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AWS Snowcone を使用して、Deluxe でグローバルな劇場同日配信が可能に



Deluxe Entertainment Services Inc.(Deluxe) は、メディアとエンターテインメント市場にグローバルなエンドツーエンドのサービスとテクノロジーを提供している、世界を代表する動画作成および配信企業です。世界でも最大級のコンテンツクリエーター、放送局、OTT、ディストリビューターが Deluxe のスケーリング、テクノロジー、機能に依存し、プレミアムコンテンツの世界市場を実現しています。

Deluxe がエッジコンピューティング、データストレージ、転送に AWS Snowcone を活用した新しいクラウドベースの IP コンテンツ配信ソリューションである One VZN を開始したことで、最新の劇場配信を体験できるようになりました。Snowcone はポータブルで高い耐久性を持つセキュアなエッジコンピューティングおよびデータ転送デバイスで、AWS Snow ファミリーの中でも最小です。さらに One VZN は他の AWSのサービスも使って、大手の映画製作スタジオや独立したコンテンツを世界の映画館や興行主に迅速かつ安全に配信しています。One VZN は専用ネットワークを劇場に構築することで、完全に AWS のクラウドベースの管理および配信システムをデジタルシネマパッケージ (DCP) に提供します。このため Deluxe は劇場のエンドポイントで Snowcones に DCP を衛星を介して直接配布するため、ハードドライブを必要としません。

One VZN は、メディアサプライチェーンを統合する同社の主力クラウドベースソリューションである Deluxe One プラットフォームの拡張機能です。One VZN は Deluxe の 100 年を超える経験を活かし、メディアやエンターテイメント業界に高品質で信頼性の高い劇場公開サービスを提供しています。今回更新したプラットフォームは、Deluxe が今後も劇場コンテンツ配信への投資を継続し、消費者を映画館に戻ってきてもらうためのサポートを行うという決断を表しているものと言えるでしょう。

このブログでは、映画業界の技術的変革について、そしてなぜ進化が必要なのかについて解説します。One VZN、AWS Snowcone、AWS DataSync を使ってコンテンツをエッジに効率的に移行し、グローバルな劇場同日配信を可能にする必要性についても説明します。

背景

1915 年以来、Deluxe はエンターテインメント業界のよりどころとして、劇場での鑑賞および配信サービスを提供してきました。2000 年代初頭には DCP(予告編や広告などの機能と補助的なアセットパッケージ)を採用し、重要な節目の時期となりました。この頃、世界の劇場の 95%(米国では 5,500 軒以上、世界では 20,000 軒以上の劇場)に DCP を配信し、昔ながらのフィルムからデジタルへと業界を移行させました。

現在では、衛星、または Deluxe から劇場に送られるハードドライブを介して配信しています。年を経るにつれ、劇場チェーンと映画製作スタジオは要求が厳しい消費者市場に対応できる機能を拡大するためにも、衛星ベースからクラウドでの配信方法を望むようになりました。

Deluxe の One VZN は、興行主にクラウドベースの IP 配信をするという、業界初かつ大規模な革新を起こしました。更新したプラットフォームは問題を解決するのみならず、観客の新しい劇場体験に新たなメリットとサポートを提供しています。

なぜ進化が必要なのか?

過去 10 年にわたって、衛星回線が数多くの問題を解決しました。しかし、衛星はこうした課題のあるユースケースにおいて問題解決能力の限界に達しています。そのため、スケーラビリティ、コスト効率、アクセシビリティに関する課題が生まれています。巨大な資本支出を必要とする衛星による送信は、これらのコストが長期間にわたって償却されるため、革新のスピードが遅くなります。加えて、衛星送信のワークフローの現状は時代遅れになっています。つまり、増加の一途をたどるストリーミングの世界で、観客の心を引き付ける代替コンテンツを提供するような劇場体験を革新していくには障害となっているのです。しかしながら今日、こうした制限はもはや障害とは言えません。

