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行政機関のソフトウェア調達をわかりやすく – 公共 IT 調達の新しい形、デジタルマーケットプレイス(DMP)はじまります –
こんにちは、AWS の七尾です。AWS のパブリックセクター官公庁事業本部にて DX Advocate として、官公庁のお客様のクラウド活用を支援しています。
クラウドを活用して、お客様と社会課題解決や様々なチャレンジをご一緒出来てることを嬉しく思っているこの頃です。
今日は、ご支援しているプロジェクトの一つで、デジタル庁が新しく始める、デジタルマーケットプレイス(DMP)について紹介させて頂きます。
最近お問合せが多い取り組みですので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
先にご紹介ですが、AWS では DMP への商品登録をお手伝いするワークショップを開催します。
SaaS 事業者様同士の交流会セッションもあります。ぜひご参加下さい。内容とお申込みは、こちらのサイトをご覧ください。
2024/2/8 追記
SaaS 事業者様同士の交流会セッションは 2023/12/20 に開催されました。当日の内容・様子はこちらのブログ記事をご覧ください。
はじめに
行政機関にお勤めの方で、IT の調達は仕様書を作るのが大変、事業者にたくさん参加してもらいたいけどなかなか集まらない、提案や見積が複数届いたけど、複数社を同じ軸で比較するのが難しい、という悩みを持った方はいらっしゃらないでしょうか。
また、IT ソリューションを販売する事業者の方々は、仕様書の解読や、自社製品の機能とのギャップ洗い出す作業が大変だったり、そもそも、どの行政機関で自社製品のニーズがあるのか分からない、と思ったことはないでしょうか。
今回ご紹介するのは、こうした買い手側、売り手側の悩みの解決を目指す、デジタル庁の新しい取り組みになります。
「デジタルマーケットプレイス(DMP)」はじまります
デジタル庁は、省庁や自治体などの行政機関がクラウドソフトウェア(SaaS)を調達する際に、オンライン上でほしいソフトウェアを検索、比較して、調達できるような手法を検討しています。
まずは売り手であるソフトウェア会社、販売会社がデジタル庁と基本契約を結び、製品やサービスをオンライン上のカタログサイトに登録、掲載します。
買い手側である行政機関の職員は、このカタログサイトにアクセスすることで、ニーズに合ったソフトウェアを検索し、調達したいソフトウェアが見つかったら、販売会社も検索することが出来ます。カタログサイト内で公平に比較の上、調達したいソフトウェア、販売会社を選び、個別契約の締結に進みます。
この一連の仕組みが「デジタルマーケットプレイス」と呼ばれています。
出展:2023 年 10 月 4 日 デジタル社会実現ツアー 2023 デジタル庁様ご講演資料より
本格稼働は 2024 年秋
デジタル庁によると、2023 年度は α 版と呼ばれる実証サイトを構築し、売り手側、買い手側のニーズや操作性等の確認・調査を行うとされています*1。
この調査結果をもとに、2024 年度にシステム等の改修を進め、2024 年度秋を目途に、実際に行政機関が DMP 上で選択したソフトウェアを調達できるようにする計画です。
より良いニーズの把握や操作性の確認のためには、α 版の段階で掲載商品が沢山あったほうが望ましく、ソフトウェアを提供の事業者の皆様は、ぜひ登録して頂けたらと思います。
英国の事例を参考に
デジタル庁が取り組むデジタルマーケットプレイスは、英国が既に運用しているデジタルマーケットプレイスを参考にしています。
英国では、2014 年より DMP が本格運用されています。2018 年には、登録されているサービスの 9 割以上が中小事業者、スタートアップによるものになっており、 2021 年時点では、調達金額のうち 4 割が中小企業・スタートアップになっているそうです。
こうした取り組みはオーストラリアやカナダ等複数の国々でも導入されています *1。
