兆発見の開発などに利用しています。

「研究者は、データレイクにアクセスするだけで、匿名化されたデータをすぐに利用することができます。今後はより多くの研究者や外部の参画企業に利用範囲を拡大していく予定です」(玉田氏)

データプラットフォームは、API を介して参画企業の提供データとも連携しています。2022 年 8 月時点で、体組成計メーカーが製品ユーザー向けに提供しているアプリのクラウドサービスと、トイレタリーメーカーが提供する歩数計と連動してデータを蓄積するサービスの 2 つと連携。データプラットフォーム上の DB に、体組成計や歩数計のデータを取り込んで分析ができるようになっています。

API を介した外部連携を強化し より多角的な分析の実現へ

今後は、API を介した外部連携を強化し、より多くのデータを取り込みながら、多角的な分析を行っていく予定です。

「1 つは、岩木健診で蓄積した 10 数年分のデータとの連携です。これにより、岩木健診プロジェクトで開発した予兆発見などの独自の AI アルゴリズムが利用できるようになります。もう 1 つは、ライフログデータとの連携です。AWS の拡張性を活かして、健康デバイスとの自動連携による新しい健康プログラムの提供や DX 健診を推進していきます」(玉田氏)

『QOL健診』についても国内外のヘルスケアビジネスの標準化を達成し、最終的には超高齢化に直面する国内、さらにはアジアを中心とした海外へのサービス提供を検討しています。2019 年には実証実験と国際貢献活動の一環としてベトナムで 『QOL健診』のトライアルを実施済みで、今後は新型コロナの状況も鑑みながら、より広い地域に拡大しながら人々の健康増進に貢献していく考えです。

玉田 嘉紀 氏


カスタマープロフィール:国立大学法人弘前大学COI(センター・オブ・イノベーション)研究推進機構

  • 設立:2013 年
  • 事業内容:認知症・生活習慣病研究とビッグデータ解析の融合による疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 約 6 か月の短期間でのデータプラットフォームの構築
  • 匿名化されたデータに即時にアクセスできるデータレイクの構築
  • サーバーレスアーキクチャによるコスト軽減
  • API 連携による開発・運用効率の向上
  • API を介した外部とのデータ連携の強化を検討
  • 『 QOL健診』の県外、国外へのサービス提供を検討

AWS セレクトティア サービスパートナー

株式会社KYOSO

「まだ世の中にない価値をお客様に届ける」をミッションとし、IoT を中心に AI やサーバーレスコンピューティングなどの最新のクラウド技術を駆使し、DX によるビジネスの変革を支援している AWS パートナー。エンタープライズ領域での IoT プロジェクトに豊富な実績を持ち、デバイスの量産やグローバル大規模プラットホーム、レガシーな工場設備のレトロフィットなど、難易度の高い領域を強みとしている。


ご利用中の主なサービス

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フルマネージド型サービスの Amazon API Gateway を利用すれば、開発者は規模にかかわらず簡単に API の作成、公開、保守、モニタリング、保護を行えます。API は、アプリケーションがバックエンドサービスからのデータ、ビジネスロジック、機能にアクセスするための「フロントドア」として機能します。

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Amazon DynamoDB は、規模に関係なく数ミリ秒台のパフォーマンスを実現する、key-value およびドキュメントデータベースです。完全マネージド型マルチリージョン、マルチマスターで耐久性があるデータベースで、セキュリティ、バックアップおよび復元と、インターネット規模のアプリケーション用のメモリ内キャッシュが組み込まれています。

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Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。

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