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2 週間で 12 万人規模へ – NEC が Claude Desktop on Amazon Bedrock で実現したセキュアな全社 AI 環境

NEC は 2026 年 6 月 1 日、全社員(最大 12 万人)が利用できる Claude Cowork の本番環境を Amazon Bedrock 上で稼働させました。設計着手は 5 月 18 日、要件定義から全社リリースまで 2 週間です。検討を進めていた 2026 年 5 月の時点では、この構成はまだ一般提供(GA)開始前 (*1) でした。前例の少ない構成を採用しながら、国内完結の推論・監査証跡・コスト管理を備えた環境を立ち上げています。本記事では、現場を率いた NEC 野口氏の視点と、AWS が担った役割の両面から振り返ります。

本記事は、日本電気株式会社(以下、NEC)コーポレートIT・AIイノベーション部門 AIプラットフォーム統括部 ディレクター 野口 忠則 氏と、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 吉川 晃平の共著です。

はじめに(AWS 吉川)

生成 AI アシスタントの全社導入では、「使えるようにする」ことと「統制の効いた状態で使えるようにする」ことの間に大きな隔たりがあります。データの所在、認証・認可、監査ログ、コストの可視化といった非機能要件は、利用者が数万人規模になると難易度が跳ね上がり、多くの場合は後から足すことができません。

2026 年 7 月 28 日に開催された AWS Bedrock LLM Day Japan にて、NEC の野口氏が「Anthropic 協業の舞台裏 〜 AI ネイティブ化に向けた Cowork on Bedrock 適用 〜」と題して登壇されました。私は本プロジェクトを担当するソリューションアーキテクトとして、NEC のプロジェクトチームをご支援してきました。そのセッションで語られた内容を軸に、NEC が何に挑み、どう乗り切り、Amazon Bedrock を選んで何を得たのかをお伝えします。

なお、本記事で扱う構成は、Anthropic のデスクトップアプリ Claude Desktop(Chat・Claude Cowork・Claude Code を含みます)の推論を Amazon Bedrock に向けるもので、正式名称は Claude Desktop on Amazon Bedrock です。NEC が全社展開されたのは Claude Cowork の利用であるため、本記事では通称の Claude Cowork on Amazon Bedrock を用い、機能そのものを指す場合は Claude Cowork と表記します。

ここからは、NEC の野口氏にバトンを渡します。

全社が使い始める、その日までに(NEC 野口)

NEC は 2026 年 4 月 23 日に Anthropic との協業を発表し、6 月 1 日から社内での利用を開始しました(図 1)。発表から利用開始までの期間は限られており、準備に使える時間は多くありませんでした。ここからお話しするのは、5 月の連休明けから 6 月 1 日のリリースまで、展開の現場で何が起きていたかです。

図 1: 協業発表から全社利用開始、その後の展開までのタイムライン

図 1: 協業発表から全社利用開始、その後の展開までのタイムライン(出典: AWS 作成)

Claude Cowork を社内で利用する方式は 2 つあります。Anthropic のサービスプラン Claude Enterprise を契約する方式と、Amazon Bedrock に接続する方式です。5 月中旬の時点で、私たちは社内利用に必要な技術検証を進めていました。プロキシ経由の通信など社内ネットワーク特有の課題は、どちらの方式でも共通の検討事項です。その頃、Amazon Bedrock に接続する方式についても AWS への相談を始めました。ただし 2026 年 5 月の時点では一般提供前であり、このときは「いずれ AWS 上でも構築しよう」という受け止めでした。

その 1 週間後、全社の利用開始に合わせて AWS 上にセキュアな環境を構築する方針が決まりました。期限は 6 月 1 日です。当初の想定より前倒しの判断でしたが、私たちはこれを妥当だと受け止めました。理由は 2 つあります。

1 つは、Amazon Bedrock であれば推論とデータを国内に閉じられることです。これが私たちにとって最も重い要件でした。

もう 1 つは、利用者が自分の手で作り上げていく設定を、後から移すコストです。会話履歴やメモリ、プロジェクトの設定には、方式をまたいで引き継ぐ仕組みがありません。スキルは中身がファイルなので移植そのものは可能ですが、一括で取り出す手段は用意されておらず、どれを登録し有効にしていたかという状態も引き継げません。人手での再構築が必要になります。数万人が使い始めた後にそれをやるのかと考えたとき、答えは決まっていました。利用者にとっての「使い始め」に、その後も使い続ける環境を用意しておく。それが 6 月 1 日という期限の意味でした。

2 週間で本番環境をつくるということ(NEC 野口)

