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クラウド、CapEx、OpEx: 会話のリフレーミング
この記事は、PHIL LE-BRUN による寄稿の Cloud, CapEx, and OpEx: Reframing the Conversation を翻訳したものです。
経済予測の役割は、占星術でさえ立派なものにすることである。
—John Kenneth Galbraith
私は金融に精通してはいますが、経済的なアドバイスをするのはおこがましいと思っています。とは言え、もはや時代遅れの通念は、見れば分かります。1つの例として、設備投資 (CapEx)から運用コスト(OpEx) への切り替えがクラウド導入の基本的な障壁であるという、一部の企業の考え方です。大幅なコスト削減、リスクの低減、アジリティの向上につながる明確な道筋があるにもかかわらず、CapExが「節約すべきものではない」と語られるのは悔しいものです。 とあるCIOのコメントの通り、「私たちは会話を変える必要があります:CapExのリンゴとOpExのオレンジを比較しているのです」。
このCIOは正しいです。CapEx1ドルをOpEx1ドルに変換することを議論したとすれば、その懸念について理解できるかもしれません。EBITDAのような一般的な指標は、都合よく減価償却を無視するため、短期的な収益性のみを重視する企業は、認識済みの収益性を高めるために設備投資を行う傾向があります。私たちは、設備投資をほぼ無料の資金調達オプションであると信じ込んでいるのかもしれません。私にも、ほかの誰かが減価償却費についてやきもきしている傍らで、設備投資を行った経験があります。この近視眼が行き過ぎると、より深い財務管理、成長の機会、更には将来までもが、企業から奪われてそまう可能性があるのです。
では、クラウドを利用する際に、このような金銭的な不安をどのように解消すればよいのでしょうか。ここでは6つの通説を紹介します。クラウドに関する財務的観点をリフレームし、短期的な収益性と持続可能な繁栄のバランスについてを深く考える一助となれば幸いです。
通説:CapExは予算の予測をしやすくします
毎年、同じ金額が無駄になることを予測できるなんて、素晴らしいことだと思いませんか?リクエストされた金額が前年からあまり逸脱しない限り、ERPシステムなどのコアシステムの年間予算要求を気軽に受け流すことができます。
私たちは、このようなシステムはその重要性および安定性の必要性から、毎年同じ費用がかかると思いこみがちです。さらに、ピーク時の需要に合わせてホスティング環境のサイズを調整することで、予測可能にしようと試みます。月末に需要のあるシステムは、当月の残りの期間は、何もせずにコンピュートの余剰キャパシティの海に浮かぶだけの状態にあります。 これは業績を向上させるインセンティブがないことが多いという理由からです。
一般的な企業においては、テクノロジー予算の3分の2は現状維持に費やしているため、本当に心配しなければならないのは残りの3分の1だけであると考えがちです。少し骨が折れるかもしれませんが、社内で慣習的になっている支出を批判的に見て、ゼロベースの予算編成を行うことで、継続的なコスト最適化に注力するきっかけを作ることができます。これらのシステムの多くをクラウドに移行し、利用可能なツールを使用することで、前年比での財政支出を削減し、CapExとOpExの両方を節約することができます。
通説:CapExでより多くの制御が可能になります
発注書(PO)を通じて資本を管理することがありますが、発注書が承認された後はどうなるのでしょうか? 承認後、新しいソフトウェアライセンスまたはデータセンターの有効性をどのように追跡し、購入が間違いだった場合はどのように対処すればよいのでしょうか? POの承認者は、アップグレードやメンテナンス、ハードウェアの交換のために、将来、さらに多くのPOに署名するよう求められることを本当に理解しているでしょうか? 昨年は、需要に応じてキャパシティを調整したり、流動性を向上させたり、長期的な購入判断に惑わされることなく迅速に実験を行うことができないという課題が浮き彫りになりました。
CapExの心理学、すなわち数多く研究されてきたサンクコストの問題についても考えてみましょう。データセンターまたはデータベースライセンスを購入、またはプロジェクトに大量資本を注入した場合、ビジネスニーズや環境変化、またはイニシアチブが思わぬ方向に進み始めたらどうなるでしょうか? 歴史を振り返ると、私たちは冷静な論理を横に置いて、最初に購入したものが救済され正当化されることを期待して、さらに投資を重ねる傾向があります。適切なソフトウェアであるか否かにかかわらず、データベースライセンスを使用する理由を見つけようとします。私たちは、何が最も理にかなっているかではなく、既に獲得したものに基づいてイノベーションを起こすのです。
クラウド支出の可視性と制御レベルは、資本集約型の同等製品によって達成可能なものよりはるかに優れています。 アジャイルなクラウドベースの組織は、価値の実現にあわせて投資のペースを調整します。 彼らが繰り返し行う投資はほぼリアルタイムで管理され、失敗は迅速に対処されるので、賢明でない投資を未然に防ぐことができます。 これと、アジャイルな組織における生産性の向上、顧客や収益にとって意味のある投資の増加、1年後のリターンのために今すぐ投資するという考え方の減少、を組み合わせると、なぜアジャイルな組織におけるクラウドでのワークロードが桁違いに多いのかを、ご理解いただけると思います。
通説:OpExはEBITDAに影響を与え、CapExは影響を与えません
この通説は会計的な慣行を換言したものに過ぎないのでしょうが、CapExの正しいコストと矛盾しています。先の2つの通説を一掃したことで、テクノロジーのCapExとOpExの支出を比較することはリンゴとオレンジの関係とであると安心されるかもしれませんが、クラウドへの移行がOpExを増加させることに変わりはありません。CapExであったものがOpExとなるのです。しかし、本当にそうでしょうか? システムの信頼性の低さは、今日の利益や評判にどのような影響を与えているのでしょうか?これらの問題の修復または防止に、自社の(経費計上される)従業員やサードパーティが費やす手作業、年間どれくらいになるのでしょうか? ライセンスの購入、ソフトウェアのインストールとパッチ適用、データセンターの監視や契約など、貴社のチームやサプライヤーが従事している(経費計上される)未分化の作業はどれくらいありますか?プロモーションの成功によるピーク時の需要を満たすスケーリングができなかったために、どれだけのビジネスが失われているでしょうか? 購入済みライセンスの(経費計上される)年間ソフトウェア保証料はいくらになっていますか?
