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Innovation Week Day 3 実施報告:[リレートーク] ニューノーマル時代の顧客視点の再考 ~これからの消費者像と向き合うには? ~

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 デジタルトランスフォーメーションアーキテクトの國田です。2021 年 6 月 21 日 (月) 〜 30 日 (水) にAWSはInnovation Weekを実施し、Day3では、「ニューノーマル時代の顧客視点の再考 – 企業成長に向けてのテクノロジー活用」というテーマで、流通小売・消費財業界の変革をリードするゲストスピーカーにご講演をいただきました。

本ブログでは、特に「ニューノーマル時代の顧客視点の再考 – 企業成長に向けてのテクノロジー活用」というテーマのリレートークでご講演いただきました、株式会社セブン&アイ・ホールディングス様と株式会社パルコ様でのAWSの活用事例についてご紹介します。

「顧客軸で考える」企業文化を創出する

伏見 一茂 氏
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
デジタルマーケティング部 シニアオフィサー

セブン&アイグループは、国内外のコンビニエンスストア事業、スーパーストア事業、百貨店事業、金融関連事業、専門店事業、その他の事業などを展開しています。多業態、多店舗というさまざまな業態を持つグループをひとつのIDでつないで、お客さまによりよいサービスを提供するという取り組みについてご紹介いただきました。

今回ご紹介していただいた7iDは、リアル店舗とオンラインの購買情報、それにお客様の個人情報を、ひとつの顧客IDで管理するというサービスです。お客様は7iDというひとつの鍵でグループの様々なサービスをご利用いただける仕組みになっています。
セブン&アイグループも、もともとはグループ各社で顧客と購買の情報を管理していました。そのため、顧客の情報と購買の情報を一元管理して、よりお客様のサービスに活用していくことを挑戦に掲げました。2018年にサービスをリリースして以降、順次サービスを拡大しています。

その膨大なデータを支えているのがAWSの仕組みです。膨大な顧客情報の蓄積と、それを分析し活用することに、安定性があり拡張性もあるAWSの仕組みを活用されています。

その具体例としてご紹介いただいたのが、7iDをコロナ禍において活用し、変化に対応した事例です。2020年の既存店の売上の推移を見ると、セブン‐イレブンの客単価は継続して伸びている一方で、客数については苦戦をしているという状況でした。それは、お客さまの買い物の仕方が変わったことをあらわしていました。すなわち、小商圏化して、ひとつのお店で商品をまとめて購入するようになったという変化が見てとれました。

7iD~コロナ禍での活用例①「顧客軸」でとらえる

コロナになり、買い物のされ方、買われる商品の中身が変わったことが分かりました。ここで、7iDを活用して「顧客軸」でこの変化を捉えると、テレワークになったと推定できる集団を特定することができたとのことです。そして、この集団のお買い物の変化を「商品軸」で分析して、売場の展開や陳列の変更などの形で実際の現場に活用していくという流れを実施されました。今まで「商品軸」だけだったのが、「顧客軸」でとらえ、「時間軸」というお客様の変化をとらえ、どのように移動し、どこで買い物をするようになったのかという「空間軸」で重奏的に分析することで、データから気づきを得ることができた例となります。

7iD~コロナ禍での活用例② テレワーカー

次に、テレワーカーを推定した例をご紹介いただきました。複数店舗をご利用のお客様で、メインで使用していた店舗に変化があったお客様をテレワーカーと特定し、その買い物の中身を見ると、買い物が増えた商品群は、例えば、デザートや缶ビール、お惣菜など自宅で食べられる物だったそうです。一方で、セブンカフェや、カップ飲料やホットドリンクなど、どちらかというとオフィスで消費する需要が高いものは下がったとのことです。7iDのデータを活用することで、このような変化、気づきを得られたので、お店の売り場展開や、お店に情報を流して品揃えや在庫を変えているという取り組みをされています。

