Amazon Web Services ブログ
ITbook 株式会社様のAWS 生成 AI 活用事例:Amazon Bedrock を活用し、要件文書から提案書を自動生成する仕組みを構築し、提案書のドラフト作成を十日から半日に短縮
本ブログは ITbook 株式会社様とAmazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS アカウントマネージャーの尾形龍太郎です。
公共調達の提案書づくりに携わったことがある方なら、調達仕様書と評価基準を何度も読み返し、必須項目の取りこぼしに神経をすり減らした経験があるのではないでしょうか。締め切り間際に「あの加点項目はどこに書いたのか」を探し回る時間も、その一つです。本ブログでは、自治体・国向けのコンサルティングを手がける ITbook 株式会社様が、Amazon Bedrock を活用した提案書作成支援システムを構築し、ドラフト作成にかかっていた約十日分の作業を半日にまで短縮した取り組みをご紹介します。生成 AI を「人の代わり」ではなく「人が考える時間を生み出す道具」として組み込んだ、コンサルティング会社の新しい働き方の事例です。
お客様の状況と課題
ITbook 株式会社様は、自治体・国の案件に対して提案書を提出し、案件を獲得していくコンサルティング事業を主軸とする企業です。提案活動の起点になるのが、公共機関から示される調達仕様書や評価基準書を読み解き、限られた期間内に提案書を仕上げる作業です。
この提案書作成は、コンサルタント一人ひとりの知見と経験が大きく活きる、専門性の高い業務です。一方で、案件数の増加に伴い、事前調査や構成の作り込みにかけられる時間を案件ごとに十分確保することが、組織共通のテーマになっていました。提案の評価を最大化するうえで、評価基準で求められる必須項目や加点項目を確実に押さえる精度を、組織全体で一段引き上げることの重要性が増していました。
とりわけ繁忙期には複数の案件が同時に進行し、提出期限までに構成を磨き込む時間の確保が大きな論点になっていました。過去の類似案件や関連資料を数十件単位で読み込む準備作業の負荷も大きく、コンサルタントが本来注力すべき提案の中身づくりに、より多くの時間を振り向けられる仕組みが求められていました。案件数が増えるほど効果が見込める、品質を保ちながら数をこなすための仕組みづくりが課題でした。
解決策の検討
ITbook 株式会社様がまず明確にしていたのは、「機械的にできる部分は AI に任せ、人は代替のきかない部分に集中する」という考え方でした。ITbook 株式会社様は、コンサルタントの強みは最新情報の反映や複数の知見の統合といった思考にあると考えました。その前段にあたる「調達仕様書を読み、必須項目を整理し、提案のドラフトを組む」工程をいかに短縮できるかが、解決したいテーマでした。
この課題に対し、当初は社内プロセスの整備で対処するか、生成 AI を活用するかが議論されました。検証を進める中で、評価基準と提案内容を突き合わせて構造化する作業は生成 AI が得意とする領域であり、十分な品質が見込めると判断したことから、Amazon Bedrock を採用する方向に至りました。AIMS(ISO/IEC 42001)を取得し AI ガバナンスを重視する同社にとって、データを学習に使わない形で基盤モデルを利用できる Amazon Bedrock は、自治体の機微な情報を扱う上でも安心して採用できる選択肢でした。
ソリューションの概要
構築したシステムは、社内で利用している提案書作成支援システムです。提案担当のコンサルタントや営業担当者が、公共機関向け提案の初期フェーズで利用します。
利用者はまず提案の概要を入力し、続いて提案依頼書・調達仕様書・評価基準書・提案書作成要領などの資料をアップロードします。システムはこれらの資料を生成 AI で読み解き、 提案依頼書 の概要(背景・課題)、提案に含めるべき提案項目、採点基準(必須・加点)、遵守すべき制約条件を抽出して画面に整理します。抽出結果は人が確認・編集できるようになっており、調整が必要な箇所はその場で編集できます。
図2:抽出した提案項目一覧
整理された情報をもとに、システムは提案書のアウトラインを生成します。これは目次ではなく、各章で何をどの目的で書くかを示した、生成 AI 向けの指示書です。利用者がアウトラインを確認・調整したうえで本文生成を実行すると、章ごと、あるいは全章の提案書ドラフトが生成されます。一連の流れには人が確認・修正を挟む Human-in-the-loop の設計が貫かれており、生成結果をそのまま使うのではなく、人が記載内容を確認・修正して仕上げていける構成になっています。
図3:生成した提案書のアウトライン
ソリューションの構成
システムは AWS 上で構築されており、提案書の生成エンジンとして Amazon Bedrock を中心に据えています。アップロードされた提案資料は Amazon S3 に保存され、提案書生成時に生成 AI へ直接渡されます。一方、過去の提案内容や都道府県のガイドラインといった参照知識は、これらの提案資料とは別にナレッジとして登録し、Amazon OpenSearch Service を用いた検索基盤を通じて本文生成時に参照します。利用者は、どのナレッジを使うか、いつの時点の資料を参照するかを選択でき、古くなった情報を除外する運用も行えます。
