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第2回 AWS ジャパン 生成 AI Frontier Meet Up ~学びと繋がりの場~ 開催報告
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS ジャパン)が 2024 年 7 月に発表した「生成 AI 実用化推進プログラム」は、生成 AI の活用を支援する取り組みです。基盤モデルの開発者向けと、既存モデルを活用する利用者向けの 2 つの枠組みを提供し、企業の目的や検討段階に応じた最適な支援を行っています。
その「生成 AI 実用化推進プログラム」の参加者や、GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)の関係者、生成 AI に関心を持つ企業が一堂に会する「生成 AI Frontier Meetup」が、2025 年 2 月 7 日に開催されました。2024 年 11 月 15 日に実施された第 1 回に続き、今回が第 2 回となります。本記事では、そのイベントの模様をレポートします。
開会のご挨拶
イベント冒頭では、AWS ジャパンの代表執行役員社長である白幡 晶彦が、AWS の生成 AI 領域における活動をビデオメッセージで説明しました。
AWS は 2023 年 4 月の Amazon Bedrock の発表以降、生成 AI 技術の活用促進に向けた取り組みを続けています。例えば、日本では「AWS LLM 開発支援プログラム」を通じて企業と連携し、日本語モデルの開発や検証を進めてきました。また、GENIAC プロジェクトでは、13 社が AWS の計算リソースを活用し、AI 開発を加速させています。こうした取り組みを支える AWS のクラウドサービス はインフラ層からアプリケーション層まで包括的なソリューションを提供できます。その中でも、生成 AI の実用化を支援するために、特に注力しているのが、 高い費用対効果を実現する高性能なインフラ、基盤モデルを利用した生成 AI アプリケーションのビジネス実装に向けた、セキュアでスケーラブルなツール、生産性向上のためのアプリケーションの提供です。技術支援にも力を入れており、各種のプログラムを通じて実践的なノウハウの共有や具体的な開発・運用のアドバイスを行っています。最後に会場の方々に向けて「多種多様な方々が一堂に会し、対話をすることで、新たなソリューション創出につながることを期待しています」と呼びかけました。
AWS スピーカーによるセッション
次に、AWS ジャパンの AI / ML 事業開発マネージャーである井形 健太郎が、生成 AI の最新動向とビジネス価値を生み出すためのデータ活用について解説しました。
まず、2024 年の生成 AI のトレンドを振り返り、多くの企業が PoC(概念実証)から本番導入へと移行したことを強調。主なユースケースとして、「1. データ入力支援」「2. 営業支援」「3. コンテンツ作成」「4. 専門的な応対支援」「5. 検索体験の向上」「6. データレビュー」「7. システム開発支援」に分類できるとしました。2025 年の展望として、生成 AI からビジネス価値を創出する動きが加速すると予測。AI エージェント技術の発展や、業界ごとに最適化されたモデルがより重要になるとし、同時に規制やセキュリティ対策の強化も求められると述べました。
続いて、AWS の生成 AI 関連サービスの主要なアップデートを紹介しました。まず最初に、フルマネージドの生成 AI 基盤である Amazon Bedrock について説明。生成基盤モデル Amazon Nova をはじめとした新たなモデルが使用可能になり、利便性が向上しました。また、モデル蒸留やマルチエージェント・コラボレーションもサポートしています。次に Amazon Q についても説明がありました。Amazon Q はフルマネージドの AI アシスタントサービスで、Amazon Q Business と Amazon Q Developer の2つが提供されています。Amazon Q Business は情報検索や RAG の機能を備え、企業のデータを活用した AI 検索が可能です。一方、Amazon Q Developer はエンジニア向けの開発支援機能を備え、コードの作成やセキュリティスキャン、デプロイ後の運用を通じ、ソフトウェアライフサイクル全体をサポートします。さらに、Amazon QuickSight と Amazon Q Business の統合が発表され、BI ツールにおけるデータ分析の効率化が進みました。従来の BI ツールは数値やグラフの表示が主でしたが、生成 AI を活用することで、その背景や関連情報を文章として提示できるようになり、分析結果の活用が容易になります。また、AWS が開発する AI/ML 専用チップ AWS Inferentia と AWS Trainium にも触れ、次世代の AWS Trainium チップが大幅な性能向上を遂げたことを説明しました。特に、モデルの学習速度の向上や消費電力の削減が進んでおり、今後の AI 開発の基盤として期待されています。
生成 AI をビジネス価値に結びつけるためのデータ活用の重要性について触れました。生成 AI を活用するにはデータの整備が不可欠であり、データエンジニアやデータサイエンティストの役割が一層重要になると指摘。データのサイロ化を解消し、統合的に活用できる環境を整えることが重要になります。その課題を解決するためのプラットフォームとして、Amazon SageMaker を推奨しました。「今後さらに生成 AI 関連の技術開発を進め、企業のデジタル変革を支援していきます」と述べ、セッションを締めくくりました。
プログラム参加者によるライトニングトーク
