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【開催報告】AWS リテールセミナーシリーズ #2 ~ニューノーマル時代の小売業、DXへの取り組み~

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 デジタルトランスフォーメーションアーキテクトの國田です。2020年8月24日にAWSはリテールビジネスにおけるオンラインセミナー「AWS リテールセミナーシリーズ」の第二回を開催いたしました。本Blogでは、今回のテーマである「ニューノーマル時代の小売業、DXへの取り組み」について、セミナーの配信会場の様子を含めながらレポートしたいと思います。

AWSではこれまで、「Born from Retail, Built for Retailers」というメッセージを掲げ、Amazon での経験をもとにした様々なソリューションを小売業のお客様にご提案してきました。しかし、世の中がかつてない変容を遂げようとしている中、小売業のお客様においても、消費者の新たな購買行動に対応していくために変革を行っていくことが喫緊の課題となっています。そのようなお客様に対し、AWSが持つ知見や技術を広くお伝えするために、このセミナーシリーズが企画されました。
8月24日の第二回では、筑波大学の立本博文氏を迎え、ニューノーマル時代の流通DXに関する提言からスタートしました。そして、この度基幹システムのクラウド移行を完了されたミニストップ株式会社の齊藤様、吉田様に登壇いただき、移行プロジェクトのご経験に加え内製化の推進と今後の展開についてご講演をいただきました。AWSからは海外などの動向に加え、リテールテクノロジーソリューションの概要をご紹介しました。ここから、簡単にではありますが、それぞれのセッションの内容ついて振り返っていきたいと思います。

有識者講演「産業がかわる、流通DX」

講師:筑波大学 ビジネスサイエンス系 教授 博士(経済学) 立本博文 氏

Prof. Hirofumi Tatsumoto

複数の経済専門誌に連載を持つ立本先生から、3つの切り口で流通・小売業界が置かれている状況の分析と、その対処法についてお話しいただきました。

まず、株価のボラティリティ(不確実性)を指標としたデータから、2020年4月の時点でもリーマンよりも大きく、バブルよりも小さい程度の影響があることを示していただきました。IMFによる予測によると、日本がいる先進国では、2年間くらいかけてようやく2019年の経済水準に戻るとされているとのことです。そして、経済的な影響は一過性でやり過ごせる話ではないことを強調されていました。
また、リーマンショックの時とは異なり、業界によって受ける影響が違うのが特徴とのことです。クレジットカード分析によると、百貨店、居酒屋、運輸、遊園地は厳しい一方で、食品スーパーやコンビニは堅調というデータさらに、米国censusの発表を引用し、コロナ禍で多くの小売りは厳しい一方で、食品スーパーとネットECは堅調であることを紹介されました。
続いて、今回の動静を時系列で見たときに、①マスクパニック(1/16-2/5) ②災害備蓄 ③巣ごもり・在宅ワーク ④自粛長期化・自粛連休 という消費行動の変化があり、食品スーパーにおける客数推移もデータに見てとられることを紹介されました。また、フェーズごとに動く商品が変わり、需要増減のパターンも様々であるとのことです。例えば同じ食品でも、お米だといったん増えると落ち着くのに対し、食パンはバリエーションを求める動きはそのまま続き、定着するだろうと予想されているそうです。また、需要増減の地域差は大きく、在宅ワークの普及度合いに影響を受けることをご紹介されました。
このように、小売業は半年だけでも大きな変化があり、小売業がその変化に対応する必要があることを強調されていました。

次に、その対処の方法について、ご提言いただきました。完璧な手立てはないものの、大きい方針のひとつは、小売りとメーカーの間でデータを共有することでチャンスロスをなしたり、効率的なデリバリー、生産を行うというものです。これは現状でも行われているものの、最適化の範囲が狭いため、効果が薄いとのことで、本来は、バックヤードだけでなく、倉庫や工場に広げていく必要があることを述べられました。そして、この話はコロナの前から求められていたことで、DXそのものの課題であり、DXはバリューチェーンを最適化するということであることを指摘されました。この傾向は続くので、デジタル技術を使ってバリューチェーンを最適化すること、それも狭い範囲でなく、小売りとメーカーを跨いで広い範囲で最適化する必要があるとのことです。厚生労働省が2020年5月4日に発表した資料では、政府としてもDXを後押しすることを表明していることからも、一過性でやり過ごせると考えるのではなく、正面から対処する必要があることを強調されました。

