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第一三共、AWSと連携しAIエージェント統合型創薬基盤の構築を開始 ー AI・クラウド・実験自動化技術の融合で次世代創薬研究プロセスを実現

第一三共株式会社(以下、第一三共)はAWSとの連携を強化し、AIエージェントシステムを統合した創薬研究基盤の構築を開始しました。第一三共は現在、AI・クラウド技術を実験自動化技術と融合した次世代の創薬研究プロセスを段階的に構築しており、2026年の運用開始を目指しています。

近年、AIと高品質なデータの融合が、創薬研究に変革をもたらしています。なかでも、注目されているのが、創薬研究プロセス全体をAIエージェントシステムで統合し、研究者の知的活動をサポートする創薬AIプラットフォームです。(※1)英ウェルカムトラストとボストンコンサルティンググループ(BCG)の調査レポート(※2)によると、従来の低分子創薬の領域では探索研究から前臨床試験に至る創薬プロセスでのAI活用により、創薬研究に必要な時間とコストを少なくとも25-50%削減できる可能性が示されています。さらに第一三共が近年強化しているバイオロジクス創薬(※3)の領域においても、大規模言語モデルを活用した創薬の効率化に期待が高まるなど、AI活用が製薬業界における次世代イノベーションの鍵として世界的に注目を集めています。

独自の研究データとAIを融合した次世代創薬プロセスを実現
第一三共では、創薬研究プロセス全体の変革に向けて、研究者が従来、手作業で実施していた医薬品候補物質に関する実験の自動化を進めています。研究機器をAWSクラウド上で統合し、実験プロセスをプログラムコード化することで、実験から生まれたデータとその詳細情報(メタデータ)を自動的に捉え、AWS上の研究データ基盤に保存します。これにより、高品質な研究データを大規模に創出することが可能となります。さらに、この独自の研究データとAIを効果的に活用することで、創薬プロセスにおける医薬品候補物質の設計・合成・評価・分析(Design-Make-Test-Analyze、DMTA)サイクルの大幅な加速を目指しています。

例えば、研究者が医薬品候補物質について実験の指示を出すと、AIエージェントが自律的に過去の研究データを参照して最適な実験を計画し、24時間365日、複数の自動化された研究機器を連携させながら実験を進め、データを保存します。この研究データを国際的に認められるFAIR原則(※4)に基づいて管理することで、研究者だけでなくAIエージェントも自律的にデータを活用できるようになります。

第一三共では2023年に、組織横断でクラウド活用を推進するため、研究部門とIT部門が協働してCloud Center of Excellence(CCoE)を立ち上げ、翌2024年には研究者自身がセルフサービス方式でAWS上のクラウド基盤を創薬研究に利用できる環境を整備しました。今回の取り組みでは、研究機器をAWSクラウド上で統合し、Amazon SageMaker Unified Studioを活用して、データメッシュアーキテクチャを採用した研究データ基盤を構築中です。データガバナンスポリシーに従い適切に管理・統制された環境において、AIエージェントを介したデータアクセスと活用を実現します。AIエージェントの開発には、生成AIアプリケーション構築のためのAmazon Bedrockを採用し、将来的な導入に向けてAmazon Bedrock AgentCore の検証も進めています。このように、AWSの多様なマネージドサービスを活用することで、創薬研究基盤におけるアジリティとスケーラビリティを高め、研究者がイノベーティブな活動に集中できる環境を実現します。

人材育成と組織変革で実現する持続的イノベーション
AWSは第一三共の持続的な創薬プロセス変革に向けた、人材育成とアジャイルな組織文化の醸成も支援しています。第一三共はAWS Professional Servicesの助言のもと、研究者自身がクラウドサービスやAI技術を学習しながら、創薬研究のデジタル変革を主導する体制を構築しています。さらに、クラウド・AIを活用した複数のアジャイル研究チームが共通のビジョンと価値創出に向けて連携しやすいよう、プロダクトマネジメントオフィス(PdMO)を設置するなど、組織面における変革にもチャレンジしています。今後も第一三共はAWSとの連携を深化させ、技術面と組織文化の両面から変革加速を支援することで、「革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供する」という同社ミッションの実現に向けて取り組みを加速します。

※1 日本政府 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2025.pdf

※2 ウェルカムトラスト・ボストンコンサルティンググループ(BCG)署 「Unlocking the potential of AI in Drug Discovery」2023年、6ページ
https://web-assets.bcg.com/86/e5/19d29e2246c7935e179db8257dd5/unlocking-the-potential-of-ai-in-drug-discovery-vf.pdf

※3バイオロジクス創薬:遺伝子、タンパク質、細胞といった生体由来の物質や生物の機能を利用し、医薬品を開発する創薬研究プロセス。従来の化学合成された小さな分子を用いて病気の原因となるタンパク質などの標的に作用する低分子医薬品では対応が難しかった複雑な疾患メカニズムに対応でき、特異性が高く副作用の少ない治療法を実現できる可能性があると期待されている

※4 FAIR原則:研究データを「Findable(見つけられる)」「Accessible(アクセスできる)」「Interoperable(相互運用できる)」「Reusable(再利用できる)」にするための国際的な指針