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【開催報告】 ファーストリテイリングにおけるデジタル改革の取り組み 〜AWSを活用したエンジニアリング組織の変革〜 (Part 1)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社は 2021年9月2日に株式会社ファーストリテイリング様をお招きし、「ファーストリテイリングにおけるデジタル改革の取り組み」というテーマで、2時間に渡ってファーストリテイリングの皆様にご講演をいただきました。本ブログでは、2回に分けてその内容をレポートしたいと思います。

オープニング :ファーストリテイリングにおける ビジネスの変革とデジタルの取り組みについて

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 執行役員(CTO) 大谷 晋平 氏

はじめに、大谷様よりファーストリテイリングにおけるビジネスのコンセプトと、それを実現するための有明プロジェクト及び、その中でのAWS の活用方法についてご紹介頂きました。

ファーストリテイリングでは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というミッションステートメントと「LifeWear=お客様一人ひとりの毎日の生活を良くするための究極の普段着」というコンセプトのもと、世界中でビジネスを展開しています。

そして、ファーストリテイリングが社会において新しい産業を作っていくという考え方で、旧来の「製造小売業」ではなく「情報製造小売業」という新しいコンセプトのもと、求められているものを作る商売へデジタル変革を行うために、「有明プロジェクト」を立ち上げ実行していることをご紹介頂きました。このプロジェクトでは、お客様から工場までをダイレクトに情報、すなわちデジタルでつなぐことで、お客様が本当にほしいものだけを作る、売れるものを作り出す、服を作る人と服を着るお客様の境目をなくす、といったことを実現する、新しいビジネスへの変革に取り組んでおられます。

ファーストリテイリングのビジネスの特徴として、グローバル26の国と地域で3,600店舗以上を展開し、年間10億着以上のLifeWearを提供しています。このようなことを実現するために、トレンドや在庫・販売情報、口コミなどのデジタルのデータを収集し、そこからお客様の生活やトレンドを考慮して、何が本当に必要とされているかをアルゴリズムで予測・最適化することを、有明プロジェクトでは進めています。そのために、お客様接点である店舗やEコマース (EC)、カスタマーセンターから販売の情報や Voice of Customer などのお客様の情報をリアルタイムに収集することが必要です。それらの情報をもとに3600の店舗や EC を上手く活用し、売れる量に合わせて適時・適品・適量の商品をお届けし、お客様に買い物を楽しんで頂くことを考えています。その中では生産・物流も大きく変革をしていく必要があるためシステムやアルゴリズムを自分たちで作る取り組みを進めています。お客様が本当に欲しいものだけをリアルタイムに反映できるように、販売、生産、物流、企画の全てを繋げることが有明プロジェクトの最終的な目指すところであり、そのようなシステムの作り方や業務プロセスの変革などに日々試行錯誤をしてアップデートを繰り返しているとのことです。

ファーストリテイリングの世界各国の店舗から生産拠点まで約13万人の社員をワンチームとして結集し、全員でビジネスを変革させるために、社員個々のスキルや考えを活かす方法を採用しているそうです。これにより働き方も自然と変わってきており、このような変化が情報製造小売業を実現するためのキーになると考えられています。

次に、デジタル変革を行うためにはITの技術戦略の転換を求められており、それに対する以下の取り組みをご紹介いただきました。

  • クラウドファースト/マルチクラウド戦略でシステムを再設計:クラウドを用いてグローバルのどこからでも情報へのアクセスやデータ連携を行い、高付加価値を生み出せる環境を整えています。実際にほぼ全てのシステムがクラウドで稼働しています。
  • 技術選定のシフト:クラウドに「使われた」古い技術ではなく、自分たちでクラウドを「使いこなす」ための技術を選定しています。
  • オープンな新しいテクノロジーを中心に技術スタックを統一:Docker や PostgreSQL、Redis、Kafka などグローバルスタンダードで汎用性・先進性の高い技術を採用し、全社で技術スタックを統一しています。
  • グローバルの技術トレンドを踏まえた技術選定:グローバルの方向性を常にリサーチし、その内容を元に技術選定・利用をしています。
  • 内製アーキテクト・エンジニアによる技術選定:上記のことを実現するために、社内のアーキテクトやエンジニアが技術選定を行い、実活用までリードしています。

