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【EdTech Meetup】AI 時代の EdTech ~プロダクト・開発・運用の変革と EdTech の未来~【開催報告】

<EdTech Meetup>

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)は 2025 年 11 月 11 日に、「【EdTech Meetup】 AI 時代の EdTech ~プロダクト・開発・運用の変革と EdTech の未来~」を AWS Startup Loft Tokyo にて開催しました。

AI 技術の急速な発展により大きな変革期を迎えている教育テクノロジー(EdTech)分野について、ユニファ株式会社、スタディポケット株式会社、ビズメイツ株式会社からのライトニングトークとパネルディスカッションを通じて議論を深めました。

EdTech スタートアップ、教育関係者、テクノロジー企業など、多様な参加者が70名以上集まり、知見の共有と交流を深める場となりました。本ブログではそのレポートをお届けします。

オープニング

<AWS パブリックセクター 教育・研究事業本部 事業本部長 白石 智良>

AWS パブリックセクター 教育・研究事業本部 事業本部長 白石 智良

「一年前の EdTech Meetup では『生成 AI という言葉が当たり前になってきました』と言っていましたが、もうそれから一年経ち、完全に日常に生成 AI が入っています。教育業界における生成 AI と人間の関係性、学習の個別最適化、導入時の障壁や運用コストの最適化など、重要なテーマについて、進的に取り組んでいる企業の CxO から様々な事例や取り組みをご紹介いただき、懇親会で皆様と意見交換できればと思います。」と挨拶しました。

ライトニングトーク① : ユニファ株式会社

<ユニファ株式会社 執行役員 CPO プロダクトデベロップメント本部 本部長 兼 AI 開発推進部 部長 山口 隆広 氏>

ユニファ株式会社 執行役員 CPO プロダクトデベロップメント本部 本部長 兼 AI 開発推進部 部長 山口 隆広 氏

ユニファ株式会社は、ICT・IoTを活用した業務負荷削減と、ドキュメンテーションによる振り返り支援の観点から、こどもともっと向き合う豊かな環境を整える保育施設向け総合 ICT サービス「ルクミー」を展開しています。

「保育 AI」の取り組みでは、「保育士さんの業務負担の軽減だけが問題ではなく、こどもの安全や成長のサポートも重要」と強調。具体的な AI 活用事例として以下を挙げました:

  1. 若手保育士の育成支援: 連絡帳の誤字脱字チェックに AI を活用することで、本質的な保育の指導に時間を使えるようになった。
  2. 写真管理の効率化: 保育園の多くは一回のイベントで約1000〜2000枚の写真を撮影するが、AI を使ってこどもの顔認識や不適切な写真のフィルタリング、こどもごとの枚数のバランス調整などを効率化できるようになりつつある。
  3. 記録の活用: 従来は紙のファイルに保存されていた保育記録をデータ化し、AI 経由で他の先生が参照できるようにすることで、引き継ぎなどに役立てられるようになった。

山口氏は、AI の導入には当初反発もあったことを振り返り、「保育士の先生だからできる大事なところはたくさんあります。ただ、誤字脱字や文章の修正など、先生が頑張るべきことではない部分は AI に任せましょう。」という考え方で理解を得てきたと説明しました。また、国や自治体が AI の活用を推進する姿勢を示すことが、現場での導入を促進する上で重要だと指摘しました。

ライトニングトーク② : スタディポケット株式会社

<スタディポケット株式会社 代表取締役 CPO 鶴田 浩之 氏>

スタディポケット株式会社 代表取締役 CPO 鶴田 浩之 氏

スタディポケット株式会社は、学校・教育機関向けに、セキュアな環境で簡単に導入できる生成 AI サービスを提供しています。

鶴田氏は、「答えを教えない AI 」というコンセプトでハッカソンに参加したところ、学校現場からの反響を受けて、スタディポケットが誕生したという経緯を紹介しました。

