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エージェント AI: 野心と実行の溝をどう埋めるか
本記事は 2026 年 2 月 27 日 に公開された「Agentic AI: Bridging the Widening Gap Between Ambition and Execution」を翻訳したものです。

AWS は先日、Harvard Business Review Analytic Services と共同で、エージェント AI の導入状況を調査しました。1 結果からは、期待の高さと同時に、大規模な価値創出に至る道筋がまだ見えていない現実が浮かび上がっています。
以下では、AI の重要性を認識しながらも、うまく使いこなせていない原因を整理します。
AI 市場は急成長を続けており、投資額は 2024 年の 52 億ドルから 2034 年には 1,900 億ドルを超えると予測されています。期待も大きく、調査対象の意思決定者 623 名のうち 84% が「AI は自社のビジネスを変革する」と考えています。実際の投資にも裏付けがあり、79% の組織が来年中にエージェント AI への投資を増やす計画だと回答しました。さらに 17% の組織は、今後 2 年以内にビジネスプロセスの半分以上がエージェント AI で完全自動化されると見込んでいます。
効果的に活用している組織では、すでに実績が出始めています。エージェント AI を利用中の回答者のうち、36% が組織全体の生産性向上を、35% がデータ駆動型の意思決定の改善を、33% がコスト削減を報告しました。
しかし、より詳しく見ると根本的な課題が浮かび上がります。リーダーの 74% が「AI の活用は非常に重要」と認める一方で、「自社が AI をうまく活用し、ビジネス成果を出せている」と答えた割合はわずか 26% にとどまりました。変革の可能性は認識され、リーダーは意欲的で、投資も動いている。それでも多くの組織が、大規模な価値獲得で実行面の溝を埋められずにいます。
根本原因: 基盤の準備不足と信頼の欠如
調査からは、大規模な実行を阻む 3 つの基盤領域で、組織の準備が大幅に遅れている実態が明らかになりました。
- データ: 自社のデータアーキテクチャがエージェント AI に「十分対応できている」と考える回答者はわずか 13%。64% は「ある程度対応できている」にとどまりました。
- ガバナンス: 適切な体制が「十分整っている」と回答したのは 11% のみ。55% は「ある程度整っている」状態です。
- 人材: もっとも深刻な領域で、テクノロジーを使いこなす準備が「十分整っている」と感じている組織はわずか 5%。48% が「スキル不足」を主な障壁に挙げました。
構造的なギャップに加え、信頼も大きな壁になっています。エージェント AI が組織に害を与えない形で動くのか、そして得られた価値を証明できるのかという 2 つの信頼です。
信頼はアルゴリズムの改善やテストの強化で解決できる技術的課題ではありません。透明性、説明可能性、そしてテクノロジーの実績の積み重ねが求められる、人間と組織の課題です。テクノロジーの準備は整っていても、人間の準備はまだこれからです。
従業員はエージェントの思考プロセスが見えない「ブラックボックス」を警戒し、重要なタスクの委任をためらうかもしれません。信頼の欠如は、組織がエージェントにどこまで自律性を与えるかという問題にも関わっています。調査では、約半数の組織が業務上の意思決定をエージェントに委ねることに慎重で、人間の介入を求める姿勢がスピードと効率性のメリットを相殺しかねない状況にあることがわかりました。
成果への信頼という問題もあります。経営幹部は直感や同業者から AI がもたらす大きな可能性を聞いているものの、期待した価値が実現しないのではないかと恐れています。乗り遅れへの不安が投資を急がせる一方で、約 4 分の 3 の組織が価値の明確な測定基準を持っておらず、ビジネス価値の証明が難しい状況です。
溝を埋めるには
実行面の溝を埋めている組織は、基盤整備が価値につながることを理解しています。先行組織はそうでない組織に比べ、イノベーション (42%) や顧客体験 (39%) で成果を出す割合が高い傾向にあります。
同じ成果を目指すなら、次の 4 つの優先事項に取り組むことを推奨します。
1. 基盤に投資する
エージェントソリューションの実験・構築と並行して、データアーキテクチャやガバナンス体制といった、壊れたままのインフラの修復にも投資してください。2,3,4
2. 人材に今すぐ投資する