要点はお分かりいただいたと思います。従来型のデータセンターを持つ企業の中で、重要なシステムに必要なレベルのパフォーマンスやディザスタリカバリに投資できる、あるいは投資する企業はほとんどありません。 しかし投資をする企業では、OpExとCapExコストが大幅に増加します。 クラウドがOpExを増加する可能性がありますが、システム停止の減少、未分化な作業の減少、リスク軽減のためのコスト削減などのポジティブな影響が説明されることも、ほとんどありません。
通説:同一条件のクラウドのOpExは、データセンターのCapExよりも高いです
これは、データセンターと同じように、EC2インスタンスを24時間365日、使用率40%で稼働させ、ライセンス付きのデータベースとソフトウェア保証を提供する場合にはその通りかもしれません。しかし、なぜこそのようなことをするのでしょうか?この通説は、まるで自分の車とレンタカーを比較して、結果休暇のたびに新しい車を買おうと決めているのと同じです。こうした比較は一般的ですが、間違っています。 クラウドによる従量課金制の弾力性、より効率的なデータセンター、そして自動化は、ほとんどの場合で、より経済的であることが証明されています。ある程度の再構築を行うことで、コストを抑えながらセキュリティと信頼性をさらに向上させることができます。
通説:「プライベートクラウド」によりCapExの妥協点を見出せます
同様に厄介な通説は、企業が「プライベートクラウド」と称する固定インフラストラクチャを構築して、仮想化を使用してクラウドのスケーラビリティを模したベストオブブリードのソリューションを構築できるというものです。これは、あまりにもクラウドの本質を逸脱しているため、どこから反論を始めたらよいのかが分かりません。確かにこのアプローチで、より多くのコンピューティング能力を活用することが可能になりますが、AWSクラウドで行われたスケーラビリティ、セキュリティ、信頼性への投資のレベルを反映しているとはとても言えません。また、ストレージからコンピューティング、機械学習、ブロックチェーンに至るまで、200以上の利用可能なサービスを提供するにも至っていません。 よく言えば、少しだけ効率化したオンプレミスのデータセンター。 悪く言えば、疑似クラウドのパッチ適用、監視、管理にOpExを浪費する一方で、自分たちには何かしらの競争力と俊敏性があるというレベルの自己満足感を抱かせてしまいます。
通説:大きなCapExの契約を結ぶことこそが、リーダーシップです
まあ、これは私がトラクターを購入するのと同じようなことです。理由として、(1)いつか自宅の庭から大量の土を移動させなければならないから、(2)トラクターがまた必要になるかもしれないから、(3)トラクターは今セール価格であり、優れたリーダーは割引価格で物を買うものだから、です。 はい、意味がないので、なぜ誤りなのかを説明したり、なぜ将来の選択肢を狭めることがリーダーシップを発揮することにはならないのかを説明することに時間を使うのはやめましょう。
CapEx/OpExの難問の核心は、デジタルトランスフォーメーションに見られるのと同じ哲学にあります。従来の設備投資は、企業が大部分の投資に対して正しい答えを予測できるという前提に基づいています。 アジャイルな企業は、しばしば間違った選択が行われる可能性を認めつつ、それでも学習してコスト効率よく迅速にピボットすることができるという前提に基づいて投資を行っています。
これらはすべてを網羅したリストではありません。私たちが払拭すべき、これら以外の通説について、ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。
— Phil
このブログは情報提供のみを目的としており、財務上または会計上のアドバイスを提供することを目的としていません。
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