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統合、モダナイズ、変革:現代の小売業におけるエッジコンピューティング

この記事は「Consolidate, modernize, transform: Edge computing for modern retail」(記事公開日:2025 年 9 月 10 日)の翻訳記事です。

現在、小売業者は「計画的な資本投資を維持しながらインフラストラクチャをモダナイズする」という圧力の高まりに直面しています。お客様との対話から、一貫して3つのテーマが浮かび上がってきています。高額な店舗サーバーを統合する必要性、クラウドとエッジ全体で統一されたアーキテクチャを確立したいという要望、そして高度な店舗内アプリケーションをサポートする緊急性です。企業は、店舗を次世代の小売体験を提供できるインテリジェントなハブに変革しようとしていますが、既存のインフラストラクチャでこの取り組みをどのように始めればよいか苦慮していることがよくあります。本記事では、小売業者がエッジコンピューティングを活用して、既存の投資を最大限に活用しながらインフラストラクチャを統合し、統一されたクラウド-エッジアーキテクチャの確立を経て、次世代の店舗アプリケーションを実現する方法について説明します。

エッジコンピューティングのビジネスケース

エッジコンピューティングは、クラウドネイティブな機能を店舗に提供することで、小売業者がインフラストラクチャを統合し、コストを削減し、高度なアプリケーションへの変革できるようサポートします。IDC によると、2028 年までに小売業者の 30% が AI チップを搭載した分散エッジコンピューティングを活用することで、店舗の IT コストを 10% 削減し、レイテンシーを低減し、IT 運用パフォーマンスを向上させるとされています。
予測可能な数値を見てみましょう。最新のエッジコンピューティングソリューションを使用することで、小売業者は以下を実現できます:

  • 新しい店舗機能とアプリケーションのデプロイが 70% 高速化
  • サーバー統合による IT コストの 10% 削減
  • レイテンシーが 60% 向上し、アプリケーションパフォーマンスが向上
  • 一元管理によるセキュリティとコンプライアンスの強化
  • レジリエンス、データ管理、ディザスタリカバリの改善

ビジネス価値を推進する主要ユースケース

エッジコンピューティングは、実店舗の運営に即座に価値をもたらす 3 つの変革的な機能を実現します:

店舗サーバーの統合

多くの小売業者は、異なるアプリケーション(POS、在庫管理、セキュリティなど)のために、店舗ごとに 3〜5 台の個別サーバーを維持しています。Amazon EKS Hybrid Nodes を使用することで、小売業者はこれらのワークロードを単一のモダンなエッジプラットフォームに統合できます。例えば、AWS パートナーの Spectro Cloud は、あるグローバルコーヒーチェーンが店舗サーバーのフットプリントを 60% 削減し、アプリケーションパフォーマンスを向上させ、管理の複雑さを軽減することを支援しています。この統合により、通常 10〜15% のコスト削減を実現しながら、将来のイノベーションの基盤を提供します。

モダンな POS(販売時点情報管理)システム

従来の POS システムは、専用ハードウェアと複雑なネットワークを必要とすることが多くありました。エッジコンピューティングを使用することで、小売業者は EKS Hybrid Nodes 上で実行されるコンテナ化されたアプリケーションを使用して、POS インフラストラクチャをモダナイズできます。AWS パートナーの Artisan Studios は、米国のクイックサービスレストランがクラウドネイティブ POS ソリューションをデプロイし、ハードウェアコストを 40% 削減しながら、アップデートの高速化と信頼性の向上を実現することを支援しました。このソリューションは、オフライン運用やリアルタイム在庫更新などの高度な機能もサポートします。

高度な店舗内アプリケーション

エッジコンピューティングは、コンピュータビジョン、IoT、AI/ML ワークロードを含む次世代小売アプリケーションの基盤を提供します。小売業者は、クラウドサービスとのシームレスな統合を維持しながら、これらのワークロードをエッジで効率的に実行できます。例えば、小売業者は在庫モニタリングのためにリアルタイムで動画を処理し、IoT センサーで環境制御を行い、パーソナライズされた顧客体験のために AI モデルを実行できます。これらすべてが単一で統一されたコントロールプレーンを通じて管理されます。Gartner によると、これにより小売業者は、単一のデジタルエクスペリエンスを通じて店舗データ、運用インテリジェンス、アプリケーションを統合した従業員向けの「スーパーアプリ」をデプロイできます。例えば、GameStop は、すべての店舗、配送センター、本社の拠点にわたってタスクとコミュニケーションを統合する「現場従業員向けのスーパーアプリ」を使用しています。監査作業、ロス削減、従業員エンゲージメントにおいて測定可能な改善を実現し、より良い意思決定のためのリアルタイム分析を可能にしました。

AWS は、小売業者が Amazon EKS Hybrid Nodes に基づいたモダンなエッジコンピューティングプラットフォームを設計、および実装するための詳細なアーキテクチャガイダンスを提供しており、クラウドとエッジ環境全体で Kubernetes ワークロードの統一された管理を可能にします。さらに、軽量モデルとコンテナを使い小売拠点で AI および生成 AI 機能を活用するためのガイダンスも提供しており、お客様が実店舗に高度で革新的な機能をデプロイできるよう支援しています。AWS のリファレンスアーキテクチャと実装パターンは、ネットワーク接続、セキュリティ、可観測性、アプリケーションライフサイクル管理などの重要な考慮事項をカバーしています。各リファレンスアーキテクチャには、POS、在庫管理、コンピュータビジョンアプリケーションなどの小売ワークロード向けの具体的なガイダンスが含まれています。検証済みのパートナーソリューションと AWS Professional Services の専門知識を通じて、既存のアプリケーションと将来の小売イノベーションの両方をサポートできる、スケーラブルでレジリエントなエッジアーキテクチャを作成するための規範的なガイダンスを提供します。

