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空虚なバリューから実効性のあるプリンシプルへ:リーダーのための実践ガイド

本記事は 2025 年 3 月 11 日 に公開された「From Empty Values to Working Principles: A Leader’s Guide」を翻訳したものです。

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企業のバリュー (行動指針) は期待通りに機能しないことがほとんどです。「誠実さ」「イノベーション」といった言葉が壁や Web サイトに掲げられていても、日々の意思決定にはほとんど影響を与えていません。MIT Sloan の 2020 年の調査では、企業が掲げるバリューと実際の組織文化にはほぼ相関がないことが明らかになっています。

スタートアップであれグローバル企業であれ、ミッションやバリューを策定するために白紙と向き合った経験があるのではないでしょうか。社員の足並みを揃え、顧客からの信頼を築き、競合と差別化したい。

あるいは、組織を新しい方向に導きたい、過去の行動様式から意図的に脱却したいと考えているかもしれません。

大型の M&A を経て、「これが私たちだ」と宣言できる統一されたバリューを作り上げる必要に迫られている場合もあるでしょう。

意図は正しくても、結果は大きくばらつく。策定のプロセスも往々にして苦痛を伴います。

コンサルタントやマーケティング会社に支援を依頼することもあるでしょう。何か月ものフォーカスグループと無数の修正を経て、入念に計画されたマーケティング施策やチェンジマネジメントの取り組みとともに、新しいバリューを誇らしげに発表する。

半年後、何も変わっていない。それどころか、一部のバリューはむしろ空々しく響いています。昇進プロセスが相変わらず不透明なのに「透明性」を掲げる。レイオフの直後に「私たちは家族」とうたう。

特定の企業を批判しているわけではありません。リーダーなら誰もがこうした罠に陥りえます。

必要なのは、バリューの文言をより良くすることではなく、行動につながるプリンシプル (原則) に変えることです。

バリュー:志は高いが、実際の意思決定や行動とかけ離れがち。

プリンシプル:直感を揺さぶり、より良い判断を導く、明確で挑戦的な指針。

企業のバリューが機能しない 3 つの理由

企業のバリューが期待通りの効果を発揮しない理由は 3 つあります。そして、練り上げられたプリンシプルが組織の足並みを揃え、意思決定を加速させる理由もここにあります。

1. 当たり前すぎる美徳

企業のバリューの多くは、基本的な人間の美徳を言い直しているか、誰も反対しない内容を掲げているにすぎません。「正直さ」「誠実さ」をバリューに挙げたところで、それは当然のことを述べているだけです。「私たちは時々嘘をつきます」と堂々と宣言する企業はありません。

プリンシプルは、具体的な行動を導きます。「悪いニュースは早く共有する」は、正直さへの一般的な呼びかけとは異なる行動を生み出します。

2. 曖昧さが効果を損なう

覚えやすくするために短くまとめようとした結果、バリューが曖昧になりすぎて行動に影響を与えられなくなる、あるいは複数の相反する解釈を許してしまうケースがよくあります。

「親切にしよう」は、あからさまな問題行動を減らせるかもしれません。しかし、他者の仕事のミスやプロセスの問題を指摘することが「親切でない」と主張されたらどうでしょう。ミスを正さなければ、事故やクレームにつながりかねません。

「親切にしよう」と、「最高水準にこだわる (Insist on the Highest Standards)」というプリンシプルを比べてみてください。後者はビジネス成果に直結する明確な指針であり、具体的な基準に照らして評価できます。

3. 名ばかりのバリュー

バリューを日常業務に組み込めていない企業がほとんどです。良くてもバリューは形骸化し、最悪の場合は実際の行動と矛盾します。「エンパワーメントを信じている」と言いながら「次からは先に相談して」と付け加えてしまう。私自身にも覚えがあります。

管理職になりたてのころ、痛感した出来事がありました。予算内でチームの報酬を決める権限を与えられ、パフォーマンスと成長の可能性に基づいて慎重に配分した。ところが後日システムを確認すると、配分はすべて変更されていました。上司いわく「全体予算の調整のため、HR が手を入れた」。会社のバリューは「全員がオーナーである」でしたが、実際の行動はその正反対を教えていました。

バリューをプリンシプルに変える 3 つのステップ

バリューを記憶に残り、行動につながるプリンシプルに変えるための 3 つの提案です。組織の方向性を揃え、意思決定を加速させましょう。

1. 意思決定に実際に影響を与える主張をする

プリンシプルが役に立つのは、放っておけば取らないであろう視点の採用を迫る場合です。大胆かつ実用的で、鋭い思考を促すものでなければなりません。「チームワーク」のようなバリューを、「意見を持ち、議論を尽くしたら全力でコミットする (Have Backbone; Disagree and Commit)」に置き換えてみてください。効果的なチームで協働するとは何かを正面から問いかけるプリンシプルです。

