Amazon Web Services ブログ

明治ホールディングス株式会社様における Amazon Q Developer 導入事例:段階的展開により 80-90% の生産性向上を実現

本ブログは明治ホールディングス株式会社様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの羽生田です。

昨今、多くのお客様から生成 AI を活用した開発生産性向上についてご相談いただくようになりました。特に企業の DX 推進を担う部門においては、限られたリソースでより多くの価値を創出するため、AI 活用による効率化が重要な課題となっています。明治ホールディングス株式会社様は、食品と医薬品事業を中核とした総合企業として、デジタル変革を通じた事業価値向上に積極的に取り組まれています。今回は、同社グループ DX 推進部 AWS 事務局が Amazon Q Developer を段階的に導入し、複数のチームで 80-90% の生産性向上を実現した事例についてご紹介します。

企業概要とデジタル変革への取り組み

明治ホールディングス株式会社は「明治」ブランドで親しまれ、毎日の生活に欠かせない食品・医薬品事業を展開し、健康と安心を届ける総合企業です。傘下に株式会社 明治・Meiji Seika ファルマ株式会社、KM バイオロジクス株式会社があり、グローバル展開も積極的に行っています。同社のグループ DX 推進部 AWS 事務局は、明治グループ全体における AWS 基盤の構築、管理と運用を司る CoE 機能を持った組織です。AWS 上での基盤運用チームと社内システム開発支援を通じて全社のデジタル変革を推進する重要な役割を担っており、2025 年 12 月現在で 300 を超える AWS アカウントを 20 名のメンバーで管理しています。

AWS 事務局では社内の複数プロジェクトを横断的に運用・支援しており、効率的な開発と運用プロセスの確立が常に求められていました。

課題:限られたリソースでの開発・運用効率化

グループ DX AWS 事務局では、多数のAWS アカウントを 20 名体制で管理する中で、以下のような構造的な課題に直面していました:

  • ドキュメント整備の負荷と品質のばらつき : 設計書や構成図の作成・更新に多くの時間を要し、コードとの整合性維持が困難。標準化が不十分で成果物の品質が属人的になりがち
  • 開発業務における手作業の非効率性 : 社内標準に準拠したインフラコードの作成やレビューに時間がかかり、本来注力すべき戦略的な企画・設計業務に十分なリソースを割けない
  • 運用業務の属人化 : 障害対応やセキュリティ監視、技術情報の検索において特定メンバーの知識に依存し、組織全体での知識共有が困難
  • 管理業務の煩雑さ : 多数の AWS アカウントやプロジェクトの管理に手作業が多く、定型業務に時間を取られる状況

これらの課題により、本来注力すべき戦略的な企画と設計開発業務に十分なリソースを割けない状況が続いていました。

解決策:Amazon Q Developer の段階的導入

Amazon Q Developer とは

Amazon Q Developer は、開発者がAWS上でより効率的に作業できるよう設計された包括的な AI 支援ツールです。自然言語処理、コード生成、セキュリティスキャン、運用支援など多岐にわたる機能により、開発プロセス全体を通じて生産性の向上とエラーの削減を実現します。多様なプラットフォームでの利用可能性と柔軟な料金体系により、個人開発者から大規模チームまで幅広いニーズに対応しています。

Amazon Bedrock を基盤として構築されており、AWS の各種サービスの理解、構築、拡張、運用を支援します。開発者は自然言語を使用して AWS アーキテクチャ、リソース、ベストプラクティス、ドキュメント、サポートに関する質問を行うことができ、利用している AWS アカウントについて文脈に応じた実用的な回答を得ることができます。

統合開発環境(IDE)で使用する場合、Amazon Q Developer はソフトウェア開発支援機能を提供します。コードに関する対話、インラインコード補完、新規コード生成、セキュリティ脆弱性のスキャン、言語アップデート、デバッグ、最適化などのコード改善を行うことができます。