図1 – AWS における小売業向けエッジコンピューティングのガイダンス

図2 – AWS におけるエッジでのAIのガイダンス

戦略的実装の考慮事項

ビジネスリーダーがエッジコンピューティングの導入を開始する際、成功への鍵は、3 つのフェーズを中心とした実用的で体系的なアプローチから始めることです:

評価:まず、現在の店舗テクノロジー環境をマッピングし、統合とモダナイゼーションの機会を特定します。Spectro Cloud の評価フレームワークは、小売業者が既存のインフラストラクチャ、アプリケーション要件、運用プロセスを評価し、明確なモダナイゼーションロードマップを作成するのに役立ちます。

実装:ニーズに最適なアプローチを選択します。新規店舗の場合、Spectro Cloud は AWS サービスとシームレスに統合される完全なエッジプラットフォームを提供します。既存の店舗の場合、Artisan Studios は、ビジネスの継続性を維持しながら、小売業者がインフラストラクチャを段階的にモダナイズすることを専門としています。多くの成功している顧客は、新規店舗では本格的なソリューションを実装し、既存店舗では段階的にアップグレードするハイブリッドアプローチを選択しています。

投資戦略:短期的な価値と長期的な変革目標のバランスを取ります。店舗ごとのデプロイメントモデルにより、組織はそれぞれの店舗での導入から得られる知見を活かしながら、支出を効果的に管理できます。Spectro Cloud と Artisan Studios の両社は、コストと価値実現を一致させる柔軟な消費モデルを提供しています。

AWSとともに進む道

AWS は、エッジコンピューティングへの各組織の道のりが各社により異なることを理解しています。ご紹介したアプローチは、ビジネスリーダーにとって重要な実用的な考慮事項を示しています:すなわち、初期資本要件の最小化、既存投資の最大化、そしてソリューションが効率的にスケールできることの保証、です。

Amazon EKS Hybrid Nodes はエッジコンピューティングにおける画期的な進歩をもたらし、小売業者は既存のオンプレミスのインフラストラクチャを Amazon EKS クラスターのノードとして使用できます。これにより、クラウドとエッジ環境全体で統一された Kubernetes 管理が実現し、その運用が大幅に簡素化されコストが削減されます。

エッジコンピューティングの導入を加速するために、AWS は以下を提供しています:

次のステップ

エッジコンピューティングは、イノベーションから必須要素へと進化しました。AWS の包括的なサービスとパートナーソリューションにより、大規模な資本投資や専門知識を必要とせずに、店舗の変革を開始できます。IDC が予測するように、「2026 年までに、小売ツールの 90% が AI アルゴリズムを組み込むようになる」でしょう。こんにち、堅牢なエッジコンピューティングインフラストラクチャを確立する小売業者は、これらの次世代アプリケーションを活用するための独自の立場に立つことができます。

競合他社に先を越されないようにしましょう。今すぐ AWS 担当者に連絡して、ディスカバリーセッションをスケジュールし、店舗でエッジコンピューティングの力を引き出す方法をご確認ください。小売業の未来は、インテリジェントで、レスポンシブで、エッジによって支えられています。変革をリードする準備はできていますか?

その他のリソース:

著者について

Justin Swagler

Justin Swagler は、AWS のワールドワイド実店舗小売責任者として、実店舗小売のグローバル戦略とThought Leadership を統括しています。Justin は、消費財、小売、戦略分野において 15 年以上の経験を持ち、イノベーション戦略、小売オペレーション、製品開発、エグゼクティブリーダーシップにわたる専門知識を有しています。組織が戦略的にイノベーションを起こし、消費者体験を再発明することを支援することに情熱を注いでいます。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で学士号を、ケロッグ経営大学院で MBA を取得しています。

Jacob Cravinho

Jacob Cravinho は、AWS のエンタープライズソリューションアーキテクトです。小売業界に焦点を当てたソフトウェアエンジニアリングのバックグラウンドを持っています。チャレンジを楽しみ、常に次の素晴らしい食事を探求しています。

Leland Johnson

Leland Johnson は、旅行・ホスピタリティ分野を担当する AWS のシニアソリューションアーキテクトです。ソリューションアーキテクトとして、スケーラブルで安全なクラウドソリューションを設計することで、お客様のクラウドジャーニーをガイドする重要な役割を果たしています。仕事以外では、音楽演奏や軽飛行機の操縦を楽しんでいます。

Will Strye

Will Strye は、小売・消費財分野を担当する AWS のシニアソリューションアーキテクトです。ソリューションアーキテクトとして、小売業界のリーダーと協力して革新的なクラウドソリューションをアーキテクトし、顧客体験を向上させ、ビジネス変革を推進するスケーラブルでレジリエントな設計を提供するとともに、テクノロジーの未来に関する戦略的ガイダンスを提供しています。仕事以外では、アート、音楽、執筆を楽しんでいます。

本ブログはソリューションアーキテクトの羽生田が翻訳しました。原文はこちらです。