7iD~活用例③事業会社間の相互送客

7iDはもともとの思想は、グループでIDを一元管理することで、いろいろなお客様を相互送客することでした。しかし、例えばそごう・西武とセブン‐イレブンは客層が違うので相互送客できないのではないかという声がよく聞かれたとのことです。
これを実証した例として、そごう・西武でお買い物をすると、セブン‐イレブンで「セブンプレミアム ゴールド 金の食パン」の無料券がもらえるというキャンペーンを行ったところ、そごう・西武に新たなお客様の流入があった事例をご紹介いただきました。実際、このキャンペーンを打った瞬間に、デジタルもリアルも接点が急に増えてきたとのことです。
このキャンペーンの前には分析を行っていて、そごう・西武とセブン‐イレブンを併用するお客様の特徴は何かを分析したところ、比較的高級志向、健康志向であることが分かっていたとのことです。そのため、セブン-イレブンでもらえるクーポンは「セブンプレミアム ゴールド 金の食パン」と決定することができ、非常に効果があったとのことです。
他にも、セブン‐イレブンのお客さんとイトーヨーカドーのお客さん、デニーズ、アカチャンホンポのお客さんとそごう・西武やイトーヨーカドーのお客さんなど、様々な取り組みも進められています。

最後に、「DXはデータとデジタルを使って、業務そのものや組織、プロセス、企業文化、風土を改革することであり、単にデジタイゼーション、デジタルツールを導入することではない」という言葉が印象的でした。
そして、以下のような変革を振り返っていただきました。

  • 7iDを使うことで、商品軸だけではなく、顧客軸の視点を持つという文化が変わった。
  • 勘と経験と度胸ではなく、データを起点にして、仮説をもとに行動することができた。
  • 7iDというパスができたことで、事業会社間で相互送客して協力し合う文化が醸成されてきた。
  • それを支える人材の教育、採用、組織改革も合わせて進んできた。

このような具体的な成果は、7iDで当事者としてDXに取り組まれたからこそ得られたものであり、説得力と示唆に富むご講演だと感じられました。

質問:
7iDをグループ内で活用促進するためのコミュニケーションなどソフト面での工夫は?
回答:
データ起点の考え方というのはわかりにくいところでもある。
各事業会社とのコミュニケーションの場を設け、データを活用するメリットがあるという分かりやすいデータの見せ方を工夫した。また、相互にメリットがあるということを、事業会社側が納得できるよう、対話を一歩一歩進めた。まさに文化を変えるというところを努力した。

質問:
AWSに対する期待は?
回答:
お客さまと接すると変化が激しいので、いろいろ手を変え、アプローチを迅速にスピードをもってやってアプローチしていきたい。われわれの期待のその先を行くようなソリューションを提案して欲しい。

ニューノーマル時代の顧客視点の再考~これからの消費者像と向き合うには?~

林 直孝 氏
株式会社パルコ
執行役員(CRM推進部 兼 デジタル推進部担当)

続いて、全国でショッピングセンターを運営するパルコの林様より、ニューノーマル時代にショッピングセンターが届ける変わらない価値と、お客様のニーズに合わせて変わる対応についてお話しいただきました。

まず、変わらないショッピングセンターの役割は、ブランドの認知と体験の場所であるテナントのショップを、お客様にたくさん体験していただくことで相乗効果を創ることであると説明していただきました。
すなわち、個々の出店ブランドとお客様の強い絆を作り、「ショップや商品・サービスの素敵な出会いをいかに増やせるか」がショッピングセンターの役割であり変わらぬ価値提供とのことです。
それを実現するために、7年前から「24時間PARCO」というコンセプトのもとに、リアルの店頭だけでなく、オンライン上でもショップスタッフの皆様が接客できるサービスを提供してきました。そして、その多くはAWS上で動いているとのことです。

このように変わらぬ価値を提供されてきたパルコですが、コロナの影響を受けて、入館客数とビルの中に滞在する平均館内滞留時間に変化があったとのことです。1回目の緊急事態宣言から約2ヶ月間、休業を余儀なくされただけでなく、営業を再開した後も、入館客数とビルの中に滞在される時間が減少し、2回目、3回目の緊急事態宣言でさらに影響を受けているとのことでした。

そのようなお客様の行動の変化を受け、With コロナの時代にショッピングセンターがとらなければいけない対応として挙げられたのが、以下になります。
①変わらない価値:今欲しいと思ってもらえる商品・コンテンツの提供
国内だけでなく、世界的にコロナの影響を受けているので、グローバルで欲しいと思ってもらえる商品を提案し続けること。特にグローバルの中でのローカル、希少性、唯一無二性という価値を出すことが重要になりました。
②お客様ニーズへの変化対応
店舗にいらっしゃることが制限されているので、店頭では短時間で欲しい商品が確実に手に入るサービスが求められるようになったとのことです。
例えば事前に予約をして店頭で受け取れることや、どの店に在庫があるかが事前にわかっている状況で来店することや、在庫がなくてもオンラインで注文して明日には自宅に届いていることが求められました。
また、直接的に販売員との接触がなくても、ほしい商品が確実に手に入るサービスの需要が高まり、ブログ、SNS、オンラインミーティング、VR/AR等を使って、遠隔から価値提供をするサービスが求められ、対応を急がないといけない状況でした。

