Amazon Web Services ブログ
AWS Reimagine レポート: AI で価値を生む組織とそうでない組織の違い
本記事は 2026 年 9 月 24 日 に公開された「Announcing the New AWS Reimagine Report on AI」を翻訳したものです。

経営層との対話で繰り返し聞かれる質問が2つあります。1つ目は「他の組織は AI をどう使っているのか」、2つ目は「Amazon は AI をうまく使いこなせているのか」です。根底にある問いは同じで、AI から価値を生み出している組織とそうでない組織を分けるものは何か、ということです。私は AWS の Executive in Residence です。同僚には元 CIO、CTO、CEO、CFO など、民間・公共セクターで経営に携わってきたメンバーがいます。この1年をかけてその問いを調査し、そのうち9か月は 154 名のリーダーにインタビューしました。27 か国 23 業種で AI を展開する 128 名の経営層、Amazon のリーダー 23 名、そしてこうした変化を組織がどう受け止めるかを研究する研究者 3 名です。本日、調査結果をまとめたレポート「Reimagine – Turning AI into Value」を公開しました (aws.amazon.com/executive-insights/reimagine/)。
共通して見られた課題の1つは、AWS 自身の経験にも表れています。ある AWS サービスの再構築は、当初 30 名のエンジニアで1年かかる想定でした。ところが AI を使うと、5 名のエンジニアが 70 日で完了しました。しかし、AWS で Data and AI Go-to-Market を率いる Rahul Pathak は、それだけでは十分ではなかった理由をこう説明しています。
「最初に自動化したのはコードを書く部分でしたが、セキュリティレビュー、デプロイプロセス、UI レビューが依然としてボトルネックでした。コードを速く書けるようになっても、本番環境へのリリースは速くなりませんでした。」
作業そのもののコストはほぼゼロに近づいた一方、意思決定・予算確保・ガバナンス・承認にかかるコストは変わりませんでした。Amazon はかつて、従来型の開発体制から脱却する際に似た調整の問題に直面しています。その解決策が two-pizza team、つまりピザ2枚で全員が食べられる規模のチームへの再編でした。コミュニケーションを効率化し、調整の必要性を減らす仕組みです。20 年間、このパターンは有効に機能してきました。今でも多くの場面で有効です。
しかし私の立場から見ると、このモデルに限界が見えてきています。作業コストは下がり続けているのに、調整コストは下がらない。価値を届けるまでの時間に占める調整の割合が増え続けています。two-pizza team に代わる仕組みが何になるのか、まだ誰にもわかりません。ただ言えるのは、Amazon のリーダーたちがそれを見つけようと試行錯誤しているということです。つまり、レポートに書かれた課題は Amazon も例外ではないのです。Amazon のリーダーも同じ質問に答え、インタビューした他の組織と同じ課題に向き合っています。
インタビューした組織の AI 導入段階はさまざまです。Rahul が語ったような壁、作業は速くなったのに周囲が追いつかない状態にすでに直面している組織もあれば、8 名でかつての部署と同じ仕事ができるようになり、チーム構成を見直している組織もあります。最初のユースケースを探している段階の組織もあれば、導入した AI が機能しているのかどうか判断できない組織もあります。成功の基準を事前に決めていなかったからです。ほぼすべての問題について、前進している組織がありました。ただし1つだけ例外があり、それについては後述します。
開発が遅くなくなったとき
Rahul が語ったのと同じ壁にぶつかったと多くの組織が話してくれました。開発が速くなると、その周囲のすべてがボトルネックになる。米国の家電量販店 Best Buy では、開発に 14 週間かかると見積もられ、4 年間バックログに積まれていた機能がありました。AI を使うと1日で完成しました。同社は意図的に AI チームを標準の開発・レビュープロセスの外に置き、テクノロジーが可能にしたスピードで動けるようにしました。CIO の Neal Sample はこう語っています。「AI チームの多くを社内の通常プロセスから切り離しました」。そして彼はチームにこう伝えました。「社内の管理負荷やお役所仕事からは解放する」。チームは独立して機能を開発し、その後プロダクトレビュー、ブランドガイドライン、そして彼の言葉を借りれば「通常なら行うことすべて」の検証に戻しました。
自社の AI の成果が、プロセスを通り抜けたものではなく、プロセスを迂回して生まれたものだった例がどれだけあるか、振り返る価値があります。DraftKings では、キャパシティ追加の承認プロセスが人員採用を前提に作られており、採用は時間がかかります。エージェントはほぼ即座に立ち上がるのに、同じ承認プロセスを待たされます。SVP of AI and Operations の Brian Walker は、このミスマッチを毎日目にしています。プロセスを迂回するのではなく、再構築する組織もあります。Air New Zealand は AI ガバナンスアシスタントを構築し、ガバナンスが開発スピードに追いつけるようにしました。しかし、大半の組織はまだ AI そのものの改善に取り組んでおり、AI の周囲にあるプロセスの改善には手が回っていません。
削減した時間はどこへ消えたのか