導入アプローチ

AWS 事務局は生成 AI コーディングエージェントである Amazon Q Developer の有用性については注目していたものの、大規模な展開の前に AWS アカウントへの接続と権限のコントロールについて懸念を持っていました。ユーザ登録や IAM ロールの定義などを新規に定義する必要があったため、多数のメンバーへのサブスクリプション配布には慎重を期しました。段階的導入によりリスクを最小化しながら効果を最大化する方針を固め、3 段階での導入アプローチを採用しました。

フェーズ 1:AWS 事務局での検証(2025 年 5 月 – 7 月)

  • AWS 事務局の 2 名でパイロット導入
  • ドキュメント整備と共通プロンプトの作成に注力
  • 社内Gitでの共通プロンプト管理体制を構築

フェーズ 2:限定プロジェクトでの実証( 2025 年 7 月 – 8 月末)

  • 5 名のプロジェクトチームに展開
  • 既存バッチ見直しと AWS 利用料算出の実プロジェクトで検証
  • 具体的な効果測定と改善点の抽出

フェーズ 3:事務局・部内全体への展開( 2025 年 8 月末-現在)

  • 申請ベースで事務局だけでなく部内の 35 名超に展開
  • 週次オフィスアワー : AWS ソリューションアーキテクトによる質問対応

このアプローチにより、それぞれのフェーズにおいて懸念事項をひとつずつ解決していきながらユーザ数を増やし、生成 AI コーディングエージェントの利点をそれぞれのメンバーが享受し、共有できる土壌作りも同時に行うことができました。

具体的な活用事例と成果

1. ドキュメント・設計資料の自動化

課題: 設計書や構成図の作成・更新に多くの時間を要し、コードとの整合性維持が困難

活用例:

  • AWS CloudFormation テンプレートから設計書を自動生成
  • AWS 公式アイコンを使用したアーキテクチャ図の自動作成
  • コード変更時の設計書・構成図の自動更新
  • AWS を含む各種インフラストラクチャの変更履歴を自動記録

成果:

  • 生産性向上率: 約 95% 以上向上
  • 品質向上: コードとの整合性 100% 、更新漏れゼロを実現
  • 設計書・構成図作成の大幅な時間短縮により、ドキュメントの鮮度と正確性が向上

2. Infrastructure as Code 開発の効率化

課題: 社内標準に準拠したコードの作成やレビューに時間がかかる

活用例:

  • 明治固有の環境構造(ドメイン、ネットワーク構成)を理解した AWS CloudFormation テンプレート自動生成
  • 60 以上の AWS サービスに対応した統一命名規則の自動適用
  • 社内用語(「監査 VPC 」「基幹系」「汎用系」など)の自動反映

成果:

  • 生産性向上率: 約 95% 以上向上
  • 品質向上: タイプミスゼロ、命名規則違反ゼロ、一貫性 100% を達成
  • レビュー工数の大幅削減により、開発サイクルが加速

3. 運用・トラブルシューティングの高度化

課題: 障害対応やセキュリティ監視、技術情報の検索において特定メンバーの知識に依存している

活用例:

  • エラーメッセージから対象リソースの自動特定と VPC フローログの分析
  • AWS Security Hub の検出結果を自動分析し、優先度判定と対処方法を提案
  • 社内用語・システム構成の歴史・設計判断の背景を体系化し、自然言語で検索可能に

成果:

  • 生産性向上率: 約 85-95% 向上
  • 属人化解消: 技術情報へのアクセスが民主化され、特定個人への依存を削減
  • 障害対応時間の大幅短縮と、セキュリティ監視の見落とし削減を実現

4. 組織全体の管理基盤整備

課題: 多数の AWS アカウントやプロジェクトの管理に手作業が多く、定型業務に時間を取られる

活用例:

  • 310 の AWS アカウントを SSO 統合管理し、簡易名でのアクセスを実現
  • プロジェクトの自動分類と番号付きフォルダ管理システムの構築
  • AWS 利用料のサービス別算出を AWS Lambda 関数で自動化

成果:

