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株式会社日新 × AWS:人とAIが協働する新しい物流「オプティマAI」
物流業界では、貿易関連書類の作成・照合作業に多大な時間を要しています。情報を入手した後にシステムへ取り込み、別の書類を作成するといった煩雑な作業が日常的に発生し、さらに間違いがないかを一つ一つ確認する必要があります。深刻な人手不足が進む中、こうした業務を効率化しつつ品質を維持することは、物流事業者にとって喫緊の課題です。
本ブログでは、1938年の創業以来グローバルな国際物流を手掛けてきた株式会社日新(以下、日新)が、AWS 上で構築した「オプティマAI」プラットフォームについてご紹介します。オプティマAI は「人とAIの協働」をコンセプトに、物流業務における判断支援と業務効率化を実現するソリューションです。
以下は 2026年6月に開催された AWS Summit Japan 2026 での日新ブース展示内容をもとに記載しています。
日新について
日新は「サプライチェーン ロジスティクス プロバイダー」として、陸海空すべての輸送手段や倉庫・保管業務を組み合わせ、世界各地にワンストップの物流サービスを提供しています。「世界の人々に感動を運び、地球を笑顔で満たす」というパーパスのもと、国際輸送、国内輸送、倉庫・保管、引越、展示会輸送など幅広い事業を展開し、グローバルネットワークを活かした物流ソリューションを提供しています。
オプティマAI の全体像
オプティマAI は、物流業務における「人とAIの協働」を実現するプラットフォームです。AI が最適な判断を支援し、AI が可能な処理は AI が担当し、さらに AI 同士がコミュニケーションを行う ── その上で人が最終判断を行うという、人間中心のAI活用を目指しています。
最終的なビジョンとして、顧客側のAIと日新側のAIが API や MCP(Model Context Protocol)を介して連携し、サプライチェーン全体を横断した業務最適化を実現する構想です。発注支援・適正在庫予測、スケジュール予測、通関支援、倉庫・輸送効率化、見積り・書類チェック、混載効率化といった機能を、顧客と日新が共有ダッシュボード上で一元管理し、AIの作業進捗を確認しながら人間が最終判断を行います。さらに、顧客のSCMや物流を支援するアプリを、オプティマAI上でアジャイル共同開発することで、個社の要件にも柔軟に対応します。
オプティマAI は AWS 上に構築されています。Amazon Bedrock による生成AI・RAG 機能、Amazon OpenSearch Service による高速検索、AWS Lambda によるイベント駆動処理など、マネージドサービスを組み合わせることで、インフラ運用の負荷を最小化しながらAI機能の迅速な開発・拡張を可能にしています。サーバーレスアーキテクチャの採用により、スモールスタートから段階的にスケールアウトできる点も、物流DXの段階的推進にとって大きな利点です。
オプティマAI は以下の機能群で構成されています。
- オプティマHS(税番採番AI):HS コード分類業務を AI が支援
- オプティマAI-OCR(貿易書類AI):貿易書類の照合・チェック業務を AI が支援
- オプティマ分析予測 / オプティマGATE:物流特化型の分析・予測AI(開発中)
以降では、現在実用化が進んでいるオプティマHS とオプティマAI-OCR について詳しくご紹介します。
オプティマHS:税番採番AI
HS コード分類はなぜ難しいのか
物流における通関業務では、輸出入品に対して適切な HS コード(税番)を判定する必要があります。HS コードは国際条約に基づく品目分類番号で、関税率の決定や貿易統計に利用される極めて重要なものです。
しかし、HS コード分類は非常に難易度の高い作業です。HS 品目表には「部分品」や「附属品」の明確な定義がほとんどなく、同じ部品でも材料や形状、用途によって分類先が変わります。機械類は複数の部分品から構成され、その部分品がさらに別の部分品で構成されるという多層構造を持ち、さらに一つの部品が複数の機械に共通して使われることも珍しくありません。加えて、品目表の通則や部注・類注の除外規定など多層的なルールを正しく適用する必要があり、担当者には深い専門知識と経験が求められます。