この取り組みの中でファーストリテイリングでは AWS を多く活用いただき、複数の AWS Region において、主要なサービスをほぼ全て活用されています。AWS をクラウドのトップパートナーとして位置付けられており、AWS が持つ機能優位性のほか、ソリューションアーキテクトや テクニカルアカウントマネージャーからの情報提供やアドバイスなどを含めた有明プロジェクトへの貢献を高く評価していただきました。またエンタープライズ・Webのワークロードにおいて、様々なサービスを複数のリージョンで高い安定性やスケーラビリティを持って稼働できていることも評価いただきました。具体的なファーストリテイリングでのAWSのユースケースとしては以下を挙げていただいています。

  • グローバルデリバリーの伴うシステム(EC、店舗、倉庫)
  • 基幹系システム(SAPなどのエンタープライズシステム)
  • データ連携などの共通プラットフォーム

最後に、有明プロジェクトは、デジタルの力を使って、情報製造小売業 (Digital Consumer Retail) に全社を革えるのが目的であって、そのためのプラットフォームをAWS上で最先端技術を取り入れて創り出し、イノベーションを起こしてお客様に付加価値をお届けする取り組みであるとまとめていただきました。

店舗と EC を融合するグローバル・デジタルコマース・プラットフォーム

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革 サービス部 コアエンジニアリングチーム 統括リーダー  村田 雄一 氏
株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革 サービス部 コアエンジニアリングチーム リーダー She Xiao 氏

続いて、ファーストリテイリングの内製開発を行うコアエンジニアリングチームの村田様とShe様より、グローバル展開をされているデジタルコマースプラットフォームと、EC・店舗を融合するための Order Management System (OMS) についてご紹介いただきました。

まず村田様より、マルチブランド・マルチリージョンのECを支えるプラットフォームにおける取り組みをご紹介いただきました。ファーストリテイリングのビジネスには、ユニクロをはじめとするグローバル展開をされているブランドに加えて、ジーユーなど複数のグループブランドを有しているというユニークな特徴があります。また、世界トップ規模のビジネスとしては他のグローバル企業と比べてITの人員が少なく、少数精鋭で効率的な開発・運用をされています。そのため「グローバル・ワン」、すなわち世界でもっともよい方法を一つ作り上げ、それをプラットフォームとして開発し横展開するという戦略をとられているとのことです。そして、その戦略を支える以下の5つの技術的なポイントをご紹介いただきました。

  • ヘッドレスコマース:フロントエンドとバックエンドを切り離して API を通じて動作させています。バックエンドは様々な機能をマイクロサービスごとに分割することで、独立して開発運用できるという利点があります。また、バックエンドをグループで共通化しつつも、フロントエンドでそれぞれのブランドのアイデンティティを際立たせることができます。また、EC のフロントエンドだけでなく、着こなし発見アプリの StyleHint など、さまざまなアプリと連携することができ、最新の製品情報と連動することで、興味を持ったお客様を自然と EC と相互連携することができます。
  • Immutable Infrastructure:インフラは Immutable Infrastructure を活用し、すべてをコンテナで動作するように工夫しています。マイクロサービスの数が増えたとしても、ある共有のクラスタに複数マイクロサービスをデプロイすることで、フレキシビリティとインフラの効率化の両立を実現しています。また、すべてのインフラ構成を必ずコードに落とし、デプロイの自動化を行うことで、あるリージョンの構成をそのまま他のリージョンで再現することを可能にしています。
  • マルチリージョン展開:コンテナを含む一つのインフラ構成を様々な AWS リージョンに展開できるようにすることで、お客様に近いリージョンでサービスを展開できます。事業ごとにトラフィック・コンテナを分割することで、あるリージョンでのトラフィックが増えたときに他のリージョンへの影響を防ぐほか、コンテナ単位で使用量を監視してコストの適切な按分が実現できます。トラフィックやコンテナを分割している一方で、DB やコンテナクラスタホストのような固定費が高いものについては、地域ごとにホストすることは無駄が多いケースがあるため、適度に共有できるようにもなっています。
  • Cloud Agnostic:オープンソースとマネージドサービスの組み合わせを徹底することで、スケーラビリティやセキュリティ、可用性を高めています。そのために徹底的にAWSを活用しています。特にAmazon Aurora、Amazon ElastiCache、Amazon Managed Streaming for Apache Kafka (Amazon MSK)、Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) などはオープンソースをベースにしているので、技術標準化にも寄与しています。また、各国の法律的な規制によりAWS を活用しにくい場合は、他のインフラ構成においてもホスティングし易いように工夫しています。
  • 技術標準化:技術標準化に力を入れていて、開発言語では Java, Golang, Node, Kotlin, Swift を使っています。また、ミドルウェアについてはオープンソースをベースとした AWS のサービスを活用していて、データベースとしてAmazon Aurora、メッセージキューにAmazon MSK、キャッシュに Amazon ElastiCache を利用しています。

