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小売業界の未来を切り拓く:東芝テックが AWSの AI エージェントを活用した店舗運営支援ソリューションを開発
はじめに
東芝テック株式会社は、流通・小売業界やさまざまなワークプレイスに向けたソリューションを開発、提供しています。POS システムにおいては国内外でトップシェアを誇るリーディングカンパニーであり、グローバルリテールプラットフォーム「ELERA」による小売業務全体のデジタル化を支援しています。ELERA は、「タッチポイント」「ソリューション」「データサービス」の 3 軸でビジネスを展開し、高い拡張性とリアルタイムな情報活用によって現場の課題解決を支援することで、店舗運営の効率化や意思決定の高度化につなげます。パートナーとの連携を通じてデータ活用を軸に、店舗運営と顧客体験に革新をもたらす『リテール共創基盤』として、次世代の消費体験を形にしていきます。
この度、東芝テック株式会社は AWS の技術支援のもと、AI エージェント を活用した店舗運営支援ソリューションを開発し、2026 年 3 月3日~6日まで、東京ビッグサイト(国際展示場)で開催される「リテールテックJAPAN 2026」にてデモンストレーションを行います。本ブログでは、この新しいソリューションを解説致します。
小売業界が直面する課題
現代の小売業界では、デジタル化の波とともに、店舗運営の複雑さが増しています。売り場責任者は日々、膨大な売上データ、在庫情報、顧客動向を把握しながら、収益性を最大化するための意思決定に迫られています。しかし、多くの店舗では、ベテラン担当者の経験と勘に頼った運営が続いており、データ活用の恩恵を十分に受けられていないのが現状です。
特に深刻な課題となっているのが、データ分析に熟練の知見が必要とされることです。多くのスーパーマーケットの店舗では、数十種類にも及ぶ帳票に加え、日次・月次の売上集計、商品別売上分析、時間帯別売上分析など重要な情報が蓄積されますが、これらを読み解いて適切な判断を下すには複数年にわたる現場経験が必要とされています。新人スタッフや若手の売り場責任者にとって、予算達成率の数字から、具体的にどのような対策を講じるべきかを判断することは容易ではありません。
さらに、小売業界全体に共通する課題として、多くの店舗システムではデータの更新頻度に制約があり、リアルタイムな状況変化への対応が困難な状況です。例えば、午前中に特定の商品の売れ行きに変化が生じても、その情報を即座に把握して適切なタイミングで値引きや陳列変更といった対策を打つことは困難です。さらに人手が限られる中で、他の商品情報も踏まえ、どの商品から優先的に対応すべきかを判断するのは困難です。
また、部門横断的な分析も大きな課題です。例えば青果部門の責任者が、関連商品である鍋スープの売上動向を把握して連動した販促を行いたくても、部門ごとに分かれた組織構造や、各部門に蓄積された専門知識の分断により、総合的な判断を行うことは困難です。異なるシステムに散在するデータの統合に加え、部門間でのナレッジ共有や協調的な意思決定プロセスの確立が技術的・組織的な課題となっています。
店舗運営支援ソリューションの価値
本ソリューションは、これらの課題を解決し、小売業界に革新的な価値をもたらします。AI エージェントが小売業者の POS データや別システムのデータベースに格納された在庫情報、カメラや温湿度計などの IoT センサーによって生成されるデータなどを継続的にモニターし、あらかじめ設定したシグナル(売れ足が平常時より鈍い等)を検知すると、取るべき施策(値引きの必要性やタイミングの判断等)を自動的に分析し、売り場責任者のスマートフォンに具体的な推奨アクションを即座に通知します。これにより、従来は気づかれなかった売上機会を把握し、タイムリーな対応が可能になります。
ポイントは、ベテラン担当者の豊富な経験と知見、店長の施策の方向性を、管理画面から自然言語でインプットするだけで、現場でノーコードで AI エージェントを開発できることです。これらのエージェントは、従来の AI チャットボットとは異なり、24時間365日バックグラウンドで働き続けることできるため、PC やスマートフォンで担当者が質問文を入力せずとも、重要なビジネスシグナルを見落とすことがありません。結果として、データに基づく具体的で実行可能な施策を、適切なタイミングで実行することで、省人化に寄与しながら売上向上や廃棄削減を目指すことができます。
アーキテクチャ
POS data analysis agents は、バックグラウンドで定期的に実行され、あらかじめ設定されたベテラン担当者の業務知識から生成されたプロンプトに基づいて POS データを分析し、施策を提案します。また、提案した施策に対して、店舗担当者の追加の質問を受け付け、データに基づいてパーソナライズされた対話を行います。
活用されている AWS サービスと、AI エージェントの構造
本ソリューションは、AWS の生成 AI サービスと、サーバーレスアーキテクチャを組み合わせた構成により実現されています。AI エージェントとは、事前に設定された目標を達成する自律型 AI システムです。従来のソフトウェアと異なり、事前定義済みのワークフローを必要とせず、AI エージェント自身がタスクを立案し、自動で実行することができます。AI エージェントの最もシンプルな定義は、1) モデル、2) ツール、3) プロンプト、の 3 つの要素の組み合わせです。
本ソリューションでは、下記の AWS サービスを活用しています。
- Amazon Bedrockは、AI エージェントの「モデル」に利用しています。Claude 4.5 Sonnet の高度な自然言語処理能力により、ベテラン担当者から自然言語で与えられた業務知識を理解し、エージェントへ与える「プロンプト」に変換します。また、Amazon Bedrock は リアルタイムデータとデータベーススキーマを入力に SQL を生成する役割も持ちます。これにより、刻々と変化する状況に対応した施策を提案します。