方針が決まっても、それだけで現場が動くわけではありません。セキュリティ設計、動作確認、社内認証連携といった工程は、通常であれば数か月をかけるものです。大規模システムの本番構築を経験された方であれば、2 週間という期間がどれほど過酷かご想像いただけると思います。短い期間で進めることに対して、慎重な意見もありました。当然です。だからこそ、精神論ではなく段取りで通すしかないと考えました。状況を共有しながら一緒に進めるほかありません。私自身、プロジェクトマネジメント(PM)とシステムアーキテクト(SA)の経験はありますが、この部署に来てまだ 1 年。頼れる関係を一から築きながらの 2 週間でもありました。

それでも「一緒にやりましょう」と手を挙げてくれたメンバーが数名いました。この数名がいなければ、6 月 1 日はありませんでした。徹底したのは、作業の優先順位を明確にすることタスクの範囲を限定すること構築状況を踏まえて次に実施すべきことを判断し共有することです。加えて、短期間で新しい技術を扱う案件では、経営層の理解と後押しが欠かせません。組織全体が AI 活用に前向きだったことは、成功の要因の一つでした。こうして出来上がったのが図 2 の構成です。

図 2: 完成したアーキテクチャ

図 2: 完成したアーキテクチャ。推論は日本国内リージョンで完結し、利用者 ID は Microsoft Entra ID で連携する(出典: AWS 作成、NEC 登壇資料に基づく)

技術面で注意したのは 2 点です。1 つは、国内完結の推論を要件としたため、海外リージョンへ推論を分散できないこと。事前に把握していたので、性能設計と負荷テストを 2 週間の中に組み込みました。もう 1 つは外部システムと接続するコネクタ部分で、これが最も工数を要しました。

最も苦労した点 — MCP サーバーの OAuth 実装差異への対応(NEC 野口)

Amazon Bedrock 利用時は、管理者が MCP(Model Context Protocol)サーバーの設定を端末へ配布することで、利用者はアプリの UI からコネクタを簡単に追加できます。ところが、簡単に安定稼働させられるかというと、そうではありませんでした。接続先の SaaS ごとに MCP や OAuth の実装が細かく異なるため、接続が成立することと期待どおりに動作することは、それぞれ確認が必要でした。

2026 年 5〜6 月時点では、Claude Desktop on Amazon Bedrock が対応する方式と接続先の実装との間に複数の差異がありました。DCR(Dynamic Client Registration)による OAuth クライアントの動的登録に対応していない接続先では事前の手動登録が必要になり、クライアント認証方式にも違いがありました。そこで NEC は、これらの差を吸収する認可中継サーバーを独自に設計・構築しました。このサーバーは 7 月 18 日に社内リリースし、接続可能なサービスを順次広げています。

リリース 1 週間前に判明した認可動作の差異

最初の 1 週間が過ぎた 5 月 22 日金曜の夜、メンバーから、想定と異なる挙動があるという報告が入りました。自社だけでは原因の切り分けができず、その夜のうちに AWS のアカウントチームへ連絡しました。翌日の土曜から調査に入ってもらえることになりましたが、リリースまで 1 週間しかありません。正直に申し上げると、その週末は崖っぷちに立たされた気分で、6 月 1 日のリリースは無理だと思っていました。

それが、日曜の夕方には問題の所在が判明します。AWS の担当チームが全力で入ってくれたおかげでした。原因は、OAuth クライアントの登録と認可フローの動作が私たちの理解と異なっていたことでした。公開情報だけでは判断が難しい部分があり、AWS のエンジニアと一緒に実機で確認して初めて整理できた内容です。

もっとも、分かったのは「なぜ動かないのか」であって、そこから 6 月 1 日までの対応は決して楽ではありませんでした。新しい領域の技術を早い段階で採用するうえでは起こり得ることですが、リリース前に把握できたことは大きかったと考えています。

プロジェクトの目的と体制(NEC 野口)

プレスリリースでは「Claude を利用する AI ネイティブエンジニア体制」として発表しましたが、Claude Cowork は全員が業務で使うため、最大 12 万人規模で使える環境を構築しました。目的は単なる AI ツールの導入ではなく、大きく 2 つあります。1 つは独自構築で、コアとなる要件まで自ら設計・構築し、環境のコントロールを自社で握ることです。もう 1 つはClient Zero、つまり自社を最初の顧客として実践し、日本企業共通の課題に対する先駆的なリファレンスを確立することです。

体制は、NEC の 統括チーム(中央官庁の大規模 SI でのプロジェクトマネージャー・システムアーキテクト 経験者)と 社内 SE チーム(社内 IT ・インフラシステムエンジニア)、そして本プロジェクトのために AWS 側で編成した AWS チームという、3 つの専門性を持ち寄る編成としました(図 3)。これが短納期での実現につながったと考えています。

