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株式会社東京会計パートナーズ様が Amazon Bedrock で実現した、事業承継相談の入口を開く生成 AI チャットボット

本ブログは 株式会社東京会計パートナーズ 様、株式会社ゼネット 様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アカウントマネージャーの鹿野 太智です。

「事業承継について、誰に相談すればいいのか分からない」——これは、多くの経営者が抱えながらも、なかなか口に出せない悩みです。本ブログでは、この「相談の入口」を生成 AI で作り出した株式会社東京会計パートナーズ様の導入事例をご紹介します。同社は、開発パートナーである株式会社ゼネット様とともに、事業承継の相談に乗る生成 AI チャットボットを Amazon Bedrock 上で構築しました。トップ営業 3〜5 名にしかできなかった事業承継の提案を、20 名の営業部員全員ができるようになった事例です。同じように「専門性が高く、一部のベテランに業務が偏っている」課題をお持ちの企業にとって、ヒントになる内容をお届けします。

東京会計パートナーズ様が向き合ってきた「事業承継」という課題

株式会社東京会計パートナーズ様(以下、東京会計パートナーズ様)は、経営者からの事業承継に関する相談に、長年トータルで伴走してきた法人です。事業承継には、株式の譲渡や相続に伴う税務視点から、後継者の選定・育成といった経営の論点まで、幅広い知識が求められます。税理士に相談すれば税務の観点、銀行に相談すれば資金繰りの観点、保険営業に相談すれば保険の視点、というように、相談先ごとに視点が偏りがちで、経営者にとっては「誰に相談すればいいのか分からない」状態に陥りやすい領域です。こうした分野横断の相談にワンストップで応えられることが、東京会計パートナーズ様の強みでした。

一方で、この幅広い知識を要する相談に対応できるのは、社内でもベテランリーダークラスの上位層に限られていました。しかし、本質的な課題はそこではありませんでした。事業承継は、経営者にとって切実でありながら、非常に相談しづらいテーマです。自分が退く時期の話であり、万一のときに自分が亡くなった場合の話にまで踏み込む必要があるため、身近な人にはなおさら切り出しにくいものです。その結果、経営者側から相談が持ち込まれること自体が少なく、東京会計パートナーズ様にとっての課題は「リソースのひっ迫」ではなく、「そもそも相談してもらえない」ことにありました。専門知識を持っていても、相談してもらえなければ価値を届けられません。相談の入口をどう作るか——それが東京会計パートナーズ様の問いでした。

生成 AI への着想と、開発パートナー株式会社ゼネット様

この課題を解決するため、東京会計パートナーズ様が相談を持ちかけたのが、株式会社ゼネット様でした。同社はシステム開発で培った技術力を軸に、近年は生成 AI を活用したソリューション開発に力を入れており、それまでにも AWS 上で東京会計パートナーズ様の保険シミュレーションシステムなどを手がけてきた、業務とシステムの両方を深く理解するパートナーです。

「事業承継の相談に乗ってくれる生成 AI のチャットボットは作れないか」——この相談に対し、株式会社ゼネット様が描いたのが、生成 AI を「営業ツール」として活用するアプローチでした。営業担当者が「こんな面白い AI があります」と切り出せるフックがあれば、経営者に気軽に試していただく入口になり、そこから相談の機会を生み出せるのではないか、という構想です。

事業承継の相談は、経営者一人ひとりの状況によって聞くべき内容が大きく変わります。従来型の定型シミュレーションでは対応しきれず、相手の回答に応じて柔軟に対話を組み立てられる仕組みが必要でした。「幅広い専門知識」と「一人ひとり異なる状況への柔軟な対応」——この 2 つの要件を満たす手段として、両社は生成 AI の活用を検証していくことになります。

AI が問いかける — 5 分の対話で「次の一手」が見える相談体験

完成したソリューション「経営者のアシスト AI」は、一般的なチャットボットとは入口が異なります。ユーザーが自分で質問を打ち込むのではなく、AI の側から質問を投げかけるのです。事業承継のように「何を相談すればよいのか分からない」テーマだからこそ、AI が対話をリードする設計としています。

経営者のアシスト AI のサービス画面(対話の開始画面)

図:経営者のアシスト AI のサービス画面(対話の開始画面)

経営者は、AI からの問いに答えていくだけで対話が進みます。所要時間はおよそ 5 分。相続に関する対話では、短くて 10 問、長い場合は 20 問ほどの質問に答えていきます。質問は定型の選択式だけでなく自由入力にも対応しており、経営者一人ひとりの状況に合わせて内容が変わります。

