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Amazon FSx for NetApp ONTAP の IT チャージバックモデルの設計

このブログは Virgil Ennes(シニアスペシャリストソリューションアーキテクト)によって執筆された内容を日本語化したものです。原文はこちらを参照してください。

ほとんどの組織は、支出を綿密に追跡して、リソースが効率的に使用されていることを確認しています。さまざまなビジネスユニットの支出額を追跡することで、特定の種類の支出が組織の目標や収益に与える効果についての重要な洞察が得られます。IT チャージバックシステムは、サービスを使用するビジネスユニットまたは個人にサービスのコストを配分します。

Amazon FSx for NetApp ONTAP(FSx for ONTAP)を使用しているお客様および独立系ソフトウェアベンダー(ISV)は、多くの場合、コスト配分を実行するためにチャージバックの仕組みを実装する必要があります。この記事では、AWS と FSx for ONTAP の機能とツールを使用してチャージバックを実装するための複数のアプローチについて説明します。チャージバックソリューションを設計する方法として、AWS コスト配分タグAWS Cost ExplorerONTAP クォータレポート、および ONTAP Quality of Service(QoS)について説明します。この記事で示すチャージバックの仕組みを使用すると、リソースが効率的に利用されていることを確認できます。また、サービスの価値に合わせてコストを調整できるとともに、ビジネスニーズに対してテクノロジーをより迅速に活用できるようになります。

背景

IT チャージバック戦略は、個人またはビジネスユニットが使用する IT リソースのコストを特定します。FSx for ONTAP のチャージバック戦略により、企業は財務説明責任に沿った複数のレポート項目でストレージのコストと使用状況を特定できます。チャージバック戦略を実現することで、企業は FSx for ONTAP リソースの使用に関するコストを、ユーザー層、ビジネスユニット、および外部の顧客に請求できます。チャージバックは、財務的な責任を重視する文化を醸成することでコストを最適化し、リソースの使用状況を可視化し、会計管理と予算編成を改善します。

FSx for ONTAP は、フルマネージドな ONTAP ファイルシステムをクラウド上で作成・実行できるようにするストレージサービスです。FSx for ONTAP は、NetApp ONTAP 上に構築された、信頼性が高くスケーラブルで、パフォーマンスが高く機能豊富なファイルストレージを提供します。FSx for ONTAP には、お客様がコストを大幅に削減できる最適化機能が組み込まれています。自動階層化、重複排除、圧縮、コンパクションを利用して、ストレージ効率を大幅に向上させることが可能です。

AWS コスト配分タグと AWS Cost Explorer は、FSx for ONTAP ファイルシステムとそのボリュームのバックアップに対するリソースレベルのコストレポートを提供します。FSx for ONTAP のクォータレポートは、グループおよびユーザーレベルでの詳細なストレージ使用情報を提供します。QoS ポリシーを使用すると、環境内の共有リソースのパフォーマンスを制御および監視できます。

AWS コスト配分タグは、ファイルシステムまたはバックアップレベルで統合された情報を提供するため、ファイルシステムがビジネスユニットまたは部門専用である場合に最適です。しかしながら、ビジネスユニットや部門間でファイルシステムのリソースを共有している場合は、クォータレポートや QoS の使用を考慮した方が良いと思います。なぜならば、クォータレポートや QoS は、他のインフラストラクチャの構成要素に対して、より詳細な情報やレポートが提供できるためです。

Amazon FSx for NetApp ONTAP リソースの構造化

FSx for ONTAP には、チャージバック戦略で使用する 4 つの主要なリソースがあります。

  • ファイルシステム: データをホストするインフラストラクチャおよび FSx for ONTAP ソフトウェア
  • ストレージ仮想マシン(SVM): ネットワーク上のデータを提供する仮想ファイルサーバ
  • ボリューム: ファイルとディレクトリのデータコンテナ
  • バックアップ: ボリュームのオフラインコピー

財務報告の範囲や組織構造に従って、ファイルシステム、SVM、およびボリュームの設計を詳細化できます。このプラクティスを使用して、チャージバックモデルを簡素化します。

例えば、ある学区に HIGH(高校)、MIDDLE(中学校)、ELEMENTARY(小学校)という 3 つのファイルシステムがあるとします。各ファイルシステムには、学区内の各学校用の SVM があります。各 SVM 上には、学部ごとのボリュームがあり、バックアップをしています。

Figure 1: Shows a table of file systems, SVMs, and volumes, which map to different high, middle, and elementary schools, and facilities within.

