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ヤマトプロテック AIを利用した書類電子保管システムをわずか2日で構築
本ブログはヤマトプロテック株式会社 様と アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWSアカウントマネージャーの古山です。
「AI 化を検討したいが、情報システム部門のリソースが足りない」——そんな課題を抱える企業は少なくありません。本記事では、急な欠員により書類保管業務が逼迫した状況から、 Amazon Bedrock と Kiro を活用してわずか 2 日間でマルチモーダル AI を利用した書類電子保管システムを構築し、85% 以上の業務効率化を実現したヤマトプロテック株式会社様(以下、ヤマトプロテック様)の事例を紹介します。情シスリソースが限られた環境でも、適切な生成 AI 開発ツールの選択と活用方法によって、短期間での課題解決が可能であることを示す実践的な事例です。
多くの企業が直面する:手作業による書類保管業務の逼迫
ヤマトプロテック様は 1918 年創業以来、消火・防災領域におけるメーカーとして、開発・製造・設計・施工・メンテナンスを網羅し「火にまつわる安心」を作り出してきました。同社において、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、これからも安心を届け続けるための重要な課題の一つとして、取り組みを進めていたなか、受発注に関連する部署にて、書類の電子保管担当者に急な欠員が発生しました。他の担当者がカバーせざるを得ない状況となり、部署全体の負荷増大と業務時間の延長という事態に陥りました。具体的な業務フローは以下の通りでした。
1. 紙で届いた書類をスキャンして電子化、または電子で届いた書類をダウンロード
2. 書類を目視で確認しながらフォームに手入力
3. フォームに PDF をアップロードして送信
書類 1 枚あたり 1 分から最大 3 分程度を要する単純作業であり、自動化の余地は明らかでした。AI-OCR などによる自動化は以前から検討していたものの、情報システム室が他のシステム開発やプロジェクトで逼迫しており、対応できていませんでした。
なぜ AWS・Kiro を選んだのか:生成 AI 開発ツールの選定理由
ヤマトプロテック 経営企画本部 情報システム室 土屋 俊貴 様は、以前より生成 AI を活用した簡易ツール開発を試みていましたが、書類電子保管業務における問題を解決するためプロジェクトの合間を利用して、開発に本格的に着手しました。最初は他の AI コーディングツールで開発を進め、要件定義とシステムの基礎設計を進めていました。しかし、以下の問題により開発が行き詰まりました。
– コンソールから PowerShell や AWS CLI の操作が正常に実行できない
– 設計やインフラへの考慮が不十分なまま開発が進み、終わりが見えない
情報システム室の開発 PC の切り替えというタイミングも重なったため、新しい環境構築と合わせて AI 周りも新しいツールに切り替えることにした際に、土屋様ご自身がAWS re:Invent 2025 に現地参加して体験した Kiro を想起し、「Kiro なら AWS インフラストラクチャーとベストプラクティスに合わせて開発できるのでは?」という期待から Kiro Pro を契約し、途中まで作成したプログラムや要件定義を Kiro に渡してバイブコーディングを開始しました。
ブレークスルーへの道:AI が AI を強化するという発見
Kiro は当初のツールより速いものの、当初は期待したほどの開発速度が出ませんでした。そこで土屋様は、AWS re:Invent でAWSのソリューションアーキテクトから「Steering が大切」と聞いていたことを思い出し、Kiro 自身に Steering の仕組みを尋ねてみました。Kiro の Steering とは、プロジェクト固有のルールや前提知識を AI に常時・条件付きで共有する仕組みです。.kiro/steering/ 配下の Markdown ファイルとして管理され、チームの開発標準、プロジェクト固有の設計・制約、ビルドやテストの実行手順などを定義できます。「AI 自身に AI のベストプラクティスを調べさせ、自分の Steering を最適化させる」というアプローチを試みました。Kiro は AWS のリファレンスや公式ブログ、各種技術ブログ、re:Invent のレポートを読み込みながら、自らの Steering を作成・適用しました。さらに Kiro は MCP(Model Context Protocol)と Powers の導入を提案し、環境構築を進めました。
– Steering の設定
– Powers の設定
– MCP(Model Context Protocol)のセットアップ
AI が AI 自身のアーキテクチャを理解し、最適化を提案・実行するというアプローチにより、開発効率が向上しました。
ソリューションの概要
新たに構築したシステムは、PDF 書類の受け取りから電子保管システムへの自動登録までを完全自動化するものです。Amazon Bedrock のマルチモーダル機能を活用した AI-OCR により、日本語書類の高精度な認識を実現しています。
システムフロー
—
PDF 書類(Amazon S3)
↓
AWS Lambda 関数起動
↓
Amazon Bedrock(Amazon Nova Lite)で AI-OCR 処理
↓
書類情報の抽出(金額、日付、会社名などの必要情報をパラメーター化)
↓
invoiceAgent 文書管理 API 経由で自動登録
—
仕様駆動開発 SPEC が生み出したシステム構成
Kiro がシステム要件を整理する中で「SPEC モードで進めた方が良い」と提案しました。SPEC モードは Requirements(要件定義)、Design(設計)、Task(作業)の 3 段階で順に進める仕様駆動開発のアプローチです。Kiro は要件を分析し、以下の AWS サービス構成を提案・構築しました。
| サービス | 役割 | Kiro の選定理由 |
|---|---|---|
| AWS Lambda | API 処理 | サーバーレスで運用コストが低く、VPC 内配置が可能 |
| Amazon API Gateway(Private) | エンドポイント | VPC エンドポイント制限でセキュアな通信を実現 |