生成 AI 実用化推進プログラムに参加する 5 社の企業代表者が登壇し、AWS のサービス利用を軸にした取り組みを紹介しました。AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林 正人(写真右)と、AWS シニア 生成 AI スタートアップ ソリューションアーキテクトの針原 佳貴(写真左)がモデレーターを務め、登壇者に質問を投げかけつつ進行しました。
株式会社フィックスターズ SaaS&VAR 事業推進室 シニアディレクターの相澤 和宏 氏は、ハードウェアリソースを最適化し、学習や推論の処理速度を向上させることで、コスト効率の高い AI 開発と運用を実現する「Fixstars AI Booster」について解説しました。過去に実施した検証では、p4d.24xlarge(A100x4)上での Megatron-LM による Llama3 8B 継続事前学習を行い、15〜20% のパフォーマンス向上を達成しています。「この技術を活用し、みなさまの AI 開発の加速と効率化に貢献したい」と語りました。
ジェネシスヘルスケア株式会社 A.D.A.M. イノベーションセンター バックエンドエンジニアの小林 拓也 氏は、遺伝子検査サービスと生成 AI を活用した新機能について講演。肥満遺伝子検査サービスの結果をもとに、チャットボットを活用してパーソナライズドアドバイスをする機能の開発経緯を説明しました。アーキテクチャの選定では試行錯誤を重ねましたが、最終的に Amazon Bedrock エージェントを採用する方針を選んだといいます。「今後も進化する技術を活用しながら、サービスの精度向上を目指します」と締めくくりました。
株式会社フレイ・スリー 開発部 リードエンジニアの青木 諭 氏は、同社が提供する動画マーケティングサービス「1ROLL」を紹介しました。動画制作における課題として、原稿作成や字幕付けに時間がかかること、資料の動画化による視認性の低下、適切な動画選定の難しさなどが挙げられます。これらを解決するため同社では Amazon Bedrock を活用し、資料から動画を自動生成する機能や、長尺動画のダイジェスト作成機能、ナレーションやテロップの自動生成機能を導入しました。
株式会社Nint プロダクトDiv. ユニットリーダーの田 瀟逸 氏は、EC データ分析サービス「Nint ECommerce」における生成 AI 活用について説明しました。同社では、新規クライアントのオンボーディング時に BI ツールの習得に時間がかかることが課題でした。これを解決するため、Amazon Bedrock を活用して自然言語で検索・分析が可能な「Nint AI」を開発し、データに基づいた根拠ある回答を提供できる仕組みを構築しました。
開発者のモデルご紹介
株式会社Preferred Networks VP of PreferredAI Products の Adiyan Mujibiya 氏は、AI バリューチェーンの垂直統合を目指し、ソフトウェアとハードウェアを融合させた技術開発を進めていると説明しました。最近の取り組みとして、純国産の生成 AI 基盤モデル「PLaMo」を提供しています。今後は 100B トークン規模の高品質な学習データセットを構築し、推論コストを従来モデル比で 10 分の 1 以下に抑えた高性能モデルの開発を行う方針です。
Sparticle株式会社の新井 典孝 氏は、モデルの最適化の事例について話しました。この事例では、Amazon EC2 P4d インスタンスを活用して、Llama3.1-405B、Llama3.3-70B、Qwen-72B の日本語化・量子化・コンテキストサイズ拡張を実施。その結果、精度を維持しつつ処理の効率化に成功し、コスト削減も実現しました。この LLM を GBase プライベートクラウド環境の専用 RAG で利用しています。
株式会社ユビタス シニア・ディレクター 中坪 知幸 氏は、観光産業向けの LLM 開発を進めていると説明しました。Llama3.1 の 405B をベースに、日本語・中国語・韓国語に強い言語モデルとしてオープンソース化を目指しています。また、マルチモーダル LLM や VLM の開発も進めており、AI キャラクター制作プラットフォーム「UbiOne」や画像生成ツール「UbiArt」などのプロダクトを展開しています。
クロージング
各セッションの終了後、AWS ジャパンよりいくつかのお知らせをしました。
GENIAC の最新情報
GENIAC の第 2 期は 2023 年 10 月に開始され、2025 年 4 月 22 日まで開発が続きます。さらに、第 3 期の公募予告が 2025 年 2 月 14 日に公開されました。公募期間は 3 月中旬から 5 月中旬、研究開発期間は 8 月上旬から 2026 年 2 月上旬(6 カ月間)の予定です。第 3 期ではモデル開発および社会実装支援が盛り込まれる予定です。
生成 AI 実用化推進プログラムの最新情報
今後の予定として、2025 年 3 月 31 日に現在のプログラムが終了しますが、4 月には新たな支援プログラムが発表されます。お申込みは3月31日まで可能です。4 月 16 日には第3回 Meetup イベントを開催する予定です。
参加者交流会の様子
交流会では、各セッションの登壇者を交えたディスカッションや、参加者同士の歓談が行われ、会場は終始活気に満ちていました。また、同じ課題や関心を持つ企業同士の交流も活発に行われ、新たな協業の可能性を模索する姿も見られました。登壇者・参加者のつながりが広がることで、生成 AI 活用のさらなる発展が期待されます。
おわりに
本イベントでは、参加者が各セッションに熱心に耳を傾け、登壇者とのディスカッションやネットワーキングを通じて活発に交流する姿が見られました。生成 AI の最新動向や活用事例が共有され、技術的な理解を深めるとともに、新たなビジネス機会の創出につながる場となりました。AWS ジャパンは、今後も「生成 AI 実用化推進プログラム」をはじめとするさまざまな取り組みを通じて、企業の生成 AI 活用を支援していく方針です。