図 1: FSx for ONTAP リソース構成例

ウォークスルー

それでは、IT コスト配分を実現する方法について説明します。最初に、AWS コスト配分タグを使用して、コスト配分レポートでリソースコストを整理する方法を見ていきます。その後、AWS Cost Explorer を使用してコストを表示および分析する方法について説明します。また、FSx for ONTAP ストレージのクォータレポートを使用して、ストレージ使用率をより詳細に表示します。その後、チャージバック戦略における追加の仕組みとして、Storage Quality of Service(QoS)について見ていきます。最後に、レポートを収集するために使用できる 2 つの異なるアプローチ(使用中の容量またはプロビジョニング済み容量)について説明します。

AWS コスト配分タグ

タグは、AWS リソースに割り当てるラベルです。各タグは、キーと値で構成されます。FSx for ONTAP ファイルシステムとそのバックアップにタグを付けることができます。ビジネスカテゴリ(コストセンター、アプリケーション名、所有者など)を表すタグを適用して、FSx for ONTAP 全体でコストを整理できます。AWS はコスト配分タグを使用して、コスト配分レポートのリソースコストを整理します。これにより、AWS コストの分類と追跡が容易になります。

次のスクリーンショットでは、先ほどの学区の例にある、HIGH ファイルシステムに割り当てられたタグを確認できます。

Shows tags added under the file system details page in the Amazon FSx console.

図 2: FSx for ONTAP の HIGH ファイルシステムに割り当てられたタグ一覧

コスト配分の目的でタグを使用するには、AWS Billing でタグを有効化する必要があります。AWS Billing でタグを有効化すると、タグは「AWS Billing and Cost Management」コンソールに表示され、各リソースに関連付けられたコストを追跡できます。AWS は、有効なタグごとにグループ化された使用状況とコストを含むコスト配分レポートを生成します。すべてのリソースにタグを付け、コスト配分タグを財務報告の範囲に合わせることをお勧めします。

AWS Cost Explorer

以下の AWS Cost Explorer レポートは、1 日分の FSx for ONTAP のコストが集計されて表示されています。デフォルトでは、サービスでフィルタリングすると、統合されたビューが表示されます。

Figure 3: Shows daily aggregated costs for entire file system in a chart.

図 3: 日次集計された FSx for ONTAP のコスト

次の例では、それぞれのファイルシステムのタグキー Name に対して、タグ値として FSxN-HIGHFSxN-MIDDLE、および FSxN-ELEMENTARY を割り当て、AWS Billing でそれらを有効化しています。

次に、タグキー Name とファイルシステムのタグ値を使用して AWS Cost Explorer レポートをフィルタリングし、個々のコストを取得します。

Figure 4: Using Cost Explorer, select the Group By then select Tag name to get the individual costs of each volume.

図 4: FSx for ONTAP ファイルシステムに割り当てたタグでフィルターされた Cost Explorer レポート

次の図では、ファイルシステムのボリュームのバックアップに割り当てられたタグを使用して、それらのコストをレポートしています。

Figure 5: Using the Cost Explorer, a cost breakdown for each volume is shown based on using tags.

図 5: FSx for ONTAP ボリュームのバックアップに割り当てたタグでフィルターされた Cost Explorer レポート

FSx for ONTAP ストレージのクォータレポート

クォータレポートを使用すると、ストレージ使用率をより詳細に把握できます。クォータレポートは、ユーザーレベルでストレージを追跡できるチャージバック戦略の重要なツールとなります。各ボリュームのユーザーごとのファイルとストレージの利用状況を確認できます。

この例では、CLI を使用しクォータレポートをセットアップしますが、ONTAP REST API を使用してクォータを設定することもできます。FSx for ONTAP CLI の quota コマンドには、より深いレベルのディスク領域管理(ディスク領域の使用の制限を含む)を可能にする豊富なオプションのセットが用意されていることに留意してください。この記事では、レポートに焦点を当てています。

以下の例では、FSx for ONTAP CLI を使用して SVM のクォータポリシーを作成し、それをボリュームに関連付けます。このタスクを実行する手順は次のとおりです。

1. 新しいクォータポリシーを作成します。

volume quota policy create -vserver FSxN-ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW -policy-name qp_ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW_1

2. 新しいクォータポリシーを SVM に割り当てます。

vserver modify -vserver FSxN-ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW -quota-policy qp_ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW_1

3. クォータポリシーをボリュームに関連付けます。

volume quota policy rule create -vserver FSxN-ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW -policy-name qp_ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW_1 -volume FSxN_ELEMENTARY_SVM_WINTERVIEW_VOL_SCIENCES -type user -target "" -qtree ""

4. クォータを初期化します。

volume quota on -vserver FSxN-ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW -volume FSxN_ELEMENTARY_SVM_WINTERVIEW_VOL_SCIENCES -foreground

ユーザーごとのディスク容量の使用率を示すクォータレポートを実行しています。以下の図に示すレポートには、科学部門で使用中のストレージ SVM である FSxN-ELEMENTARY-SVM-WINTERVIEW に関する詳細が表示されています。

