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レジなし無人販売冷蔵庫を構築できる、This is my Smart Cooler プログラムを公開しました

AWS は、デジタル変革を進める小売業のお客様からの 「最先端のリテールソリューションを内製したい」というご要望にお応えするために、お客様自らがレジなし無人販売冷蔵庫を迅速に構築し学習や体験ができる This is my Smart Cooler プログラムを発表します。

レジなし無人販売冷蔵庫とは

レジなし無人販売冷蔵庫とは、IoT/ML/AI の技術を用いて、お客様が取り出したドリンクなどの商品を認識してカウントし決済まで完了させることで、支払いの手間のない購入体験ができる冷蔵庫です。この冷蔵庫を構築する経験の中で、IoT/ML/AI を使ったシステムを包括的に学習することが可能です。本プログラムは、お客様自身で構築することに主眼を置いており、自分で作る能力の向上に繋がります。結果として、本プログラムで得たスキルを活用して、お客様自身でレジなし無人販売冷蔵庫をカスタマイズし、お客様の実ビジネスで運用されることも期待されます。

小売業界では、カスタマージャーニーの可視化、オペレーションの効率化、オンラインとオフラインの統合、フリクションレスストアなどのデジタル変革の取り組みをまさに今各社で進めています。しかし、IoT/AI/ML などの先進的なテクノロジーを用いて新しいことを始めようと思っても、自社内に技術者がいない、知見がない、どこからスタートしていいかわからないという問題を抱えています。自社内でやってみるという前例やカルチャーがないため外部委託することになり、高いコストがかかるだけでなく、外部委託先に依存するような状態に陥り、複数のソリューションがバラバラで接続しにくく、変革の妨げになっています。そこで本プログラムでは、そのような課題を抱えるお客様に対して、最先端のリテールソリューションを内製するためのキットと導入支援を提供します。

本プログラムの内容

本プログラムは、IoTやAI、MLの技術を学び、フリクションレスストアの体験をスモールスタートさせたいお客様に向けたプログラムで、2つのモジュールから構成されています。1つ目は構築キットです。構築キットは、冷蔵庫から商品を取り出し自動的に決済まで完了することが可能なレジなし無人販売冷蔵庫の構築手順書、必要ソフトウェアとハードウェア一覧が記載されたレシピ、構築手順書を元に構築するのに有用なオンライン動画で構成されます。2つ目はソリューションアーキテクトによるハンズオンを通じた導入支援です。AWSソリューションアーキテクトが、レジなし無人販売冷蔵庫の構築を複数回のトレーニングを通じて支援します。またそれに付随して使用されているAWSサービスの機能紹介を実施します。構築キットだけを使用して無人販売冷蔵庫を作成頂くことも可能です。

構成図

このレジなし無人販売冷蔵庫を実現する構成図を、以下に示します。

デバイス側では、Raspberry Pi に AWS IoT Greengrass をインストールし、いくつかのローカル Lambda 関数が実行されています。クラウド側のインターフェイスとしては Amazon API Gateway を使用し、各種処理には AWS Lambda を利用しています。また、商品を認識する機械学習モデルは Amazon SageMaker で学習し、そのモデルを推論エンドポイントへデプロイしています。さらに決済サービスとしては、Amazon Pay を用いています。

商品の特定方法

本冷蔵庫の利用者が購入した商品の特定方法には、機械学習の技術を利用し、庫内のカメラ画像から商品を検出する手法を採用しています。機械学習モデルの作成には、Amazon SageMaker を使用しています。作成されたモデルはクラウド上にデプロイされ、冷蔵庫で撮影された画像をクラウドへ送信し画像認識を行います。冷蔵庫側で AWS IoT Greengrass を用いて画像認識させる変更も可能ですが、本キットでは直接扱いません。

精度については、画像認識の学習モデルを作成するために使用した学習データの品質とデータ量に強く依存するため、具体的な数値をお伝えすることはできません。一般的に、学習データの品質とデータ量を増やすことで、精度は高くなる傾向があります。まさにこの、精度を高め維持していく運用をご体験頂くこと自体が価値と考えます。

実際に大規模なレジなし無人販売冷蔵庫の運用を計画されるような場合に、商品の入れ替えが多かったり、学習モデルを作成するための教師データ(画像・ラベル)の作成が負担になるケースがあります。AWS サービスとしては Amazon SageMaker Ground Truth で正解ラベルの作成をサポートしたり、Amazon Augumented AI によって推論結果の人手によるレビューを行うことができます。

使用できる決済サービス

本プログラムにおけるレジなし無人販売冷蔵庫では、Amazon Pay での支払いを前提にして構築手順書が作成されています。お客様自身によって作成される冷蔵庫ですから、もちろんお客様によって PayPay や LINE Pay など他社が出している QR コード決済へのカスタマイズも可能です。

利用方法

利用者が持つスマートフォンの Amazon アプリで表示可能な Amazon Pay の QR コードを、冷蔵庫に設置されているカメラでスキャンし、認証されると冷蔵庫の施錠が解除されます。利用者は好きな商品を取り出し、冷蔵庫を閉めた時点で、QR コードに紐づいた Amazon アカウントにより決済を完了させ、Amazon アプリに対して通知が届きます。もちろん、これらは構築キットによる標準的な動作でありお客様により変更可能です。

返金処理について

決済サービスとして Amazon Pay を利用される場合には、金額を指定して返金可能です。別途お客様自身が Seller アカウントを作成することで、返金処理が可能となります。また実運用の際には、返金に限らず、利用者に対して個別サポートが必要な状況に対応するために、Amazon Connect による自動応答のコールセンタを立ち上げることをご提案しています。また、精度が低い場合には pending status にしておき、Amazon Augmented AI を用いた人間によるレビューの結果を以て確定させるといったフローも可能です。

適したユースケース

本プログラムにおけるレジなし無人販売冷蔵庫は、商品入れ替えのサイクルが緩やかな、飲み物やスナックを販売するようなユースケースには一般的にはマッチすると考えられます。商品の判別難易度の高い場合や、商品入れ替えが頻繁に行われるケースでは、誤検知に対する措置や頻繁なモデル作成が必要となると考えられ、運用負荷が高いです。現在提供している構築キットでは上から撮影した画像を元に判別する手法としており、お弁当など平積みされるものに対しては検知が困難です。平積みされるものについては重量センサーや別の確度からの撮影など別の手法が必要であり、This is my Smart Cooler プログラムとは別に、個別にソリューションアーキテクトにご相談ください。

構築キット

本キットで使用しているコンテンツは、GitHub の aws-samples (https://github.com/aws-samples/smart-cooler) に格納されており、どなたでも利用可能です。使用する部品は、お客様自身で購入して頂く必要があります。必要ソフトウェアとハードウェア一覧が書かれたレシピをご参照ください。また、本プログラムは冷蔵庫を販売するのではなく、あくまでお客様がレジなし無人販売冷蔵庫を作り、運用するご経験をスタートする支援を行うプログラムです。そのため、冷蔵庫に対するサポートや運用に対するサポートは行いません。

ソリューションアーキテクトによるハンズオンを通じた導入支援の詳細については、個別にお問い合わせください。

著者について

 

飯塚 将太

IoT Specialist Solutions Architect

 

 

 

齋藤 幹生

Solutions Architect

 

 

 

五十嵐 建平

Senior  Solutions Architect

 

 

 

國田 有華子

Senior  Solutions Architect