Amazon Web Services ブログ

【開催報告】AWS Future of Money ~AI × ブロックチェーンが創る新金融エコシステム~

2026年8月19日(水)、「AWS Future of Money」を開催しました。銀行・証券・決済など金融業界から約45名のお客様にご参加いただき、オンチェーン金融の最前線とAI×ブロックチェーンが変える決済の未来について、活発な議論と交流が行われました。本記事では、イベントの模様をレポートします。

企画の背景 ― オンチェーン金融が「実装フェーズ」に入る今

AWSは金融業界のお客様に向けて、インフラ提供にとどまらない、ベストプラクティスの展開やイベントでの業界横断の事例共有、コミュニティ醸成に取り組んでいます。これにより、金融機関・フィンテック企業・システムベンダーなどがAWSを通じてシステム・ビジネス両面でつながることで、業界全体のデジタル変革が加速することを目指しています。

近年で、金融・決済市場のデジタル化は構想から実装へと大きくフェーズが動きました。ステーブルコインやトークン化預金といったプログラマブルな通貨の制度整備が各国で加速し、国内でも金融機関やフィンテック企業による商用化の動きが本格化しています。一方でこのような動向は、従来の金融システムの縮小リスクを示唆するものでもあります。クロスボーダー送金の即時化やデジタル通貨を前提とした新たな市場インフラ構築をすることは、日本の金融業界が次のステージへ進み、持続的成長を果たすための極めて重要な鍵となります。

この大きな転換点において、金融機関・決済企業・パートナー企業の皆様と業界の垣根を越えて実践知を交換し、オンチェーン金融の「次の一手」を共に描く場として、「AWS Future of Money」を企画しました。  

イベント概要

  • 日時: 2026年8月19日(水)15:00 – 19:00
  • 会場: 渋谷外部会場
  • 参加者: 金融関連事業会社、サービサーなど 約45名

AWS Session「AWSから見えるデジタル通貨の最新動向」

AWS坂口より、国内外の業界動向と180回を超えるお客様対話から見えてきたデジタル通貨の最新シグナルを共有しました。今年、金商法改正成立が話題にあがりましたが、実業と規制がバランスよく並走しています。また、ユースケースも銀行業界を中心とした発行の議論から、流通・決済といった実務での活用へ各業界で広がりを見せています。

証券業界については、デジタルアセット投資領域のポイントから成功事例に共通するレイヤードアプローチ(既存システムとの共存・段階的導入)の重要性を強調しました。100%置換を試みて失敗した教訓にも触れ、既存インフラとの補完関係が鍵であると述べました。さらに、決済業界ではAIエージェントが購買行動まで完結する「エージェンティック・コマース」による市場の変化と、決済体験を変える可能性を示しました。

本セッションを通じ、デジタル通貨が着実に広がっていることと、事業の構想段階からAWSが相談できるパートナーであることをご参加者にお届けしました。

AWS Session「デジタル通貨に関するAWSサービスの活用」

AWS松原より、デジタル通貨基盤を支えるAWSサービスを技術面から解説しました。直近のニュースとして、米国の20行を超えるトークン化ネットワーク構築、国内3行によるステーブルコイン共同発行協議会の設立、SWIFTのブロックチェーンベースの共有台帳を紹介し、グローバル含めたトレンドの強さを示しました。合わせて、クロスボーダー決済・国内決済のユースケースで解決する課題やアーキテクチャの例を紹介しました。

AWSについては、商用稼働している事例でも採用されている、EC2サービスの AWS Nitro Enclaves をピックアップして紹介しました。AWS Nitro EnclavesはEC2インスタンス内に簡単にセキュアな分離環境を作り、機密データを保護します。Fireblocks等のパートナーソリューションにも組み込まれており、お客様が意識せずともその恩恵を受けられるケースも紹介されました。

以上から、デジタル通貨における領域でもAWSのサービスは既に多くご利用頂いており、パートナーソリューションを通じても活用いただけることをお伝えしました。

Customer Session

野村ホールディングス株式会社「オンチェーン金融による資本市場の拡張」

Speaker: 佐々木 俊典 様(野村ホールディングス株式会社 デジタルアセット戦略推進部長)

野村ホールディングスの佐々木様からは、オンチェーン金融の本質と将来の市場インフラ像についてご発表しました。まず、トークン化の本質を「仲介者不要の権利移転」と定義し、短期的な24時間稼働・即時取引だけでなく、手数料構造を根本から変える構造変革が本質であると指摘しました。有価証券のトークン化は数十兆〜数百兆円規模のユースケースであり、ステーブルコインよりも大きなインパクトがあると強調。不動産セキュリティトークン(ST)は2025年度に1,400億円程度発行され、J-REIT比で半分超に成長しているなど、国内でも着実に実績が積み上がっています。

経済安全保障の観点では、「決済インフラを海外に奪われると取り返せない」と警鐘を鳴らし、自民党の「次世代AI・オンチェーン金融構想」プロジェクトにも言及。金融庁・日本銀行も参画しており、官民一体での取り組みが加速していることを示しました。

