AWS Startup ブログ

企業間連携により新たなビジネスモデルを創出。Chaintopeの AWS 活用事例

Web 3 時代の社会基盤となることを目指し、ブロックチェーンの社会実装を進める株式会社chaintope。エンタープライズ向けパブリックブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」を開発し、各種ユースケースに応じた機能を実現する「TapyrusAPI」をサブスクリプション型サービスで提供しているスタートアップ企業です。

Chaintopeは岩谷産業と協業して、一般家庭における CO₂ 削減効果の環境価値化に向けた施策を発表しました。この協業では、岩谷産業の IoT プラットフォーム「イワタニゲートウェイ」によって家庭で生じるエネルギーデータを取得して、「Tapyrus」を用いて集計し、データの信頼性を高める取り組みを行います。そして、実はこの Chaintopeと岩谷産業との関係構築には、AWS が関与していました。

今回は Chaintopeへのサポートを行うアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー(西日本統括)の金海 裕市とスタートアップソリューションアーキテクトの斎藤 祐一郎が、Chaintopeと、岩谷産業において「イワタニゲートウェイ」関連事業を担うイワタニゲートウェイ株式会社*の方々にお話を伺いました。

<インタビュー参加者>

株式会社chaintope 代表取締役 CEO 正田 英樹氏

株式会社chaintope 取締役 CTO 安土 茂亨氏

株式会社chaintope 事業開発担当 北川 広氏

イワタニゲートウェイ株式会社 酒井 北斗氏

イワタニゲートウェイ株式会社 澤根 範憲氏

*…イワタニゲートウェイ株式会社は、岩谷産業が日本電気株式会社、TIS株式会社などと共同で設立した関係会社です。家庭用情報ネットワーク機能付きガス警報器「イワタニゲートウェイ」を用いた事業の推進や、各種データの利活用による顧客サービスの開発と構築、各種警報器の開発などを主な事業としています。

パブリックブロックチェーンを社会実装する

― Chaintopeの事業概要をお聞かせください。

正田:Chaintope は、誰でもネットワークに参加できるパブリックブロックチェーンでありながら、効率的かつ迅速に社会実装を進められるようにガバナンス設計がなされた「Tapyrus」という独自ブロックチェーンを開発しています。

さらに「Tapyrus」プラットフォーム上で運用可能な、ユースケースごとに最適化した「TapyrusAPI」を開発パートナー向けに提供しています。大きく分けて 4 つの領域で活用することを想定しています。

1 つ目が食品や工業製品、廃棄物などのトレーサビリティ(移動を把握する)情報の取得。2 つ目が CO₂ の排出・削減量の算出および可視化を実現するサステナビリティ情報の取得で、これが岩谷産業との協業事例に関係します。

3 つ目がデジタル上の証明書をブロックチェーンを用いて発行する、トラストサービス系の機能。4 つ目が金融関連で、金融系のプラットフォーマーからの依頼を受けて、各種のセキュリティトークンの発行や地域通貨を作る施策を実施し、API で機能提供します。こうした各種の Web API を提供し、社会にブロックチェーンが実装される土台を構築するのが私たちの事業です。

株式会社chaintope 代表取締役 CEO 正田 英樹氏

金海:ブロックチェーン技術は有益であるにも関わらず、なかなか社会実装が進まなかった印象があります。その原因はどのような点にあるのでしょうか。

正田:これまで、銀行をはじめとする金融機関では取引情報などを中央にあるコンピューターで集中管理してきました。いわゆる中央集権型の仕組みです。一方、ブロックチェーンは利用者がそれぞれのデータを共有して管理する分散型台帳の仕組みになっています。中央集権型と分散型台帳とでは、情報管理の思想が根本的に異なっているのです。

既存の中央集権型システムを前提として情報管理の構造を考えてきた企業や人々に、この概念を理解してもらうことがまず大変です。そして、そうした人々には分散型台帳のモデルへと移行することに体制的・心理的な障壁があります。中央集権型の構造に慣れているため、あえてブロックチェーン技術を使う意味をなかなか見いだせないのです。

パブリックブロックチェーンは不特定多数の参加者による分散台帳のため、スループット(処理速度)が遅くなることがあり、また台帳が公開されるためセンシティブな情報の秘匿性を担保しなければならないといった課題もありました。