まとめとして、グローバルの展開状況についてご紹介いただきました。ユニクロ、ジーユーでは内製のプラットフォームを徹底活用されているとのことで、多数のリージョンで運用が走っています。今後も展開リージョンの運用強化と更なるロールアウトを計画されているとのことです。

続いて She 様より、EC/店舗を融合するために、モノリシックなアーキテクチャを刷新して、マイクロサービスベースでOMS を内製した事例についてご紹介いただきました。これにより、パフォーマンス向上やチャネル・機能拡張の柔軟性の獲得、高いセキュリティレベル、グローバル展開での変更容易性などを獲得されたことを共有いただきました。

その成果の一つとしてECが混雑している時の体験を改善した事例について、具体的な手段を三つご紹介いただきました。

  • Amazon MSK による同期・非同期処理の分離:オーダー作成とオーダーの実際の処理を分離することで、お客様からオーダー作成のリクエストをもらったあとに、すべての処理を完了するのではなく、必要最小限の確認をしたあと、レスポンスをすぐに返しています。高速処理に必要な情報を MSK に投入して、そのあとの注文処理ワーカーやバッチ等によって、最後の注文処理を完了させる工夫をしています。
  • ElastiCache によるキャッシュの大規模適用:頻繁にアクセスされる商品の基本情報やお客さんのカート情報をElastiCache でキャッシュすることで、高速なレスポンスを実現されています。
  • 必要な処理を必要な時に行う:お客様のための在庫確保の粒度は、必要なタイミングで必要な粒度までブレークダウンしています。過剰な処理をしないようにポリシーを定めています。

次に、店舗の購買体験を進化させ、EC と店舗それぞれの購買体験を融合する取り組みをご紹介いただきました。「買いたいものがいつでも買える」「買いたいものがどこでも買える」を実現するために、店舗に商品の在庫がない場合でも、他の店舗の在庫を照会したり、EC で注文したり自宅に配送することが可能になっています。このような、購買チャネル・在庫の場所・お届け場所の中から、お客様の好みに応じて選んでいただく世界をさらに進めて行くとのことです。

このような店舗とEC が融合したO2O (Online to Offline) のサービスを実現するために、IT の高度な技術力は不可欠だと考えられています。EC から店舗の在庫を購入できるのは、膨大な店舗在庫を1枚1枚管理してトラッキングする仕組みを作り上げているからです。そのため、日本国内の数百の店舗を店舗群ごとにクラスタを分けて、API のクラスタとDB のクラスタを持たれています。このようなシャーディング構造により、店舗のシステムや EC の耐障害性能を上げることができているということです。

このように、ECと店舗のシステムを別々に開発するのではなく、それぞれが融合した形でマイクロサービス化することにより、両方に提供できています。それにより、スピーディな開発、データの交換と、グローバルへの展開を可能にしているとのことです。

Part 2に続く)

本ブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 ソリューションアーキテクト 柏村、國田、国政が執筆しました。