スキルアップの方針と雇用への影響について、率直に伝えましょう。エージェント AI をワークフローに統合するには、技術スキルの育成と組織変革の両方が必要です。たとえば、エージェントに任せるべきタイミングと人間が介入すべきタイミングの見極め方を指導する。タスクの実行者からエージェントの監督者へと役割が変わるなかで、アイデンティティの揺らぎを感じる人もいるでしょう。そうした変化を乗り越える支援も欠かせません。9,10,11
3. 信頼を体系的に築く
リスクの低い用途から始めて信頼性を実証し、自社のビジネスに合った自律性と監視のバランスを探りましょう。オブザーバビリティツールキットのようなソリューションを試すのも有効です。エージェントの推論を追跡可能なログとして記録すれば、人間が判断の根拠を監査できます。人間が完全に制御するのでも、エージェントに全権を委ねるのでもなく、意思決定の性質に応じた適切なガードレールと監視を設計してください。6,7,8
4. 成功指標を早期に定義する
調査では、95% の組織が明確な成功指標を持っておらず、経営陣の盲点になっています。取り組みを始める前に、具体的で測定可能な目標を設定しましょう。テクノロジーではなく成果に焦点を当て続けるための規律です。
指標に対する進捗をツールで追跡してください。短期的な結果にとらわれず、大きく考える — これは長期戦です。先進的な企業は、既存の(高コストな)プロセスの最適化にとどまらず、顧客向けの新しい製品やサービスの設計に AI を使っています。真の価値は、エンドツーエンドのプロセスや部門横断のバリューチェーンを根本から見直すところから生まれます。先行組織はテクノロジー部門とビジネス部門の統合の仕方を再考し、部門間の壁を取り払い、SLA のような内部指標ではなくビジネス価値を測定しています。指標は絶対目標を達成するためではなく、学習のために使うものです。11
エージェント AI がもたらす明るい未来?
エージェント AI は、部門横断のバリューチェーンを再構築し、顧客のためにより速くイノベーションを起こせる大きな機会です。しかしデータが示すとおり、野心が準備を上回っているのが現状です。AI の可能性を認める 84% と、実行の準備が整っている少数派との間に広がる溝は、エージェント AI の導入がプラグアンドプレイのアップグレードではないことを物語っています。データ基盤の刷新、リスクフレームワークの再構築、人材のスキルアップ — いずれも意図的な戦略が必要です。AI の未来は明るいかもしれませんが、その恩恵を手にするのは、組織全体のシステム的な進化として取り組むリーダーでしょう。
本レポートが皆さまにも参考になり、この機会に立ち向かう原動力と集中力、そして勇気を得るきっかけになれば幸いです。
—Jana
- Agentic AI: Expectations, Readiness, and Results, Harvard Business Review Analytic Services.
- From Automation to Agency: Leading in the Era of Agentic AI, Ishit Vachhrajani
- Data and Generative AI: A Window into Your Organisation’s Soul?, Phil Le-Brun
- Data Governance in the Age of Generative AI, Tom Godden
- Your AI is Only as Good as Your Data, Tom Godden
- Responsible AI: From Principles to Production, Helena Yin Koeppl
- Overseeing AI Risk in a Rapidly Changing Landscape, Mark Schwartz
- Responsible AI Best Practices: Promoting Responsible and Trustworthy AI Systems, Tom Godden
- How Technology Leaders Can Prepare for Generative AI, Phil Le-Brun
- Learners lead, leaders learn: The case for technology fluency in the C-Suite, Phil Le-Brun
- The Octopus Organization: A Guide to Thriving in a World of Continuous Transformation, Phil Le-Brun and Jana Werner, Harvard Business Review Press 2025