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愛媛県庁は、AWS上で”官民共創デジタルプラットフォーム”「エールラボえひめ」を運用

今回のブログでは、 AWSジャパン・パブリックセクターより、2021年8月5日に開催された月例の “AWS公共パートナー向けセミナー“ 『AWSを活用した官民共創デジタルプラットフォーム「エールラボえひめ」の紹介』の模様をお届けします。愛媛県庁様をはじめとする4名の登壇者それぞれの観点を語っていただくことで、取り組みを立体的に理解いただけるカスタマー事例となっております。
 ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。また、今後開催される公共部門パートナー向けイベントにご登録いただく場合には、 aws-jp-pubsec-partner [@] amazon.comまでご相談ください。

日本政府のクラウド関連のガイド類とも整合

セミナーの冒頭、特別ゲストとしてご参加いただいた大久保光伸 政府CIO補佐官(以下、「大久保氏」)より、今回のセミナーの ”聴きどころ” を予告するかたちで、愛媛県の官民共創デジタルプラットフォーム「エールラボえひめ」の取り組みにおいて工夫を凝らした点を紹介いただきました(エールラボえひめ自体の詳細は、次節で愛媛県庁 デジタル推進課からの登壇者より報告しています)。大久保氏は、インフラチームのリーダーとしてパブリッククラウドを自治体のITシステムで用いるにあたり、特に留意・工夫された点として、

────との工夫を紹介いただきました。

また、大久保氏からは、「今回の愛媛県での取り組みがユニークである点」として、

  • すでに愛媛県においては、パブリッククラウドに適したセキュリティポリシーを先行して整備されていたので、プロジェクトをスピード感をもって進めることができた
  • ITシステムのリスク管理を担っている部署の方々に、パブリッククラウド固有のリスク管理の在り方や運用方式などを丁寧に説明し、インターネット接続環境の既存システムには直接繋がない方針で進めることなどを理解いただいた。
  • 結果として、従来の進め方に比して、調達期間の短縮など行政事務負担の軽減にもつながった

────との、各自治体にとっても参考になりそうな「ベストプラクティス」についても触れていただきました。

冒頭セッションの締めのコメントとして、大久保氏からは、「私としては、本日ご登壇いただく愛媛県庁の皆さん・Public dots & Company社の山口さん・スカラパートナーズ社の木村さんたち(*後述)と手を取り合って、素晴らしいチーミングが出来たと思っている。自分も、政府CIO補佐官として担当府省のリスク管理を行ってきた経験を今回の愛媛のケースで活かすこともできた。今は ISMAPという評価基準が出来たのでそれに準拠すればよいが、それが出来る”以前”に必要とされた大変複雑なプロセスを自分は苦労し、把握してきている。そのプロセスを理解している者が携わっているという点が、愛媛の皆さんにとっては少し安心いただけた材料なのかもしれない。このあとご紹介があるように、地場のIT企業とのコラボレーションであったり、スカラパートナーズさんが構築されたマイナンバーカードの活用による認証サービスやサーバレス技術を採用された点も斬新であった。愛媛県様からのご希望によりスモールスタートで出発したが、アクセスが集中した際にもサーバレス構成により柔軟に対応できるように構築されたことは今後他の自治体にとっても参考になるだろうし、特に評価されるべき点だろう」 「デジタル庁が9月に設立されることが決まり、自治体も含む”ガバメントクラウド”の構想が準備されている。これまで個別にLGWANやJ-LISに接続されていたものが、今後はLGWANも含めて政府が一括で整備・対応していくという在り方へと、ドラスティックに変わっていく。去る6月からは、内閣官房IT総合戦略室より自治体が参加する実証実験の公募を行っており、ネットワーク構成や一部アプリを“ガバメントクラウド”に乗せていく実証実験も予定されている。この実証実験の特徴として、ベンダー各社と自治体がセットで応募することが要件になっているし、自治体側も伴走してくれるベンダーからのお誘いがある方が進めやすいかもしれない。ぜひ、”ガバメントクラウド”の時代にどう各自治体とエンゲージを深めていくか、本日ご参加の皆さんにも一緒に検討してほしい」

────と、述べていただきました。

愛媛県庁の先進的な取り組み

続いて、愛媛県庁 デジタルシフト推進課 重松朋孝係長(以下、重松氏)より、「AWSを活用した官民共創デジタルプラットフォーム エールラボえひめの紹介」と題し、登壇をいただきました(*当日の登壇スライドは こちら:AWSセミナー①愛媛県庁様)。「エールラボえひめ」とは、”>自分たちの周りにある愛媛の課題を、自分たちの力で解決するためのプラットフォーム”です(*詳細は後述)。 重松氏はまず、「愛媛県におけるデジタル専担組織の変遷」から取り組みの紹介を始めます。平成3年に全国に先駆けてデジタルマーケティング専担部署を設置した施策に始まり、令和3年4月にはDX専担部署「デジタル戦略局」を設置し、「デジタルシフト推進課」が愛媛県のDXの旗振り役となっています。