図 3: 要件定義・設計/構築・テスト・運用を 2 週間に凝縮したスケジュール

図 3: 要件定義・設計/構築・テスト・運用を 2 週間に凝縮したスケジュール(出典: NEC 登壇資料)

Claude Cowork on Amazon Bedrock の適用価値(NEC 野口)

Claude を Amazon Bedrock 経由で利用する以外の選択肢もありましたが、要件を整理した結果、国内利用限定という私たちの要件を満たせると判断できたのは Amazon Bedrock でした。図 4 の 3 つの適用価値のうち、最も重視したのは国内データ保管です。

Claude Cowork on Bedrock 適用メリット

図 4: ①NEC 基準にカスタマイズ可能なセキュアクラウド、②データを国内に閉じた構成、③早期リリースによる先行利用とノウハウ獲得(出典: NEC 登壇資料)

機能面では、Claude Enterprise(Anthropic のサービスプラン。AWS Marketplace 経由でも調達できます)を契約する方式のほうが先に提供される機能や、Amazon Bedrock 接続では提供されない機能もあり、利用者から要望をいただくこともあります。それでも情報システム部門としては、国内データ保管とガバナンスを最優先とする要件のため、Claude Cowork を Amazon Bedrock に接続する構成を選びました。判断にあたっては、AWS から提供を受けた 2 つの方式の整理(図 5)を材料としています。

NECがAmazon Bedrock 接続を選んだ理由

図 5: NEC が Amazon Bedrock 接続を選んだ理由。左は NEC が優先した要件、右は Claude Enterprise 契約で提供され利用者から要望のあった機能。NEC の要件に照らした整理であり、一般的な優劣を示すものではない(出典: AWS 作成、2026 年 7 月時点の公開情報および NEC 登壇内容に基づく)

成果と成功のポイント(NEC 野口)

綱渡りの連続でした。一つひとつの判断が結果に直結し、退路のない 2 週間でした。無事に立ち上がったと言えるようになったのは、しばらく経ってからです。6 月 1 日のリリースから 2026 年 7 月時点までの約 2 か月間、大きなトラブルなく安定稼働しています。利用者は 8 月 18 日時点で 11,000 名まで広がっています。国内完結の推論・監査証跡・コスト管理を完備し、国内大手 IT ベンダーとして先行事例をつくれたと考えています。業務効果の定量的な測定は今後の課題です。成功のポイントは 3 点です。

  1. 組織の後押しと許容 — AI 領域は技術の進化が速く、評価の段階では想定どおりに動かない場面も出てきます。経営層の理解と許容があってこそ、提供スピードは上がります。
  2. 大規模システムの PM 力 × アーキテクト力 — 重要タスクを見極め、優先順位をつけて執行し続けること。リード役は細部の完璧さより全体を前に進める判断を優先すべきです。
  3. One Team 体制の推進 — 前例の少ない構築では、地道な検証と改善の繰り返しが必要です。ベンダーと一体で進める体制は、経営層の関与があって初めて成り立ちます。

今後は AI 基盤をさらに進化させ、エージェントの本番活用へ拡張していきます(図 6)。

まとめと成功のポイント

図 6: 大規模・短納期での構築の成果、成功ポイント、今後の展望をまとめた登壇資料のスライド(出典: NEC 登壇資料)

同じような判断を前にされている方に、少しでも参考になればと思います。

ここからは、AWS の吉川に戻ります。

AWS の支援内容(AWS 吉川)

