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富士通株式会社様との AI-DLC Unicorn Gym で見えた開発の未来
はじめに
AWS では、AI 駆動開発ライフサイクル (AI-DLC) という新しい方法論を提唱しています。AI-DLC は、ソフトウェア開発に対する AI 中心の革新的なアプローチであり、「AI が体系的に詳細な作業計画を作成し、積極的に意図のすり合わせとガイダンスを求め、重要な決定は人間に委ねる」という AI 実行・人間監視の原則と、「AI がルーティンタスクを処理する一方で、チームはリアルタイムでの問題解決、創造的思考、迅速な意思決定のために協力する」というダイナミックなチームコラボレーションの 2 つの要素を重視しています。AI-DLC の詳細については、日本語の解説ブログをご覧ください。
本ブログでは、2026年3月に富士通株式会社様(以下同社)向けに実施された AI-DLC Unicorn Gym について紹介いたします。AI-DLC Unicorn Gym は、AI-DLC を組織の特徴やニーズに合わせてカスタマイズし、実際のプロダクト開発を通じてその効果を検証するプログラムです。今回は7チーム・40名弱が参加し、COBOL 移行から AI エージェントプラットフォームまで多岐にわたるテーマに取り組みました。
同社が AI-DLC Unicorn Gym に取り組んだ背景
同社では、AWS プレミアコンサルティングパートナーとして、AWS 上での SI プロジェクトやサービス開発を数多く手がけてこられました。特に、金融機関向けのクラウド移行プロジェクトやモダナイゼーション案件、官公庁向けシステム、リテール・自動車・ロジスティクス業界向けのソリューション開発において、AWS の技術を活用した高品質なデリバリーを実現されています。
このような実績を背景に、同社では AI 活用を前提としたデリバリーの形への進化を目指し、既に複数のプロジェクトで生成 AI を用いた開発の実験を進めてきました。生成 AI を用いたデリバリー改善のトライアルや、金融機関への生成 AI 開発環境の実装支援など、AI 駆動開発の本番実装に向けた具体的な取り組みを推進されています。
このような取り組みを進める中で、同社は AWS が提唱する AI 駆動開発の方法論である AI-DLC に着目されました。そこで、AWS が提供する「Unicorn Gym」というプログラムを通じて、AI-DLC を実践的に学び、組織への適用可能性を検証することを決定されました。
AI-DLC Unicorn Gym の実施と成果
2026年3月11日から13日の3日間にわたり、同社向けに AI-DLC Unicorn Gym が実施されました。同社から7つのチームが参加し、各チームに PdM(プロダクトマネージャー)の役割を担う方と Dev(開発者)の役割を担う方が配置され、実際のプロダクト開発を通じて AI-DLC の効果を検証しました。プログラムは AWS の AI-DLC に精通したメンバーがデリバリーをリードし、同社を担当するソリューションアーキテクトがサポートとして各チームに配置されました。
各チームの成果
| チーム | テーマ | 主な成果 |
|---|---|---|
| ① | ペーパーレス化対応の新規開発 | 271ファイル・7,151行のフルスタック開発、DDD を採用した本格的な設計 |
| ② | 業務システムの機能開発 | 2日間で3マイクロサービス構築 |
| ③ | データ分析によるAIソリューション実践 | 機能開発は対応可能、インフラやデプロイについては人間側にもそれなりの知見が求められると評価 |
| ④ | COBOL から Java への移行 | Java 4,300行、テスト182件全件 PASS、ドキュメント作成から設計・実装・テストまで一気通貫で AI が生成 |
| ⑤ | ユーザー管理システムの新規開発 | 従来1〜2週間の開発を2日でほぼ完成、開発経験が浅いメンバーでも実装を実現 |
| ⑥ | Amazon Bedrock AgentCore を使用したエージェントプラットフォーム | 仕様策定やテスト・トラブルシューティングが数週間から数時間に短縮、AWS へのデプロイまで完了 |
| ⑦ | Amazon Connect を使用した自動架電システム | 夜間に発生するシステムのアラートを担当者への自動架電にて対応するシステムのアーキテクチャの設計・実装を実現 |
AI-DLC Unicorn Gym からの学び
今回の AI-DLC Unicorn Gym を通じて、参加者の皆様から多くの貴重なフィードバックをいただきました。
アンケート結果
「AI-DLC はあなたの働き方を変える可能性があると思いますか?」という問いに対しては5点満点中4.69と、ほぼ全員に変革の可能性を実感していただきました。
生産性改善に関するアンケートでは、従来の開発見積もりと AI-DLC 適用後の見積もりについて回答をいただきました。代表的な回答として、「50人月→5人月」「24人月→2人日」「18人月→15人日」「14人月→1.5人月」「6人月→1人月」「4〜6ヶ月→2週間」など、多くの参加者の方々が大幅な工数削減の手応えを感じられていることがうかがえます。
共通して得られた気づき
今回の7チームの取り組みを通じて、以下の共通した気づきが得られました。
SE の役割の変化: 複数のチームから、AI 時代において SE に求められるスキルが「コードを書く力」から「仕様を策定する力」「AI の出力をレビューする力」へとシフトしていることが指摘されました。チーム②からは「SE の仕様策定力こそが AI 時代の強力な武器になる」という声をいただき、チーム⑤からは「開発経験が浅くても AI との対話で実装を実現できた」という声がありました。
