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2021 鹿島建設株式会社

建設現場のモノやヒトの動きを 3 次元で可視化するリアルタイム現場管理システム『3D K-Field ®』を AWS 上に構築。建設就業者不足の解消や働き方改革の推進に貢献

概要

大手ゼネコンとして、日本を代表する建築物の施行を手がける鹿島建設株式会社(以下、鹿島)。2018 年に『鹿島スマート生産ビジョン』を策定し、デジタルを活用した生産性の向上改革に乗り出した同社は、建設現場におけるモノやヒトの動きを 3 次元で可視化する『3D K-Field』を、アマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築しました。高所作業車やフォークリフトなどの位置情報や稼働状況をリアルタイムに把握することで、資機材の有効活用が実現。現場の管理の一部を Web による遠隔監視で効率化することで、建設業界の共通課題である働き方改革の推進に貢献することが期待されています。

A digital building visualization from the Kajima Construction AWS case study, showing a detailed 3D model of a high-rise structure with various data layers and metrics displayed on a dark background.

建設現場の全体像把握に向けて 3 次元の現場管理システムを検討

「進取の精神」のもと、国土発展に欠かせない社会インフラや建築物など、先駆的なプロジェクトを手掛ける鹿島。同社は、2018 年に建築の生産プロセスを変革する『 鹿島スマート生産ビジョン』を策定しました。鹿島スマート生産ビジョンとは、「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」の 3 つをコア・コンセプトに、2024 年までにより魅力的な建築生産プロセスの実現を目指すものです。

「その背景には、建設業における就業者不足があります。今後も一定量の工事案件が見込まれるなか、少子高齢化によって若い人材が減るとともに、ベテランの引退が続いています。一方で、働き方改革関連法によって残業時間の削減が求められており、生産性の向上が喫緊の課題となっています。そこで、先端 ICT や各種ロボットの活用と現場管理手法の革新を進め、より魅力的な建築生産プロセスの実現を目指すことが狙いです」と語るのは、東京建築支店 建築工事管理部の川島慎吾氏です。

建設現場内の資機材位置と稼働状況をリアルタイムに表示する現場管理システム『K-Field(ケイ・フィールド)』は、鹿島スマート生産ビジョンの実現に向けて 2018 年から研究に着手したソリューションです。高所作業車、フォークリフト、作業員のヘルメットなどに、小型の発信機(ビーコン)を取り付け、現場の各階に約 20m 間隔で設置した受信機(ゲートウェイ)によって、それぞれの位置を把握するというものです。取得した位置データは、現場内に構築した Wi-Fi ネットワークを通じてクラウドに集約し、現場全体の資機材や作業員の位置を PC 画面上に表示します。
「パイロット現場の名古屋伏見 K スクエアを始め、最初の数現場では 2 次元の平面図に表示し、Web ブラウザーの画面送りで確認していました。ところがフロア単位でしか状況確認ができないため、高層ビルでは全体像をつかむのが難しいという課題に直面しました。そこで、3 次元で表示する『3D K-Field』へのバージョンアップを決めました」(川島氏)

スケーラブルなアーキテクチャを採用し 6 ヶ月の短期間で『3D K-Field』をリリース

3D K-Field の開発にあたり、同社は DX やクラウドに強いアジアクエスト株式会社を新たなパートナーに採用し、既存パートナーと共同でプロジェクトを進めました。3 次元化のプラットフォームには AWS を採用し、データの増加にも柔軟に対応できるスケーラブルなアーキテクチャで構築しています。アジアクエスト デジタルイノベーション部の辻眞一氏は次のように語ります。

「AWS を採用した理由は、当社で最もノウハウがあり、公開情報も豊富なことです。加えて可用性の高さ、メンテナンスのしやすさ、機能やサービスのアップデートの早さも選定の決め手となりました。アプリケーションは、コンテナを使ったマイクロサービスアーキテクチャで構成し、コンテナの稼働基盤と運用基盤は管理が容易な AWS Fargate と Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS) で構築しています」

開発は 2019 年 2 月から 7 月までの 6 ヶ月で終了。2020 年 1 月より、1 現場目となる地上 21 階、地下 1 階、延床面積約 84,000 ㎡ のオフィスビル建設プロジェクトに導入しました。2 現場目として鹿島が初めて手がける羽田空港近接のスマートシティ『HANEDA INNOVATION CITY』への導入に着手しており、そこでは建物内だけでなく街全体の情報の可視化を進めています。建築管理本部 建築技術部の天沼徹太郎氏はプロジェクトを振り返り、次のように語ります。