「スタディポケットが提供するソリューションの特徴は、教員向けのソリューションとこどもたちの学習をサポートするソリューションの二つが表裏一体になっていることです。生成 AI としては、Amazon Bedrock で Anthropic の Claude モデルなどを利用しています。それにより、先生たちはセキュアな環境で、こどもたちは安心安全に使えるガードレールを整備した環境で生成 AI を利用できています。」

「教員向けソリューションで特に反響が大きかったのは、学校の先生特有のプロンプトのテンプレートを40~50種類用意し、プロンプトエンジニアリングの知識がなくても直感的に AI を使えるようにしたこと。また13歳未満の利用についてのルールを早期に定めました。」

「答えを直接教えないという、考えに伴走していくというコンセプト」を初期から打ち出していたことが、AI を用いたサービスが受け入れられた要因だと分析しています。学校の伴奏支援も必要で、「ただ導入しただけだと全然使わない」という課題に対しては、ワーキンググループを作るなど、きめ細やかなサポートの重要性を強調しました。

ライトニングトーク③ : ビズメイツ株式会社

<ビズメイツ株式会社 IT本部 本部長 兼 CTO 林 哲也 氏>

ビズメイツ株式会社 IT本部 本部長 兼 CTO 林 哲也 氏

ビズメイツ株式会社は、「もっと多くのビジネスパーソンが世界で活躍するために」というミッションのもと、ビジネス特化型オンライン英会話サービス「Bizmates」を主力として、ビジネス日本語教育やグローバル人材マッチングなど複数のサービスを提供しています。

ビズメイツは、「日常会話を幅広く学ぶより、使用シーンが限られるビジネス英語に特化することは学習の近道になる」という考えのもと、創業以来ビジネスに特化した英語教育を提供しています。現在では、AI によって「受講生の業種、職種、状況に特化した最適な英語教材を生成」「受講生のオンライン英会話レッスン音声の AI データ解析を基にした英語学習コーチングを提供」と更に学習体験のパーソナライズ化が進んでいます。

ハイブリッド型英語学習の特長として、アプリでの自習(インプット)、人間のコーチによる伴走・動機づけ、対人のオンライン英会話でのアウトプット、AI と人それぞれの強みを組み合わせていることを挙げ、この中での AI 活用例として業種・職種・シーン別に学習者ごとに最適化したロールプレイの生成、発音評価、レッスン音声の分析などを紹介しました。

開発面では、要件定義から実装、テストまでの開発ライフサイクル全体で AI を活用し始めていると説明しました。FuelPHP から Laravel への移行や Vue.js のバージョンアップなどの領域で、生成 AI を搭載した会話型アシスタント Amazon Q Developer などを活用しており、サービス提供と開発の両面で AI が活用できることを強調しました。

「AI によって個別最適な学習体験を提供する一方で、自走支援には人間による動機づけやコーチングも重要」とし、開発においても「AI は標準的な開発の生産性を上げ、人間は変革をする企画やレビューを行う。人間が AI と一緒になりながら、より良いサービスを開発していきたい」と今後の展望を示しました。

ライトニングトーク④ : AWS

<AWS パブリックセクター 技術統括本部 教育・研究技術本部 本部長 松井 佑馬>

AWS パブリックセクター 技術統括本部 教育・研究技術本部 本部長 松井 佑馬

「AWS の AI ポートフォリオは、インフラ層(GPU等)、基盤モデル層(Amazon Bedrock等)、アプリケーション層の3つのレイヤーに分かれています。今日は、アプリケーション層の新しいサービスである『Amazon QuickSuite』について詳しく説明します。Amazon QuickSuite は、AI エージェントと一緒に働くことが普通になる中で、業務データを把握し素早く答えを出し、アクションにつなげられる AI エージェントを提供するサービスです。2025年10月に一般提供が開始されたばかりで、ダッシュボード作成サービスである Amazon QuickSite に AI 機能を追加した発展版です。」

デモにて、チャットによるデータ探索、ドメインやチームごとの権限管理、タスクの自動化ワークフロー、複数データソースを参照したリサーチ機能をお見せしました。ユースケースの例として、営業担当者が商談の議事録から日報を作成し、Slack に投稿するという一連の流れを AI に自動化させる例を紹介。このサービスはデベロッパー向けではなく、ビジネスユーザーが自然言語で定義できることが特徴だと強調しました。