本プロジェクトで AWS が担った役割は 4 つです。

  1. 利用方式の提示と、ご要件に対する事実の回答。 Claude Cowork には Claude Enterprise を契約する方式と Amazon Bedrock に接続する方式があり、いずれも AWS からご利用いただけます。この 2 つの選択肢があることをお伝えしたうえで、NEC からご照会のあった観点について、Amazon Bedrock 接続での構成・運用に関する事実をお答えしました(図 5)。データレジデンシー、閉域網構成、キャパシティ、AI ガードレール、マルチモデル対応、各種のセキュリティ・コンプライアンス認証、MDM による環境設定の大規模展開、MCP サーバーの設定や Agent Skills の利用者への展開などです。Amazon Bedrock 接続では利用できない機能とその代替手段もお伝えしています。両方式の機能差分は Anthropic の公式ドキュメント に一覧が公開されています。要件の定義と優先順位付け、方式の選択はいずれも NEC のご判断です。
  2. 国内完結の推論構成の設計支援。 日本国内のリージョン間で推論を完結させるクロスリージョン推論プロファイル(cross-Region inference profile。推論プロファイル ID が jp. で始まるもの。以下、JP-CRIS)を用いた構成をご提案しました。プロンプトと応答は国内にとどまり、リージョン間通信も AWS のプライベートネットワーク内で完結します。認証は Microsoft Entra ID による利用者 ID 連携とし、AWS Identity and Access Management (IAM) による認可など AWS のセキュリティ機能と一体で運用する設計としています。
  3. 大規模キャパシティの設計と実測検証。 国内完結の推論を要件とすると、利用できる推論プロファイルが国内に限られ、モデルごとの TPM(Tokens Per Minute)クォータが実効的な上限になります。野口氏が挙げられた「海外リージョンへ推論を分散できない」という制約はこの点を指します。モデル別のクォータ設計とパイロット実測に基づく容量計画をご支援し、リリース後も使用率を継続モニタリングしています。2026 年 7 月時点では、いずれのモデルも上限に十分な余裕があり、スロットリングは発生していません。
  4. 週末を含む切り分けの伴走。 5 月 22 日金曜夜のご連絡を受け、本件では土曜の朝からアカウントマネージャーとソリューションアーキテクトでチームを組み、日曜の夕方までに切り分けを完了しました。前例の少ない構成をご採用いただくことは、お客様だけにリスクを負っていただくことではありません。ここは AWS が前に出るべき場面だと考えています。

おわりに(AWS 吉川)

本事例の示唆は技術選定に留まりません。後から足せない要件は何か、後から移すと人手のかかるものは何かを見極め、「使い始めの日」から逆算する。そしてその判断を実行に移せる体制と経営の後押しを確保する。NEC が 2 週間でやり切られたのは、この順序を間違えなかったからだと感じています。

本記事で述べた Claude Desktop の Amazon Bedrock 経由での利用は、2026 年 7 月 9 日に一般提供が開始されています。Claude Desktop の機能追加も続いており、例えば 2026 年 6 月 30 日のアップデートでは、Amazon Bedrock 接続の構成でもプラグインマーケットプレイス(ベータ)が使えるようになりました。社内の Git リポジトリを配布元として指定し、任意の導入・自動導入・必須指定の 3 段階で配布を統制できます。

NEC でも、こうした機能の追加を踏まえ、統制と利用者の利便性を両立させるスキル配布のあり方について、継続して検討を進められています。一般提供の開始前に始まった取り組みは、早期のリリースを実現した後も社内サービスの改善として続いており、AWS も新機能の評価や運用設計の面で継続して支援しています。

Amazon Bedrock は、Claude をはじめ複数ベンダーの基盤モデルを AWS のセキュリティ・ガバナンス機能と一体で運用できる AWS サービスです。閉域網、ガードレール、監査ログ、支出管理といった運用設計は、将来別の AI エージェントを導入する際にもほぼそのまま再利用できます。NEC が次に注力されるテーマについても、引き続きご一緒していきます。

Claude と Amazon Bedrock のエンタープライズ活用にご関心のある方は、Amazon Bedrock をご覧いただくか、担当のアカウントチームまでお問い合わせください。


日本電気株式会社について

NEC logo

NECは、125年以上の歴史を有する、AIやサイバーセキュリティ、通信などの技術を強みとするグローバルテクノロジー企業です。社会と産業のAIトランスフォーメーションを推進するITサービス事業と、日本をはじめ世界の安全保障に貢献する社会インフラ事業を展開しています。業種横断の先進的な知見と最先端技術を結集し体系化した価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を中核に、世界に革新と安心を届け、誰もが人間性を十分に発揮できる社会の実現を目指します。

著者について

野口 忠則 — 日本電気株式会社 コーポレートIT・AIイノベーション部門 AIプラットフォーム統括部 ディレクター。1999 年 NEC 入社。IP-PBX の開発を経て、19 年間にわたり中央官庁向け SI のプロジェクトマネジメントとシステムアーキテクトを担当(2016 年システム部長)。2025 年より社内 IT の AI 業務変革に従事。
著者近影 吉川 晃平 吉川 晃平 — ソフトウェア開発者およびシステムインテグレーターとして 20 年以上従事した後、2020 年から AWS Japan でソリューションアーキテクトとして活動中。日本の多くの製造業や SI 事業のお客様の AWS 活用を支援してきた。最近は AI 開発エージェントを用いた製品開発ライフサイクルの加速に取り組んでおり、お客様との会話のネタが尽きない毎日を送っている。

(*1) : Claude Desktop の推論を Amazon Bedrock などの外部の推論基盤に向ける構成(Claude Desktop on third-party)は、2026 年 7 月 9 日に一般提供が開始されました。詳細は Anthropic の公式ドキュメント Claude Desktop on third-party (3P) の概要 を参照してください。