また、愛媛県の「デジタル総合戦略」は「行政・暮らし・産業」のDX推進に向けて、18の戦略と81の戦術が詳細に設定されていることも、紹介をいただきました。令和3年3月には県・市町による「DX協働宣言」を実施、システムの標準化・共同化・クラウド化の推進等に取り組むことも明記されていると言います。

「エールラボえひめ」の命名の由来には、「地域をよくしたいという想いを持っている人を、心から支援(エール)したい──という想いが込められているとのこと。

AWSを採用した理由、あるいはその魅力として、「職員によるシステムの保守管理が不要(必要なものを利用するだけで良い)」「拡張性があり、必要な時に必要な分だけの容量の確保が容易(パブリッククラウドなので運用途中のスペック増強が可能、システム安定稼働と費用低減の両立が可能に)」「仮想環境で動作するため、機器トラブルに影響を受けない高い可用性を持つ」──と、クラウドの本質を深く理解した選定理由を挙げていただきました。

 

「エールラボえひめ」の提供価値

重松氏はまた、エールラボえひめの特徴を、次のように説明します。曰く、「時間や場所にとらわれず、デジタル上のプラットフォームで同じ課題意識を持った人がつながり、課題解決に向けた検討をスタートさせることが出来るという役割」、また、「テーマごとにコミュニティを作り、方向性がまとまればプロジェクトとして稼働するスターターとしての役割」が、期待されていると言います。

実際に、県民生活の質の向上や地域の活性化を目指す取り組みが既に走り始めています。効果的・継続的な支援のため、鍵となるコミュニティマネジャー(コミュニティでの対話を活性化させるため、対話に巻き込む仕掛けづくりを行い、会員同士のマッチング等を促進)とディレクター(プロジェクトの実効性を高めるため、現場調整やアドバイスを行い、プロジェクトの実現をサポート)を配置し、きめ細かな支援が行われており、「令和3年度から令和5年度の3年間で100件のプロジェクト創出を目指す」という目標値も紹介をいただきました。

「心のバリアフリ―ステッカーPJ『やさしさの見えるまちづくり』」「竹の灯りで愛媛を包みたい。」「水産大国愛媛の皮で、革製品をつくってみよう!」──など、地域発の個性的なプロジェクトが創出されている「エールラボえひめ」に、皆さまもぜひご登録ください。(*ブログ筆者も、東京在住ではありますが登録を終えています。)

自治体とテック企業の「橋渡し」役

続いての登壇者は、エールラボえひめ「調整アドバイザー」を務められる山口勉様(以下、山口氏)です。冒頭、官民共創・未来の公共・自治体DXと言ったテーマに強みを持つ株式会社Public dots & Company(PdC社)の会社紹介をいただきました(*当日の登壇スライドは こちら:AWSセミナー②PdC山口様ご登壇スライド_)。総務省の「自治体DX推進計画」や同「全体手順書(ver 1.0)」においても、PdC社が携わった事例が紹介されており、「内閣府スマートシティガイドブック」には磐梯町の事例で登場しています。

山口氏は、地方自治体・行政をめぐる現状を「人がいない、お金もない、にもかかわらず課題は増加(高齢・過疎化、インフラ老朽化、災害対応)して問題も複雑化している状況」と要約します。曰く、「自治体・行政といった公共だけの自前主義では維持できない社会が到来」しており、「DXという手段」を通じた「官民共創の実践モデル」「県と市町の協働モデル」「持続可能な地域還元モデル」の共創こそが、取り組むべき「座組み」の在り方であると指摘します。

こうした現状において、エールラボえひめはまさに、「県民中心の社会課題解決」と「新しい価値創出の仕組み」をデジタル上で実施する先進的な取り組みであるがゆえに、「官民が発注・受注の関係を超え、共創をしていくことが重要だとの認識」が現場では共有されていた──と述べます。その際に、「①”新しい進め方”へのチャレンジ、そしてそれを可能とする②技術へのチャレンジがあった」──と、解決が求められた2つのチャレンジの紹介もいただきました。多くの自治体の皆さまにとってご参考にいただける部分かと思いますので、以下に”チャレンジの乗り越え方”の要約を掲載します。山口氏曰く:

