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クラウドジャーニーの歩み方 (前編)
こんにちは、カスタマーソリューションマネージャーの桑原です。この記事では普段お客様から「オンプレからクラウドに移行したいがどのように進めればよいかが分からない」、「既にクラウドを利用しているが、これまで以上にクラウドを活用していきたい」というお声をいただきます。そのような方に向けて AWS のクラウド移行およびクラウド活用の道のり、つまりクラウドジャーニーを進める上でのよくある課題や取り組むべき活動についてご紹介していきます。
昨今のクラウド移行の状況
昨今の取り巻く情勢としてシステム開発および移行する上でクラウド上に構築することはもはや外せない選択肢になっています。総務省:クラウドサービスの利用状況 では、「クラウドサービスを全社的に利用している」が42.7%、「一部の事業所又は部門で利用している」が27.7%となっております。つまり会社の約70%がクラウドサービスをどこかで利用しており、広く日本全体に普及してきています。また一方でガートナージャパン:2023年に向けて日本企業が注目すべきクラウド・コンピューティングのトレンドを発表によると、メインフレームのワークロードをクラウド化など、ミッションクリティカルなシステムをクラウド化にすることが最近のトレンドになっており、クラウドの影響範囲がこれまで以上に拡大しています。これは日々、様々なお客様と接する中で、ビジネスインパクトが大きい基幹・業務システムのクラウド移行を検討・実行されるお客様が増えていることを体感しており、本トレンドの傾向は強いと言えます。参考として、基幹システムの移行に関する AWS 事例は、基幹・業務システム用途での AWS 国内導入事例にて確認することができます。
クラウドジャーニーを歩む上で重要な考え方
前述したトレンドの中でより効率的に確実にクラウド移行をするためにはどのようにすればよいのでしょうか? それはクラウドが普及している状況の下、クラウドジャーニーを歩む上でよくある課題や取り組むべき活動について事前に把握し、先を見据えたクラウド移行の戦略を立案することが賢い進め方です。
クラウド移行戦略を立案するために重要な考え方は、お客様の中期事業計画や組織、チームの方針等からお客様自身のビジネス目標を明確にし、そのビジネス目標に連動する形でクラウド活用による達成したい目標はなにかといったゴールを定めることです。例えば、開発効率化、運用負荷軽減、ビジネスアジリティ向上、高可用性、コスト削減など、ビジネス上の課題や目標からクラウド活用によって達成したい目標を明確にします。つまりビジネス戦略に対してクラウド移行戦略を紐づけることが肝要です。まずは 1 つのプロジェクトで解決したい課題や達成したい目標を設定しましょう。設定した目標はクラウドジャーニーを歩む上で旅路に必要なコンパスの役割となります。クラウドジャーニーのどのフェーズにおいても常に目標を意識し、目標を見失わないように注意してください。
また、立案したクラウド移行戦略に対して積極的に社内のエグゼクティブを巻き込むことも重要です。オンプレからクラウドを移行すると、これまでの慣れ親しんだプロセスの変更や新たなルールを作成することになるため、一部からは反発されることがあるかもしれません。そのような懸念を未然に防ぎ、クラウド推進者の心理的安全性を確保するためにも、クラウド推進する上でのエグゼクティブスポンサーを擁立することがポイントです。
まとめると、ビジネス目標とアラインしたクラウド移行戦略を立てて、エグゼクティブによるスポンサーを確立することでクラウドジャーニーを歩むための地盤は整います。具体的な活動と課題については以降の 4 つのフェーズにてご説明いたします。
クラウドジャーニーの 4 つのフェーズ
AWS のクラウド移行およびクラウド活用の道のりであるクラウドジャーニーには4つのフェーズがあります。それぞれのフェーズについてご紹介するとともに各フェーズでの課題と取り組むべき活動について触れていきます。取り組むべき活動については AWS によるご支援が可能ですので、AWS へお問い合わせください。
Assess (評価) フェーズ
クラウド移行前に移行によるビジネス価値の整理や移行の準備状況を確認するフェーズになります。このフェーズでは、クラウド移行におけるビジネスメリットやどのシステムから移行を始めたらよいかが分からず具体的なクラウド移行戦略が立てられない、またクラウド移行の準備が現時点でどの程度整っているか分からないといった状況によって、移行作業に手を付け始めることができないという課題に多くのお客様が直面しています。
ビジネスメリットが分からないという課題に対しては、 AWS では AWS Cloud Value Framework (コスト削減、スタッフの生産性、オペレーショナルレジエンス、ビジネスの俊敏性、サステナビリティ) を用いて総所有コスト (TCO : Total Cost of Ownership) の削減以外の視点も含めたビジネス価値を特定することが重要です。これにより、オンプレミスとクラウドとの価値を比較することによって、今後のクラウド推進のための理由付けになります。なお、前述した「クラウドジャーニーを歩む上で重要な考え方」で述べたクラウド活用による目標の設定に資する情報になりますので、参考にしてください。
