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スマートストア分析 : 収益性の高い小売インサイトを生み出す

ある時間の店舗内人数、つまり基本的なフットフォールデータがあり、かつ単位時間あたりの売上データもわかっているのであれば、顧客の「コンバージョン」率を概算することはできます。ですが、顧客の行動に関する、よりきめ細かなデータを取得できるとしたらどうでしょうか?カテゴリ別の滞留時間を把握し、店舗内で顧客がそれぞれどのように移動するかを物理的にマッピングし、何も購入せずに店舗を出ていった顧客まで含めて幅広く統計カテゴリに分類できるとしたらどうでしょう。さらには、ロイヤルティプログラムに加入済みで精算時に会員カードをちゃんと取り出してくれる顧客だけでなく、あなたの店舗を訪れる「あらゆる」顧客についても分類できるとしたらどうでしょう。

いかがです?今や、あなたはこういったインサイトのすべてを手に入れることができるのです。それ以上のものも手に入れられるのです。

このブログでは、AWS for the Edge テクノロジーである AWS Panorama Appliance を使い、既存の CCTV 映像を処理して実店舗ネットワークにとって重要な店舗内分析(さらにはリアルタイムのアラート)を得る方法の概要を解説します。長年にわたり e コマースアプリケーションは、小売業者が顧客のオンライン体験を改良、改善し、フリクション(訳注:顧客体験にける摩擦や抵抗になる要素)を取り除き、コンバージョンを増加させることができるように、豊富な分析セットを提供してきました。あらゆる検索キーワード、クリック、カーソルの移動を記録、分析することで、行動パターンを明らかにし、顧客とその活動に関するインサイトを提供します。最終的には、より深いオンラインエンゲージメントを実現し、購買意欲を高めることへとつながっています。

コンピュータビジョンやその他の人工知能技術を使い、実店舗から同様のデータを取得することで、顧客の購買体験をレベルアップさせることが期待できます。スマートストアテクノロジーと呼ぶかどうかは別として、100 年以上昔、レジが登場して以来、店舗における最大の技術革新と言えるのではないでしょうか。

これまで AI やコンピュータビジョンといった技術を利用するにあたって最大の障壁のひとつに実装の難易度がありました。膨大な計算能力、特別に学習させたアルゴリズム、そしてそれらをまとめあげる優秀な人材が必要だったのです。しかしこの 10 年間におけるクラウドコンピューティングの台頭により、この問題は解決されたのです。クラウドコンピューティングはどこからともなく登場し、新興企業にとってはデファクトのコンピューティングプラットフォームとなり、大多数の大企業や政府機関の IT 運用においても大部分を占めるようになりました。

クラウドコンピューティングの持つパワーと弾力性は AI とコンピュータビジョンに大きな飛躍をもたらしました。超強力なコンピュータを数時間借りてコンピュータビジョンモデルを学習させることも、学習済みのモデルをダウンロードすることもできるようになり、もはやハードウェアに大金を投じる必要はありません。コンピュータビジョンは今や非常によく理解されている技術であり、最新のモデルはますます効率的になってきています。今や写真に写っている人間は簡単に識別することができます。携帯電話でもできますし、画像を撮影するカメラに埋め込むことも可能です。また、すべてのカメラ映像をクラウドにストリーミングし、一元的に処理することもできます。しかし、ほとんどの店舗ネットワークの帯域幅はそれに十分なものではなく、すべてのデータを転送するためにコストがかかってしまいます。

ここで AWS for the Edge の出番となります。AWS Panorama Appliance を使うことで、店舗内で複数のビデオストリームを処理し、分析のために送信するデータ量を毎秒ギガバイトからわずか数キロバイトへと大幅に削減することができます。複数の CCTV 画像をシンプルなテキストに変換し、個人を特定できる情報(PII)もすべて撮影した場所に残すことができるようになりました。これにより顧客のプライバシーは保護され、匿名化された集計データのみを中央の分析ポータルに送れるようになります。

技術ソリューション

既存の店舗内 CCTV カメラは、AWS Panorama Appliance が読み込める Real-Time Streaming Protocol(RTSP)で映像をストリーミングすることができます。AWS Panorama Appliance では事前学習済みのコンピュータビジョン AI モデルを用いて各フレームの人間を境界線で識別し、その境界線内で人間の骨格の正確な位置を分析することができます。これは一般に「人物姿勢検出」と言われるもので、このタスクを実行する多くのオープンソースモデルがあります。