パネルディスカッション

<パネルディスカッション>

<モデレーター>
AWS パブリックセクター 教育・研究事業本部 アカウントマネージャー 尾島 菜穂

<パネリスト>
スタディポケット株式会社 代表取締役 CPO 鶴田 浩之 氏
ビズメイツ株式会社 IT本部 本部長 兼 CTO 林 哲也 氏
ユニファ株式会社 執行役員CPO プロダクトデベロップメント本部 本部長 兼 AI開発推進部 部長 山口 隆広 氏
AWS パブリックセクター 技術統括本部 教育・研究技術本部 本部長 松井 佑馬

AI と人間の最適な役割分担

山口氏(ユニファ):「保育の専門性は AI に持たせない」という方針。こどもの表情一つをとっても、笑顔の裏に嫌なことがあって笑う癖がある子もいるなど、AI では判断できない専門性が存在するからです。そのため、AI の役割は「先生が活かせるデータを簡単に集めること」に限定。若手保育士の育成においても、AI が生成した情報を「正解だと思い込んでしまう」リスクを避けるため、あえて使わない判断をしています。

鶴田氏(スタディポケット):教員へのアプローチとして「働き方改革」よりも「授業の質が高められる」という点を強調すると興味を持ってもらえます。教師の役割は変わっても無くならず、教室の「コミュニティマネージャー」のような存在になっていくと予測しています。また、こどもたちが AI を使うことで、自分で応用問題に挑戦したり、苦手な単元をキャッチアップできるようになり、結果的に「こどもたちが使った方が先生の働き方改革になる」という効果も生まれています。

林氏(ビズメイツ):AI によって「何を覚えるべきか」が変わってきています。翻訳ツールにより「英語を覚えなくても会議ができる」時代になりつつあるが、最終的には「人間として人間に伝える」ことが重要であり、「英語を教えるのではなく、グローバルで活躍できるビジネスのやり方を教える」という人間の役割を重視しています。

AI のコスト課題と工夫

鶴田氏(スタディポケット):一般企業に比べて、教育業界の予算が少ないことに驚きました。公立学校向けには、月額ではなく年間2,000〜3,000円を切る価格設定が必要です。高性能なモデルを初期に提供し、モデルの価格が下がるのを見越した戦略を取り、必要に応じてモデルを切り替えたり、キャッシュ技術を活用するなどのコスト最適化の工夫をしています。

林氏(ビズメイツ):AI を使って顧客の利便性を高め、「その利便性に見合う付加価値」としてオプション価格をいただく形でコストを回収しています。コーチングサービスやモバイルアプリなど、新たな付加価値の中に AI のコストを含める形を取っています。

山口氏(ユニファ):保育領域は予算が限られているところも多いので、テキスト処理などは無料で提供し、画像処理など負荷の重い処理は課金する形を取っています。写真販売などのビジネスモデルでマージンが増えるような AI 機能は無料で提供するなど、「間接的にいただく」工夫もしています。さらに、期待値をコントロールすることで価格を抑えたモデルでも満足してもらえるようにしていています。

松井(AWS)からは、技術的観点から、最適なモデルの使い分けやトークン節約のためのキャッシュ活用、コンテキスト圧縮などの工夫を紹介しました。

開発・運用での AI 活用

林氏(ビズメイツ):フィリピンの子会社でも AI を導入しており、フィリピンのメンバーも「AI に発注して、作らせて、納品されたものをチェックする」という役割に変わりつつあります。そのためコードを書くエンジニアから要件定義や QA を担当する役割へのシフトが起きています。また、グローバルでは英語の情報が豊富なため、日本よりも AI 活用が進んでいる面もあります。

山口氏(ユニファ):インフラ面では Amazon Q を活用している一方、アプリケーション開発ではエンジニアによって AI 活用度に大きな差があります。特に非エンジニア職種(QA エンジニアやデザイナー)の方がむしろ AI を積極的に活用し、「エンジニアに聞きづらかったことを AI に聞く」ことで成果を出している傾向があります。