こうした難しさから、HS コード分類は長年にわたりベテラン担当者の知識に依存してきました。人手不足が深刻化する物流業界において、この属人的な業務をいかに効率化し品質を維持するかが大きな課題です。
オプティマHS による AI 支援
オプティマHS は、この税番判定作業を AI が支援するシステムです。具体的には以下の流れで動作します:
- RAG(検索拡張生成)による知識活用:実行関税率表、輸出統計品目表、社内規程・ルール、社内ノウハウを検索し、関連情報を取得
- 過去実績による類推:類似の製品情報に対する過去の判定実績から税番候補を類推
- 画像・WEB チェック:製品画像やウェブ情報も参照して判断の精度を向上
- 税番候補と根拠の提示:AI が税番候補を根拠とともに提示し、担当者の判断を支援
重要なのは、AIが最終判断を下すのではなく、あくまで「人が最終判断」を行う設計になっている点です。AIは候補と判断材料を提示し、専門知識を持つ担当者がそれを確認して最終決定を行います。
今後は、荷主様からの質問回答や商品マスター・カタログ等の情報も取り込み、さらに精度の高い支援を実現する予定です。
AWS の活用ポイント:オプティマHS では、Amazon Bedrock を活用した RAG アーキテクチャにより、実行関税率表や社内ノウハウといった大量の専門知識を効率的に検索・活用しています。また、Amazon OpenSearch Service による高速なベクトル検索で、過去実績からの類推を高精度かつ低レイテンシで実現しています。これにより、HS コード分類のような専門性の高い業務に対しても、最新の生成AI技術を迅速に適用することが可能になりました。
オプティマAI-OCR:貿易書類AI
貿易業務では、インボイス、パッキングリスト、船荷証券(B/L)、輸出申告書、船積依頼書など、一つの取引に対して多数の書類が発生します。これらの書類はそれぞれ異なるフォーマットで作成され、荷主、船会社、航空会社、通関業者など複数の関係者から異なるタイミングで届きます。担当者は、これらの書類間で品名・数量・金額・重量・仕向地などの情報が一致しているかを一つ一つ目視で照合し、不整合があれば関係者に確認を取る必要があります。書類の枚数が多いほどチェック箇所は掛け算で増え、かつ一つのミスが通関の遅延や追徴課税につながりうるため、正確さと速度の両立が常に求められる業務です。
オプティマAI-OCR は、この書類照合業務を AI が支援するシステムです:
- AI-OCR によるデジタル化:貿易書類(インボイス、輸出申告書、船積依頼書)を AI-OCR でデータ化
- AI による書類照合・正誤チェック:デジタル化された情報を AI が照合し、正誤チェックを実施
- リコメンド表示:チェック結果と推奨事項を画面に表示し、担当者の作業をサポート
さらに将来的には、AI エージェントによるドキュメント生成、基幹システムとの連携、上流・下流工程の自動化も視野に入れています。「AI 機能の提供ではなく、日常業務に AI を取り込む」という思想のもと、業務プロセスそのものに AI を組み込んでいます。
AWS の活用ポイント:AI-OCR のモデル推論には Amazon SageMaker AI を活用し、多様な書類フォーマットに対応したモデルのトレーニングとデプロイを効率的に行っています。デジタル化後の照合ロジックにはAmazon Bedrockの生成AI機能を活用し、書類間の不整合を文脈を考慮して検出します。また、AWS Lambdaによるイベント駆動型のパイプラインにより、書類が取り込まれたタイミングで自動的に処理が開始される仕組みを実現しています。
AWS 上のアーキテクチャと活用メリット
オプティマAI は AWS 上に構築されており、主に以下のサービスを活用しています:
- Amazon Bedrock:RAG による知識検索と生成AI機能の基盤。税番判定の類推や書類照合のロジックに活用