  • ① ”新しい進め方”へのチャレンジはPdC社が担った──県庁には、「発注・受注ではなく共創関係」であるとの認識転換を促す。また、「国の動向の把握、セキュリティ基準への対応」も必須であった。地域に対しては、「地場企業やコミュニティとの連携」の方策を提示。同時に、「東京との連携(官民共創拠点の敷設など)」も追及。これらを、デジタルツールを活用して推進。
  • ②「技術」へのチャレンジはスカラパートナーズ様が担った[*下記に記載します]

──と述べ、これからの時代のキーワードは、発注 /受注, 国/県, 地場企業/コミュニティなどの垣根を超えながら進取の気風でものごとを進めていく「共創」である──と再度強調をいただきました。

愛媛県庁がAWSを導入した際の「技術的」な挑戦

4人目の登壇者として、スカラパートナーズ社の木村宏明様(以下、木村氏)より、エールラボえひめの構成、特に(ポータルサイト側ではなく)「会員サイト」部分の説明を重点的に紹介いただきました(*当日の登壇スライドは こちら:AWSウェビナー③_スカラパートナーズ木村様ご登壇スライド)。

エールラボえひめの「会員サイト」には、大別して、会員機能・コミュニティ機能・プロジェクト機能──の3つがあります。会員サイトのシステム基本構成として、「AWS Amplifyを使い、サーバレス中心の構成」としている点に特徴があります。「マネージドサービスを積極利用し、要件に合わせてマネージドでないサービスを組み合わせ」、「ポータルとAPIでデータ連携が可能」な構成に踏み込んでいるのです。

木村氏は、 「AWSを選定した理由」として、次のように述べます。1)プロジェクト開始から開発期間が5か月しかなく急ぐ必要があった、2)オンプレ環境だと設備の手配が間に合わない、3)性能過多な構成にした場合のコストのリスクを避けたかった、4)追加要望機能に柔軟に対応したかった──と。 こうした要件を満たそうとした場合に 「クラウドだからこそのメリット」の出し方が可能になったと概括をいただき、例えば、「必須のコミュニティ機能では、会員数が増えてもスケーラブルな対応が可能」になったこと、また、「安定稼働と運用保守の人的コスト抑制の両立が可能」となったこと、そして、「自治体案件でのクラウド・サーバレス開発の実績にもなったこと」──にも、登壇で触れていただきました。

また、木村氏は「クラウドでよかったこと」を、フェーズごとに次のように紹介しています。

  • 開発フェーズ:「Amplifyを利用したので、Git Hubによるソース管理からのCI/CD構築が容易」であった。他、「開発メンバー一人ずつに対して環境が容易に構築できるので、開発メンバーの増員にも柔軟に対応が可能」であったこと、「サーバレスなので、開発時のインフラコストを極小化できる(仮想サーバーであるEC2を使う際は、立ち上げている時間で費用がかかる一方、サーバレスだと動作させた分だけでよい)」こと、「サービスのログやバックアップが容易」に設定できること
  • 運用フェーズ:「マネージドサービスを利用することで、運用保守の従来作業の大部分をカットできる(自動スケール、機器メンテナンス、セキュリティパッチ、アップデートのタイミングのお知らせなど)」、「サーバレスなので、インフラコストの極小化が可能」であること

──などを挙げていただきました。

他方で、今回のプロジェクトにおいて「苦労したこと」として、次のような観点を共有いただきました。曰く、「県庁の他部署の人にもわかるように、非常に丁寧に説明する必要があった。オンプレからクラウドへの移行でも、仮想サーバぐらいはイメージできるが、サーバレスでは考え方がすっかり変わるので、理解してもらうのに非常に苦労した」。他にも、「県の情報セキュリティポリシー、構築ガイドラインへの準拠対応」の際にも助言を受けながら進める必要があったこと、また、「非機能要件の達成もポイント」であり、ガイドラインやルールの裏にある”本来の目的”を丁寧にヒアリングし、対応したエピソード(例えば、「管理画面の認証」については、もともとガイドラインに書いている内容では運用が不便になることが分かったので、スカラ社の関連会社の本人確認ソリューションを導入して目的を達成したこと)──などを披露いただきました。

クロージング・メッセージとして、「エールラボえひめはスカラ社にとっても大きな実績になり、あらためて振り返ると、オンプレだと追加要望で対応できなかったなと思うところがある」、「サーバレスだから5か月の短い時間でのリリースが実現でき、エールラボえひめの活性化に合わせてシステムもスケール可能」である──と強調をいただき、登壇を締め括っていただきました。

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このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が執筆しました。

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小木 郁夫
AWSジャパン パブリックセクター
統括本部長 補佐(公共調達渉外)
BD Capture Manager
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#AWSCultureChamp (2021年7月~)