Amazon Web Services ブログ

AWS で実現するゲーム開発コンペティション

はじめに

株式会社カプコン(以下、カプコン)は、学生を対象としたゲーム開発コンペティション『CAPCOM GAMES COMPETITION』を開催しました。

このイベントでは、PLATINUM SPONSOR である Amazon Web Services (AWS) のクラウドサービスを活用し、カプコンの独自ゲームエンジン『RE ENGINE』を AWS クラウド上で提供することにより、本格的なゲーム開発に取り組む環境を実現しました。

本記事では、AWS がどのようにこのコンペティションを⽀えているかについて、技術的な詳細とともにご紹介します。

図1: CAPCOM GAME COMPETITION ロゴ

イベント概要

カプコンは 2025 年 4 月から 9 月にかけて 『CAPCOM GAMES COMPETITION』 を開催しました。 このコンペティションでは参加者が自由に環境を選択できる従来の形式とは異なり、『RE ENGINE』 の使用を必須としました。これはAAAタイトル開発で実績のある『RE ENGINE』でのゲーム制作を、より多くの学生に体験していただくことで、世界水準で活躍できる若手クリエイターの早期創出を目指したものです。一般公開されていない『RE ENGINE』をゲーム制作に活用できる貴重な体験と、半年間の制作期間の間カプコンスタッフによる専門的な技術サポートを受けられるという点が、参加者にとって大きな魅力となり多数の参加応募がありましたが、最終的にその中から選抜された15チームが参加することになりました。

AWS はこのコンペティションにおいて技術的なサポートを包括的に提供し、カプコンはこれを活用して200名以上の学生が、場所を問わず高性能な開発環境にアクセスできる体制を実現しました。 また、AWSのクラウド技術を活用することで、従来は大規模な設備投資が必要だったゲーム開発環境を柔軟かつスケーラブルに提供することが可能となり、次世代のゲーム開発者育成に大きく貢献しています。

アーキテクチャ

システム全体像

今回のアーキテクチャは、前年の近畿⼤学での実習をベースに、15 チームが同時利⽤できる設計に拡張しています。AWS のクラウドサービスを活⽤することで、セキュアで⾼性能、かつ⼤規模なゲーム開発環境を実現しました。

図2: CAPCOM GAMES COMPETITION 全体アーキテクチャ図

ネットワーク構成

15 チームが異なる拠点から安全にアクセスできるよう、Amazon Virtual Private Cloud (VPC) を学⽣環境⽤ VPC および共通基盤⽤ VPC の 2 つに分けています。

共通基盤⽤ VPC には、学⽣が利⽤する Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) インスタンスを起動・停⽌するウェブアプリケーション、バージョン管理データを保存する Perforce サーバー、アセットを保存する NAS サーバーなどの共有サービスをホスティングしています。⼀⽅、学⽣が直接利⽤する 『RE ENGINE』 端末は、学⽣環境⽤ VPC に配置しています。

学⽣は、まず⾃分の PC から AWS Client VPN を利⽤して学⽣環境⽤ VPC に接続し、ゲーム開発を⾏います。ゲーム制作に使⽤するアセットやその他のデータのアップロードには、AWS Transfer Family Web Apps を利⽤しており、これらのファイルは Amazon S3 に保存された後、NAS サーバー経由で 『RE ENGINE』 の EC2 インスタンスから利⽤できる仕組みとなっています。

開発環境

各チームには Visual Studio 開発環境がプリインストールされたワークステーション (Amazon EC2) を最⼤ 8 台まで提供しました。インスタンスタイプは NVIDIA T4 GPU を搭載した g4dn.4xlarge (16 vCPU、64 GB メモリ、20 Gbps ネットワーク) を使⽤しています。東京リージョンと⼤阪リージョンを組み合わせて約 100 台の GPU インスタンスを確保することで、学⽣は⾃宅から Amazon DCV によるリモートデスクトップアクセスを通じて快適にアクセスでき、⾼性能ワークステーションと同等の開発体験を得ることができます。

試遊環境

ゲーム開発環境に加えて、実際にゲームをプレイする試遊環境も提供しました。Amazon API Gateway および AWS Lambda を利⽤して Web ベースのシステムを構築し、ゲームの本体は Amazon S3 に保存する仕組みとしています。さらに、Amazon GameLift Streams を活⽤することで、ユーザーはブラウザから直接ゲームコントローラーを利⽤して、低レイテンシーでゲームをプレイできる環境を実現しました。

図3: 試遊環境アーキテクチャ図

スケーラビリティと可⽤性

15 チームが同時に開発できるよう、以下の点を考慮した設計としています。 東京リージョンでは ap-northeast-1a、1c、1d の 3 つの AZ を、⼤阪リージョンでは ap-northeast-3b、3c の 2 つの AZ を活⽤し、キャパシティを分散させることで可⽤性を確保しています。さらに、AWS のクラウドならではの柔軟性を活かし、開発期間中の利⽤状況に応じてリソースを調整しており、特に夏休み期間の利⽤ピークに備えた追加確保など、必要なタイミングで迅速にスケールアップを実現しました。