一般的なシミュレーションシステムと決定的に違うのは、相手の回答内容に応じて次に聞くべき質問を動的に切り替える点です。たとえば後継者について回答した内容を踏まえ、次の問いが枝分かれしていきます。さらに、質問の合間には相槌やアドバイスを挟み、まるで営業担当者と対話しているかのような体験に仕上げています。ここに生成 AI ならではの価値があります。

経営者のアシスト AI のサービス画面(対話・シミュレーション画面)

図:経営者のアシスト AI のサービス画面(対話・シミュレーション画面)

やり取りを終えると、税務・法務・保証の観点から「1 年以内にやるべきこと」「この点は税理士に相談すべき」といった、経営者が次に取るべきアクションが整理して提示されます。経営者は、そこからさらに自由に入力を続けて相談を深めることもできます。

相続シミュレーションの結果画面

図:相続シミュレーションの結果画面

こうして、東京会計パートナーズ様の営業担当者が経営者に「まず試していただく」ための、相談の入口となるソリューションが形になりました。

ソリューションの構成 — 全体アーキテクチャ

株式会社ゼネット様が構築したソリューションの全体構成は、次の通りです。アプリケーションの主要なリージョナルリソースは、アジアパシフィック(東京)リージョンに構築されています。

TKP様向け事業承継相談チャットボットのシステム構成図

図:TKP様向け事業承継相談チャットボットのシステム構成図

この構成の中核となるのが、生成 AI と検索拡張生成 (RAG) を担う部分です。アプリケーションからのリクエストは AWS Lambda を介して Amazon Bedrock 上の Anthropic の Claude に渡され、回答が生成されます。RAG は Amazon Bedrock Knowledge Bases を利用して構築し、ベクトルストアには Amazon OpenSearch Service を採用しています。東京会計パートナーズ様が長年培ってきた事業承継のノウハウをベクトル化して蓄積し、経営者からの相談内容に応じて関連する知見を検索・参照することで、汎用的なモデルの回答にとどまらない、専門性の高い回答を実現しています。

特筆すべきはその構築スピードです。Amazon Bedrock Knowledge Bases の機能により、Amazon OpenSearch Service と組み合わせた RAG の構築は 3 営業日程度 で完了し、東京会計パートナーズ様にすぐに試していただくことができました。早期に動くものを提示できたことで、その後のすり合わせと改善のサイクルを素早く回すことができています。

なぜ Amazon Bedrock だったのか — モデルの知識・RAG・Guardrails の三点

このソリューションを実現するにあたり、株式会社ゼネット様はまず生成 AI のエンジン選定から着手しました。複数のモデルを比較検討した結果、事業承継の分野におけるベースの知識が優れていたことから、Amazon Bedrock 上で提供される Anthropic の Claude を採用しました。

一方で、汎用的なモデルが持つ知識だけでは、事業承継という専門領域の相談に十分応えることはできません。東京会計パートナーズ様が長年培ってきたノウハウ——過去に執筆された書籍のデータや、実務で蓄積してきた知見——を AI の回答に活かす必要がありました。そこで、Amazon Bedrock Knowledge Bases により検索拡張生成 (RAG) の仕組みを容易に構築できることが、選定の決め手となりました。

加えて、経営者が将来的に自由に使えるようアカウントを開放していく構想があり、細かなやり取りを重ねる特性上、利用が想定外の用途に広がることも懸念されました。相談以外の用途を防ぎたいという要件に対し、Amazon Bedrock Guardrails の Denied topics 等を設定し、相談対象外の話題の検出・ブロックを支援できる点も採用理由の 1 つでした。

機密性の高い相談内容を扱うため、セキュリティも重視した選定でした。Amazon Bedrock の転送中・保管中のデータ暗号化や、入力データがモデルプロバイダーと共有されず、基盤モデルの改善に使用されないことを評価しました。これらを Amazon Bedrock Guardrails と組み合わせ、責任共有モデルのもとで要件に応じたセキュリティ対策を実装しやすい点も、Amazon Bedrock を選んだ大きな理由の 1 つです。

作り込みの舞台裏 — 動的な質問切り替えを支えた工夫

技術的に最も工夫したのは、対話の自然さです。RAG のデータを読み込ませただけのチャットでは、いわば「空気が読めない」応答が起きました。たとえば後継者に長男を指名した回答をしているのに、改めて「ご家族に株式をどう分配しますか」と重ねて聞いてしまう、といった具合です。これに対し、株式会社ゼネット様はプロンプトのチューニングに加えて質問データそのものを構造化し、条件を適切に設定することで、生成 AI の柔軟さを残しつつ対話が本筋から外れない仕組みを作り込みました。