続いて、そのような状況のもと始めたサービスをご紹介いただきました。

①PARCO ONLINE STORE

すでに「24時間PARCO」のかけ声のもとオンラインチャネルを持っていましたが、ビルが休館している中で、商品やビルが提供する価値を止めずに発信し続けられることが求められていました。特にグローバル、海外のお客様が日本に来られない状況の中で、パルコの商品が欲しいというニーズに応えるために、PARCO ONLINE STOREでは、休館を余儀なくされてからすぐに海外からのご注文にも対応できるサービスを導入しました。
30ヶ国以上の国と地域からご注文をいただいたとのことで、購入に至らなくてもそれ以上の国と地域の人たちにオンラインストア上で商品に触れていただいていたことを実感できたとのことです。

②LIVEコマース

オンライン接客の中で非常に活用されたのがLIVEコマースです。店頭から遠隔のお客様に対して商品をご説明し、質問に対する回答ができる接客手法として普及しました。広くテナントの皆様に使っていただけるように、仕組みと撮影はパルコが受け持ち、テナント側では店頭での接客に集中していただくという企画を「PARCOオンライン商店街」という名のもと提供されました。

③クラウドファンディング「BOOSTER」での販売支援

物販はオンラインで活性化したものの、飲食店はオンラインストアで提供できないため、パルコと株式会社CAMPFIREが共同運営するクラウドファンディング「BOOSTER」による販売支援を実施されました。

④PARCO MUSEUM ONLINE GALLERY

エンタテインメントのコンテンツも、遠隔で提供されました。ご自宅にいながら、オンラインを使ってパソコンやスマートフォンで会場の模様を3D Viewのリアルな映像でお楽しみいただける施策をスタートされました。お客様はあたかもその場に行ったかのような感覚でお楽しみいただけるとのことです。

ブランドと顧客の接点を創るという変わらぬ価値、また、時代に先駆けて取り組んでいたオンラインの仕組みがあったからこそ、急激な環境とお客様の行動の変化に対応できていたことがわかるご講演でした。

質問:
コロナ禍において、テクノロジーの可能性をどのように感じられていたのか?
回答:
一言で言うと、「テックタッチ」を意識させられた1年間だった。すなわちテクノロジーでお客様との接点をいかに作るかを考えた。ご紹介した例のように、もともとパルコは来店したときだけでなく、その前後の体験をオンライン上で構築していたが、この1年はさらにサービスの幅が広がったし、求められるお客様が増えてきている印象だ。

質問:
小売りビジネスにおいて、テクノロジーが果たす役割はどのように変わっていくか?
回答:
今現在までは、スマートフォンを意識してサービス構築をしてきた。アフターコロナでは、お客様が安心してビルに来ていただけるようになるときを見据えて、進化させないといけない。そのような状況を想定して、スマートグラスに注目している。ビルの中での体験が、視覚的にも聴覚的にも拡張される可能性がある。いち早くチャレンジしているので、今後デバイスが普及した時には、スマートグラスを通じてビルの中での体験を拡張していただきたい。

質問:
AWSに対する期待は?
回答:
たくさんあるAWSのサービスの情報を提供してもらうことで、そのサービスを使って変わらぬ価値を提供していきたい。テクノロジーの中で、特に活用を期待しているのはAIである。すでにAWSのサービスにAIが組み込まれているが、より使いやすく進化した形で提供してもらえると、顧客接点に活用できる。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回のセミナーに参加されなかった方にも、セミナーでAWSがどのようなことをお話しさせて頂いたかがお伝えできていれば幸いです。今後もこのようなセミナーを企画し、皆様に様々な情報をお届けしたいと思っています。次回もぜひご期待ください。

また、リテールセミナーシリーズの開催報告は、以下のリンクからご覧いただけます。

第1回 リテールセミナーシリーズ 2020年7月7日 [Blog]
第2回 リテールセミナーシリーズ 2020年8月24日 [Blog]
第3回 リテールセミナーシリーズ 2020年10月28日 [Blog]
第4回 リテールセミナーシリーズ 2021年4月15日 [Blog]