こんな SaaS があったんだ
カタログサイトでソフトウェアを探す際には、タグを使うことが出来ます。
現在公表されているタグを見ると、デジタル田園都市国家構想や、防災、子育て、こども、教育、業務改革といった、行政機関の政策タグと、チャットやウェブ会議、データ分析・BI 、旅費管理などといった、機能タグの2つのタグカテゴリーが用意されています。
こうしたタグ機能があると、IT にあまり詳しくない方で、「どういう風に検索したらいいか分からない」という人にとっても、「子育て関係の SaaS って、どんなものがどのくらいあるのかな?」といったふうに、自分の業務や関心から、ざっくり検索してみて大枠をつかむことも出来ると思います。
こうした検索の中で、これまで営業訪問を受けたり、イベントに参加して知り得た SaaS 以外の、これまで知らなかった新しい SaaS に出会えるかもしれません。
特に地域によっては、都市部のように最新の SaaS に関する情報を得ることが難しい行政機関もあると思いますので有効そうです。
こうした点をデジタル庁は、「情報の非対称性の解消」、と説明しています。
出展:2023 年 10 月 4 日 デジタル社会実現ツアー 2023 デジタル庁様ご講演資料より
自社の製品を探してもらえる
SaaS 製品を売りたい、紹介したい事業者にとっては、カタログサイトに登録しておけば、買い手側である行政機関が検索してくれるため、これまで訪問したり電話したりしたこともなかった行政機関の検討の俎上に載るかもしれません。
当然、マーケットプレイスですので検索された後に比較が行われ、必ずしも購入に繋がらないこともあるかもしれませんが、それでもニーズをもつ買い手側の方から、自社製品を探してもらえることは嬉しいですよね。
デジタル庁によると、このデジタルマーケットプレイスによって、クラウドを活用する中小企業やスタートアップの SaaS 事業者のビジネスが増えることを狙っているそうです。
こうした事業者の中には魅力的な SaaS を持っていても、マーケティングや営業活動に大きな予算を避けない方々もいらっしゃるでしょうから、大きなメリットを感じられるのではないでしょうか。
出展:2023 年 10 月 4 日 デジタル社会実現ツアー 2023 デジタル庁様ご講演資料より
どうやって SaaS を登録したらいいの?
自社 SaaS を登録したい、リセラー登録したい、といった事業者の皆様は 11 月 30 日にオープンした事業者向けのカタログサイト α 版を訪問ください。
α 版への登録方法等の情報が掲載されています。(カタログサイトは PC でご覧下さい)
また、AWS では、このデジタルマーケットプレイスの取り組みを応援しており、AWS としてのフォローアップ説明会と、登録に関心のある事業者同士の交流会の開催を予定しています。
内容やお申込みについては、こちらの「デジタルマーケットプレイス 実証カタログサイト DMP (α 版) ワークショップ・交流会案内サイト」をご覧ください。
スタートアップ企業がデジタル庁と共創
これまでこのデジタルマーケットプレイスについてご紹介してきましたが、このサイトを構築しているのは、株式会社 dotD(ドットディー)という スタートアップ企業なんです。
dotD さんは、2023 年 10 月に設立 5年を迎え、これまで複数の共創事業や新規事業づくりのためのプラットフォーム(dotHatch)を自社開発したりと様々な取り組みをしてきた企業ですが、今回の DMP で、中央省庁の調達に初めてチャレンジしました。
中小企業やスタートアップに活躍してほしいデジタルマーケットプレイス自体が、設立 5 年のスタートアップ企業さんによって創られているのはとてもいいですね。
デジタルマーケットプレイス構築の dotD 小野田 CEO のコメント
設立 5 年目を迎えたばかりのスタートアップ企業ですが、この度デジタルマーケットプレイス(DMP)のサイト構築を担当させていただき大変光栄に思っております