こうした各種の課題を「Tapyrus」では解消しています。「Tapyrus」のブロックチェーンネットワークには誰でも自由に参加でき、取引の作成や閲覧が行えます。一方で、ブロック生成や機能追加の権限は管理者のネットワークに属しているため、従来のパブリックブロックチェーンが抱えるガバナンス問題を解消できます。言うなれば、中央集権型と分散型台帳の良いとこ取りをしたブロックチェーン技術を生み出したのです。

また、当社が独自開発したプロトコルによって、大量の取引データを圧縮して各ブロックに記録します。これによりスループットの問題を解決しただけではなく、安全性を損なわずにデータの取引が可能になりました。

AWS による支援が協業のきっかけを創出した

斎藤:「TapyrusAPI」に関連した箇所のシステムアーキテクチャを教えてください。

株式会社chaintope 取締役 CTO 安土 茂亨氏

安土:開発パートナーが「TapyrusAPI」へのユーザー登録を行うと、AWS Step Functions により専用環境が構築されます。セキュリティ・キャパシティの面でリソースが他のテナントの影響を受けないように、シングルテナントモデルを用いています。環境構築では以下の作業が行われるのですが、それぞれのタスクは AWS Lambda によって実装されています。

・データベーススキーマの作成

・API サーバーのコンテナのセットアップ

・Amazon API Gateway のセットアップ

・Amazon Route 53 との紐付け

専用環境が構築されると API の利用が可能になります。開発パートナーが API へのアクセスを行うと、各種ビジネスロジックが実行されます。その結果生まれたトランザクションが「Tapyrus」のブロックチェーンネットワークに配信されるのが大まかな流れです。

API サーバーには AWS Fargate を用いています。私たちは少数精鋭のエンジニアで開発を進めているため、インフラ運用になるべく工数を割かず、顧客への提供価値に直結する機能開発に注力したいと考えています。AWS Fargate はインフラ運用に関する作業を AWS がマネージドで行ってくれるため、私たちのニーズに合致していました。

金海:Chaintopeは AWS のサービスだけではなく、スタートアップ支援プログラム AWS Activate の利用や、公共分野において課題解決に取り組むスタートアップを支援する新プログラム AWS Startup Ramp 1st Batch にも参加いただきました。これらの支援プログラムを活用しての感想をお聞かせください。

安土:AWS Activate と AWS Startup Ramp のいずれも、資金面での手厚いサポートがあるため相当にありがたいです。私たちのようなテック系のスタートアップでは、クラウドプラットフォームの利用料金が支出のなかで少なからぬ割合を占めるため、その費用を気にしなくてよいことは事業運営においてプラスになります。また、AWS のソリューションアーキテクトによる技術支援があることも業務効率化につながっています。

株式会社chaintope 事業開発担当 北川 広氏

北川:AWS Startup Ramp は申請が承認されるまでのスピード感も素晴らしかったですね。金海さんから AWS Startup Ramp のご案内を受けた後、登録をすると翌日に AWS の担当者からご連絡をいただいて、3 日後には申請を開始し、その翌営業日には承認がおりました。

正田:どちらの支援プログラムも、事業運営においてプラスになりました。また、費用面や技術面以外でも AWS には支援をしてもらっています。金海さんから岩谷産業をご紹介いただいたことが、「イワタニゲートウェイ」の協業のきっかけになりました。その節は本当にありがとうございます。

金海:この紹介は我ながらファインプレーでしたね(笑)。エンタープライズとスタートアップの協業には大きな意義があると AWS は考えています。スタートアップ企業は革新的な技術やプロダクトを持っているものの、それを展開するための営業力や資金力、リレーションが不足しています。一方でエンタープライズは顧客基盤や営業力、各種リソースや事業アセットはあるものの、新しい技術やプロダクトを生み出すことに苦労している会社も多いです。

両者が協力し合えば事業のシナジーが生まれますし、それに伴ってクラウド利用量も増えるため AWS にも利点があります。まさに三方良しの座組です。また、AWS はエンタープライズとスタートアップの双方とビジネス上の繋がりがあるため、各社の特徴や強みをふまえて企業のマッチングができることは AWS の強みであり、大きな意義があると考えます。

ビジネス的にも技術的にもマッチした美しいスキームの協業

金海:ここからは Chaintopeと岩谷産業との協業事例の詳細をお話しください。

正田:もともと岩谷産業との協業を行う前から、私たちは佐賀県佐賀市と連携して実証実験を行っていました。佐賀市では、市内で生み出されたごみ発電による再生可能エネルギーを活用して電気の地産地消を行っています。