- Amazon Bedrock AgentCore は、効果的なエージェントを大規模かつ安全に構築、デプロイ、運用するためのエージェントプラットフォームです。AgentCore サービスの一つである AgentCore Runtime は、AI エージェントやツールをデプロイして実行するための、安全でサーバーレスの専用ホスティング環境を提供します。本ソリューションでは、AWS が開発したオープンソースの SDK である Strands Agents SDK を利用して開発した AI エージェントを AgentCore Runtime にデプロイしています。AI エージェントには、データベースに対して SQL を実行したり、Amazon DynamoDB に対して推奨アクションを登録するなどの「ツール」が与えられていて、必要なタイミングで実行することができます。また、AgentCore Memory は、AIエージェントが過去の対話を記憶できるようにするサービスです。本ソリューションでは、PC やスマートフォンを通じて AI エージェントが担当者と会話をする際に、過去の会話に基づいたパーソナライズされた応答を実現しています。
- Amazon DynamoDB は、一桁ミリ秒のパフォーマンスを実現する、サーバーレス NoSQL フルマネージドデータベースです。本ソリューションでは、ベテラン担当者の豊富な経験と知見に基づいて生成されたプロンプトや、AI エージェントによって生成された推奨アクションが保存されています。
- Amazon EventBridge は、イベントを使用してアプリケーションコンポーネント同士を接続するサーバーレスサービスです。これにより、スケーラブルなイベント駆動型アプリケーションを簡単に構築できます。本ソリューションでは、定期的に AI エージェントを起動させるために使用されます。
AWS の技術支援を活用した開発プロセス
本ソリューションは、東芝テックが AWS の技術支援のもと開発しました。開発プロセスでは、まず AWS のサンプルソリューションを活用したワークショップを実施し、東芝テックから提供された POS データを用いて AI エージェントの可能性を検証しました。このワークショップを通じて、小売業界特有の課題と AI 活用の方向性を明確化することができました。
続いて、AWS のプロトタイピングプログラムを活用し、具体的なソリューションの実装支援を行いました。東芝テックの豊富な業界知見と、AWS のクラウド・ AI 技術を組み合わせることで、従来解決が困難だった課題へのソリューションが実現しました。
本プロジェクトをリードした、東芝テック株式会社 執行役員 リテール・ソリューション事業本部 副事業本部長、同プロダクト・プランニング&クリエーションセンター長の石川 尚氏は、AWS との連携についてこのようにコメントしています。
東芝テックは、AIやクラウド技術の活用を通じて、小売業界のDXを強力に推進しています。今回、AWSの技術支援のもと、現場の課題解決に直結するAIエージェントを開発できたことは、当社のビジョン実現に向けた大きな一歩です。
小売現場の人手不足や業務の複雑化といった社会的課題に対し、データドリブンな意思決定支援を提供することで、より効率的で持続可能な店舗運営を実現します。
今後も AWS との協力を通じて、業界の未来を切り拓く革新的なソリューションを提供し続けてまいります。東芝テック株式会社 執行役員 リテール・ソリューション事業本部 副事業本部長
同プロダクト・プランニング&クリエーションセンター長
石川 尚 氏
リテールテックJAPAN 2026での展示について
展示概要
- 会期: 2026年3月3日(火)〜6日(金)
- 会場: 東京ビッグサイト
- 東芝テックブース: 東展示棟 4ホール RT4201
- 東芝テックの告知ページ: https://www.toshibatec.co.jp/event/exhibition/rtj2026.html
小売業界の未来への展望
本ソリューションは、小売業界におけるAI活用の新たな可能性を示すものです。データドリブンな意思決定支援により、以下のような未来の実現を目指しています:
- 人手不足の解決: 経験に依存しない店舗運営の実現
- 収益性の向上: データに基づく最適な価格設定と在庫管理
- 顧客満足度の向上: 適切な商品配置と在庫確保による購買体験の改善
- 環境負荷の低減:廃棄ロス削減により、製造・輸送・廃棄における資源消費や GHG 排出量を軽減
東芝テックと AWS は、今後も小売業界の DX を支援し、より効率的で持続可能な店舗運営の実現に向けて取り組んでまいります。リテールテック JAPAN 2026の東芝テックブースにて、ぜひこの革新的なソリューションのデモをご体験ください。小売業界の未来を一緒に創造していきましょう。
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本記事は東芝テック株式会社とアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の共同執筆によるものです。
著者
小川 翔
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
流通小売業界のお客様を中心にクラウド活用の技術支援を行なっています。好きな AWS サービスは Amazon Bedrock と、Amazon Personalize です。
谷 梨奈子
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
アカウントマネージャー
製造業のお客様を中心にクラウド活用に対する営業支援を行っております。MigrationからAI活用まで幅広い分野を提案させていただきます。