さらに、相続に関する対話は短くても 10 問、長いと 20 問におよびます。経営者が途中で「長い」と感じてしまわないよう、質問の合間に相槌やアドバイスを挟み、まるで営業担当者と話しているような体験に仕上げました。

もう 1 つの重要な工夫が、開発なしで AI が育つ設計です。東京会計パートナーズ様が「この質問にはこう応じてほしい」「これは言ってはいけない」といったルールを Excel シートにまとめれば、それを RAG に取り込んで反映できる仕組みを株式会社ゼネット様が用意しました。都度の開発を行わなくても、東京会計パートナーズ様自身のノウハウで AI が成長していく——運用のしやすさまで含めた設計です。

3〜5 名から 20 名へ — 東京会計パートナーズ様に生まれた変化

本格的な稼働が始まったばかりのため定量的な数値はこれからですが、東京会計パートナーズ様にはすでに大きな変化が現れています。同社には約 20 名の営業部員が在籍しており、その全員が担当顧客に対して、このソリューションを使ったアプローチを取れるようになりました。

従来、事業承継の相談に応じられるのはトップ営業 3〜5 名に限られていました。お客様と深い信頼関係を築いたうえで相談を受けるまでには高いハードルがあったためです。それが、営業部員全員が「こんな面白い AI があります」と切り出せるようになった意味は小さくありません。相談の入口がほぼゼロに近かった状態から、大きく広がったのです。

定性的な効果として印象的なのは、AI が「深刻な問い」を代わりに投げかけてくれる点です。事業承継の相談では、「あなたが亡くなったら会社の株はどうなるか」「相続税は払えるか」といった、人間の営業担当者からは切り出しにくい問いが避けられません。これを AI に語らせることで、営業担当者は「こういう事例がありまして」と自然に話を切り出せるようになりました。経営者からも興味を持っていただけているといいます。

利用が定着している証として、現場からは対話ボリュームのバリエーションを求める声も上がっています。「質問数を増やして、より深く状況を診断できる詳細版がほしい」という要望もあれば、「経営者は多忙なので、より短い時間で要点をつかめる簡易版がよい」という要望もあり、それぞれの商談スタイルに合わせて使い分けたいというものです。使うイメージが具体的にあるからこそ生まれる要望と言えます。

今後の展開 — 「経営者の悩み」を広くカバーするシミュレーターへ

事業承継のシミュレーション自体は、東京会計パートナーズ様が RAG のデータを追加することで成長させていく設計を基本としています。開発コストを抑えつつ、同社のノウハウが積み上がる仕組みです。

経営者の悩みは事業承継にとどまりません。東京会計パートナーズ様と株式会社ゼネット様は、今回できあがった仕組みを土台に、経営者の多岐にわたる悩みに応える新しいシミュレーターを、同じ AI の形式で作っていく構想を進めています。RAG の中身とプロンプトを差し替えれば展開できるようフレームワーク化されており、今回の事例が横展開の起点になっています。

また、Amazon Bedrock 上のモデルは継続的に進化します。株式会社ゼネット様は保守サポートの中でモデルのバージョンアップを検証し、出力の変化に東京会計パートナーズ様が違和感を抱かないよう寄り添いながら対応していく方針です。「開発して終わり」ではなく保守サポートまで伴走する体制が、この仕組みの継続的な進化を支えています。

まとめ

東京会計パートナーズ様の事例は、生成 AI が「業務の自動化」だけでなく、「これまで踏み込めなかった相談の入口を開く」ことにも力を発揮することを示しています。事業承継という相談しづらいテーマに対し、Amazon Bedrock 上の Anthropic の Claude と、Amazon Bedrock Knowledge Bases による RAG を組み合わせ、AI から問いかける対話体験を設計することで、一部のベテランに偏っていた提案を営業部員全員へと広げました。

ポイントは、モデルの知識・RAG・Amazon Bedrock Guardrails・セキュリティを Amazon Bedrock の機能で無理なく組み合わせられたこと、そして開発パートナーである株式会社ゼネット様が、プロンプトのチューニングと質問データの構造化によって、生成 AI の柔軟さと対話の正確さを両立させたことにあります。専門性が高く、特定の人に業務が集中している——そんな課題をお持ちの企業にとって、参考になる取り組みではないでしょうか。

AWS は、東京会計パートナーズ様と株式会社ゼネット様のこうした挑戦をこれからも支援してまいります。Amazon Bedrock を活用した生成 AI の導入にご関心のある方は、ぜひ Amazon Bedrock のページをご覧ください。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アカウントマネージャー 鹿野 太智