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株式会社 Berry 様の AWS 生成 AI 活用事例「Amazon Bedrockで医療機器のQMS業務を効率化」

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの古屋です。

近年、生成 AI 技術は急速な進化を遂げ、ビジネスや社会のあらゆる領域に変革をもたらしています。テキスト生成から画像作成、音声合成、コード開発支援まで、その応用範囲は日々拡大しており、多くの産業で業務効率化や新たな価値創造が実現されています。特に注目すべきは、専門性の高い領域や業界においても、生成 AI が人間の専門家を支援し、これまで解決が困難だった課題に新たなアプローチをもたらしている点です。

そのような中で、医療機器業界では、品質管理システム(QMS)の運用に関わる業務負担が大きく、人手不足が深刻な課題となっています。特に厳格な規制要件への対応や膨大な文書管理、品質イベント処理などは、多くの医療機器メーカーにとって大きな負担となっています。

今回は、この課題に着目し、AWS の生成 AI 技術である Amazon Bedrock を活用して革新的なソリューションを開発された 株式会社 Berry 様の事例をご紹介します。

Berry 様の状況と経緯

医療機器メーカーの株式会社 Berry 様は、自社での経験をもとに、品質管理業務を効率化するクラウド型 eQMS(電子品質管理システム)「QMSmart」を提供しています。QMSmart は、QMS 活動に必須とされる文書管理、品質イベント管理、教育訓練の機能を一気通貫で提供し、医療機器メーカーの品質管理業務を支援しています。

医療機器業界では、QMS 省令や ISO 13485 などの厳格な規制要件に準拠した品質管理が求められます。しかしながら、従来の QMS 運用では、以下の課題が存在していました。

・医療機器特有の規制要件や品質管理手法の習得に時間がかかり、新人教育が困難
・文書管理における不正確な情報や属人的な原因分析、進捗管理の不透明さ
・紙ベースの文書管理や Excel を使った進捗管理による業務の非効率性

これらの課題を解決するため、Berry 様は医療機器メーカーとしての経験に加え、様々なケースに対応できるよう 50 社以上の医療機器メーカーへヒアリングを行いながら AI 技術を活用したより付加価値の高い機能を開発しました。

しかし、AI 技術の導入にあたっては、いくつかの技術的な懸念がありました。医療機器という専門性の高い分野では、RAG(Retrieval-Augmented Generation)や基盤モデルのファインチューニングが必要ではないか、といった技術的ハードルを感じていらっしゃいました。また、医療機器業界の機密性の高い情報を AI で処理することへの安全性に対する懸念もありました。

このような状況の中で、Berry 様が AWS を選択された理由は次の通りです。まず、長期間にわたり AWS の各種サービスを活用してきた実績があり、その信頼性と安定性を評価されていました。既存の AWS 環境との親和性が高く、統一されたプラットフォームで開発・運用できることは、学習コストや運用コストの面で大きなメリットとなります。

また、AWS のサービスはデータ連携の親和性が高く、既存のデータベースやストレージサービスとの統合が容易です。さらに重要だったのが、セキュリティ面での信頼性です。Amazon Bedrock では、医療機器業界で求められる高いセキュリティレベルを満たしながら、安全に AI を活用できる環境を構築できます。特に Amazon Bedrock の Guardrails 機能により、プロンプトインジェクションなどの新たな攻撃手法に対しても、デフォルトの設定で十分な防御効果が得られることが後の検証で確認しました。

これらの要素が揃っていたことで、Berry 様は AWS 上で生成 AI を活用した QMS ソリューションの開発を進めることを決定しました。

ソリューション/構成内容

QMSmart の AI 機能は、インフラストラクチャの管理・運用負荷の少ないマネージドサービスで構成されています。システム構成は、QMSmart から Amazon Bedrock の基盤モデルを呼び出してレスポンスを受け取る形で実現されています。

QMSmart は、上述の課題に対し、Amazon Bedrock を活用して 3 つの AI 機能を実装しました。苦情発生から分析、CAPA(是正・予防措置)、改訂、教育まで一気通貫したプロセスの全てに AI サービスを組み込んでいます。

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・AI 文章チェック機能
QMS 省令、ISO 13485 などの規制要件に対する文書の適合性を自動で判定し、不足している項目や改善箇所を具体的に指摘します。経験の浅い担当者でも規制対応が可能になります。