最後に、1.この半年で1990年代に確立した小売業の業態が大きく変わるということ。それがこの2年間で大きく変化するであろうこと。2.時代遅れになりつつあった仕組みが明確に分かったというのがこの半年であり、デジタル技術を使ってバリューチェーンを強化する必要があること。3.消費者心理・働く人の心理が変化するため、デジタル技術を使って新しい行動様式に対応する必要があること。のようにご講演を振り返った上で、今回顕在化した課題は、この30年間、もとからやならくてはならなかったことであり、タイムラインがはっきり示されたのがこの半年というメッセージで締めくっていただきました。

「小売業界でのAWS」

講師: AWS インダストリー事業開発部 プリンシパル 流通サービス 太田和俊

AWS Kazutoshi Ohta

AWSで流通小売業の事業開発を担当する太田和俊より、まずはAmazonの売上げに占める出店者様の割合が、自社仕入・販売よりも大きな成長を遂げ、出店者様が年間52%成長に対して、自社仕入・販売 が年間25%となっていること、その結果、出店者様の売上がAmazon上の売上の過半数になっていることをご紹介しました。この根本には、お客さまのために、自社で開発したテクノロジー、ビジネスを出店者様と共有することで出店者をサポートするという考え方があります。
AWSも同様に、Amazonで培ったITシステムをご利用できる形で提供しています。これは”Born from Retail, Built for Retailers”というメッセージに集約されていて、Amazonが20年間試行錯誤の経験を、小売業の皆様にAWSのサービスという形で共有していることを紹介しました。例えばレジ無し店舗のJust Walk OutやAmazon Echoといったイノベーションは、AWSを使うことでフリクションレス、モダナイゼーションという観点から小売業のオペレーションに活かしていただくことができます。そのためにいちばん大切なのは、カスタマーエンゲージメント、お客さまへの対応をいかによくしていくかということです。
流通・小売業の皆様がクラウドに移行するためには、レガシーなシステムからの移行が必要になり、それが容易でないと思われるかもしれません。しかし、レガシーなシステムをクラウドに移行すると、平均で30%-50%はコストが下がるので、そのぶんを新しいチャレンジに活用することができることをお話ししました。

次に、世界中で1000社以上の小売業の皆様がAWSをご利用いただいていることをご紹介しました。アメリカ、イギリス、カナダのネットスーパー、総合スーパー、ECでトップレベルの小売業様でご利用実績があります。このようにアマゾンと同業種のみなさまがAWSの技術を活用していることをご紹介し、「小売りでこそ、AWS」というメッセージをお伝えしました。

続いて、日本の先進的な事例として、ZOZOテクノロジーズ様の機械学習の事例、J.FRONT RETAILING様の顧客体験基盤の事例、キタムラ様の画像認識の事例、大創産業様のデータ分析基盤、AOKIホールディングス様のコンタクトセンター、ニチレイロジグループ様の冷蔵物流、ファミリーマート様の決済機能付きアプリの事例をご紹介させていただきました。
これらの事例は、AWSの事例紹介ページでもご覧になることができます。

お客様事例講演「基幹システムのクラウド移行、内製化の推進と今後」

講師:ミニストップ株式会社 FCサポート本部

Ministop_SaitoTakahisa  

本部システム部 部長 齊藤貴久氏(左)、店舗システム部 吉田周平氏(右)

まずは齊藤様より、基幹システムのクラウド移行についてのご講演をいただきました。
国内2000店舗、世界で5000店舗以上でコンビニエンスストア事業を展開しているミニストップ様は、昨年度、基幹システムを旧来型のシステムからクラウドに移行されました。フランチャイズ事業のビジネスパートナーである加盟店オーナー様に対し、24時間、365日途切れることなくサービスを継続する必要があり、ミスが許されないというのが特徴でした。また、「コンビニエンス+ファストフード=コンボストア」という店舗コンセプトでイートインコーナーを設けてコーヒーやソフトクリームを提供し、集客と販売を行われています。こういった店舗をどのように運営していくのか?がIT部門の腕の見せ所でした。

基幹システム導入により、店舗の運営をサポートできるシステム、例えばコンビニエンスストアとファストフードは会計手段や棚卸し手段が異なりますが、販売分析のための集計を基幹システムで担っています。ホストコンピュータの時代にはそのような対応が難しかったため、サブシステムを作っていましたが、基幹システムを刷新したことで統合して、順次改変していく計画とのことです。

基幹システムをAWSにしたきっかけとしては、コンビニエンスストアだけではミニストップの企業価値を訴求できないのではないかという課題感があったとのことです。その挑戦の一例として、まずソフトクリーム専門店MINI SOF(ミニソフ)をご紹介いただきました。ミニストップで売っているソフトクリームにアレンジを加えてさまざまな形で提供されています。そのような店舗でどのように運営コストを下げていくかということや、ミニストップとMINI SOFという屋号の異なる店舗を、どのように集中して会計処理をするかというのがポイントとなり、AWSの機能を活用されているとのことです。もうひとつの新たな挑戦として、365table という進化系のコンビニでは、すべてセルフレジの店舗を展開されています。冷凍食品を大量に扱っているのも特徴で、簡便・時短という消費者ニーズにマッチしたお店を作ろうと実験を進められています。様々な実験を進められていますが、冷凍食品など様々な物流の取引先様とどのようにつないでいくか、これまでの仕組みで対応できないことを新たな基幹システムで取り組んでいるとのことです。