Chaintopeが新規でシステムを構築して、電気の地産地消の活動が環境にもたらす CO₂ 削減価値を「Tapyrus」を用いてほぼリアルタイムで可視化し、さらに電子証書として発行することで誰もが真正性を確認できるようにしました。

この取り組みにおいて、ある課題がありました。規模の大きい施設などではこのシステムの価値が発揮できるものの、各家庭に設置するにあたって問題が生じたのです。一般家庭の CO₂ 削減の環境価値を可視化するには、初期投資に数万円と毎月 1,000 円近くのお金がかかります。このコストによって CO₂ の削減価値がほとんど相殺されてしまうのです。

ここで救世主になったのが岩谷産業の提供する「イワタニゲートウェイ」でした。これは、ガス・電気メーターなどを情報ネットワーク機能付きガス警報器でつなぐことで、安心・便利な機能を提供するサービスです。この機能を活用して「Tapyrus」と連携すれば、追加コストを払うことなく CO₂ 削減価値を可視化できることがわかりました。「これだ」と思いましたね。

イワタニゲートウェイ株式会社 酒井 北斗氏

酒井:良いタイミングで Chaintopeからお話をいただいたと感じています。私たちも「イワタニゲートウェイ」をどうやって世の中に普及させていくかを模索しているところでした。

岩谷産業はプレスリリースを行った太陽光発電の自家消費によるCO2削減効果以外にも、従来の給湯器と比較して少ないエネルギーで効率よくお湯を沸かせる高効率給湯器という機器を提供しています。しかし、この機器による CO₂ 削減効果を明示することが難しいという課題を抱えていました。

しかし、Chaintopeとの協業によりその情報を可視化し「イワタニゲートウェイ」の販路を拡大できれば、自社の事業や地球環境にとって大きな意義があります。全社をあげて、この施策に取り組んでいるところです。

澤根:こうした取り組みを全国へ広げていくうえで、岩谷産業の顧客基盤が効果を発揮すると考えています。直売と卸を合わせると、岩谷産業は北海道から沖縄まで全国 320 万世帯のご家庭にLPガスをご使用いただいております。

また、協業の相談が来たタイミングも絶妙でした。J-クレジット制度*を有効利用するための検討や調査を実施しており、CO₂ 削減活動に関して社員の理解が進んでいるところでした。さまざまな要素がキレイに組み合わさり、今回の事例に結びついたのだと思います。

*…温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度。

イワタニゲートウェイ株式会社 澤根 範憲氏

斎藤:各家庭における CO₂ 排出量のデータの正当性を担保しつつ管理するという処理は、まさにブロックチェーンの分散型台帳技術が得意とする領域です。ビジネスも技術もフィットしている、非常に美しいスキームだと感じました。

日本だけではなく世界に羽ばたく可能性を秘めた事業

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー(西日本統括) 金海 裕市

金海:Chaintopeの今後における事業の展望をお聞かせください。

安土:私からは技術的な観点でお話しします。多くの方にとってブロックチェーンの低レイヤー部分に触れることは難しいため、私たちは API という形で抽象化を行い、サービスを提供しています。

ですが本来であれば、それぞれの組織や人物が必要な情報を自分たちのローカルノードに持ち、P2P ネットワーク内でトランザクションだけを共有するという構成が、ブロックチェーンのあるべき理想型だと思っています。将来的にはそうした形も実現できるように、技術的な挑戦や各社の支援をしていきたいです。

正田:事業的な観点でお話しすると、今後も岩谷産業のようなプラットフォーマーの企業と積極的に協業をして、私たちの技術を提供しながら一緒にビジネスを構築していきたい。そうした事例を増やしたいと考えています。既に各種自治体や環境省などにも岩谷産業との協業モデルをお話し、好感触を得ています。

澤根:嬉しいですね。岩谷産業はガスに関連するサービスを提供するだけではなく、様々なサービス提供を通じてお客さまの暮らしを豊かにしていきたいと考えています。そうした意味でも意義のある事例です。また、この協業による実証実験を行った結果を踏まえて、Chaintopeと岩谷産業による共同の特許出願も行っています。

正田:この特許は大きな可能性を秘めています。なぜなら、これからもっと世界中の国々で CO₂ 排出権の取引が行われる時代が来るはずです。そのときに、私たちが取得した特許技術を活用できるため、ワールドワイドに事業展開することが可能になります。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップソリューションアーキテクト 斎藤 祐一郎

斎藤:AWS にとって、世界に羽ばたくスタートアップ企業を支援することは大事なミッションです。その企業のご支援ができるというのは意義のあることですね。今回はありがとうございました。


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