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AWS Professional Services と実現する第一興商カラオケ聴感採点 AI の開発

はじめに

本ブログは、株式会社第一興商と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。

株式会社第一興商 (以下、第一興商)では、通信カラオケ「DAM」シリーズにおける採点機能の高度化に取り組んでおり、AWS Professional Services と共同で、人間の聴感に即した歌声評価 AI モデル「聴感採点モデル」を開発しました。この技術は、DAM のフラッグシップモデル LIVE DAM WAO! に搭載されている採点機能 精密採点Ai Heart の中核として活用されています。
2026 年 6 月 25 日〜6 月 26 日に幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2026 では、第一興商のブースにてこの聴感採点モデルの仕組みと実装をご紹介いただきました。本記事は、AWS Summit Japan 2026 での展示内容をもとに再構成したものとなります。

第一興商とは

株式会社第一興商は、業務用カラオケ機器「DAM」シリーズの開発・製造・販売を手がける企業です。カラオケ事業においてはトップクラスのシェアを有し、最新機種「LIVE DAM WAO!」では AI 技術を活用した多彩な機能を搭載しています。

写真提供:株式会社第一興商

カラオケ採点における課題

従来のカラオケ採点は、音程・リズム・ビブラートなどの音響パラメータを機械的に評価する方式でした。この方式は一定の精度を持つ一方で、以下のような課題がありました。

  • 人間の感性との乖離: 機械採点は音程を重視しているため、一定以上の音程精度を持つ歌に対しては妥当性がある一方で、人間が「心地よい」と感じる歌声の微妙なニュアンスを十分に評価できない
  • 「採点歌い」への対応: 機械的に高得点を狙う歌い方(いわゆる「採点歌い」)に対して過大評価してしまう傾向がある
  • 音程偏重の評価: 細かな音程のズレに対して過度に厳しい評価となる一方、声質や表現力といった人間の感性に関わる要素が反映されにくい

これらの課題を解決するため、第一興商は AWS Professional Services と共同で、人間の聴感に基づく歌声評価 AI モデルの開発に着手しました。

聴感採点モデルの開発アプローチ

本プロジェクトは 2019 年から約 4 年にわたり、AWS Professional Services の Machine Learning Research Scientist および Data Analytics Consultant がプロジェクトに参画し、機械学習モデルの設計・開発だけでなく、教師データの品質向上のための統計手法の導入や、大規模データ処理基盤の構築など、幅広い技術支援を提供しました。以下では、その中で取り組んだ主な実験・技術的アプローチについて解説します。

教師データの収集:一対比較法による聴感ラベリング

聴感採点モデルの開発において最も重要かつ困難な工程は、「人間の聴感」を定量的に表現する教師データの作成でした。

当初は 5 段階尺度法による評価を試みましたが、審査員によるブレが大きく十分な精度が得られませんでした。そこで、2 つの歌声を聴き比べて「どちらが良いか」を判定する一対比較法を採用しました。絶対値で点数を付ける方式に比べて審査員間の判断のばらつきが小さく抑えられるため、整合性が高くスケール可能な評価が可能になりました。約 15 万回に及ぶラベル作業を通じて、高品質な聴感評価の教師データを構築しました。

一対比較の結果を Bradley-Terry 法(BT 法)により聴感スコアに変換しました。BT 法では、すべてのペアを網羅的に比較する必要がなく、グラフが連結していればスコアを推定できるため、大規模データへのスケーリングが可能です。

特徴量抽出:Audio Embedding Generator

歌唱音源から特徴量を抽出する方法として、オープンソースの深層学習モデル Audio Embedding Generator を使用しました。これにより、音声データを 1 秒ごとに 128 次元のベクトル表現に変換します。

大規模なエンベディング処理を効率化するため、AWS のコンテナサービスを活用し、最大 1,000 並列での処理基盤を構築しました。これにより、約 13 万ファイルのエンベディング処理を 1.5 時間で完了できるようになりました。

モデルの学習と試行錯誤

学習モデルには AutoGluon Tabular を使用し、聴感評価結果と音源特徴量を組み合わせて学習を行いました。

最適なモデル構成を見つけるため、時間集約特徴量の種類、マルチモーダル特徴量の組み合わせ、トレーニングサンプルの選択方法、モデリング手法(分類・回帰)といった複数の設計軸について、それぞれの組み合わせパターンを網羅的に実験し、精度を比較検証しました。