ビジネス成果に結びつけられずにいるのはスピードだけではありません。初期のユースケースの多くは、コスト削減に AI を投入し、節約した時間が成長につながるという前提に立っていました。しかし効率化を達成したと語ったインタビューのうち、ほぼ半数で、その効率化がビジネスインパクトにつながった証拠がありませんでした。ManpowerGroup は数字で示せた数少ない企業の1つです。AI により採用担当のスクリーニング時間が 60% 短縮されました。Chief Growth and Innovation Officer の Valerie Beaulieu によれば、この削減はまだ売上には結びついていません。自社で直近の効率化を振り返ってみてください。節約した時間がどこに使われたか、その時間からビジネス成果を出すと誰かがコミットしたか、答えられるでしょうか。誰もコミットしていなければ、その余剰キャパシティは再投資されずに吸収されてしまった可能性が高い。削減と成果をつなげている組織もあります。AT&T は AI 投資 1 ドルに対して 5 ドル以上のリターンを得ていますが、それは AI の投資判断プロセスそのものを変えたからです。
私が間違えていたこと
私自身、認めなければならない過ちがあります。多くの組織はリスクを減らすためにゲート (承認プロセス) を設けています。私はキャリアを通じて、そのゲートは守るもの以上にコストがかかると主張してきました。ある企業ではポートフォリオ・プランニングを廃止し、別の企業では変更管理審査委員会を解散しました。あらゆる意思決定を画一的に同じゲートに通す仕組みは無駄だという考えは今も変わりません。リスクの大小に関係なくすべてを同じ重みで審査するのは、慎重さを麻痺に変えて「厳密さ」と呼んでいるだけです。同じ判断を求められたら、また同じ決断をするでしょう。
間違えていたのは、ゲートを撤廃することが正解だと思い込んでいた点です。正解は、判断を誤った場合の影響の大きさに応じて監督の度合いを調整することでした。ゲートを外すことと、ゲートを適正化することは別の答えです。私は 20 年間、両者を同じものとして扱ってきました。複数のリーダーが似た修正を経験しています。自分がその地位を築く根拠となった専門知識は、実行にコストがかかる世界で磨かれたものでした。少数の取り組みを慎重に選び、行動する前にしっかり計画する。そう教わってきた世界です。その直感は長い間正しかったし、今でも身に染みています。開発に何か月もかかっていた頃、念入りな計画は最も安上がりな保険でした。しかし今、開発は数日で終わり、コストがかかるのは「決めること」の方です。規律は今も必要ですが、向けるべき先が変わったのです。
誰も答えを持っていなかった問題
先ほど触れた例外がこれです。AI は定型業務を肩代わりしますが、定型業務こそが人の判断力を養う場でもあります。では、経験の浅い人材はどうやって判断力を身につければよいのか。Haufe の Group CIO である Andreas Plaul は、一日中 AI を使いこなしているのにコードが何をしているか理解していないジュニア開発者の例を挙げました。Standard Bank で Cloud Enablement の CTO を務める Duncan MacDonald は、新卒社員に文脈理解の力が欠けている現状を語り、優れた判断力をどう育てるか答えを出せているリーダーはいないと述べました。
この問いはエンジニアリングに限りません。AI がすべての申請をスコアリングする状況で、ジュニアの引受審査担当者はどうリスクの勘所を身につけるのか。AI が分析を行う状況で、ジュニアアナリストはどう前提の誤りを見抜けるようになるのか。IQVIA の Chief Science Officer、Christina Mack は、AI が経営幹部とインターンに同じアウトプットを渡す場面を見てきました。両者の違いは、そのアウトプットから何を読み取れるかです。スキルを磨いてきた反復練習が奪われると、そこに依存していた判断力は形成されません。インタビューのたびにこの問題を投げかけましたが、答えを持っている人は一人もいませんでした。
その他の調査結果
レポートは全 10 章で構成されており、ここで要約できる範囲をはるかに超える内容を扱っています。4 つのテーマを紹介します。
- AI が成功すればするほど、需要が予算を上回る。そして既存の予算配分プロセスは、素早い優先順位の見直しに対応できていない。
- どの組織も同じ AI モデルにアクセスできる以上、競争優位の源泉は自社のデータ、とりわけ社員が持つ知見のうちシステムが読める形で記録されたことのない暗黙知にある。
- AI のコストは利用量に連動するため支出予測が難しく、四半期レビューになって初めて実態が明らかになることが多い。
- 価値ある人材に求められるスキルが変わりつつあり、キャリアをかけて磨いてきたスキルが陳腐化している人が出てきている。
各章では、リーダーたちが語った課題と、効果があると考えている解決策を紹介しています。Amazon のリーダーにも他の組織と同じ質問を投げかけ、AI がうまくいかなかった領域も含めて回答を得ており、その内容はすべての章に反映されています。Amazon がこれほどの分量で自社の取り組みを語るのは初めてです。
同じ壁にぶつかった経験や、突破した経験があれば、ぜひ聞かせてください。インタビューに応じてくれたリーダーたちと、同じ課題に取り組む Amazon のチームから多くを学びましたが、レポートは答えた以上に多くの問いを提起しています。その問いの多くは、今まさにこれらの組織の中で、そして Amazon の中で検証が進められており、今後も現場の声と照らし合わせながら調査を続けていきます。
レポートは aws.amazon.com/executive-insights/reimagine でお読みいただけます。