そのようなミニストップ様の基幹システムは、店舗からの受発注、予約販売、電子マネー、各種マスタ、店舗会計等を処理する中核システムであり、すべての情報を集約し、そこから様々なサブシステムにつながっていきます。そのため、なかなか切り替えが難しく、長年旧来の仕組みを使っていましたが、新しい業態にチャレンジしようとすると制約があり、業態の成長にも影響があることから思いきって移行されました。24時間365日稼働しているシステムなので、マスタデータの整合性など切り替えにはご苦労されたとのことですが、前に進むという強い意志で推進されたとのことです。500機能以上、200万ステップ程度を丁寧に、かつ短期間で1年で移行されました。まだやりたいこともあり、AWSの力を借りて拡張してもっと便利なものを追究していきたいとのメッセージをいただきました。そして、AWSを選定した理由として、「将来的なコストメリット」「世界的なシェア、先行導入システムでの実績」「先行導入システムでの実績」を挙げていただきました。

基幹システムの構成としては、365日24時間での運用のために、マルチAZでの構成をとられています。2019年5月の導入段階から拡張を考慮し、導入時のサーバからスケールアウトを検討していることをご紹介していただきました。開発ベンダー様と検討を始めているとのことで、マスターシステムに留まらず、それを用いた様々なサブシステムと連携するのは、オンプレでは容易に実現できないことであり、これこそが「THE AWS活用」という内容であり、AWSの支援が役立っているとのメッセージをいただきました。

最後に、制約や置かれた環境下でシステム開発を推進する中でも、自由度を持って創造していくことが重要なファクターであるという考え方を改めて強調されました。そして、お客さまにミニストップ様のビジョンである「もっと便利、もっと健康、もっと感動」をお届けするためにDXを推進していく必要があり、そのための乗り物としてAWSが最適であり、さらに活用をしていくというメッセージをいただきました。

続いて、吉田様より内製化の取り組みを紹介いただきました。取り組みをするにあたっては、「なんでも作ります」というメッセージを各部署に対して宣言しているとのことです。システムを使う人がどれだけ使いやすいのか、活用しやすいのか、というのがシステムを構築する上でのポイントであり、社内に約束をされて取り組まれています。
内製化に踏み切ろうとしたきっかけは、パッケージやSaaSのアプリを使うこともあったものの、事業のニーズを100%満たすものはなく、カスタマイズをすると多額の費用がかかることが悩みだったとのことです。IT部門はトータルで20名という必ずしも大規模な体制ではなく、プログラミング人材は不足する中で、どうニーズに応えるかが課題だったとのことです。
自社内でできることと外部パートナーでできることを分ける上で、まずパートナー企業の選定から始められました。選定にあたっての条件は、ダイレクトコミュニケーションが可能なこと、開発リソースの柔軟性、低コスト・ハイパフォーマンスという3つがポイントだったとのことです。社員の役割とITベンダーとの役割を明確に分け、社員の役割としては、オーナー部門からの要望を要件定義するところに重きを置いているとご紹介いただきました。

  

次に、店舗のアプリやPCシステム、POSシステムなど、豊富な内製化の事例をご紹介いただきました。また、今後もパッケージやSaaSでは実現できないことを、内製で「かゆいところに手が届く」システムとして構築していき、低コストで使いやすいものとして構築していくとのことです。
最後に、AWSを利用できるからこそ内製化ができるとのメッセージをいただきました。オンプレだと開発期間が圧倒的に長くなるところを、内製化によりシステム開発費用が約1/2以上に減少し、システム開発期間が1/2以上に短縮したとのことです。そして、社内リソースの効率が5倍以上となっていて、今後も内製化を継続していくとの意思をお聞きしました。

 

「AWSの提案、ニューノーマル時代のリテールソリューション」

講師:エンタープライズソリューション本部 流通・サービスソリューション部 部長 五十嵐建平

レガシーマイグレーションをベースとしたデジタルトランスフォーメーションの話として、ニューノーマル時代におけるお客さまの行動様式の変化に対応する3つの切り口を紹介しました。

