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【セッション紹介】MUFG x Finatext – 「Money Canvas」を成功に導いたパートナーシップに学ぶ / AWS Summit Online 2022

延べ 35,000 人が視聴する、AWS を学ぶ日本最大のイベント「AWS Summit Online 2022」が、2022 年 5 月 25 日・26 日に開催されました。本記事では基調講演やセッションのなかから、スタートアップに関連するものをご紹介します。

今回ピックアップするのは「MUFG x Finatext – 『Money Canvas』を成功に導いたパートナーシップに学ぶ」です。

2021 年 12 月、株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)は資産運用プラットフォーム「Money Canvas」をリリースしました。これは金融機関が提供する従来のサービスとは異なり、サービスを運営する MUFG グループだけでなく、パートナー企業の商品やサービスも取り扱う画期的なものです。その開発には Fintech 企業である株式会社Finatextホールディングス(以下、Finatext)の「デジタル金融の統合基盤」が活用されています。

このパネルセッションでは、三菱UFJ銀行 の「Money Canvas」開発の狙い、その実現において Finatext が果たした役割、クラウド技術を活用するうえでのポイントなどを伺いました。

登壇者はこちらの 3 名です。

株式会社三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部 次長 田中 誉俊 氏

株式会社Finatextホールディングス 代表取締役社長 CEO 林 良太 氏

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 金融事業開発本部 本部長 飯田 哲夫

「Money Canvas」での協業が実現した背景とは

セッション序盤では、田中 氏が「Money Canvas」のサービス概要を、林 氏が Finatext の事業概要を解説。その後、パネルセッション本編を開始しました。

飯田:まずは協業が実現した背景について伺います。三菱UFJ銀行 からお願いします。

田中:現在、多くの企業がさまざまなサービスをスマートフォン上で提供しています。三菱UFJ銀行 でもスマートフォン上でサービスを提供しているものの、機能改善のスピードが遅い、お客さまのニーズにフィットしていないなどの課題を感じていました。

「Money Canvas」を成功させるには、スピード感を持ってお客様のニーズに応えることが重要だと考えました。そこで注目したのが Finatext 社です。Fintech 分野で多様なサービスを提供されており、大手金融機関と提携した実績も豊富です。画期的なサービスの提供を目指す私たちにとって魅力的に映りました。

飯田:Finatext 社からはいかがでしょうか。

林:私たちは、これまで証券や保険など多種多様な商品・サービスの開発・運用に携わってきました。その結果として「今後は、金融とそれ以外のサービスの垣根がなくなっていく」という仮説を立てています。仮説に基づき、さまざまな金融機関や事業者の商品・サービスを 1 つのプラットフォームで利用できるデジタル基盤を構想していました。

そんな折に、三菱UFJ銀行 の「業種やグループの垣根を越えた金融連携を図りたい」という思いを伺いました。先進的な取り組みであり、私たちのデジタル基盤構想ともマッチしていたため、ぜひ携わりたいと手を挙げたのです。

大企業とスタートアップ企業。難易度の高い協業の成功要因

飯田:一般的に、大企業とスタートアップ企業の提携は困難が大きいと言われています。 協業が成功し、リリースに至った経緯をお聞かせください。

田中:企業が協業するにあたり、サービスに対する“思い”が一致することは重要です。先ほど林さんからお話があった通り、お客さまに対して良いサービスをスピーディーに届けたいという両社の思いが一致していたのが、成功の大きな要因だと感じます。

それに加えて、開発が円滑に進んだことも大きいです。本プロジェクトは弊社のこれまでの事例のなかで、構想からローンチまでのスピードが最速でした。

株式会社三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部 次長 田中 誉俊 氏

飯田:なぜ、スムーズに開発を進められたのだと思いますか。

林:三菱UFJ銀行 と私たちの考えが一致し、チーム一丸となってプロジェクトを進められたのが大きいです。そして、技術面ではクラウドコンピューティング(以下、クラウド)である AWS の活用が成功要因だと思います。

AWS を用いることで工数を大幅に削減でき、スムーズにアジリティのある開発ができました。Web サービスの領域ではクラウドを活用した開発はごく一般的ですが、金融機関では珍しいケースといえます。AWS 導入がプロジェクトにもたらすメリットを 三菱UFJ銀行 が理解し、受け入れてくれたからこそスピーディーな開発を実現できました。

飯田:確かに金融業界においては、お客さま向けのサービスでクラウドを活用するのはチャレンジングだと思います。今回 AWS をご活用いただいたことで、具体的にどのようなメリットがありましたか。