特に映画製作スタジオや興行主は、Deluxe と連携してこれらの課題の多くを克服し、特定の改善を適用してさらなるメリットを追求しようと考えました。スタジオは著作権侵害やコンテンツの事前漏洩といったリスクを軽減するために、劇場でのメイン上映作品の未公開からグローバルなリリースまでの時間を短縮したいのです。スタジオと興行主は、コンテンツ配信ウィンドウとインフラストラクチャストレージの制約から生じる予期せぬイベントに対応するのに苦労し、「直前での予約」を追加すれば生まれる収益増加の可能性を制限していました。 興行主は、衛星ベースシステムでの IP ネットワークの調達と管理に苦戦してきました。よく見られる障壁としては、新しい IP ベー​​スのソリューションの採用を遅らせているコストと複雑さが挙げられます。興行主は、コンテンツを受け取ってロックを解除するもっと簡単な方法も模索していました。最後に、興行主は分析ツールを使って製品リリースの長期的なパフォーマンス評価ができず、コンテンツへの需要が増えても予約を調整することができませんでした。

障害はどんどん大きくなっていき、業界に望ましい利益と成果を確実に達成するには、新しいプラットフォームが必要な状態でした。こうした状況が One VZN の基礎にあり、Deluxe One が持つサプライチェーンの長い歴史と豊富な経験を AWS のパワーおよび柔軟性に組み合わせ、新しいアーキテクチャが生まれたのです。Deluxe と AWS の組み合わせは、常時稼働していても効率的ではないサービスモデルではなく、変革をリードする伸縮拡張型の消費モデルによりクラウドコンテンツを集約しています。

サーバーレス設計とアーキテクチャ

One VZN は主要な設計パターンに基づいて、クラウドネイティブのサーバーレスアーキテクチャを使用してコンテンツをエッジに移動し、スタック全体の信頼性、パフォーマンス、セキュリティを推進かつ最適化しています。

ビジネスプロセスとしてのデジタルシネマ配信では、コンテンツを常にターゲットロケーションへ配信できる必要があります。プライマリパスが冗長であっても、転送エラーのシナリオには常にバックアップが必要です。従来、こうしたシナリオは、冗長な配信メカニズムが失敗した可能性があるユースケースで、物理メディアを配信できる場合において発生していました。衛星をインターネットベースの配信に置き換えることを考えると、冗長なパスや管理する回路が最初に対処すべき課題でした。既存の配信モデルに合わせて、ネットワークまたはコンポーネントで障害が発生した場合に、別のデバイスでコンテンツを安全に送信する機能もサポートする必要があります。加えて、配信システムは、サプライチェーンやストレージパイプラインなどの上流のサービスに依存せずに動作できる必要があります。基本的に、配信チェーンに影響を与えるシナリオに関係なく、配信を行う必要があります。

One VZN システムの中核かつ指針となる設計原則 の 1 つに、既存の Deluxe One プラットフォームとエコシステムに効率的に結合して、エッジへのコンテンツ配信を提供することがありました。もう 1 つの原則は、プラットフォームが複雑なアーキテクチャを最小限使用して、完全に独立して機能できるようにすることでした。アーキテクチャ全体の複雑さを解消し、バックエンドシステムを完全に分離することで、ワークフロー全体で起こる障害状況に対応する TechOps と DevOps のサポート要件を含めたメンテナンスとコードの複雑性も軽減されます。