  • 生産性向上率: 約 90% 以上向上
  • セキュリティ向上: クレデンシャル排除によるリスク削減
  • 毎日の定型作業が完全自動化され、管理工数を大幅に削減

これらを実現していく中で特に重要だったのが Model Context Protocol サーバの利用です。これにより素早く正確な情報へのアクセスと調査、ドキュメント生成を行うことができるようになり、従来多くの時間を要していた作業の大幅な効率化を実現しました。

全体的な成果

AWS事務局が Amazon Q Developer により実現した成果について、明治ホールディングス株式会社様 は以下のようにレポートしています。

定量的効果

  • 80-90% の生産性向上を AWS 事務局全体で実現
  • 30 名超が継続的に活用
  • 多数の定型作業を完全自動化(毎日 1 時間以上/人の時間短縮)

定性的効果

  • 共通プロンプトにより生成 AI を用いた作業品質の平準化
  • 新規参画メンバーの立ち上がり時間の大幅短縮
  • 戦略的業務への人的リソース確保

お客様の声

明治ホールディングス株式会社 グループ DX 戦略部の猪俣 亮様・小林 達也様 は次のように評価されています:

猪俣様のコメント

「AWS 事務局のメンバーは技術者集団として、そして私自身も個の技術者として生成 AI コーディングエージェントを自らの職務の『武器』として手に入れ使いこなしたい、という強い信念がありました。Amazon Q Developer の導入により、これまで時間を要していたドキュメントの整備やコード解析、コード開発が劇的に効率化されました。また、ネットワーク関連の疎通調査において実際の環境の設定値やログを包括的に調査することにより、従来の人手による調査よりも各段に早く問題解決に至ることができるようになりました。
共通プロンプトの活用により、チーム全体で一定の品質と基準を守った成果物を短時間で作成できるようになり、QCD が大幅に向上しました。共通プロンプトにはリソースやドキュメント更新、命名規則等の優先順位付けされたルール、SSO ログインのツールや MCP サーバの設定をしています。これらの活用により正確な情報を取得し、更に高度な自動化が実現できたことで、AWS事務局メンバーが本来注力すべき戦略的な業務により多くの時間を割けるようになりました。」

小林様のコメント

「これまでは戦略的業務や新たな取り組みに取りかかる際、具体的に仕掛かるまでの進め方・事前調査・検討に多くの時間を要していました。Amazon Q Developer の活用により、例えばコスト最適化に関しては、Savings Plans やReserved Instances 購入後の管理・棚卸といった運用面まで見据えた購入計画を Amazon Q Developer に提案させることでコスト削減率の最大化、及び長期的なプラン購入計画の迅速な策定・実践が可能となりました。我々人間自らが思考する・考える範疇の多くを Amazon Q Developer に移譲する中で、結果的に自身では至らなかった多くの見解や気付きを素早く得られるようになりました。今後、より戦略的業務に対する障壁を下げ、効率的に新たな取り組みに挑戦できるようになると期待しています。」

今後の展望

明治ホールディングス株式会社様では、以下の展開を計画されています:

  • 明治グループ全体への展開拡大:成功事例を基に、部内・他部署、各事業会社への展開拡大
  • PoC、モック作成:新規価値創造の領域で、検証用アプリケーションやモックの作成
  • さらなる自動化推進:MCP サーバの活用範囲拡大による、より高度な業務自動化
  • Excel 計算からの脱却加速:いまだ手入力が基本となっている業務をピックアップし AWS 上のアプリケーションに変換
  • AI エージェント導入:トラブルシュートの一次切り分けエージェントの構築

まとめ

明治ホールディングス株式会社様の事例は、Amazon Q Developer の段階的導入により、大規模な開発チームでも着実に生産性向上を実現できることを示しています。特に、共通プロンプトによる標準化と MCP サーバの高度活用は、他の企業様にとっても参考になる実践的なアプローチです。

生成 AI を活用した開発生産性向上をご検討の際は、ぜひ AWS までお気軽にご相談ください。

Amazon Q Developerについて詳しくは、こちらをご覧ください。