田中:AWS は、金融系のシステム開発において重要な、セキュリティを向上させるためのサービスや機能を数多く提供してくれています。そのため、セキュリティ対応のために多くの工数を割く必要がありませんでした。

また、「Money Canvas」はサービスの特性上、さまざまな企業と業務提携する必要があります。その際に提携先の企業が AWS を用いていれば、従来の金融サービスの開発と比べてシステム連携が容易になり、プロジェクトをスムーズに進めることが可能です。サービスの信頼性や開発スピードを向上させるために、クラウドを活用するメリットは大きいと感じます。

クラウドの活用でシステムの管理を効率化。ビジネスを加速

飯田:大手企業とスタートアップ企業とでは、業務の進め方やテクノロジーに対する捉え方などに違いがあると思います。プロジェクトを成功させるための具体的なノウハウや、クラウドの価値をより高める方法についてお聞かせください。

林:金融機関や大手企業の業務のコアの部分にクラウドを導入するには、システムの安全性向上や説明責任履行のために、どのような取り組みをするかが重要なテーマとなります。たとえば、金融機関や大手会社と協業する際には多くの場合、セキュリティを確認するためのチェックシートに基づいて話し合いや調整が行われます。このプロセスは、ビジネスのスピードを落とす大きな要因になっています。

もちろん、お客さまの大切なお金やデータを預かっているわけですから、セキュリティを高めることは重要です。しかし、システムが複雑化する昨今では、チェックシートを用いた確認で正しく安全性を担保できるとは言い切れません。事実、高額の費用をかけて開発したにも関わらず、セキュリティ侵害が発生している例は多く見られます。

ここで役に立つのがクラウドです。クラウドの活用により、セキュリティを監査するプロセスを最適化し、コストや時間を抑えつつリスクを低減できます。たとえば、これまで手作業や口頭での申告をベースに行っていた監査や証拠の提出を、システムから自動出力されるレポートで代替するといったことが可能になります。これは、私たちが Smart audit と呼んでいる概念です。

これまで大手企業がスタートアップ企業と協業をスタートするときは、会社やシステムの信頼性を確かめるために、多くのコストと時間をかける必要がありました。ですが、AWS をはじめとするクラウドの活用により、協業のハードルがグッと低くなると感じています。今後は金融サービスにおいても、ビジネス改善のスピードが一気に加速するのではないでしょうか。

株式会社Finatextホールディングス 代表取締役社長 CEO 林 良太 氏

よりユーザーに寄り添った金融サービスを

飯田:田中さんは「Money Canvas」を今後どのように発展させたいですか。

田中:「Money Canvas」をこれからどんどんお客さまに実際に使っていただき、ご意見を伺い、改善をくり返していく予定です。お客さまが知りたい情報をタイムリーに提供し、お客さまに合った商品を提案できるサービスを目指します。

その目標を実現するには、提携企業と協業をしてサービス上に掲載する商品を充実させることが必要です。提携企業との機能開発がよりスムーズに進むように環境を整え、ユーザーに寄り添ったサービスをスピーディーに提供したいです。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 金融事業開発本部 本部長 飯田 哲夫

飯田:林さんにも質問です。デジタル金融の統合基盤をどのように発展させていくのか、そして Fintech 企業として金融の領域で果たしていく役割についてコメントをお願いします。

林:デジタル金融の統合基盤を通じて、金融サービスの“壁”をなくしたいと考えています。一般的に、金融サービスは使いにくく、とっつきづらい傾向にあります。消費者と金融の距離がまだまだ遠いため、機会損失につながっているケースがたくさんあるはずです。

私たちは金融をサービスとして再発明し、消費者と金融の距離を近づけたいという思いで事業を展開しています。そして、既存の事業や組織の垣根を越えてサービスを展開する方々とパートナーシップを結び、デジタル金融の統合基盤を提供したいと考えています。

今後は、保険会社が証券サービスを提供したり、三菱UFJ銀行 のように銀行が証券や保険を提供したりといったように、金融機関がカバーするサービスは幅広くなっていくでしょう。ですが、金融業界で新しい挑戦をしようとすると、どうしても金融の基幹システムが壁になります。金融サービスの立ち上げに、大きなコストと長い時間がかかってしまうのです。

そうした状況を打破するため、私たちは金融の基幹システムをクラウドで提供することで、金融業界の DX 化を支援したいと考えています。各種の金融機関や企業とコラボレートして、金融が人々にとって身近なサービスである世界の実現を目指します。

飯田:田中さん、林さんどうもありがとうございました。このセッションが、日本の金融産業のイノベーションにつながるヒントとなれば幸いです。


本セッションは、 AWS Summit Online 2022 オンデマンドサイトで公開しております。こちらよりご視聴ください。