このシステムの技術的な要点は、提案書生成の処理を一つにまとめず、役割ごとに分割した点にあります。 提案依頼書から、いきなり本文を生成するのではなく、まず「提案書を生成するために必要な情報の抽出」を行い、その結果をもとにアウトライン作成、本文生成へと段階を踏みます。本文生成では、Amazon Bedrock AgentCore Runtime と Amazon Bedrock AgentCore Gateway を用いたナレッジ検索ツールを組み合わせ、ディープリサーチのように必要な情報を追加で検索しながら本文を生成する、エージェント型の構成を採用しています。
図4:システム構成
処理を分けたことは、品質とコストの両立にもつながりました。提案依頼書の概要抽出や提案項目の抽出といった比較的単純な工程には軽量なモデルを割り当ててコストを抑え、最も思考力が求められる本文生成にコストを集中させる設計です。基盤モデルには Amazon Bedrock 上の Anthropic の AI モデル Claude を中心に用いて、用途に応じて軽量なモデルも使い分けています。ドキュメントの取り込みでは、抽出結果をマークダウン形式に整えることで後続処理の精度を高める工夫も取り入れました。
開発を通じて得られた学びは、「必要な情報さえ正しく抽出できれば、出力品質はある程度担保できる」という見立てでした。だからこそ、元データから必要な要素を取り出す工程を丁寧に設計しました。この部分は軽量なモデルでも実現できることを検証したうえで進めています。
導入効果:十日分の作業が半日に、思考に使える時間が二倍以上に
導入の効果は、提案書作成のリードタイムに明確に表れました。従来、提案書の骨子を作成するのに約十日を要していた作業が、半日程度で完了するようになりました。
時間が生まれたことで、コンサルタントが本来注力すべき思考の工程に充てられる日数が増えました。従来は付加価値を高める検討に平均二日程度しか取れていなかったところ、平均五日以上と二倍以上の時間を確保できるようになりました。「本質的でない部分はデータや AI に任せ、代替のきかない部分に集中する」という同社の狙いが、実際の業務で形になりました。
品質面でも効果が表れています。評価基準で求められる必須項目や加点項目を、限られた時間の中でも確実に押さえられるようになり、提案書の品質を組織として安定的に担保できる状態に近づきました。これまで個人の経験に依存しやすかった準備工程も、システムによる抽出と編集機能によって組織の標準プロセスとして底上げされています。
今後の展開
ITbook 株式会社様は2026年6月時点で本システムを社内でトライアル的に利用しながら改善を進める段階にあります。今後は、性能改善に加え、管理機能の整備を進める計画です。
適用範囲の拡大も視野に入れています。本システムは公共機関向けに作られていますが、提案書作成は民間企業でも共通するため、段階的に適用範囲を広げていく構想があります。さらに将来的には、提案する側だけでなく、自治体職員が調達仕様書を作成する作業の支援にまで広げることを最終的な目標として描いています。
お客様の声
ITbook株式会社 代表取締役社長 宇田川 燿平 氏からは、以下のようなコメントをいただいています。
「国や自治体の調達仕様書から提案書を生成する受注者支援に加え、将来的には調達仕様書そのものの作成支援にも活用予定です。コンサルタントは付加価値の高い業務に集中でき、生成 AI を起点としたコンサルティングの新しいビジネスモデルへの転換を推進します。」
まとめ
ITbook 株式会社様の取り組みは、生成 AI を人の仕事をそのまま代替する道具としてではなく、人が考える時間を生み出すための基盤として業務に組み込んだ事例です。Amazon Bedrock を中心に、処理を役割ごとに分割し、Human-in-the-loop で人の判断を残す設計によって、提案書作成のリードタイムを短縮しつつ、品質を組織として底上げすることを両立しました。AIMS を取得し AI ガバナンスを重視する同社にとって、データを学習に使わない形で基盤モデルを利用できる点も、安心して全社的な活用へ踏み出す後押しになっています。コンサルティング会社が AI ネイティブな働き方を模索するうえで、一つの参考になれば幸いです。
Amazon Bedrock の詳細については Amazon Bedrock のサービスページを、エージェント開発については Amazon Bedrock AgentCoreのサービスページ をご覧ください。
なお、本ブログで記載する開発は、ITbook 株式会社様とAWS 上での AI エージェント開発に知見を持つアクロクエストテクノロジー株式会社様(以下、アクロクエスト)が協業して推進しました。ITbook 株式会社様が業務要件と品質基準を定義し、アクロクエスト様が実装を担う役割分担で、2026年1月に開発を開始しました。
アカウントマネージャー 尾形龍太郎



