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【寄稿】 株式会社ジャパン・インフォレックス様 : 食品業界最大の商品マスター刷新事例と、AI 時代の新たな価値創造を支えるシステムリフォーム
はじめに
株式会社ジャパン・インフォレックス(以下、ジャパン・インフォレックス)は、食品業界のメーカーと卸売り等の取引先の間に立つ企業である。同社は240 万件を超える商品マスターを業界標準に基づき一元管理して提供する業界最大のデータベースセンターを保持している。このデータベースは、8,000 社超のメーカーが直接登録するデータと、大手食品卸が代行登録する共有データの 2 種類のデータで構成されている。ジャパン・インフォレックスは、食品卸売業の商品マスターセンターとして業界の標準化と合理化に貢献し、流通 BMS (流通ビジネスメッセージ標準) に準拠した共通 EDI システムで流通デジタル化の推進を担っている。本ブログではジャパン・インフォレックスが実施した商品マスター刷新事例の概要と、その中でどのように AWS が活用されているかを紹介する。
背景と新システムのコンセプト
関係会社と共有している現行システムは、稼働開始から 20 年以上が経過しており、これまで度重なる改修を行ってきた結果、その限界が顕在化してきていた。根本となるアーキテクチャ設計は 30 年以上前のものであり外部環境に適合しづらく、複雑化したシステムはブラックボックスになりメンテナンスに多大な労力とコストがかかっていた。食品業界全体で「デジタル化」が進むなかで、環境の変化に柔軟に対応し、安定した事業基盤を構築することが急務であった。従来のレガシーシステムを脱却し「業務効率化」「データ精度の向上」に加え新たなニーズへ対応し、商品マスターの機能・サービスの強化を図るために、現行システムの再構築が必要であった。
新システムへの刷新にあたって、以下の4点を基本コンセプトとして検討した。
- 持続性のあるシステム基盤に移行
HW・OSの保守終了(EOL)に備え、長期的に安定稼働できる基盤と保守体制を構築する。また多様な利用ユーザーの拡大や、多種な通信プロトコルやネットワークへの対応を見据えたシステム基盤を整備する。 - 保守性の高いアプリケーションに移行
レガシー開発言語を廃止し、機能改善によるセキュリティ強化をする。 - 利用ユーザーの利便性向上
関係会社と共有するシステムは機能改修時の障壁となるため、機能配置によるサービス独立性の確保をする。また、個別最適化したシステムではなく標準・共通化したサービスを提供する。 - デジタル化に備えて新技術を採用
業務の運用負荷や、マスタ項目拡充に向けたメンテナンス負荷を下げるために、業務生産性向上と拡張性を確保する。
ソリューションの概要
新システムの基本コンセプトを実現するにあたり AWS へのシステム移行を決定した。常務取締役 情報システム部の我妻部長によると「AWS を選定した理由は、①インフラとしての堅牢性が高く、②セキュリティ対策も充実している。GuardDuty、Security Hub などのサービスがある。また、③連携パートナーが多いことも決め手となった」とのことである。
商品マスター管理システムは、IBM AIX 上で稼働しており、Micro Focus COBOL や、KornShell などレガシーなシステムとなっていた。また、対象システムは100万ステップ近くのプログラムとなっており、まずは老朽化したシステムのクラウド化への移行を優先し、その後次期システム構想に向けたモダナイゼーションを実施することとした。AWS 上のシステム構成としては、Amazon EC2(Windows Server 2019)、Amazon RDS for Oracle(Oracle 19c)を中心にしつつ、KornShell から PowerShell への変更、Micro Focus COBOL の新バージョン対応、Oracle 9i からOracle 19c への対応など古い資産の改善も図った。
・移行元、移行先の環境
プロジェクトは複数のベンダーで構成され、エスカレーションルートを明確にして全ての情報を共有できる仕組みを整えた。また、我妻部長は、「AWS の知見が全くないところからこのプロジェクトが始まっている。AWS のソリューションアーキテクトの支援のおかげで、自分たちだけだと調査に半年かかっていたと思うが、1ヶ月程度で情報の整理ができた」と語っている。
その後、3日間にわたる開発資産や大容量データ・ファイルの移行作業において、課題発生時には迅速に対応し、タイムスケジュール内に完了した。その結果、無停止で切り替えを実現し、業務影響ゼロで本番稼働した。
ITインフラ領域を担った富士通株式会社の関根シニアマネージャーからは、「今回のプロジェクトは複数ベンダーでプロジェクトを進行したことで、技術的な検討や設計方針の調整が必要だった。しかし、AWS はサービスが豊富で、お客様の要件に合わせてカスタマイズしやすく、柔軟に対応することができた。特に Amazon RDSの利用は構築・運用面で大きなメリットがあった。」と語っている。
・システム構成図
導入効果と今後の展開
AWS 移行プロジェクトは1年半を要したが、確立されたプロセスおよび体制により、最終的にタイムスケジュール通りの完了を実現した。我妻部長は将来の構想として①意思決定のスピードを上げること、②コストを抑えながらシステムを高度化することの2点を重要なポイントとして語っている。今後は、5 年や 10 年に一度の大規模更新などは避け、継続的な小規模アップデートによる運用を重視する。段階的な改善により総コストを抑制する戦略を採用していく方針である。
今後の展開として技術面では、データベースの OSS 化、API Gateway や AWS Lambda などを活用したサーバーレス化も目指しており、運用コストを削減していく方針である。また、S3 などを活用しデータ活用を高度化し、ビジネス面でも付加価値を高められる仕組みも目指している。そのためには、自社でコントロール可能な範囲でシステムを開発・運用・維持管理できる必要があり、組織・人材面での技術力向上と自社開発能力の強化を進めている。すでに AWS 資格取得者の社員も複数名出てきており、今後更なるスキル向上を図っていく予定である。
ジャパン・インフォレックスが持つ商品マスターは、業界の基本情報だけでなく、品質情報や市場データなどを組み合わせ、より付加価値のある情報を提供していくことで、様々なニーズへ対応しながら強化を図っていく方針である。さらに、生成AI を活用していくことで新たなサービス創出の基盤となることも期待されている。
・ジャパン・インフォレックス様オフィスにて撮影 (ジャパン・インフォレックス様、富士通様、AWS)
まとめ
本ブログでは、ジャパン・インフォレックスで実施した商品マスター刷新事例と、その中で AWS がどのように活用されているかを紹介した。AWS を利用することで 30 年間使用したレガシーシステムからの移行を実現し、技術的な課題解決だけでなく、AI 時代に対応した新たな価値創造基盤の構築が可能になった。本ブログがシステム刷新を検討している皆様の参考になりましたら幸いです。
本ブログは、ジャパン・インフォレックス様、メインベンダーである富士通様、 AWS 中村達也が共同で執筆しました。
著者について
中村 達也(Nakamura Tatsuya)
SIerやWeb企業で経験を積んだ後、2019年よりAWSのソリューションアーキテクトとして従事。クラウド活用によるシステム移行や新技術でのイノベーション推進に携わる。現在はエンタープライズ企業の支援を担当し、AWSを最大限活用したデジタル化支援を行っている。


