AWS Startup ブログ

「ライブ配信の問題検出の仕組みを、わずか 1 日で構築できた」THECOO 社の Amazon Rekognition 活用事例

「『できっこない』に挑み続ける」をビジョンに掲げ、一般ユーザー向けの会員制ファンコミュニティアプリケーション「Fanicon」を提供する「Fanicon 事業」および、クライアント企業向けにインフルエンサーを用いたマーケティング施策支援やデジタル広告コンサルティングを行う「デジタルマーケティング事業」を展開する THECOO株式会社

同社は「Fanicon」において、機械学習を利用して簡単に画像や動画を分析できる AWS のマネージドサービス Amazon Rekognition を活用しています。ライブ配信のなかから問題のあるコンテンツを検出するために、Amazon Rekognition によって動画データを解析しているのです。

今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの桑原 弘二が、THECOO社 CTO 城 弾 氏にお話を伺いました。

コミュニティの“健全性”を担保する必要があった

桑原:今回のインタビューでは、Amazon Rekognition の活用事例についてお聞きします。もともと御社は、Amazon Rekognition 導入前にどのような課題を抱えていたのでしょうか。

城:THECOO は 2021 年 12 月 22 日に東京証券取引所マザーズ市場(現:東証グロース市場)へ新規上場しました。その前段階で東京証券取引所の審査を受けていた過程で、「コミュニティプラットフォームを運営している企業は、なんらかの方法でそのコミュニティの健全性を担保してほしい」という指摘が入りました。

要するに、ユーザーがライブ配信などを行っている場合に、不適切なコンテンツが流れたら検出する必要があったのです。しかし、人力でそれらをチェックしようとすれば、かなりのコストがかかってしまいます。

仮に弊社で人力チェックの体制を構築しようとすれば、これは推測値ですが 24 時間 + 365 日体制で常時 2 〜 3 名が張り付く必要が生じます。さらに、それらの人員のマネジメントコストおよび採用・体制構築の工数もかかります。上場審査の期間でこの体制を築くのは厳しく、かつコストの面からも他の手段を用いるべきだと判断しました。

そこで、AI による画像・動画認識を活用して検出する方法を模索しました。AWS のサービスで何か良いものはないかと調べていたところ、Amazon Rekognition を見つけました。

THECOO社 CTO 城 弾 氏

調査から導入までわずか 1 日で完了

桑原:Amazon Rekognition を知ってから御社のサービスに適用するまで、どれくらいの期間がかかりましたか。

城:誇張なしに、1 日以内ですべての作業が完了しました。私はちょうどその頃、実家に帰る予定があったのですが、東京から岡山までの夜行列車のなかで Amazon Rekognition 関連の処理の実装から本番環境への適用までを完了できたくらいです。簡単に、動画認識の仕組みを構築できました。

桑原:問題のあるコンテンツを検出する精度はいかがでしたか。

城:ほぼ完璧な精度で、問題を検出してくれました。たとえば、1 時間のライブ配信があった場合に「○○分○○秒の時点で、問題のあるコンテンツが出ている」という詳細なレベルで、Amazon Rekognition が情報を伝えてくれます。「これはすごい」と驚きました。

導入後の運用が楽なのも、Amazon Rekognition の大きな特徴です。今回の事例でお話ししている箇所に限定して言えば、運用にかかる工数はほぼゼロです。ライブ配信プラットフォームを運営している企業のなかには、健全性を担保するために数百名体制で人力のチェックを行っているところもあります。ですが、そうした体制をとらなくても、Amazon Rekognition があれば動画のチェックができるとわかりました。

桑原:Amazon Rekognition に関連する箇所のシステムアーキテクチャも教えてください。

城:「Fanicon」では Amazon Interactive Video Service によるライブ配信を行っており、Amazon CloudWatch を用いて配信終了のイベントを取得します。その後、AWS Lambda によって AWS Elemental MediaConvert を呼び出し、m3u8 形式のファイルを mp4 形式に変換します。この変換終了のイベントも、Amazon CloudWatch によって取得します。

mp4 形式のファイルを Amazon Rekognition の content moderation にかけて内容をチェックし、Amazon SNS で moderation 終了のイベントを取得します。もしもコンテンツに問題があれば、Slack に「ファイル名」「検知理由」「動画の開始から何秒後に検知されたか」を通知するという流れです。

桑原:今回の事例でピックアップした Amazon Rekognition もそうですし、AWS Elemental MediaConvert などもそうですが、マネージドサービスを徹底活用して実装や運用の工数を最小限にされていますね。

城:そうですね。AWS にあらかじめ用意されている機能を活用して、この仕組みを実現しています。かつ、AWS Lambda に書いているコードの行数も 30 行前後くらいなので、作業量はかなり少なく済みました。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 桑原 弘二

海外展開やシステムの適切な分割を目指して

桑原:事業やシステムの今後の展望についてもお話しください。

城:サービスの海外展開をしたいと構想しており、それに即したシステムを構築したいです。海外に向けて事業を展開する場合、それぞれの国の法令を遵守する必要があります。また、アメリカのように州によって規制が異なるケースもあるため、現地に社員が常駐するような形で、その土地ごとの情報を調べていきたいです。

桑原:各国の法令に合わせてすべてのシステムをゼロから構築するのは難しいですから、そうした場合にもマネージドサービスを活用して開発や運用の工数を最小限にすることで、事業展開のスピードを速められそうですね。

城:他の目標としては、事業で注力しているポイントに即してシステムを分割デプロイできるような設計にしたいです。私たちは多角的に事業を展開しており、たとえば EC サービスなども運営しています。

現在はシステムがモノリシックなアーキテクチャになっているため、仮に EC 関連の機能だけを更新したい場合でも、アプリケーション全体をデプロイする必要があります。今後は特定機能の更新をかける場合に、その箇所だけ部分的にデプロイ可能な設計にしていきたいです。システム分割に合わせて、チーム編成も柔軟に組み換えようと考えています。

桑原:今後、さらに事業や開発組織を成長させていくうえで、採用にも注力されると思います。どのようなエンジニアに来てほしいですか。

城:現時点の希望を言えば、エンジニアリングマネージャーを担える方に来てほしいです。開発組織をさらにスケールさせるうえで、マネジメントのできる人は必須だと考えています。また、先ほどの話にも通じますが、今後は海外の法令を遵守するとか内部統制の体制を構築するなど、企業全体のガバナンスを向上させることが必要になってきます。そうした知見を持った人にも、ぜひ参画していただきたいです。

桑原:御社の事業のさらなる成長が楽しみです。どうもありがとうございました。


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