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株式会社マキタ様の AWS 生成 AI 事例「AWS 上の閉鎖型 AI 環境で労働災害報告書作成支援と経営ダッシュボードを内製開発。システム開発経験の少ないエンジニアが短期間でリリースを実現」のご紹介

本ブログは 株式会社 マキタ様Amazon Web Services Japan 合同会社 が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの森です。
最近、製造業のお客様における生成 AI を活用した業務効率化の取り組みが加速しています。特に内製開発による AI 活用は、企業独自の課題に対応した柔軟なソリューションを低コストで実現できる点で注目されています。今回は、船舶用ディーゼルエンジンの製造・販売・アフターサービスを手がける株式会社マキタ様が AWS を用いて経営ダッシュボードと労働災害報告書作成支援 AI を「短期間」かつ「システム開発経験の少ないエンジニア主導の開発体制」で内製した事例をご紹介します。

なお、本取り組みは、AWS ジャパンが 2025年7月15日に開催いたしました中堅・中小企業向け事業戦略説明会にて、株式会社マキタ 執行役員 情報企画部 部長 高山 百合子様よりご紹介いただきました。
なお、中堅・中小企業のお客様のビジネス成長や新たな価値創出に向けた、2025年度の新たな AWS の取り組み、生成 AI の事例の詳細については こちら をご参照ください。

株式会社マキタ様の状況と検証に至る経緯

株式会社マキタ様は、船舶用ディーゼルエンジンを製造する企業として、各種業務システムを AWS で運用しておりましたが、以下のような課題を抱えておりました。

  • 経営判断に必要なデータが社内の様々な部門に分散しており、迅速な意思決定を行う上でボトルネックとなることがあった。
  • 労働災害報告書の作成に多くの時間を要し、提出者ごとに記載および検討レベルにばらつきがある。また過去の類似事例や法令確認についても経験と知識が必要なため属人化しており、多面的な対策検討が不足しがちだった。

そこで Amazon QuickSight (* 現 Amazon Quick Suite) や Amazon Bedrock をはじめとしたマネージドサービスを活用して、これらの課題を解決するソリューションの検証をすることになりました。

生成 AI を活用して、以下2つのソリューションを情報システム部門にて内製開発しました。

(*) Amazon QuickSight は先日リリースされた Amazon Quick Suite の一部に統合されました。詳細は こちら をご覧ください。

ソリューションと構成

1. 経営ダッシュボード

本ソリューションは、クラウドストレージに取り込んだ情報ソース(就労、人材管理、会計データ)を基に、Amazon QuickSight を活用して可視化しています。

  • AWS Lambda を活用した各種 SaaS やオンプレ環境からのデータを効率よく収集・整形
  • AWS Glue DataBrew を活用した ETL 処理でデータを効率的に変換して Amazon S3 にて一元管理
  • Amazon QuickSight を活用してデータを取り込み経営ダッシュボードとして可視化

2.労働災害報告書作成支援 AI

本ソリューションでは、Amazon Bedrock を活用して労働災害報告書の作成・分析プロセスを効率化しました。

  • AWS で構築していた既存の AI チャット基盤(Dify)のアーキテクチャを踏襲し、労働災害報告書作成支援 AI を Amazon Bedrockと Python で構築
  • 製造業で一般的なリスクアセスメント手法に沿った網羅的な AI 提案により、原因分析と対策立案時に関係者の議論を支援
  • マルチエージェントコラボレーション機能により、使用目的に応じた柔軟に思考する AI を実現
  • RAG (Retrieval Augmented Generation) とデータベース(MCP : Model Context Protocol 経由での呼び出し)を使い分け、過去の災害情報や法令情報を効率的に検索・参照できる仕組みを実装

AWS のセキュアなネットワーク内で、機密性の高い労働災害情報や社内データを外部に漏らすリスクを排除しながら、AI を活用した業務効率化を実現しました。

導入効果

上記のソリューションをリリースした結果、以下のような効果が得られました。

1. 経営ダッシュボード

  • 統一された情報の見える化により各部門の自走的なデータ活用が促進
  • 7 つのダッシュボードで 231 の指標を可視化することに成功。更新頻度の上昇や視認性の向上、ドリルダウン機能の実装により、判断・意思決定スピードが向上
  • ダッシュボード構築によりデータの共有や運用が標準化され、集計や分析の属人化リスクを軽減

2. 労働災害報告書作成支援 AI

  • 過去事例を踏まえた多角的な分析により人間では見落としがちな災害要因を発見し、再発防止策の質が向上
  • AIによる網羅的な原因分析やリスクアセスメント提案による検討漏れ防止
  • 過去 15 年分の自社災害 DB を AI が検索分析し、従来活用が難しかった過去データの有効活用を実現

お客様の声(株式会社マキタ様)

AWS はスモールスタートが容易で仕組みの再利用ができるため、内製のハードルが下がり、短期間での実装実現につながりました。安定した AWS 基盤上で完結する、多機能な AI 開発環境を使えることが、AWS 上で AI を使うメリットです。AWS の豊富なサービスを活用することによって、システム開発経験者の少ない状況でも、7カ月で経営ダッシュボードを、1.5 カ月で報告書作成支援 AI を内製開発できました。これは、潤沢にエンジニアを抱えることができない中堅・中小企業にとって、非常に魅力的な要素だと感じています。

ダッシュボードも AI も、「蓄積されたデータを使い、人が判断したり、効率を上げたり、楽をしたりするためのツール」という意味でよく似ています。今後、より多くの社員が同時に利用したり、複雑な業務にも利用したいという要望が増えると考えています。実際、既に 200 近い AI とダッシュボード関連の活用案が、社内の全部門から寄せられています。それらの声に応えられるよう、私たちの部門で最新技術情報をキャッチしながら、更なるデータ活用と AI の高度利用を推進していきます。



まとめ

本事例は、製造業の企業が AWS の生成 AI サービスを活用することで、セキュリティを確保しつつ、業務効率化と安全対策の高度化を実現した好例です。株式会社マキタ様の内製化への積極的な姿勢と、AWS が提供する運用負荷の少ないマネージドサービス群が、経営ダッシュボードと労働災害報告書作成支援 AI の内製開発により、データ活用と業務プロセスの効率化を同時に達成しています。

製造業における生成 AI の活用は、業務効率化だけでなく、生産性の向上や労働環境の安全性向上など様々な面で効果を発揮します。本事例が、様々な業種のお客様の AI 活用の参考になれば幸いです。AWS での生成 AI 活用や内製開発の推進にご興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

株式会社マキタ (右から)
執行役員 情報企画部 部長 高山 百合子 様
情報企画部 宮﨑 凌大 様
情報企画部 佐藤 功併 様
情報企画部 岡 育美 様
経営企画部 谷 かすみ 様

株式会社マキタ : 執行役員 情報企画部 部長 高山 百合子様(中央)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 植木 輝(左)、ソリューションアーキテクト 森 瞭輔(右)

ソリューションアーキテクト 森