| AWS Secrets Manager | 認証情報管理 | API キーやパスワードをコードに記述せずに管理 |
| VPC エンドポイント | プライベート通信 | NAT Gateway 不要でコスト削減 |
| Amazon S3 | 書類 PDF の保管 | 高耐久性・低コストのオブジェクトストレージ |
| Amazon Bedrock(Amazon Nova Lite) | AI-OCR による書類認識 | 日本語書類の高精度認識 |
OCR 技術の選定と切り替え
当初はAmazon Textractを利用していましたが、日本語書類に対する認識率が約 50% と実用に耐えない水準でした。Kiro の提案により Amazon Bedrock の Amazon Nova Lite マルチモーダルへ切り替えたところ、認識率が約 89% に向上しました。
| 技術 | 認識率 | 評価 |
|---|---|---|
| Amazon Textract | 約 50% | 日本語書類には不十分 |
| Amazon Bedrock(Amazon Nova Lite) | 約 89% | 実用レベルに到達 |
Kiro が自動生成したディレクトリ構造
iA-API-ServerPJ/src/
├── lambda_function.py # エントリーポイント
├── auth/api_key.py # API キー認証
├── validation/models.py # Pydantic バリデーション
├── ia_client/client.py # iA API クライアント
├── handlers/search.py # 検索ハンドラー
├── handlers/document.py # 文書詳細ハンドラー
├── errors/handler.py # エラーハンドリング
├── rate_limit/limiter.py # レート制限
└── audit_log/logger.py # 監査ログ
Kiro はデプロイ用の Python スクリプトを 70 個以上作成し、自動デプロイを実現しました。また、37 個のユニットテストを作成し、全て通過しています。タイムアウト問題が発生した際も、Kiro が Amazon CloudWatch ログを分析して原因を特定し、接続プールの拡張とリトライロジックの追加を提案・実装しました。
| 最適化項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 接続プール | 10 接続 | 60 接続 |
| リトライ | なし | 3 回(1 秒 / 2 秒 / 4 秒) |
| タイムアウト | 30 秒一律 | 接続 10 秒 / 読取 45 秒 |
2 日間で実現した導入効果:85% 以上の業務効率化
ヤマトプロテック様は、Kiroを活用した書類電子保管システムの構築により、以下の効果を実現しました。
定量的な改善
– 開発期間:2 日間
– AI-OCR 認識率:89%(Amazon Textract 比で約 39 ポイント向上)
– 自動化範囲:書類の読み取りから登録まで完全自動化
– 工数削減:手作業による入力作業を 85% 以上削減
定性的な改善
– 急な欠員による業務逼迫の解消
– 他担当者への業務負荷の軽減
– 情報システム部門のリソースを他のプロジェクトへ集中できる環境の整備
– 単純作業からの解放による担当者の業務品質向上
ヤマトプロテック 土屋様からのコメント
「AI のことは AI が一番わかっている。MCP、Powers、Steering などのベストプラクティスを適用することで、開発効率が向上した。AI に AI のプロンプトを書かせるのがベスト。」
「特に AWS との統合が必要な場合、Kiro のような AWS に特化したツールがオススメ。AI 関連は新技術が速い速度で出てくるので、使い慣れているからといって他のツールを使わないのは機会損失。まずは触ってみましょう。」
事業成長への転換点:今後の展開
書類電子保管システムの構築をきっかけに、ヤマトプロテック様の生成 AI 活用は広がりを見せています。
– invoiceAgent 文書管理 API の MCP 化による AI エージェントとの連携強化
– Dify チャットボットと連携した AI-OCR 書類の AI 検索機能の開発
– AWS インフラの継続的な最適化
– Salesforce や ERP システムの DB 解析を Kiro で実施する仕組みの構築
– プロジェクト管理ツールの API を Kiro 向け MCP に再編し、Kiro 自体を PMO として活用
さらに、MCP 化と AI エージェントのコンテナ化によるエージェンティックネットワークの構築により、従来型のデータウェアハウスと BI ツールを代替できる可能性も検討されています。Amazon Bedrock や Kiro などの生成 AI 開発ツールの詳細については、以下のリソースをご参照ください。
– Amazon Bedrock 製品ページ
– Amazon Bedrock ドキュメント
– AWS Lambda 製品ページ
まとめ
ヤマトプロテック様の事例は、情報システム部門のリソースが限られた環境でも、生成 AI 開発ツールを適切に活用することで短期間での課題解決が可能であることを示しています。本事例から得られた主な知見は以下の通りです。
1. 適切なツールの選択と更新:AWS との統合が必要な場合、AWS に特化したツールの選択が開発効率を左右します
2. AI の事は AI が一番わかっている:MCP、Powers、Steering などのベストプラクティスを AI 自身に調べさせ適用することで、開発効率が向上します
3. OCR とマルチモーダルの適切な選定:日本語処理においては、一般的な OCR より Amazon Bedrock のマルチモーダルモデルの活用が有効です
4. 迅速なプロトタイピング:生成 AI 開発ツールを活用することで、従来数週間かかっていた開発を数日で完了できる可能性があります
生成 AI を活用した業務効率化にご興味のある方は、ぜひ AWSにご相談ください。
ヤマトプロテック株式会社 : 土屋 俊貴様(中央) アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 : アカウントマネージャー 古山 玄弥(左)、ソリューションアーキテクト 大松 宏之(右)