AWS による⽀援とサポート

本プロジェクトの成功に向けて、AWS は事前準備段階から運⽤期間中まで、包括的な技術⽀援とサポートを提供しました。

事前準備段階からの技術⽀援

プロジェクト開始の数ヶ⽉前(2024 年 11 ⽉〜12 ⽉)から、AWS はカプコンと密に連携を開始しました。⼤規模開発環境の運⽤⽅法、リソース確保の戦略、コスト最適化など、多岐にわたる技術的な課題について、専⾨的な知⾒を提供し、最適なアーキテクチャ設計を⽀援しました。

運⽤期間中の継続的なサポート

キャパシティの確保と最適化

開発期間中、特に夏休み期間(7 ⽉〜8 ⽉)には学⽣の利⽤が急増し、東京リージョンと⼤阪リージョンを組み合わせて約 115台のインスタンスを確保する必要がありました。稼働している状態を安定的に維持するため、EC2 オンデマンドキャパシティ予を活⽤した計画的なキャパシティ確保を提案しました。利⽤ピークに備えた追加確保を迅速に対応することで、学⽣が開発に集中できる環境を提供できました。

技術的な課題解決への協⼒

半年間の運用では、Windows ライセンス管理や macOS ユーザーのゲームパッド対応など、様々な技術的な課題が発生しました。 AWS はカプコンと協力しながら、これらの課題に対して解決案を提示することで、学生が開発に専念できる環境を維持するための技術支援を提供しました。

結果

⾼い完⾛率の実現

参加していた 15 チーム中 14 チームが半年間の開発期間を完走し、作品を完成させることができました。完走率 93% という高い数値を達成できた要因として、AWS上に構築した 『RE ENGINE』 開発環境により、学生は自身のPCスペックや使用OSなどの制約を受けることなく、また学校・自宅の双方で制作できる自由度の高さなどにより、創作活動に集中できたことが挙げられます。 さらにカプコンスタッフによるサポートで技術面・進行管理面の両方をカバーし、加えて充実したチュートリアルと学習コンテンツで 『RE ENGINE』 の使い方を段階的に習得できる環境を提供しました。通常、このような難易度の高いコンペティションでは完走率が低くなりがちですが、十分な環境とサポートを提供することで高い完走率を実現しました。

図4: 授賞式の様子(左からAWS 賞、最優秀賞、タートル・ビーチ賞)

『RE ENGINE』 の認知拡⼤

参加した学生からは、「RE ENGINE の性能の高さに驚いた」「企業で使っているエンジンを触る機会が嬉しい」「実際の現場での使い方や分業等のワークフローが知ることができた」といったポジティブなフィードバックを得られました。 コンペティション開催前の全く 『RE ENGINE』 を使ったことのない状態から、半年間のゲーム開発を通じて 『RE ENGINE』 を実際に使いこなし、作品を完成させる経験を積むことができました。その過程でカプコンの開発環境や技術力を肌で感じることができ、ゲーム業界への就職を目指す学生にとって貴重な経験となりました。カプコンも今回のコンペティションを通じて、 『RE ENGINE』 の認知度向上と利用ハードルの低減という当初の目的を達成することができました。

今後の展望

今回のコンペティションで得られた知見とフィードバックは、『RE ENGINE』 の今後の開発と展開に活かしていきます。外部ユーザーへの提供方法、サポート体制、チュートリアルの充実など様々な改善を進め、将来的により多くの開発者に 『RE ENGINE』 を使っていただける環境を整備していく計画です。今回の成功事例は、その過程において大きな進歩となりました。

カプコンでは、オープンカンファレンスでの技術発信、近畿大学での実習、そして今回の 『CAPCOM GAMES COMPETITION』 の開催と、継続的に外部への情報発信と社会貢献を行っており、このような取り組みを通じて「RE ENGINE開発で培われた技術やカプコンのゲーム開発などの情報を発信することで 面白いことにチャレンジしている企業だと知ってほしい」という思いのもと、来年以降も何らかの形で継続していきたいと考えています。 またAWS のクラウド技術を活用することで、地理的な制約を超えた教育機会の提供が可能となりましたので、今後もより多くの学生がゲーム開発の世界に触れられる環境を整備していきます。 今回の経験を活かし、カプコンは今後も AWS と協力しながら、『RE ENGINE』 の社外活用、産学連携の拡大、そして業界全体の発展に貢献できるよう新しい施策にチャレンジすることで、次世代のゲーム開発者育成と、ゲーム業界全体の持続的な成長に寄与することを目指します。

AWS では多くのゲーム会社様が AWS のクラウドサービスを使ってゲームを開発・運⽤するための技術⽀援をしています。またこのブログを始め、CEDEC や GDC などのゲーム業界イベントや AWS 主催のイベント ( Game Tech Night ) などでゲーム会社様向けの情報を発信しています。私たちの活動がゲーム業界の発展に貢献できる様、今後も技術とビジネスの両⾯から全⼒でお客様をサポートしていく所存です。

著者について

伊集院 勝

株式会社カプコン

基盤技術研究開発部 基盤開発支援室

室長

山田 拓海

株式会社カプコン

基盤技術研究開発部 基盤技術開発室

エンジニア

富澤 淳太

株式会社カプコン

基盤技術研究開発部 業務システム開発室

エンジニア

長田 義広

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

ゲームエンターテイメントソリューション部

ゲームスペシャリスト シニアソリューションアーキテクト

Zheng Shao

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

ゲームエンターテイメントソリューション部

ソリューションアーキテクト