・AI 根本原因分析支援機能
苦情報告や不適合事象が発生した際、AI によりユーザーがこれまでに登録した事例データベースから関連する事例を抽出し、パターン分析を行います。さらに「なぜなぜ分析」を支援することで根本原因まで効率的に深堀りします。実効性の高い是正措置・予防措置(CAPA)を提案し、品質問題の再発防止を実現します。

・AI テスト生成機能
FDA 通知などの任意の文書から理解度測定のためのテスト問題を自動生成します。英文の規制文書から日本語のテスト問題を生成することも可能で、教育資料の作成時間を半日から 15 分に短縮します。

これらの機能は全て Amazon Bedrock の高度な言語理解能力と、医療機器業界特有の知識を組み合わせることで実現しています。また、当初、Berry 様では医療機器という専門性の高い分野での AI 活用には、RAG やファインチューニングが必要だと考え、検証を進めていました。しかし、Amazon Bedrock での検証を通じて、InvokeModel 実行時のシステムプロンプトの工夫により、医療機器に関して的を絞った回答を生成できることを検証で確認したことから、現行の構成に至りました。

導入効果

Amazon Bedrock を導入することで以下の2つの効果が得られました。

Berry 様側の効果

医療機器の品質管理、製造管理に関する専門的視点を組み込んだプロンプトテンプレートを実装することで、効率的なリクエスト作成と高品質な回答の取得を実現しています。これにより、RAG を使った検証に約 1 か月を要していたところを、システムプロンプトの工夫に切り替えることで、以降の開発期間を約一週間に短縮できました。

QMSmart の導入によるBerry 様の顧客企業での効果

属人的だった QMS 業務の標準化と透明性が向上し、AI 支援による意思決定の質と一貫性が高まることで、規制対応の確実性と監査対応の容易さが実現されました。

・規制適合性の自動チェックにより業務効率を 50% 向上
・教育資料の作成時間を半日から 15 分に短縮
・AI による根本原因分析支援で迅速かつ的確な処置案を導出

なお、現存の AI 機能の他にも、Amazon Bedrock を活用した新機能の開発も進められており、今後もユーザーの利便性向上のために生成 AI の活用の加速が見込まれます。

お客様の声

株式会社 Berry 様からは、以下のようなコメントをいただいています。

「Amazon Bedrock を活用した AI 機能の導入により、これまで専門性が高すぎて AI では対応できないと思っていた医療機器の QMS 業務が、プロンプトエンジニアリングだけで実現できることがわかりました。特に Guardrails 機能により、医療機器業界で求められる高いセキュリティレベルを確保しながら、安心して AI を活用できるようになりました。複数のモデルを比較検証できることや、モデルの切り替え検証ができることの重要性を実感しています。変化に追随しやすいという点が、Amazon Bedrock の大きなメリットです。 開発者が体験している AI による恩恵を QMS 業務をしている人たちにも感じてもらえるようになり、業界全体の生産性向上に貢献できることを嬉しく思っています。今後は、このシステムをベースにさらなる機能拡張を計画しており、医療機器業界全体の品質管理業務の効率化に貢献していきます。」

まとめ

今回は AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock を活用し、医療機器業界の QMS 業務を効率化するBerry 様の取り組みについてご紹介しました。本事例は、生成 AI の高度な言語理解能力と専門知識を組み合わせることで、規制産業における複雑な業務プロセスを改善した例です。

「AI で医療機器メーカーの人手不足を解消し、安全で高品質な医療機器の開発・製造を支援する」というビジョンのもと、Berry 様は医療機器業界の品質管理に革新をもたらしています。QMSmart は、AWS の生成 AI 技術を活用することで、医療機器業界における QMS 業務の効率化と品質向上を同時に実現しています。

人手不足が深刻化する中、AI による業務支援は今後ますます重要になるでしょう。Berry 様の取り組みは、規制産業における生成 AI 活用の先進的な事例として、多くの企業に参考になるものと考えられます。Amazon Bedrock を利用した生成 AI の活用にご興味をお持ちのお客様は、ぜひ AWS までお問い合わせください

ソリューションアーキテクト 古屋 楓  
アカウントマネージャー  ク シイ