- Amazon OpenSearch Service:大量の貿易書類データや過去実績のベクトル検索・全文検索に活用
- Amazon SageMaker AI:AI-OCR モデルのトレーニングと推論に活用
- AWS Lambda:イベント駆動型の処理パイプラインを実現
- Amazon S3:書類データ、学習データ、モデルアーティファクトの保管
- Amazon DynamoDB:過去実績やルール情報の高速アクセス
AWS を採用したメリット
1. スモールスタートから段階的に拡張できるアーキテクチャ
オプティマAIは2024年の実証実験から開始し、2025年に実用基盤、2026年以降にAI間連携へと段階的に発展させる戦略をとっています。開発プロセスにおいても、業務担当者との密なすり合わせとプロトタイピングによる有用性の確認を繰り返しながら、実際の業務に即した形でAI機能を磨き上げてきました。AWSのサーバーレス・マネージドサービスを活用することで、初期投資を抑えつつ、こうしたアジャイルな開発サイクルを支える柔軟な基盤を実現しています。プロトタイプから本番環境への移行もスムーズに行え、利用量の拡大に応じてシームレスにスケールアウトすることが可能です。
2. 生成AIの迅速な導入と進化への追従
Amazon Bedrock により、最新の基盤モデル(Claude、Amazon Nova 等)をAPIベースで即座に利用できます。モデルの進化に伴い、HS コード分類の精度向上や書類照合の品質改善が期待でき、インフラ側の変更なしに最新モデルへの切り替えが可能です。物流業界のように業務要件が多様で変化し続ける領域において、AI の進化を即座に取り込める柔軟性は大きな競争優位となります。
3. 運用負荷の最小化
マネージドサービスの活用により、サーバーの管理やスケーリング、パッチ適用といったインフラ運用の負荷を AWS に任せることができます。日新の DX 推進チームは、インフラ運用ではなく、物流業務に精通した AI アプリケーションの開発と改善に集中できています。
4. セキュリティとコンプライアンス
貿易書類や通関情報など機密性の高いデータを扱うため、セキュリティは最重要要件です。AWSのセキュリティ機能(VPCによるネットワーク分離、IAMによる細粒度なアクセス制御、暗号化機能など)により、エンタープライズレベルのセキュリティを確保しています。
「人とAIの協働」という設計思想
オプティマAI の最大の特徴は、「AI が人に取って代わる」のではなく「人と AI が協働する」という設計思想にあります。
物流業務、特に通関や貿易書類処理は、法規制への準拠や例外処理が頻繁に発生する領域です。こうした業務では AI が100%の精度で自動化することは現実的ではなく、むしろ AI が候補案と根拠を提示し、人間の専門家が最終判断を行うハイブリッド型のアプローチが有効です。
このアプローチにより、以下の効果が期待されます:
- 生産性の向上:担当者が煩雑な調査・照合作業から解放され、より高度な判断業務に専念できる
- 品質の維持・向上:AI による一貫したチェックにより、ヒューマンエラーを低減
- ノウハウの継承:ベテラン担当者の暗黙知を AI に学習させることで、組織知として保存・活用
まとめ
本ブログでは、日新のオプティマAI プラットフォームを通じて、物流業界における AI 活用の実践例をご紹介しました。
「人とAIの協働」をコンセプトに、税番採番AI(オプティマHS)、貿易書類AI(オプティマAI-OCR)、物流特化AI(オプティマ分析予測・GATE)を実用化し、さらにAI同士が仕事を進める次世代プラットフォームへと段階的に発展させる戦略は、物流DXを推進する上で示唆に富むアプローチです。
AWS のマネージドサービスを活用することで、スモールスタートから始めて段階的に拡張し、生成AIの進化を即座に取り込みながら、運用負荷を最小限に抑える ── この構成は、物流業界のように多様な業務プロセスを持つ企業がAIを本格活用する際の効果的なパターンと言えるでしょう。
今後、AI エージェント間の連携や MCP の活用により、顧客と日新のシステムがより密接に連携し、サプライチェーン全体の最適化が進むことが期待されます。