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実践企業に学ぶ生成 AI 導入の勘所 〜眠るデータを企業価値に変える〜 – AWS Local Executive Roadshow 名古屋編(#3/8)開催レポート
こんにちは。Amazon Web Services Japan のソリューションアーキテクト、田中 里絵 です。
本ブログは、2026 年 4 月〜5 月にかけて全国 5 拠点・計 8 回で開催した「AWS Local Executive Roadshow」シリーズの第 3 回レポートです。シリーズの背景や全体像については、前回の大阪・初回レポートをご覧ください。
大阪での 2 日間のイベントに続き、2026 年 4 月 22 日は名古屋にて、AI を自社の業務に活かしたい企業のエグゼクティブ・情報システム部門の皆様をお迎えし、「実践企業に学ぶ生成 AI 導入の勘所 〜眠るデータを企業価値に変える〜」と題したイベントを開催しました。
イベントの流れ
当日はまず、Amazon Web Services Japan のソリューションアーキテクト古屋 楓から「AWS で一歩先へ!生成 AI 時代のビジネス変革の打ち手」と題したオープニングセッションをお届けしました。生成 AI を取り巻く世界と日本の環境、AWS の生成 AI ポートフォリオ、そして AI を自社の業務に活かしたいお客様がどのように生成 AI で業務とビジネスを変えていけるかについて、Amazon Quick のデモを交えながらご紹介しています。セッションの詳細については初回の大阪・事業会社編のレポートをご覧ください。
写真: 古屋によるオープニングセッション
AWS 側のセッションを通じて生成 AI 活用の全体像とイメージをつかんでいただいたあと、パネルディスカッションへと進みました。ここからは、中部を拠点に 270 年以上の歴史を持ちながら、経営・現場の双方から生成 AI 活用に挑戦されている 1 社の事例をご紹介します。
事例紹介:タキヒヨー株式会社様 〜経営と現場、両輪で進める Amazon QuickSight によるデータ活用〜
事例紹介は タキヒヨー株式会社様です。1751 年(江戸時代の宝暦元年)に名古屋で創業された 270 年以上の歴史を持つ繊維アパレル企業で、テキスタイル事業では愛知県一宮市に自社工場をお持ちで、伝統的な英国式紡績機を生かしたものづくりを行われています。アパレル事業では企画・製造・販売に加え、リテール事業として自社ブランドの展開もされており、東京証券取引所・名古屋証券取引所に上場されている企業です。従業員数は540 名(2026年2月末)、ニューヨークに拠点をお持ちのグローバル企業でもあります。
当日は、経営視点と現場視点の両面から、二つのプロジェクトについてパネルディスカッション形式でお話しいただきました。AWS 小嶋がモデレーターを務め、それぞれのプロジェクトの背景から成果までを伺いました。
業務 KPI ダッシュボード化プロジェクト
一つめのエピソードは、執行役員の平田様が経営の視点で推進された、業務 KPI ダッシュボードプロジェクトについてです。
アパレル業界は職人的・属人的な業務傾向があり、勘や経験に頼りがちな面があります。経営として、売上や利益といった KGI よりもっと粒度の細かい業務 KPI で組織の状態を定量的に把握し、営業活動の改善に繋げたいという思いがプロジェクトの出発点でした。ただ当時は、各組織のデータが Excel に散在し、VBA マクロで集計していたため、処理に時間がかかったりマクロが想定どおり動作しないなどの課題がありました。
この課題に対して、Amazon QuickSight を導入し、基幹システムや NAS のデータを一元的に可視化・分析できる基盤を構築されました。ただ、導入にあたって一番苦労されたのが「現場のアレルギー反応」だったといいます。それまで各マネージャーが各々のやり方で管理業務を回していたところに、統一のダッシュボードを導入するという施策そのものに対して、「手間が増える」という受け止めから反発があったとのことです。
この壁を乗り越えるために、とにかく使い勝手にこだわってプロジェクトを進められました。便利さを実感してもらうことで理解を得て、利用も促進したいと考え、ドリルダウン機能の設計に特に注力されました。大きなデータから詳細なデータへと段階的に掘り下げることができ、感覚的な操作で目的のデータにたどり着けるよう設計しました。「普段の動線そのままで使える」ことで現場の抵抗感を下げることに繋げました。また、データの欠損を補うためにWeb経由のデータ入力の仕組みも構築し、ダッシュボードに表示されるデータの信頼性を担保する工夫も行われました。
結果として、URL にアクセスすれば経営データがすぐ確認できる状態になり、現場のマネージャーが本来の意思決定業務に集中できる環境が整いつつあるとのことです。今後は、分析の精度向上や、分析から起こしたアクションが業績にどう寄与するかの効果検証をしていきたい、とお話いただけました。
需要予測データのダッシュボード構築プロジェクト
マーケティングチーム兼DX 推進チームの山口様が現場の実践者として推進されたプロジェクトです。
山口様ご自身はエンジニアではなく、プログラムを書いたご経験はありませんでした。ただ、「自分たちの手でなんとか活性化させたい」という思いから、需要予測データを Amazon QuickSight で可視化するダッシュボードの内製構築に取り組まれました。既存データには、複数の情報(色・柄・素材など)が一つのカラムにまとめて格納されていたため個別の値で抽出できない(例えば何色が売れているか?といった分析はできない)、需要予測の数値が絶対値のみのため、判断の基準がなくアクションに繋がらない、という二つの課題がありました。
