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三遠ネオフェニックス様の AWS 生成 AI 事例「Amazon Bedrock と Step Functions を活用したバスケットボール・スカウティングレポート自動生成システムの構築」のご紹介

本ブログは三遠ネオフェニックス様と Amazon Web Services Japan が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。バスケ大好き AWS ソリューションアーキテクトの鈴木です。

休日は推しのチーム(ニューヨークの NBA チームが好きです)の直近の負け試合を何度も見て、敗因の仮説を考えてはそれを裏付けるデータを探すことに奔走しています。最近のバスケットボールに関するデータは多種多様でとても興味深いです。単純な 2 点、3 点シュートの成功率に留まらず、どれだけ難しいシュートを決め切ったか、逆にどれだけ難しいシュートを打たせたか、などかなり多くの定量的指標が収集され試合の分析に役立っています。

しかし、多くの指標が取られれば取られるほど扱うデータ量が大きくなり、分析が複雑化してしまうこともまた事実です。私のような個人の趣味で扱っている人間でも大変だと感じるので、さらに多くのデータを扱っているプロのアナリストの皆さんはもっと苦労しているのではないでしょうか?

三遠ネオフェニックス様は、 AWS Step FunctionsAmazon Bedrock を組み合わせることで、膨大なデータから客観的かつ網羅的な分析を生成するシステムを構築されました。生成 AI が自動的に重要な指標を抽出してレポートを生成することで、新たな戦術的インサイトを発見できるようになりました。

お客様の状況と検証に至る経緯

三遠ネオフェニックス様は、B リーグに所属し、豊橋市をホームタウンに、三遠地域(東三河・遠州)をホームエリアに活動するプロバスケットボールクラブです。チームのアナリストは、対戦相手の分析や自チームのパフォーマンス評価のため、膨大な試合データを処理し、コーチ陣に向けたスカウティングレポートを作成する重要な役割を担っています。
しかし、以下のような課題に直面していました。

  • Bリーグ全体でのビッグデータ化への対応:Bリーグ発足から 10 年が経過する中で、シーズンごとに蓄積されるデータ量が年々増加すると同時に、取得できるデータの種類も拡張され、人力で全データを確認・解釈することが困難に
  • 分析の属人化:アナリストの経験や視点に依存する部分が大きく、重要な情報を見逃すリスク
  • 過密スケジュールでのレポート作成が困難:試合スケジュールが過密な中、毎回の詳細なレポート提供が大きな負担に

そこで、AWS Step Functions と Amazon Bedrock を中心としたサーバーレスアーキテクチャを採用し、AI を用いて分析からスカウティングレポート作成までを自動化する仕組みを開発しました。

お客様が開発された生成 AI を活用した AI Analyst 機能

三遠ネオフェニックス様が開発された AI Analyst 機能の全体像は以下の画像が示すようになっています。まず、Synergy Sports Technology 社の提供するバスケットボール専用の分析ツール「 Synergy 」からスタッツデータをAPIで取得します。そのデータを三遠ネオフェニックス様のローカル環境の機械学習プログラムで処理し、AWS 上で構成されたサーバーレスアーキテクチャで分析、レポート作成を行い、その出力結果を Slack に通知する仕組みを構築されています。図1. AI アナリスト機能の全体図

AWS Step Functions での処理は、図1 が示すとおり、3 つのステップで構成されています。

  • ステップ 1 :主要な分析切り口の抽出
    • このステップではローカル環境の機械学習プログラムから出力されたスタッツごとの重要度のデータを Amazon S3 に配置し、その後 Step Functions から Amazon Bedrock を呼び出して、分析の切り口を 3 つ抽出しています。スタッツごとの重要度のデータは対戦相手ごとに動的に変わるため、アナリストごとの分析の属人化がなく客観的に分析の切り口を選定できることが工夫点となっています。
  • ステップ 2 :各切り口で生成AIを活用した深掘り分析
    • このステップではステップ 1 で作成した切り口を元に、3 つの切り口での深掘り分析を Amazon Bedrock を用いて行っています。各切り口ではその切り口に関連する詳細なスタッツデータを Amazon S3 から取得し、そのデータを元に Amazon Bedrock で深掘り分析を行っています。このように3つの切り口に分けることで、まとめて分析するのに比べて、切り口ごとに扱うデータ量が絞られ、回答精度の向上を図っています。
  • ステップ 3 :生成 AI を活用した各分析のサマリ生成
    • 最後のステップではステップ 2 までの深掘り分析結果をまとめてサマリを生成します。サマリには Amazon Bedrock を活用しており、各切り口の分析結果をわかりやすい形式でまとめています。レポートには分析の根拠となるような定量的な数値も示すことで、データに基づいた報告を実現しています。生成されたレポートは、 AWS Lambda を用いて Slack にレポートとして送信されます。

Slack に通知されるレポートの例が図 2 のようになっています。
レポート内では次の対戦相手に対しての主要なプラン、その分析の根拠、主要なプレイタイプなどを定量的な数値と共にレポートしています。このレポートによって対戦相手の分析を行うことができ、次戦のチーム戦略立案に役立っています。図 2. 図2.Slackに通知されるレポートの例

導入効果

AI Analyst 機能を導入した結果、以下の効果が得られました。

  • 膨大なデータ全体の活用:生成 AI の活用により、人間では扱うのが難しい幅広いデータを元にした分析が可能に
  • AI による属人化の脱却: AI が機械学習の結果から 3 つの重要な指標を抽出し、それを元にレポートを作成するために分析の観点の属人化から脱却し、客観的な分析が可能に
  • 新たな気づきとアイデアの創出:新たな観点やアイデアを提示してくれるため、まるでもう一人のアナリストがそばにいて、新しい発見をもたらしてくれるような価値を実感できた
  • 機械学習結果の即時解釈が可能に:生成 AI が機械学習の結果を自動で要約・深掘りすることで、人では難しかった複雑な結果の理解が容易になり、実務レベルで活用できるようになった

従来までのスポーツアナリティクスは、アナリストの経験や独自のフレームワークに基づく分析が中心であり、扱えるデータ量や観点に限界がありました。 これに対して今回のシステムは、生成 AI を用いて膨大なデータを高速かつ客観的に分析し、レポート作成までを自動化できる点 で非常に特徴的な取り組みとなっています。 さらに、生成 AI を活用することで、これまで難しかった機械学習結果の解釈が実務レベルで可能となり、プロスポーツの現場における生成 AI の実用性を明確に示すことができました。

まとめ

今回は、三遠ネオフェニックス様が開発されたAI Analyst 機能をご紹介いたしました。本検証を通じて、お客様から以下のコメントを頂いております。今後は、プロンプトの更なる最適化、他のデータソースとの連携、機械学習モデルの精度向上など、継続的な改善を予定されています。また、今シーズンの成果を踏まえ、より高度な分析機能の追加も検討されています。
本事例は、データ量の増大に悩むスポーツチームだけでなく、大量のデータからインサイトを抽出する必要がある様々な業界の皆様にとって、参考になるのではないでしょうか。AWS の生成 AI サービスを活用した業務効率化にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。三遠ネオフェニックス:代表取締役社長 岡村 秀一郎様(右から 2 番目)、ゼネラルマネージャー 北郷 謙二郎様(右端)、ビデオアナリスト 木村 和希様(中央)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 木下 美智子(左から 2 番目)、ソリューションアーキテクト 山澤 良介(左端)

著者について