「Web ブラウザー上に建築物の 3 次元モデルを再現し、資機材や人のオブジェクトをリアルタイムに動かすという難易度の高いものでした。粘り強く試行を繰り返すアジアクエストの協力もあり、視認性と利便性が高いシステムを構築することができました」
現在は現場単位での導入ですが、今後は SaaS 化することでコストの集約を図る考えです。カジマアイシーティ 第二事業部の高原良治氏は次のように語ります。
「現場が増えると導入の手間も増え、扱うデータ量も増えていきます。そこでマルチテナント型に移行し、現場の規模に応じてリソース配分ができるようにすることで、導入コストとランニングコストを抑制する考えです。その他、インスタンスの Savings Plans も利用しながらコストを削減していく予定です」

遠隔監視により現場管理が効率化。労働時間の短縮と働き方改革に貢献

新たな 3D K-Field の画面では、資機材や作業員の位置情報のほか、機材のリアルタイムな稼働状況やこれまでの稼働率を可視化することができます。従来は機材の必要台数を現場社員のカンと経験で試算していましたが、数値化することで属人性が排除でき、余剰機材のコスト削減が期待できます。

過去の移動履歴もデータで保存されていくため、人や機材のたどった動線を分析し、より精度の高い仮設計画を立てたり、作業動線を見直したりすることもできます。「3D K-Field を導入することで、目視や立ち会いが必要なもの以外は遠隔に切り替えることが可能となり、現場管理の効率化に寄与できると考えています。結果として労働時間が短縮すれば、働き方改革への貢献も期待できます。建設現場においても、モニターで仮設エレベーターの位置や機材の位置が画面上で瞬時に確認できるため、作業員がエレベーターの待ち時間でイライラしたり、パートナー企業の社員が機材を探し回したりすることが減り、生産性の向上につながっています」(川島氏)

適用する業務フィールドを拡張し工場やオフィスなどの見える化に貢献

建設現場での利用から始まった 3D K-Fieldですが、今後は現在導入中のスマートシティのように、さまざまな業務フィールドに拡張していくことを構想しています。
「例えば、工場やオフィスの“見える化”にも貢献できると考えています。今後もリアルとデジタルの世界をつなぎ合わせたデジタルツインを活用し、産業界に新たな価値を提供していきます」(天沼氏)

現場におけるモノやヒトの動きをデジタル化し、蓄積していくことで、最終的にはそのデータが鹿島の財産になります。将来的には、ビッグデータや AI を使ったシミュレーションによって、未来予測を実現することが期待されています。

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3D K-Field によって、目視や立ち会いが必要なもの以外は遠隔監視に切り替えることができ、現場管理の効率化につながっています。現場でも仮設エレベーターの位置や機材の位置が画面上で瞬時に確認できるため、効率的な動きができ生産性の向上が期待できます

川島 慎吾 氏

鹿島建設株式会社 東京建築支店 建築工事管理部 人事・企画グループ 課長

アーキテクチャ図

Architecture diagram showing the AWS cloud infrastructure used by Kajima, including services such as Amazon CloudFront, Amazon Route 53, Certificate Manager, Amazon S3, Amazon Cognito, Parameter Store, ECS Fargate Container, Application Load Balancer, Amazon Aurora, AWS CodePipeline, AWS CodeBuild, AWS CodeDeploy, GitHub, and Amazon Elastic Container Service, along with various VPC subnets and deployment pipelines for front-end and back-end components.

鹿島建設株式会社

  • 設立年:1930 年(創業 1840 年)

  • 資本金:814 億円余

  • 従業員数:7,887 名(2020 年 3 月末現在)

  • 事業内容:建設事業、開発事業、設計・エンジニアリング事業ほか

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 建設業における就業者不足の解消

  • 働き方改革の実施、残業時間の短縮

  • 建設業界に変革を起こす生産プロセスの実現 

アジアクエスト株式会社

AWS アドバンスト コンサルティングパートナー

アジアクエストは、企業の DX を支援する「デジタルインテグレーター」です。IoT 、AI、Cloud、Mobile、Web、UI/UX の各デジタル分野の専門テクノロジーチームを有し、通常のシステムインテグレーションだけではなく、お客様の DX をともに考えるコンサルティングから、DX に必要なデジタルテクノロジーを駆使したシステムの設計、開発、運用までを一貫してスピーディーに対応します。

Logo of AsiaQuest featuring stylized red 'AQ' on a flag shape and 'AsiaQuest' text in black.

本事例のご担当者

川島 慎吾 氏

Portrait of a businessman wearing a gray suit and tie against a plain background.

天沼 徹太郎 氏

Business portrait of a professional man wearing a dark suit, striped tie, and glasses, in front of a plain background.

高原 良治 氏

A man wearing a business suit and red striped tie, speaking or presenting against a plain background.