鶴田氏(スタディポケット):コードの8割が AI コーディングベースになっています。プルリクエストのコードレビューには複数の LLM を同時に走らせ、様々な観点からレビュー。また、私自身も AI と共にプロトタイピングを行うことで「2日で新機能を見せる」といった高速開発が可能になっています。

教育現場での導入障壁と克服策

鶴田氏(スタディポケット):「活用する人としない人の差」が生まれることが課題。特に契約する主体(教育委員会など)と実際に使う主体(先生やこどもたち)が異なる中で、いかに満遍なく使ってもらうかが重要です。

山口氏(ユニファ):保護者からの視線が障壁になることがあります。「保育士がスマホで連絡帳をチェックしていると、遊んでいると思われる」といった誤解が生まれうるため、「こどもの育ちをより分析し、保護者に伝えるために AI を使っている」というストーリー作りが重要です。

会場からの質問

質問「AI がジュニアエンジニアを代替しているという傾向は実感するか」

山口氏(ユニファ):AI 活用に対してネガティブな人はエンジニア採用において「減点」になりつつあります。一方で「自分の方が優秀だから使わない」という人もいるが、それは現時点での能力なので、「インターネットと同様に使ってほしい」と考えています。

鶴田氏(スタディポケット):むしろジュニアの方が AI を活用・吸収していて、「シニアでアンラーニングできない方がリスク」。20代前半の若手が AI で自己拡張している姿に「危機感を感じる」。

林氏(ビズメイツ):AI が生成したものをレビューできるスキルが重要になるが、それができるシニアエンジニアの採用は簡単ではないため、「ジュニアエンジニアを採用して育てていく」ことが会社の使命だと思います。

質問「高校向けサービスで様々なアプリに AI が組み込まれ、ユーザーが混乱するのではないか」

鶴田氏(スタディポケット):「AI は様々なものに大前提で入ってくる」、「インターネットのように空気のような存在になっていく」と予測しており、時間とともに情報リテラシーが育ち、成熟していくと思います。

質問「英語学習の AI 活用がコモディティ化している中での差別化」

林氏(ビズメイツ):ビズメイツは「ハイブリッド学習」として、アプリでのインプット、人間のコーチによる伴走と動機づけ、オンライン英会話でのアウトプットを組み合わせることで、単なる AI 英会話ツールとは異なる価値を提供しています。

3年後のビジョン

山口氏(ユニファ):「保育園・幼稚園などのデータを小学校に、小学校のデータを中学校に持っていけるようになれば、こどもの人生をもっと良くできる」ので、AI に合った法律整備に期待しています。

鶴田氏(スタディポケット):スタディポケットは、ドラえもんのように、のび太に寄り添い、時に怒り、時に優しいサービスを目指しています。不登校だった生徒がスタディポケットを使って自分で勉強し、志望校に合格しています。多様な社会の中で、AI が幅広く機会を作り、黒子としてサポートできる存在になりたいです。

林氏(ビズメイツ):3年後、今は人間がやらなければいけないと思われていることが AI でできるようになります。スピードがもっと上がることで、何を覚えるべきか、何を AI に任せるかの境目が変わると予想しています。

松井(AWS):個人的見解だが、AI による社会変化は避けられないので、「AI に使われる人ではなく、AI を使いこなす人を育てる」という教育の役割が、ますます重要になると思います。

クロージング

最後は会場で懇親会が行われ、参加者同士の交流や登壇者との質疑応答など、活発な意見交換が行われ、AI 時代の教育について議論を深める貴重な機会となりました。

過去の EdTech Meetup に関しては、以下のブログをご参照ください:

AWS パブリックセクターは今後も、EdTech がイノベーションを加速させるための、さまざまなテクニカル・ビジネスセッションやコミュニティ活動を実施予定です。ご関心をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。教育のイノベーションに取り組まれる皆様のご参加をお待ちしております。

このブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター ソリューションアーキテクト 伊達幸希が執筆しました。