AWS Startup ブログ

音声 AI の大規模化に挑む DubGuild — 大規模音声言語モデル開発の最前線【AWS Summit Japan 2026・事例セッション】

AWS について学べる日本最大のイベント「AWS Summit Japan」が、2026 年 6 月 25 日(木)・26 日(金)の 2 日間にわたり、千葉県・幕張メッセにて開催されました。

本記事では、「Scaling Speech AI 〜音声言語基盤モデル開発の最前線〜」と題して登壇された 株式会社 DubGuild のセッションについて、ダイジェスト形式でレポートします。

株式会社 DubGuild VP of Engineering 相田 優希 氏

DubGuild と大規模音声言語モデル

DubGuild は「Scaling Speech AI」をミッションに掲げ、「世界で最も優れた音声言語モデルを作る」ことを目標に研究開発を進めるスタートアップです。

同社が開発するのは「大規模音声言語モデル(本ブログでは Large Spoken Language Model; LSLM とする)」— テキスト変換を介さず、音声を直接理解・生成する End-to-End の基盤モデルです。大規模言語モデル(LLM)が次の「単語」を予測するのに対し、LSLM は同様の仕組みで次の「音声」を予測し続けます。これにより、言語情報だけでなく、音声に含まれる感情や抑揚といったパラ言語情報・非言語情報を直接扱うことが可能になります。

LLM が次の単語を予測するのに対し、LSLM は次の音声を予測する

従来の音声対話システムは、音声活動検知(VAD)→ 音声認識(ASR)→ LLM → 音声合成(TTS)というカスケード型のパイプラインで構成されていました。この構成では、テキスト化の過程で抑揚や声色といったパラ言語情報が失われるほか、システムが「聞く状態」と「話す状態」を行き来するため発話中の割り込みができず、レイテンシも大きくなるという限界があります。LSLM は End-to-End で処理することでこれらの課題を克服し、文脈に応じた自然な感情表現と、人間同士の会話に近い自然なターンテイキングを実現します。

LSLM のこうした特徴は、特に感情表現やリアルタイム性が求められるエンターテイメント領域(AI コンパニオン、AITuber など)や、コールセンター・コンタクトセンター領域での活用が期待されています。また、基盤モデルとしての特性から、ファインチューニングによって通訳、対話、TTS など多様な音声タスクへの適応が可能です。

段階的なスケーリングと GENIAC での大規模開発

LSLM の開発は、データセット作成・事前学習・事後学習の 3 ステップで構成されます。日本語音声の公開データは大規模モデルの学習には不十分なため、DubGuild は独自に大規模データセットを構築。音源分離や音声強調といった前処理を施したうえで、音声に含まれる感情・抑揚・話者性・間などの非言語情報を理解する「音声知能」を獲得する事前学習を行い、さらに対話や翻訳といった具体的なタスクへのファインチューニングを行います。

同社はこのサイクルを繰り返しながら、段階的にモデルをスケールアップしてきました。

  • 1B パラメータ / 5 万時間の音声データ:研究開発済み
  • 3B パラメータ / 50 万時間:研究開発済み(自然な対話生成を実証)
  • 8B パラメータ / 100 万時間:研究開発済み
  • 30B 級 / 700 万時間:GENIAC プロジェクトにて研究開発中(既存最大級を超えるモデル)

パラメータ数とデータ量を段階的にスケーリングし、音声知能の発現を検証

現在、DubGuild は経済産業省と NEDO が共同で推進する国家プロジェクト「GENIAC」に採択されており、AWS が提供する計算資源の支援を受けて、既存最大級を超える 30B 級モデルの開発に取り組んでいます。実証実験では、エンターテイメント領域とコールセンター・コンタクトセンター領域のパートナー企業と共同で、実用性の検証を進めています。

このプロジェクトでは、AWS のサイエンティストが生成 AI のユースケース創出から本番実装までを伴走支援する「AWS Generative AI Innovation Center(GenAIIC)」のサポートも受けており、事前学習や大規模クラスタの構築において技術支援を得ています。

AWS を活用した学習基盤とサービング

GENIAC での大規模学習には、Amazon EC2 P6 インスタンスを使用しています。ノードあたり 8 枚の NVIDIA B200 GPU、1,432 GB の HBM3e メモリ、EFAv4 による最大 3,200 Gbps のノード間通信を備え、Amazon FSx for Lustre / Amazon S3 とのストレージ連携により、700 万時間規模の音声データによる大規模並列学習を実行しています。クラスタ管理には AWS ParallelCluster を採用し、高効率な運用を実現しています。

AWS ParallelCluster と P6 インスタンスによる大規模並列学習環境

また、モデル開発と並行して、サービング基盤の構築にも取り組んでいます。自社開発の TTS モデルを従量課金型 API「kitsune」として提供する準備を進めており、外部にはシンプルな同期 API を公開しつつ、内部では Amazon SQS による非同期ジョブ化と Amazon SageMaker による推論処理で、負荷分離と安定運用を両立する構成を採っています。

今後の展望

DubGuild は、30B 級モデルをさらに上回る 72B クラスへの継続的なスケーリングを計画しています。基盤モデルとしての国際競争力を獲得・維持しながら、事後学習による実用化までコミットし、市場の拡大とともに成長していくことを目指しています。

Startup Spotlight Theater にて多くの来場者が集まった


DubGuild のセッションでは、音声 AI の基盤モデル開発というフロンティアにおいて、AWS の大規模計算基盤を活用しながら段階的にスケールしていく実践的なアプローチが語られました。音声対話の未来を切り拓く同社の取り組みに、今後も注目です。