まず、オンラインと店舗の融合という切り口で、ECサイトをやむを得ず利用するのではなく、両者のよさを活かして、よりよい顧客体験を提供できるという考え方を示しました。例えば、ECサイトと実店舗を連携することで、カリスマ店員によるインフルエンス、ライブコマースのスタジオとしての店舗、お客さまデータを取得してECサイトで活用するといったことが可能になります。具体的には、Amazon Chime SDKやInteractive Video ServiceといったAWSの映像コミュニケーションサービスを用いることで、双方向での映像コミュニケーションができます。また、音声をテキスト化するAmazon Transcribe、テキストから感情情報を抽出するAmazon Comphendを用いたり、Amazon Rekognitionでお客さまの表情情報を得るなど、オンラインの店舗では実現できなかったことが可能になることを紹介しました。

次に、空いている店舗/時間帯に行きたいというお客さまのニーズに応えるという切り口から、POSデータを活用した混雑予想や、リコメンデーションにより短時間で欲しいものを見つけることのできる活用例をご紹介しました。POSの時系列データをもとに需要予測するためのサービスとしてAmazon Forecastを用いると、機械学習のエンジニアがいなくてもAPIにより実現できます。また、オンラインでは当たり前になっているサービスや商品を効率的にお薦めするリコメンデーションの仕組みを実店舗でも提供する仕組みとして、Amazonで培った技術をAmazon Personalizeで簡便に利用できることを紹介しました。

できれば人に会わずに短く買い物をしたいというニーズに対しては、Grab & Goを実現するAWSのソリューション、SmartCoolerをご紹介しました。SmartCoolerは自動無人販売冷蔵庫のキットで、冷蔵庫の制御、商品の物体認識などIoT/機械学習を組み合わせて実現をし、決済はAmazon Payで実現できます。このようなシステムをお客さま自身の手で構築できるように、日本語のレシピを公開して、手順書、部品表、サンプルコード、Cloud Formationのテンプレートがご利用できるようになっています。レシピに沿って数日で構築できるため、お客さま環境に合ったカスタマイズをご自身で行うことができます。

関連記事:レジなし無人販売冷蔵庫を構築できる、This is my Smart Cooler プログラムを公開しました
レジ無し無人販売冷蔵庫 構築レシピ

Q&A

Q1) DX待ったなしなのは分かりましたが、最初に何をすべきでしょうか?
A1) 組織文化に依存しているため、一概に最初の一手に答えるのは難しいです。統計、数字を活用する文化があり、管理をしている組織であれば、それをデジタルに置き換えることになるし、文化がない場合は、組織や、組織を作るための組織を作る必要があります。別の切り口として、ミクロな(小さな)個別のシステムから始めるべきなのか、マクロな(大きな)基幹システムから進めるべきかもあるが、これもまた組織文化、戦略に大きく依存します。いずれにしても、企業の戦略が明確化できるか、組織内でペインポイントを共有できるかが重要であり、大変であり時間もかかるものの、必ず必要な要素になると考えます。

Q2) このような状況で、AWSでできる支援には何がありますか?
A2)  AWSは小売業のバックボーンがあるので、システムを柔軟性などクラウドの特徴を活かしたご支援を、パートナー企業やお客さまと一緒に悩みながら進めさせていただきたいです。

Q3) このような状況で、小売業はどのようなデータに注目しますか?
A3) よくある質問ですが、考えるべきはデータではありません。まずはお客さまのベネフィットから始めて考えていくと、不可避的に必要なデータ、測定ポイントが分かってきます。90年代だとできなかったことが今ならできるということが分かるので、そこからやっていくことになります。データがあるから活用するのではなく、お客さまのペインポイント、ユーティリティをどう上げるのかというところから考えていくべきと考えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回のセミナーに参加されなかった方にも、セミナーでAWSがどのようなことをお話しさせて頂いたかがお伝えできていれば幸いです。冒頭や講演の中でも述べました通り、新しい時代において今までのAmazonが蓄えてきた流通小売の知見を、様々な形で皆様に還元していきたいと考えております。それを発信していく場として、AWSは日本におけるお客様事例、セミナーの告知・開催報告などをまとめたサイトを構築いたしました。
ぜひ、こちらも定期的にご覧頂き、AWSが発信する流通小売業における最先端の情報を取得いただければと思います。今後もこのようなセミナーを企画し、皆様に様々な情報をお届けしたいと思っています。次回もぜひご期待ください。また、最後になりますが、我々と一緒に流通小売業界のお客様を支援して頂けるチームメンバーを募集中ですので、ご興味がある方は是非ともご応募ください。

また、他のリテールセミナーシリーズの開催報告は、以下のリンクからご覧いただけます。

第1回 リテールセミナーシリーズ 2020年7月7日 [Blog]
第3回 リテールセミナーシリーズ 2020年10月28日 [Blog]