Human in the Loop の重要性: AI が高速にコードを生成する一方で、人間によるレビューと判断が品質担保の要であることが全チーム共通の認識として確認されました。AI の作業プランの確認、生成コードのレビュー、承認根拠のドキュメント化など、人間が担うべき役割の明確化が重要です。
インフラ・環境整備の課題: 機能開発における AI-DLC の効果は全チームに認めていただいた一方、AWS 環境構築やデプロイにおいては既存のスキルと経験が前提となることが明らかになりました。チーム③からは「AI-DLC は強力な開発支援ツールだが、インフラ・デプロイの知識と経験があってこそ真価を発揮する」という実践的なフィードバックをいただいています。
組織導入に向けた課題: AI-DLC の効果を実感いただいた一方で、実案件への適用に向けては、セキュリティや環境整備、開発プロセスの標準化など、組織として整備すべき点も明らかになりました。
参加者の方からは「今回の研修でかなりの危機感を感じた。AI についてキャッチアップは必須と感じたし、SIer としてのビジネスモデルが根幹から変わるのではないかと感じた」という声もいただき、AI-DLC が単なる開発効率化ツールではなく、IT 業界の構造変革を促す可能性を持つことが実感されました。
今後に向けて
今回の AI-DLC Unicorn Gym の成果を受け、同社では組織全体への展開に向けた具体的な検討を開始されています。同社の参加者であり、2025 Japan AWS Jr. Champions の白川様からは下記のコメントをいただいております。
当社では、全ての企業活動において AI を活用する「AI ドリブンな企業」への変革を掲げており、業務の一部から導入するのではなく、全ての業務を AI で行う発想への転換を進めています。開発業務もその例外ではありません。今回の実証実験を通じて、AI-DLC は、ユーザーストーリーの整理から要件定義、設計、モックアップ作成までを一気通貫で進めることにより、開発の効率化に加え、プロセスの標準化を通じた全体最適にもつながり得るアプローチであると実感しました。特に、モックアップを起点として早い段階でユーザーとの認識合わせを行える点は、手戻りの抑制という観点からも大きな意義があると考えています。一方で、その価値を実際の業務の中で十分に発揮していくためには、多様なステークホルダーが関与する進め方やレビューの在り方、運用ルールに加え、どこまでをAI に委ね、どこを人が判断・整理すべきかという役割分担まで含めて整理していく必要があります。現時点では、実証を通じて可能性と論点を確認している段階ですが、今後もAWS の皆様と協力しながら、継続的な検証を重ね、適用可能な形を見極めていきたいと考えています。
SIer にとって、AI-DLC がもたらすインパクトは開発現場の効率化にとどまりません。白川様のコメントにもあるように、AI にどこまでを委ね、どこを人が判断すべきかという役割分担の整理は、今後 AI を活用した開発を進めるすべての組織にとって共通のテーマとなるでしょう。AWS は、同社とともにこの問いに向き合いながら、継続的な検証と実践を支援してまいります。
まとめ
今回の AI-DLC Unicorn Gym を通じて、SIer のシステム開発における AI-DLC の適用可能性が実証されました。COBOL 移行、AI エージェントプラットフォーム、Amazon Connect を活用した自動架電システムまで、幅広い領域で AI-DLC の有効性が確認され、新規開発とレガシー移行の両方に対応できることがわかりました。7チーム・40名弱という大規模な実施においても、全チームが3日間で動作するプロトタイプを完成させ、一部のチームは AWS 環境へのデプロイまで完了しています。
今回の取り組みについて、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 エンタープライズ技術本部 インダストリーソリューション本部 本部長 五十嵐 建平は「今回の AI-DLC Unicorn Gym において、COBOL 移行から AI エージェントプラットフォームまで多岐にわたるテーマで具体的な成果を出していただき、大変嬉しく思います。特に印象的だったのは、参加者の皆様が AI-DLC を単なる開発効率化ツールではなく、SIer としてのビジネスモデルそのものを変革する可能性を持つものとして捉えられた点です。この成果をもとに、ビジネス部門とシステム部門が相互理解を深め、AI に何を委ね、人間が何を判断すべきかという役割分担を整理しながら、有機的に結びついて迅速に変革を起こしていく仕組みとしてご活用いただけることを期待しています。」とコメントしています。
生成 AI の活用は、もはやコード補完やチャットボットといった部分的な適用にとどまりません。今回の取り組みが示したように、開発ライフサイクル全体に AI を組み込むことで、これまでとは異なる次元の生産性向上が見えてきます。
AWS は今後も、同社をはじめとするお客様の開発変革を支援し、AI-DLC の実践と普及を通じて、IT 業界全体の生産性向上に貢献してまいります。
著者

松井 僚太郎 (Ryotaro Matsui)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト。
富士通グループ様をご支援しています。興味関心領域はセキュリティです。