クラウド移行戦略が立てられないといった課題に対しては、クラウド移行候補のサーバーやシステムに関わる各種情報を収集することで、クラウド未対応のレガシー OS やミドルウェア、アプリの有無などといった技術課題の特定やシステム停止に伴うビジネスの影響度に応じた移行優先度並びに移行対象を確認することができます。そして、これらの情報を踏まえ、どのようにオンプレミスからクラウドへ移行すればよいのかといった移行パス (7R) を選択することができるようになるため、より具体的なクラウド移行戦略を立案することができます。AWS では収集した情報から移行の優先度や移行パスを提案するご支援も可能ですので効率的に情報の整理を進めていただくことができます。
クラウド移行の準備がどの程度整っているか分からないといった課題に対しては、AWS Cloud Adoption Framework (AWS CAF) を活用してお客様が認識できていない課題を含めた現状を確認していただくことが重要と考えています。現状の確認から不足部分を明確にして対策をすることで移行準備を前に進めることができます。
このように移行による効果や準備状況を多面的に確認して対策をすることで、足踏みしている状態から一歩踏み出して移行のフェーズを進めていくことができます。
Mobilize (移行準備) フェーズ
Assess(評価)フェーズで収集した情報を基にクラウド移行計画を立案し、移行準備を行うフェーズになります。クラウド移行準備を網羅的に確認するためにはフレームワークを適用することが重要です。先ほどご紹介した AWS CAF には効果的にクラウド導入を進めるために検討するべき6つのパースペクティブ (観点) があり、それらを構成する AWS CAF の基本的な機能があります。各機能を全て具備することがクラウド導入における網羅的な準備であるとも言えますが、これらをすべて実装しないと移行ができないということではありません。各機能を参考にしながらお客様の状況に合わせて優先順位を付けつつ、バランスを取りながら並行的に進めていくことが必要です。
本ブログでは、移行準備をする上で特に重要と考える課題と取り組むべき活動についてご紹介します。
お客様には予算とリソースをどのくらい確保するかなどを策定するクラウド移行計画が立てられないという課題をお持ちのお客様もいらっしゃいます。主な要因として挙げられるのはナレッジ不足や経験不足です。この課題に対して各種学習やハンズオンなどを実施して補うことは良いアプローチですが、最も重要なのがまずは小さく始めてみることです。具体的には PoC や比較的影響が少ないプロジェクトを選定してパイロット移行を複数回行うことによって実体験から移行スキルや経験を積むことをお勧めします。プロジェクトメンバーの役割を問わず、実際に手を動かして初めて分かることが多いため、移行を経験することでクラウド移行計画を段階的に立案することができるようになりますし、その後の移行が加速する効果が見られます。
また、蓄積したクラウドスキルやノウハウを一箇所に集めて、効率的なナレッジ共有をするためには、クラウド専門家組織としての CCoE を設立することによって、より効果的なクラウド推進をすることができます。
一方で社内ステイクホルダーへの周知ができているか、作成したクラウド基盤の設計が正しいのかといった準備を計画的にすることも重要です。社内ステイクホルダーへの周知は、移行対象システムの関係者や全ての責任者を明確にした上で早い段階からクラウド移行による価値や移行計画について会話しプロジェクトに巻き込んでいただくことが円滑に進める上でのポイントとなります。クラウド基盤の設計の妥当性ついては、AWS Well-Architected をプロジェクト立ち上げの早い段階で読んでいただき、クラウドを効果的に活用するためのベストプラクティスに沿っているのかを確認いただくことをお勧めします。AWS にご相談いただけれればサポートさせていただくことも可能ですし、お客様自身で AWS Well-Architected Tool を利用して AWS のベストプラクティスかどうかを確認することも可能です。
まとめ
前編では昨今のクラウド移行の状況、クラウドジャーニーを進める上での考え方、クラウドジャーニーの Assess (評価) フェーズと Mobilize (移行準備) フェーズにおける課題と取り組むべき活動を説明してきました。後編ではクラウドジャーニーの Migration (移行) フェーズと Modernization (モダナイゼーション) フェーズにおける課題と取り組むべき活動についてご紹介します。お楽しみに!
著者プロフィール
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社 カスタマーソリューションマネージメント統括本部 カスタマーソリューションマネージャー 桑原 直哉 |
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社 カスタマーソリューションマネージメント統括本部 カスタマーソリューションマネージャー 服部 昌克 |
参考リンク
- 総務省:クラウドサービスの利用状況
- ガートナージャパン:2023年に向けて日本企業が注目すべきクラウド・コンピューティングのトレンドを発表
- 基幹・業務システム用途での AWS 国内導入事例
- AWS Cloud Value Framework
- マイグレーションを実現するために – 第 2 回 : 移行戦略と移行パスとは ?
- AWS Cloud Adoption Framework (AWS CAF)
- AWS Cloud Adoption Framework (AWS CAF) – 基本的な機能 –
- 今から始める CCoE、3 つの環境条件と 3 つの心構えとは
- AWS Well-Architected
- AWS Well-Architected Tool