要するに、衛星通信サービスで一般的に見られるのと同じ設計アプローチを採用して、信頼性の高い生産グレードの流通システムのモデルを採用する必要があったのです。

こうした課題に対処するため、3 つの主要な設計を決定し、一貫性があり、信頼性が高く、タイムリーで、かつメンテナンスを必要としない配信を行うことにしました。

Deluxe One プラットフォームインフラストラクチャ

第 1 に、厳しい SLA の下でコンテンツを配信できる機能が最も重要です。One VZN は Deluxe One マイクロサービスインフラストラクチャを活用して、配信メカニズムが他のサプライチェーンと同じ程度の耐障害性をサポートするようにします。グローバル市場全体にサービスを同日リリースで提供できる規模とサイズで、システムを介してコンテンツを配信することが課題の 1 つでした。これは、Amazon S3 を配信パッケージのマニフェストファイルと組み合わせて使用​​し、パターンを使って対応および回復する機能を備えたインフラストラクチャをイベントベースにすることで解決しました。このようなパターンには、配信不能キューとインテリジェントな再試行メカニズムが含まれます。同様に、上流のサプライチェーンへの配信の「ループを閉じる」には、イベントベースのメカニズムを使用します。このメカニズムは Amazon CloudWatch EventsLambda 関数で構成され、サプライチェーンにリンクした SQS キューに配信メトリクスを送信します。

第 2 に、One VZN ではすべてのサービスコンポーネントに対して、サーバーレスインフラストラクチャモデルをそのまま採用しています。サーバーレスモデルにより、オペレーティングシステムの管理、ダウンタイムのスケジューリング、セキュリティパッチおよび関連するメンテナンスタスクの実行の必要がなくなります。このモデルではコンテンツを Lambda 関数で読み込みまたは操作できないため、コンテンツをエッジに移動するためのセキュリティ要件を簡素化する上で重要です。特定の AWS データ移動サービスのみがコンテンツにアクセスでき、AWS IAM ポリシーと AWS CloudTrail ログによって厳しく制御されます。AWS DataSync を使って、S3 コンテンツソースバケットから Snowcone デバイスを実行しているターゲットエッジロケーションに配信コンテンツを転送します。Lambda は接着剤および決定ロジックとして機能し、マニフェストを検証したり、DataSync のジョブを設定したり、Snowcone デバイスに配信するコンテンツを準備したりします。

第 3 に、イベントベースのコントラクトの概念を介してシステムを動かして、データのエッジへの移動を容易にすることで、データベースとストレージ管理を排除することにしました。これは、構造化マニフェストサイドカーファイルを使用して行いました。コンテンツの配信、および配信ステータスとメトリクスの受信は、基本的に一方向のデータ転送パターンであるため、S3 と配信マニフェストは永続化レイヤーとして効果的に使用できます。マニフェスト受信の単一のバケットイベントは、DataSync の場所(Snowcones に関連付けられている)を検証し DataSync でコンテンツを準備するイベントパイプラインを作動させます。シングルバケットイベントはフィールド内のデバイスから返されるメトリクスを集約して、エンドツーエンドの配信ループを閉じます。配信は一時的で、サプライチェーンシステムとデータベース層の上流で状態を追跡します。このアプローチにより、サービスで障害状態が発生した場合に、コンテンツを手動で配信することが可能となります。人間のオペレーターは配信マニフェストを作成して配信を送信し、S3 コンテンツ配信バケットに配信をアップロードするだけです。

エッジへの配信

AWS Snowcone は Deluxe One VZN がコンテンツを安全かつ迅速にデジタルシネマエッジネットワークに移動できるようにする際に重要な役割を果たします。DataSync と組み合わせて Snowcone デバイスにカスタム AMI をパッケージ化しデプロイする機能は、下流のストレージおよび制御サービスとのやり取りのためのカスタマイズ処理が必要なエッジロケーションに、コンテンツを移動する強力なソリューションです。

Snowcone デバイスは、環境に堅牢で、カスタマイズ可能かつセキュアで、プログラムによる配信が可能なソリューションです。Deluxe はこれらのデバイスで、One VZN 仮想ネットワークをエッジシネマロケーション施設に拡張できるようになりました。

Snowcone のカスタム AMI 機能を使用して、サービスをベイクし、Snowcone のデプロイに含めるためのカスタム AMI の構築とスナップショットを自動化することができました。このため、Snowcone のリモートロック解除モデルを使用したセキュアな配送を通じて、ソフトウェアの改ざん防止が可能になりました。さらに、EC2 を使用してモックデプロイを簡単に構築およびテストすることも可能になりました。