デジタル庁様が行政 IT 調達(クラウドソフトウェア)のカタログ化を行い、IT 事業者のクラウド製品を行政の皆さんがより効率的に調達できる仕組みの一端となっておりますが、本事業を通じてデジタルマーケットプレイスの実現に貢献し、新しい IT 調達の仕組みを通じた行政のデジタル化とイノベーション促進を支援して参りたいと思っております。
また、AWS クラウドの採用と プロフェッショナル・サービス ( 通称、ProServe プロサーブ ) の支援により、素早く効果的なインフラを構築することができました。
今後も AWS のパートナー支援プログラムの多彩なサポート提供を期待し、私たちのビジネスがより成長し、革新的なサービスを提供するための支援をいただけることを楽しみにしています。
公共案件への参入を AWS が支援しています
dotD 小野田さんのコメントにもありましたが、dotD 社を AWS の プロフェッショナル・サービスチームが支援しました。
今回は、デジタル庁様の案件に対して要件の検討、ユーザガイドの作成、インフラやアプリケーションに関するセキュリティ診断等の部分を支援しました。
実際にプロジェクトに参画している、AWS プロフェッショナルサービスチームの上土井 裕人さんのコメントです。
「これまでの公共案件で蓄積したノウハウを活かし、dotD さんのようなスタートアップ企業が、デジタル庁プロジェクトへ参画することを支援できたことを嬉しく思います。
このように、スタータップ企業が、アジャイル開発などクラウドを活かした手法や、民間ビジネスで得られた知見を公共領域に持ち込んで頂き、それを公共領域の知見のある AWS プロフェッショナルサービスが支えることは、とても良い共創関係だと思います。
これからも続けていきたいと思いますので、参画をご検討だったり、お悩みお持ちのスタートアップ企業の方々は、ぜひお問合せ下さい。」
デジタルマーケットプレイスへの期待
公共調達の仕組みが大きく簡素化されることと、SaaS というクラウドによる提供形態の製品の紹介の場が作られることにより、これまで公共調達に参加しにくかったスタートアップ企業にとっては大きなメリットとなります。
また、買い手側も DMP というオンライン上で、いつでもどこでも、自分たちのニーズに合った製品を探し出すことが出来るようになります。
こうした、売り手と買い手双方にメリットのある場が創られることにより、売り手は品ぞろえを増やしたり、製品の低価格化ができるようにもなり、買い手の DMP 上での体験価値はさらに向上し、また買いやすくなるという、好循環が生まれます。
このような良い循環関係は、Amazon が大切にしてきたビジネスモデルにとても似ているものになります。
AWS はこれまでAWS クラウドをお使い頂いているスタートアップやパートナー企業の支援と、行政機関がクラウドを効果的に購入できるようになるための調達改革の支援を続けてまいりました。
それらの取り組みを今後、デジタル庁の DMP が創ろうとしている良い循環に沿って実施していくことにより、スタートアップを始めとした民間企業による行政・社会課題の解決を加速させ、国民・市民一人ひとりがデジタルの恩恵を享受できる社会の実現を目指していきます。
繰り返しのご案内ですが、製品登録に関心を持たれた方は、「デジタルマーケットプレイス 実証カタログサイト DMP (α 版) ワークショップ・交流会案内サイト」 をご確認下さい。
おわりに
今回はデジタル庁が進めるデジタルマーケットプレイスについて紹介させて頂きました。
こうした取り組みによって、中小企業やスタートアップの公共案件参入が進むことに大きな期待を持っています。
興味を持った方は、下記に参考情報をまとめましたので、ご覧ください。
最後までお読みいただき有難うございました。
*2023/12/15/ に公開した記事ですが、記事内で案内していたイベントが開催されたため、修正し 2024/2/8 に再度公開しました。
参考リンク
デジタルマーケットプレイス 実証カタログサイト DMP (α 版) ワークショップ・交流会案内サイト
出展: *1 デジタル庁 調達仕様書「情報システムの公平かつ迅速な調達のための 調査研究仕様書」より