AWS アーキテクチャ概要

聴感採点モデルのシステムは以下のコンポーネントで構成されています。

  • 機械学習モデル構築(Amazon SageMaker AI): 聴感評価モデルの学習・評価を Amazon SageMaker AI 上で実施。P3 系 GPU インスタンスを活用し、深層学習モデルの効率的な訓練を実現しています。
  • 教師データ管理(Amazon SageMaker Ground Truth): 一対比較法によるラベリング作業のプラットフォームとして活用しました。
  • データ保存(Amazon S3): 歌唱音源データ、エンベディング特徴量データ、モデルアーティファクトの保存に使用しています。
  • 大規模エンベディング処理: AWS Fargate for Amazon ECS を活用した並列処理基盤により、大量の音声ファイルのエンベディング処理を最大 1,000 並列で高速に実行しています。

AWS Professional Services との共同開発の成果

上記の実験を経て、開発された聴感採点モデルは以下のような特性を実現しています。

  • 「心地よい」歌声の識別: AI 聴感スコアの上位には「いまいちな」歌声が混入しにくい特性を実現しました
  • 「採点歌い」への耐性: 機械採点が高得点であっても、「採点歌い」のような不自然な歌声には低い AI 聴感スコアを付与する結果を得ました
  • コンテスト上位歌唱の適切な評価: 実際のカラオケ大会におけるデータにおいて、プロ審査員が上位と評価した歌手に対する AI 聴感スコアの評価が適切に向上しました

人の聴感に近い学習データの収集は、本プロジェクト最大の難所でした。当初は評価のばらつきに苦労しましたが、AWS Professional Services が一対比較法を提案し、開発本部の全社員を対象に数か月かけて評価を実施することで、人の聴感に近い高品質な学習データを準備できました。また、製品化にあたっては DAM 端末のスペックに合わせてモデルを大幅に軽量化する必要があり、この移植・軽量化の工程でも AWS Professional Services が継続的に技術支援を行いました。これらの取り組みにより、新機種の発売時期に合わせてプロジェクトを推進できました。

AWS Summit Japan 2026 での反響


AWS Summit Japan 2026 の第一興商ブースでは、精密採点Ai Heart の開発プロセスをモニターで紹介するプレゼンテーションに加え、実際にワンコーラス歌唱でチャレンジできる「透明カラオケボックス」を設置しました。90 点以上を獲得された方にはオリジナルステンレスマグボトルをプレゼントする企画としたところ、2 日間でのべ 300 名以上の方にご参加いただきました。

「なぜ AWS Summit にカラオケが?」と多くの来場者に足を止めていただき、精密採点Ai Heart の背景にある機械学習技術と、それを支える AWS のアーキテクチャに関して、多数のご質問と好意的なご反応をいただきました。「普段何気なく楽しんでいるカラオケの裏側で、これほど本格的な機械学習モデルが動いているとは思わなかった」「15 万回もの人手による聴感評価を積み上げて教師データを作っている点に驚いた」「カラオケも AWS で動いているんですね」といった感想を数多くいただき、身近なエンターテインメントサービスにおける AI 活用の実例として、多くのビルダーの皆様と対話できる貴重な機会となりました。

おわりに

第一興商の聴感採点モデルは、AWS Professional Services との共同開発により、従来の機械採点では実現できなかった「人間の感性に寄り添った歌声評価」を実現しました。採点品質の核となる 15 万回の聴感ラベリングはあえて人間の耳で一つひとつ積み重ね、その貴重なデータを最大限活かすためのモデル構築・運用基盤に AWS の機械学習サービスを活用することで、カラオケ体験をより豊かなものにしています。

今後の展望としては、聴感モデルでは補いきれなかった「得点に対する納得感」をさらに追求していく予定です。今後の精密採点シリーズに是非ご期待ください。

著者について

執行 里恵(Rie Shigyo)

執行 里恵(Rie Shigyo)

株式会社第一興商 開発本部 コンシューマ事業部 応用技術課
聴感採点モデルの企画・開発を主導。

中本 翔太(Shota Nakamoto)

中本 翔太(Shota Nakamoto)

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト
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