カスタム AMI を実行できるため、独自のロジックを使って状態を保存し、DataSync 配信を同期する必要もなくなりました。DCP からエッジへの配信モデルでは、Snowcone AMI で実行中のカスタムサービスが定期的に DataSync をチェックし、Snowcone の DataSync エージェントに一致する配信を探します。ローカルストレージのサブシステムにアクセスできるため、ターゲットデバイスとローカルデバイスのコンテンツを比較できます。この機能により、Snowcone が劇場に配信される前に、コンテンツを Deluxe の施設で事前にロードできます。これは、施設をオンラインに戻す、または高速な応答時間で冗長性を提供するために重要な要件です。

配信の柔軟性は、帯域幅と容量のオプションがそれぞれ異なる数千のエッジロケーションにコンテンツを正常に配信する際に重要な役割を果たします。DataSync によってカスタム配信サービスを構築する必要なくなり、フルマネージドサービスであるだけでなく多くの利点を提供してくれたおかげで、この課題を解決することができるようになりました。1 つ目は、コンテンツを S3 から供給し、下流の SMB、FTP、その他のプロトコルストアの Snowcone ストレージに直接転送して、転送配信メカニズムを実現します。2 つ目に、コンテンツへのアクセスとデータの移動を DataSync が完全に制御します。Lambda コードは DCP パッケージにアクセスできないため、これはセキュリティの観点から見ても重要です。IAM ロールと認証情報は、ゼロタッチコンテンツアクセス用に限定および最適化できます。3 つ目に、DataSync には、データのフィルタリング、排他/包含、暗号化、配信中および到着後の整合性検証、イベント/ログ記録オプションの包括的なセットがあります。このため、配信パイプラインを流れるコンテンツを操作するのに必要な Lambda 関数の複雑さを簡素化し、手動操作が必要ない完全に自動化されたサービスを実装できました。最後に、DataSync の機能をいくつか利用することで、ネットワーク転送を最適化することができました。たとえば、転送障害からの回復、エッジロケーションの固定帯域幅と容量の各配信タスクでの調整、順序付けした FIFO キューでの配信などの機能です。

Snowcone ベースでの配信とシンコントロールレイヤーを組み合わせることで、エッジエンジニアリングの作業が小規模なエンジニアリングチームがサポートするサービス 1 つにまで削減できました。この結果、従来の衛星エッジ配信レシーバーでよく見られる、差別化につながらない複雑な重労働を完全に排除しています。

まとめ

Deluxe One VZN は劇場向けコンテンツ配信のクラウドへの移行の枠を超えて、業界をすっかり変革しました。このプラットフォームは、AWS と Echostar の大規模な戦略的パートナーシップに加え、Deluxe が残した大きな業績を含んでいます。One VZN は次世代の配信ネットワークとしてクラウドフレームワークを採用し、システムとプラットフォームアーキテクチャの進化を通じてビジネスプロセスを最適化します。One VZN は AWS Snowcone、AWS DataSync、そして最も重要な Amazon S3 が組み合わさっています。この集合体は、今日の他のクラウドサービスの先を行くサービスです。

このサービスで AWS とコラボレーションを行うことは、Deluxe のクラウド戦略と、配信ワークロードとサービスのすべてをクラウドに移行する取り組みにおける抜本的な補強、かつ大きな前進でもあります。Deluxe のソリューションは、新作リリース、バックカタログ、レパートリーコンテンツからライブイベントに至るまで、世界中で劇場体験を可能にする技術の進歩を凝縮しています。Deluxe の強力な Deluxe One プラットフォームを備えたセキュアかつコンパクトな Snowcone デバイスは、業界でも他とは一線を画したソリューションです。この Deluxe One 拡張プラットフォームは、世界中の興行主やスタジオの映画配給の経済性を変えるだけにとどまらず、観客にも新たな劇場体験を提供しています。

このブログを読んでいただき、ありがとうございました。Deluxe が AWS Snowcone を使用してグローバルで同日劇場配信を実現する方法について学んでいただけたことと思います。詳細については、こちらの動画をご覧ください。