足首、膝、腰、肩などの主要な関節の検出に加え、AWS Panorama Appliance 上でロジックを適用して各人物の中心点を特定することもできます。プライバシー保護のため各ビデオフレームは処理後に破棄されます。AWS Panorama Appliance から出力されるデータは、テキストベースの匿名の座標、性別や年齢層などの集計された統計データのみになります。

以下の図でエンドツーエンドの処理を簡単に表します。

以下の例では、コンビニエンスストアに設置された 1 台のカメラが、数人の顧客が買い物をしている様子を撮影しています。この撮影アングルは店舗内 CCTV カメラの典型的なカメラ配置で、店舗内行動分析向きです。座標データを利用するために、投影歪みを除去し、店内の鳥瞰図を作成する必要があります。これについては後ほど詳しく説明します。

この単一カメラビューを、AI モデルとロジックを搭載した AWS Panorama デバイスに RTSP で送信します。IP カメラからストリームされるそれぞれのビデオフレームが AI モデルへの入力となります。

生のビデオフレームは AWS Panorama Appliance によって直接読み込まれ、複数のコンピュータビジョン AI モデルに渡されます。このプロセスでは、まずオブジェクト(この場合は「人」)を検出し、次にフレーム内の各人の姿勢を識別(「人物姿勢検出」)します。次の図では、人が店内で立っていた場所の中心を表すために両足首の間に中間点(緑の点)を追加しています。実際には、この出力データを映像として見ることはありませんが、データの視覚化や、さらなるユースケース開拓のために有用なものです。

マルチオブジェクトトラッキングは、店舗内を移動する顧客の動きを簡略化して追跡するために使われます。このアイデアでは、人々は複数のビデオフレームのコース上でわずかに位置を変えるだけです。

座標データポイントは遠近による歪みを取り除き、棚配置をマッピングして店舗の鳥瞰図となります。

scikit-image の transform ライブラリを使えば簡単に処理できます:

ほぼすべてのロジックは AWS Panorama Appliance にロードすることができます。この時点で帯域幅の要件を大幅に削減し、画像からあらゆる機密データを削除できているので、データポイントを AWS クラウドストレージにストリーミングすることもできます。

ソリューションのハイレベルアーキテクチャ

最後に全データポイントをデータレイクに安全に保存して後々分析やダッシュボード作成に役立てたいと考えるでしょう。データから得られる最も興味深いインサイトとして顧客の滞在時間があります。棚配置と組み合わせヒートマップとしてプロットすると、顧客が店舗内のどのエリアに最も滞在するかが明らかになります。この情報から、より効率的な店舗レイアウトに再編成したり、店舗内のより空いているエリアに顧客を誘導できるようになります。

特定の領域にいる顧客の滞在時間や属性を最適化することで、収益化に繋げることも可能です。対象を絞った広告素材や利益率の高い商品を戦略的な場所に配置するのに役立てることができます。あなたは今、情報に基づいた有益な意思決定を店舗で行うために必要なデータを手に入れたのです。例えば、リアルタイムアラートを通知して、販売機会に応じてスタッフを迅速に配置することができます。10 分間高価なハンドバッグを見ている顧客に対応するべく、ベストな販売員を送り込むこともできます。

始めましょう

今すぐトランスフォーメーションに取り組みましょう。コンピュータビジョンの実証実験を行い、顧客が店舗でどのように行動しているのか、どのようなインサイトを得られるか見てみましょう。あなたがビジネスのゲームチェンジャーになることを保証します。この技術は誰もが手に入れられるものであり、有用な結果を得るために博士号を取得する必要もありません。デジタル開発チームがいない場合には、必要なものを提供してくれるパートナーに連絡を取ることもできます。AWS が煩雑な作業は引き受けます。お客様とパートナーとは、ビジネスをユニークなものにし、競合他社と差別化するためのビジョンの実現に集中することができます。AWS のアカウントチームに連絡してください。喜んでお手伝いします。

AWS のスマートストアテクノロジーについてはこちらをご覧ください。


著者について

Duncan Watson

Duncan Watson は、AWS の UK Enterprise Retail チームのシニアソリューションアーキテクトです。小売業界において 20年以上の経験があり、大手小売業ブランドのインフラ、e コマース、顧客領域でのアーキテクチャ開発をリードしています。顧客の問題を解決することと、デジタルトランスフォーメーションに情熱を注いでいます。

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。