開発にあたって、当初は Generative AI Use Cases ( AWSが提供するチャットベースの生成AIアプリケーション)で SQL を生成させていましたが、開発が難航しました。チャットベースのアプリケーションで、必要なデータ(DBのテーブル情報、全体設計、既存データなど)をAIに与えながら作業をさせようとすると、開発が進むほどコンテキストの制限に達してしまい、その都度新しい会話を立ち上げ直す必要が生じ、作業上の煩雑さを生んでいました。さらに、本来は必要なコンテキストを渡しきれない状況も発生し、そうなるとAIが出力するSQLが本来の目的と異なるものになる、といった問題も発生していました。
このような経緯から、チャットボットベースのアプリケーションに限界を感じられ、コーディングエージェントの Claude Code を Amazon Bedrock 経由で利用する方針に切り替えられました。コーディングエージェントであれば、AI エージェントがユーザー指示に応じて必要なローカルファイルを自律的に参照しにいくため、今まで作成してきたテーブル情報やシステム設計、エラー内容までを AI が自動で把握してくれ、開発効率が大きく向上しました。
データの課題については、既存のデータのETLにも取り組まれました。具体的には、一つのカラムに混在していた色・柄・素材などのデータを色別・素材別・シルエット別などにそれぞれのカラムに分けて対応し、絶対値で表示されていた需要予測値も ◎○△✕評価が動的に表示される仕組みに変更されました。この際、Claude Code を単なるコード生成ツールとしてではなく、目的を共有し、既存のデータを生かすためにどんな方法がよいかを一緒に探る「頼れる相談相手」として活用されました。「こういう見せ方はどうか」「この分け方だとデータが崩れないか」──ジェンガのピースを崩さないように一つずつ探していくような試行錯誤を、AI と対話しながら繰り返されたとのことです。
結果として、通常であれば外注で数ヶ月・数百万ほどかかるシステムを、非エンジニアの山口様ご自身が数週間で構築されました。さらに、データ構造を深掘りしていく過程で、ベンダー側でブラックボックス化していた課題に気づき、改善提案に繋げられたという副次的な効果もあったとのことです。今後は自社に蓄積された売上・在庫データの取り込みや、Amazon Quick(Amazon QuickSight が進化して生まれた Agentic AI プラットフォーム)の AI チャット機能の活用も検討されています。
お二人から参加者へのアドバイス
最後に、お二人から参加者へのアドバイスをいただきました。
平田様からは、「まずは現業務を可視化してデータで見られる体制を整えることが第一歩。完璧を目指すのではなく、経営層が現場に対して『小さく試して失敗から学ぶ』ことを許容し、現場の変革を後押しするスタンスが重要」というメッセージをいただきました。
山口様からは、「とにかくデジタル上にデータを蓄積することに注力してほしい。デジタルデータは企業の財産になる」というメッセージ。同じ分量のデータでも、デジタルかアナログかで将来の資産価値が大きく変わる。仮にデータの中身が多少整理されていなくても、AI を活用すれば非エンジニアでも理想的な形に整形できる。アナログからデジタルへの移行方法自体も、AI に相談してみてほしい、とお話しいただきました。
写真: タキヒヨー株式会社 平田様・山口様、AWS 小嶋によるパネルディスカッション
経営と現場の両輪で取り組まれたお話に続いて、こうしたデータ活用の取り組みを伴走支援するパートナー様からのセッションです。
パートナーセッション:クラスメソッド株式会社様 〜生成 AI 活用のためのデータ収集〜
お客様事例のあとには、AWS プレミアティアサービスパートナーである クラスメソッド株式会社 データ事業本部 チームリーダー / プロジェクトマネージャーの三鴨 勇太 様より、「生成 AI 活用のためのデータ収集」と題したセッションをお届けいただきました。名古屋オフィスを拠点に、お客様のデータ基盤構築やデータ戦略支援を担当されている三鴨様から、データドリブン経営を支えるデータ基盤整備の考え方をお話しいただきました。
データ収集がデータドリブン経営と生成 AI 活用の共通の土台であるという点を特に強調しました。ビジネスの加速のためには、企業が持つデータ資産を生成 AI と組み合わせることで差別化につながる。そのために、属人化している情報があればそれらを効率的にデータ化し、収集していく仕組みが重要だと述べられました。
データ基盤整備の進め方としては、企業文化に合わせて、Needs(需要があるところからデータ基盤整備を進めていく) と Seeds(できるところからデータ基盤整備を始める) の 2 つのアプローチのどちらを取ることもあり、クラスメソッド様が提供するデータ活用基盤構築・運用サービス、データ活用コンサルティング、データ活用分析研修、生成 AI 総合支援サービスなど様々な支援のあり方を紹介いただきました。
写真: クラスメソッド株式会社 三鴨様によるセッション
まとめ
セッション後には参加者同士のグループディスカッションやネットワーキングの時間を設け、自社の AI 活用における課題について活発な議論が交わされました。
名古屋でご登壇いただいたタキヒヨー様とクラスメソッド様に共通していたのは、 データをいかに集め、活かせる状態に整えるか という土台の重要性と、小さい成功体験を少しずつ積み重ねる という進め方のベストプラクティスでした。AI を活用している企業様は、データや周囲の巻き込み方など AI 以外の部分にもプラクティスを持っておられることが伝わるセッションでした。
このブログシリーズでは、本イベントの開催レポートを各拠点の開催順にお届けしていきます。今回お届けした名古屋・3 日目に続き、次回は翌日開催の名古屋・AI で顧客を支援する IT 企業編を予定していますので、どうぞお楽しみに。
そして読者の皆様へ──もし本ブログを読んで「うちの会社の取り組みもぜひ発信したい」「AWS と一緒に自社の眠るデータを価値に変えたい」「AI で日本をもっと元気にしていきたい」と感じていただけたなら、ぜひ担当営業、あるいはお近くの AWS メンバーまでお気軽にお声がけください。
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執筆者
Amazon Web Services Japan 合同会社 ソリューションアーキテクト 田中 里絵