将来像としては、パーミッションド・プライベートチェーン(機関投資家向け)とパブリックチェーン(RWA: Real World Assetsのトークン化)が相互接続する世界を描き、AIエージェントが自律的に取引を最適化する「金融を意識しない世界観」を展望しました。

 

JPYC株式会社「ステーブルコイン活用の最前線:事業者の活用事例とそれを支えるAWS」

Speaker: 松岡 慧 様(JPYC株式会社 執行役員・計画情報部長)

JPYCの松岡様からは、日本円ステーブルコインJPYCの事業展開とAWS基盤について紹介しました。2025年10月のサービス開始から9か月で、口座22,500、ホルダー71,000、累計発行71.4億円、1日あたり2〜30億円の取引を処理するまでに成長。事業者にとっての4つの価値として、(1) 送金コスト0.01円以下、(2) 24/365即時着金、(3) スマートコントラクトから直接操作可能、(4) 許可不要の公開インフラを挙げました。

具体的な活用事例として、国内初のローソン店頭POS連動ステーブルコイン決済実証(2026年8月)、物流×決済DX(配送1件完了ごとの即時報酬支払い)、AIエージェント向け決済規格X402への対応をご紹介。AWS採用理由として、インフラをコードで即座に構築できるスピード、AWS CloudTrailによる改ざん不可能な監査ログ、FISC実務基準300項目以上への対応実績を挙げました。

Customer Panel Session

パネル1: オンチェーン時代に求められる暗号資産交換業のテクノロジー

パネリスト: 三浦 和夫 様(シンプレクス株式会社 エグゼクティブプリンシパル)、井上 大悠 様(Japan Financial Elan Technologies株式会社 代表取締役社長) モデレーター: 坂口 宏太(AWS)

Japan Financial Elan Technologiesの井上様は、ステーブルコイン市場が3,000億ドルから5,000億ドルへ成長する中、実経済での決済利用はまだ5%程度であり伸びしろが大きいこと、StripeやCircleのAIエージェント決済への取り組みなどブロックチェーンの低コスト性が新たなユースケースを生み出している現状を示しました。

シンプレクスの三浦様は、FXから暗号資産交換業・トークン化証券まで展開してきた経験から、交換業に必要な5つの技術領域(口座管理、秘密鍵管理、AML、トランザクション管理、ステーキング運用)を整理しました。マネタイズの鍵として資金効率向上(リアルタイム担保移転)、業態横断のシームレス体験、社会インフラとしてのポジションを挙げ、日本の課題である個別開発コストの高さに対しては共同インフラ活用が不可欠との共通認識が示されました。

パネル2: トークン化預金×クロスボーダー決済 — DCJPYが描く国際送金の未来

パネリスト: 田子島 敬 様(株式会社DCP 執行役員 営業戦略本部 副本部長 経営管理本部 地域社会PJ責任者)、瓦田 宗大 様(株式会社SBI新生銀行 次世代金融部長)、ハンフリー・ヴァレンブレダー 様(Partior Pte Ltd. Chief Executive Officer) モデレーター: 山﨑 夕莉子(AWS)

株式会社SBI新生銀行における、株式会社DCPとPartiorのトークン化預金プラットフォームを活用したクロスボーダー決済の革新(年内商用化予定)を紹介しました。ハンフリー・ヴァレンブレダー様からは、日本-アメリカおよび日本-ブラジルの送金ルートが商業レベルで運用を開始しており、これらのユースケースはすでに確立されつつあると共有しました。

そのうえで、田子島様が「日本が取り残されないための最後のチャンス。様々な方々と協働していきたい」と呼びかけ、瓦田様は「採用する金融機関・事業者を増やすことが重要。AIとブロックチェーンの組み合わせで自動化・最適運用が実現する世界はすぐそこにある」と述べました。3社に共通していたのは、技術的にはすでに実用段階に入っており、この価値を実現するためには多くのプレイヤーがエコシステムに参画することこそが次のハードルであるというメッセージでした。

まとめ

クロージングではAWS佐藤から、ブロックチェーン×AIの実用化に向けたAWSのご支援とパートナーエコシステムの活用を紹介しました。イベント全体で、なぜデジタル通貨のビジネスに取り組むべきなのか、どこから着手すればよいのか、業界全体で考えるべきことは何かといった、これからビジネスを本格化するための知見や生の声をお届けしました。

参加者からは「クローズドならではの密度の濃い情報が得られた」「レベルの高いスピーカーで効率的に知識をアップデートできた」「登壇者と直接会話できる懇親会が大変勉強になった」等の声をいただきました。また、お客様事例の進捗状況への驚きや、紹介されたAWSサービスへの関心も多く寄せられました。

本イベントを通じて、各業界で導入効果のあるユースケースが確立されてきていることと、デジタル通貨のビジネスを発展させるためにはユーザビリティを向上させ、利用者をいかに増やしていくかが重要になると実感しました。AWS金融チームでは、オンチェーンを支えるクラウドサービスの提供と、お客様同士の共創を支える場づくりを通じて、金融業界全体への発展に貢献してまいります。

最後に、ご登壇いただいたお客様、そしてご参加いただいたすべてのお客様に心より感謝申し上げます。