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経団連の規制改革要望書への意見が採用。行政の「あたり前をアップデート」する AmbiRise 社の取り組みとは

こんにちは。アマゾン ウェブ サービス ジャパン パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)の岩瀬霞です。今回は、元札幌市職員で AmbiRise を創業された 田中 寛純 氏に、行政 DX の取り組みや AWS の支援について伺いました。

行政の当たり前をアップデートする AmbiRise

――まずは御社の紹介をお願いします。

株式会社AmbiRise は、2020年に札幌で設立した会社です。クラーク博士の言葉 “Boys, be Ambitious” の “Ambitious” と上昇している意味の “Rise” を合わせて AmbiRise という社名にしました。会社のミッションは「行政のあたり前をアップデートする」です。これまで進んでこなかった行政のやり方を、ビジネスと IT の力を組み合わせて行政サービスを変えていくことを目的としています。

具体的には、行政向けの電子請求書サービス Haratte という SaaS の提供、そして単に SaaS の提供だけではなくて、サービスを効果的に使っていただくためのコンサルティングを提供しています。いわゆる GovTech, DX 系のスタートアップです。自治体の取引に必要な請求書は、多くは紙ベースで行われています。私が元いた札幌市役所でも年間 30-40 万枚を紙で処理し、手作業で会計システムに入力する作業が、職員の大きな負担になっています。自治体の会計システムをはじめとする情報システムは閉鎖ネットワーク上にあってセキュリティ上、データを外に取りにいくことができないのですが、Haratte を使うと、QR コードによって請求書の情報を全て取得することができます。コンセプトは 100% 正確な OCR です。去年実証実験を実施し、2022 年中に自治体での本番稼働を予定しています。

――ビジネスモデルについて教えてください。

ビジネスモデルとしては、自治体単位で導入していただき、フィーをいただいています。自治体と取引する事業者は、無料で使うことができます。単純な請求書の電子化サービスだと行政側のメリットは少ないですが、Haratte は、会計システムの入力部分の自動化をあわせて提供しています。自動化によって職員の事務作業量や、間違いを減らすことできるため、職員の業務効率化というストーリーで自治体のなかで予算獲得がしやすくなります。

会計システムの入力部分の自動化については会計システムの大手主要ベンダーと協業し、会計システムに組み込んだ形での提供も進めています。弊社のサービスを導入していただくことで、自治体は市民サービスの向上やデジタル化だけでなく、実際の効率化を訴求できます。

――お話をお伺うと、田中さんが元自治体職員でいらっしゃることが事業に大きく活かされていますね。公務員を辞め起業されたきっかけは何ですか?

理由は大きく2つあります。一つ目は、外から行政を変えたいという思いです。札幌市役所の職員として 18 年働き、その中でも情報システム部門の仕事に 15 年携わりましたが、電子政府、DX といくら言っていても、役所のやり方は殆ど変わりませんでした。自分も職員として色々なことをやりましたが、税金が原資であることでの公平性の縛りや一職員の立場で変えられることが小さいというもどかしさがありました。

市役所が大きく変わるのは、外圧があるタイミングです。そこで中からではなく、外から行政を変えるよう働きかける方が結果的に行政を変えることができるのではという思いがありました。また、官民連携が叫ばれますが、行政の方と民間の方に大きなギャップがあり、中を知るものとして、外から橋渡しするのも自分の役割だと考えました。

AmbiRise CEO兼CTO  田中 寛純 氏

二つ目は、自分のキャリア的にも、市役所の外で情報のプロフェッショナルとして歩んでいきたかったからです。一般的に役所は、いろんな部署を経験した方が昇進できます。元々事務職として採用された自分は縁があって情報部門の経歴が長くなってしまい、キャリアの行き詰まりが見えてしまいました。かといって情報系のスペシャリストで生きていこうとすると、IT はトレンドの移り変わりが激しく、役所のような安定した職場だとトレンドについていく経験を得つづけるのが難しいと感じていて、外に出てプロフェッショナルとしてキャリアを歩んでいこうと考えました。