2. 意味するところを明確に定義する

プリンシプルは覚えやすいことが大切なので、短いフレーズが望ましい。ただし、短すぎると解釈の余地が広がりすぎます。キャッチーな見出しが一般的・曖昧に感じられるなら、意図を明確にする補足文を加えましょう。Amazon のリーダーシッププリンシプルはまさにこのパターンです。一例を紹介します。

Invent and Simplify (創造し、シンプルにする):リーダーはチームにイノベーションと発明を求め、常にシンプルにする方法を見つけ出します。外部の動向に目を向け、あらゆるところから新しいアイデアを探し、「自前主義」に縛られません。新しいことに取り組む以上、長期間理解されない可能性も受け入れます。

見出し自体の具体性と挑戦に注目してください。「創造し、シンプルにする」――どちらか片方だけでは不十分です。見出しに続く各文は、態度と行動に関する具体的な期待を示しています。平易で曖昧さのない言葉遣い。衛星を作る人にもトラックの積み込みをする人にも、自分の行動に照らし合わせて使えるプリンシプルです。

3. 自らの行動でプリンシプルに命を吹き込む

具体性は基盤ですが、プリンシプルが価値を生むのは日々の業務に組み込まれたときです。全社ミーティングや年次の人事評価でだけ引用する、という過ちを犯してはいけません。リーダー自身がプリンシプルを積極的に使うことが必要です。チームが行き詰まったら、見落としている視点がないかプリンシプルを見直すよう促す。事業計画のレビュー、買収の評価、変革の推進――あらゆる場面でプリンシプルに思考を揺さぶらせてください。

明確に定義されたプリンシプルは、組織にとっての判断のガードレールになります。チームがガードレールを本当に理解すれば、自律的により良い判断を下せるようになる。リーダーは細かな判断から解放され、戦略に集中できます。

プリンシプルを進化させるヒント

1. 対立するプリンシプルで生産的な緊張を生む

AWS では「Deliver Results (成果を出す)」「Bias for Action (すぐに行動する)」が、「Dive Deep (深く掘り下げる)」「Insist on the Highest Standards (最高水準にこだわる)」とバランスを取ります。前例のない問題に取り組むとき、複数の視点からの検討を促す意思決定のフレームワークが生まれます。

Amazon.com での例を挙げます。ある年、顧客需要が前年比 135% 増と予測される中、ハードウェア増設は 20% に抑えるという方針でした。「Frugality (倹約)」を「Customer Obsession (顧客へのこだわり)」より優先した、という話ではありません。顧客体験の維持とコスト削減の両立が求められたのです。

結果はどうなったか。テックスタックを徹底的に調べ、見落としていたシンプルな最適化を多数発見しました。主要コンポーネントを再設計し、顧客あたりのコストを下げながらシステムの性能とスケーラビリティを向上させました。ハードウェア増設は最終的に 28% で着地。目標の 20% には届きませんでしたが、予測の 135% と比べれば大幅な改善です。さらに言えば、プリンシプル間の緊張がスケーラブルなシステム構築の新しいアプローチを生む契機にもなりました。このアプローチが後に AWS の基盤技術となります。

2. プリンシプルを現実に照らして検証する:機能するものは残し、しないものは捨てる

プリンシプルの効果を定期的に評価し、有用性に基づいて調整する姿勢が大切です。チームに対して、プリンシプルを使って意思決定の根拠を説明するよう求めましょう。特定のプリンシプルが繰り返し無視されるなら、組織の仕組みや行動がそのプリンシプルの妨げになっていないか検証すべきです。

Amazon のリーダーシッププリンシプルが進化する中で、リストの最後に私のお気に入りの 5 語が加わりました。「Unless you know better ones. (もっと良いものを知っているなら別だが)」

Amazon は賢く情熱的な人材を採用しています。曖昧な状況で判断を下さなければならない場面が数多くある。最善を尽くすとき、プリンシプル、データ、直感、そしてピアレビューを組み合わせて仮説を検証します。それでも間違った答え (あるいは概ね正しいがもっと良くできる答え) を出すこともある。プリンシプル自体にも同じことが言えます。

意味のあるプリンシプルを作る労力は報われます。組織全体で意思決定の質と速度が上がるからです。プリンシプルが具体的で、業務に組み込まれ、定期的に見直されていれば、壁の飾りから、文化を形成し成果を後押しする実用的な道具へと変わります。

聞こえの良いバリューを書くのはやめましょう。より良い選択を迫るプリンシプルを作るべきです。

以上が私の考えです。もっと良いものをご存知なら、ぜひ教えてください。

著者について

Stephen Brozovich

Stephen Brozovich

Amazon のテクノロジーおよび人事分野で 20 年以上の経験を持つ Executive in Residence。その知見を活かし、さまざまな業界の組織リーダーと対話を重ねています。テクノロジストとしてのキャリア初期に Amazon の数々の大きな変革を間近で経験し、現在のお客様が直面する課題への洞察を得ました。その後、人材と文化の領域に軸足を移し、Amazon Culture プログラムの責任者や AWS のタレントマネジメントを統括。企業文化、組織設計、変革推進といった分野での幅広い経験から、講演依頼の多いスピーカーです。