Linux の user ID 1009 は、FSxN_ELEMENTARY_SVM_WINTERVIEW_VOL_SCIENCES ボリューム上に 161 個のファイルを持っていて、合計使用量は 804.2 GB であることがわかります。user ID 1010 は、同じボリュームに 60 個のファイルを持っていて、合計使用量は 237.6 GB です。

Figure 6: Using volume quota report command, the quota report for linux users is shown for each volume and user

図 6: Linux ユーザー向けの FSx for ONTAP クォータレポート

Active Directory の example ドメインで認証された Windows ユーザー billbrian の、FSxN_HIGH_SVM_EAST_VOL_SCIENCES ボリュームの使用状況についても、同様のレポートを確認できます。

Figure 7: using volume quota report, the quota for each volume and Active Directory user is shown accordingly

図 7: Active Directory ユーザー向けの FSx for ONTAP クォータレポート

Storage Quality of Service(QoS)

環境によっては、ファイルシステムまたは SVM がビジネスユニットまたは部門間で共有されていることがあります。QoS は、チャージバック戦略における追加の仕組みとして活用できます。

QoS を使用すると、FSx for ONTAP 環境における共有リソースのパフォーマンスを制御および監視できます。ユーザーとアプリケーションのサービスレベルアグリーメント(SLA)を設計し、ワークロードが意図したよりも多くのリソースを消費するリスクを低減し、エンドユーザーエクスペリエンスとアプリケーションのアップタイムを向上できます。

QoS を使用して、リソース(SVM やボリュームなど)に対して、Input/output Operations per Second(IOPS)やスループットの最小値(下限値)と最大値(上限値)を設定できます。ボリュームに最大スループットレベルを設定することで、ワークロードがインフラストラクチャ内の他のリソースを危険にさらすことを回避できます。リソースに QoS の下限値を設定することで、各ワークロードの実行に必要な最小限のリソースを効率的に確保できます。

別のアプローチとして、QoS を使用して、異なるレベルの IOPS とスループットをボリュームに割り当てます。これにより、ボリュームを異なる階層レベル(Gold、Silver、Bronze など)に関連付けられます。各階層は、異なるコストモデルを持つことができます。階層化アプローチとボリューム容量の組み合わせにより、共有ファイルシステムのコストをボリュームレベルで分割し、チャージバックに利用します。

使用中の容量またはプロビジョニング済み容量

考慮すべきもう 1 つの観点は、使用中の容量とプロビジョニング済み容量のどちらに対して課金するかです。各顧客と ISV にはそれぞれ独自のアプローチがあります。いずれの場合でも、ケース毎にレポートを収集して、チャージバックプランを実現することができます。

以下の CLI の例では、FSxN_HIGH_SVM_EAST_VOL_SCIENCES ボリュームのプロビジョニング済み容量が 950 GB で、使用中の容量が 159.9 GB のみであることを示しています。

Figure 8: Shows total capacity of 950GB and used capacity of 159.9GB from the volume show command.

図 8: 使用中の容量またはプロビジョニング済み容量

クリーンアップ

このソリューションで使用したリソースを削除して、将来の不要な課金を回避したい場合は、FSx for ONTAP ユーザーガイドの「リソースをクリーンアップする」セクションに従って、FSx for ONTAP ファイルシステムを削除できます。

まとめ

この記事では、IT チャージバック戦略を実現する仕組みとして、FSx for ONTAP リソース、AWS タグ、ONTAP クォータレポート、ONTAP QoS を使用する方法を紹介しました。

チャージバックにより、サービスを使用するビジネスユニットや個人にコストを配分できます。チャージバックは、リソースを効果的に管理し、コストをサービスの価値と一致させ、予算をどのように配分するかについて十分な情報に基づいた意思決定を行うのに役立ちます。

さらにサポートが必要な場合は、AWS アカウントチームにお問い合わせください。FSx for ONTAP の詳細については、製品ドキュメントを参照してください。

翻訳はネットアップ合同会社の Cloud Solutions Architect for AWS の藤原様ならびにソリューションアーキテクトの宮城が担当しました。

著者紹介

Virgil Ennes

Virgil Ennes

Virgil Ennes は、AWS のシニアスペシャリストソリューションアーキテクトです。Virgil は、AWS が提供する俊敏性、コスト削減、イノベーション、グローバルなリーチをお客様が活用できるよう支援しています。彼は主に、ストレージ、AI、ブロックチェーン、分析、IoT、およびクラウドエコノミクスにフォーカスしています。余暇には、家族や友人と過ごすほか、お気に入りのサッカークラブ(GALO)の観戦を楽しんでいます。