せっかく辞めるのであれば、やりたかったことの実現手段としては起業がベストだと考えました。

公共分野のスタートアップ支援プログラム への参加がきっかけで、経団連の規制改革要望に採用

――御社は AWS Startup Ramp (※現在はAWS Activateへ移行)に参加されています。このプログラムに加入した経緯をお聞かせください。

プログラムに申し込んだきっかけは、経済産業省北海道経済産業局の方から、AWS の公共分野のスタートアップ支援プログラム 開始についての記事を教えていただいたことです。その経緯で AWS で働く知人に問い合わせたところ、行政向けシステムを開発する弊社が対象になることの確認がとれたので、申込みました。

プログラムでは AWS を無償で利用できるクレジットがもらえるということで興味を持ちました。丁度他クラウドベンダーから、AWS へのマイグレーションを検討していました。スタートアップは固定費が経営を圧迫しますが、事業展開で検証環境が必要になるので、クラウド費用の補助をいただきながらスケールさせることができるのは魅力です。

もう一つは、自分は自治体と民間の橋渡しをしたいという思いがあったので、他にどのようなスタートアップが プログラムに参加しているのか、興味があったためです。

――御社の提言が、経団連の規制改革要望に採用されました。経緯と、提言の概要について教えてください。

経団連にて毎年、国へ規制改革要望が提出されていますが、2022年のテーマの一つ「人の活躍促進」の中で「スタートアップの躍進」に関する要望が募集されており、AWS の担当者から、何か困りごとがないか、という問い合わせがあったのがきっかけです。ルールを変えられるチャンスだと思いつつも、軽い気持ちで提言を提出させていただきました。その後 AWS の公共政策チームの方からヒアリングを受けた後、経団連、内閣府のご担当者とお繋ぎいただき、面談を進めていくうちに、ここまで来たらしっかりやらないとと気持ちになり、自治体の現状を説明させていただいたところ、2022 年度規制改革要望に採用していただくことができました。

提言の背景としては、自治体が請求書を受け取って支出伝票を起票した後、最終的に会計部門が審査しないと払えないシステムになっています。中核市規模で 10 万件、政令市規模だと 50 万件以上の支出事務が存在しており、執行課の起票事務、会計課の審査事務負担が大きくなっています。札幌市規模の場合、審査に携わるの会計部門の職員は 30 人近くになります。

法律上、この審査業務を民間委託できるかどうかが曖昧になっており、各地方自治体の判断に委ねられている結果、民間委託が進まず自治体職員に大きな負担が残っている状況でした。これに限らず、自治体の事務についての国の見解は、「各自治体の判断で」となりがちです。そうすると自治体はリスクを取らない方の判断をしてしまいます。ここを国が規制緩和する方向に解釈を明確にしていただくことで、民間委託を進めて自治体業務の大幅な効率化が実現でき、ひいては民間に新たな雇用の機会を生み出し、地域経済の活性化が期待できると思います。

今回 AWS によって経団連に繋いでいただいたことがきっかけで、規制改革の提言に当社の意見を活かしていただくことができました。この件に限らず、自治体の立場ではなかなか変えられない内容を、外の立場から支援する役割、そしてそれを通した新たな市場創造に貢献できればと思っています。

これからも元行政職員ならではの視点で、当たり前をアップデートしたい

――今後、事業やサービスをどのように成長させたいですか。

「行政のあたり前を変える」と偉そうなことを言っていますが、元行政職員として、変えられる制約、変えられない制約を知っている人間だからこそできることでお役に立てたらいいなと思っています。色々な人が取り組まれている中、中を知っている立場だからこそ抜け落ちがちな課題、その隙間に対してのソリューションをぶれずに提供していきたいです。

最新のテクノロジーを必ずしも使うわけではなく、アプローチはとても地味だけどもこれを面白いと思ってくれる人と仕事をしたいと思っています。Haratte は今年度に自治体での本番稼働を予定しているので今後のスケールを見据えて人材も募集しています。

――これからの御社の事業成長が楽しみです。本日は AWS のオフィスまでお越しいただきありがとうございました。

左からアマゾン ウェブ サービス ジャパン パブリックセクター 事業開発マネージャー 岩瀬 霞、AmbiRise CEO 兼 CTO 田中 寛純氏、 アマゾン ウェブ サービス ジャパン パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)田村 圭

 

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャーである岩瀬 霞が執筆しました。