AWS Startup ブログ
完全自動運転 EV の土台を支える AWS。TURING 社の事例を紹介
TURING株式会社は、AI(人工知能)によるレベル 5 の完全自動運転 EV(電気自動車)の実現・販売に取り組むスタートアップ企業です。同社の自動運転技術はカメラ画像のみをデータソースとした深層学習が特徴。ディープラーニングにより日々精度を向上させている AI が、カメラから得られた情報を元に状況を判断し直接ハンドルを操作します。現在は、自動運転 AI アルゴリズムの開発および走行実験・走行データ取得を行っており、自動運転システム搭載の車両開発に尽力しています。
TURING 社では、カメラから取得したデータの保存や AI 関連の機能開発を行うために AWS を有効活用しています。今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの三室 佑貴とスタートアップ ソリューションアーキテクトの松田 和樹が、同社の共同代表・CEO の山本 一成 氏とエンジニアの井ノ上 雄一 氏にお話を伺いました。
合言葉は「We Overtake TESLA」
松田:まずは TURING 社の企業概要を教えてください。
山本:私たちは「We Overtake TESLA」という合言葉を掲げ、テスラを越える完成車メーカーになることを目指しています。完全自動運転 EV に搭載する AI やソフトウェアだけではなく、車両システム・電子回路や自動運転車両に搭載するディスプレイ・操作機器などの設計・開発も行っているのが特徴。車のありとあらゆるレイヤーを構築できるチームを作っています。将来的には完全自動運転 EV を量産することが目標です。
TURING株式会社 共同代表・CEO 山本 一成 氏
三室:数ある事業領域のなかで、完全自動運転 EV に注力されているのはなぜですか。
山本:理由は明確で、車が大きな産業だからですね。国内でも有数の基幹産業ですし、国際競争力もあります。自分たちが注力する意義のある領域だと考えました。さらに言えば、アメリカや中国などの国では、自動運転車や EV に関連する会社は何百も存在しています。にもかかわらず、日本ではこの領域を扱う企業は 10 社に満たない程度しかありません。そのため、自分たちが、日本における自動運転車や EV の領域を牽引できる存在になりたいと考えました。
三室:御社の完全自動運転 EV は、カメラのみをセンサーとして搭載しているのが特徴です。多種多様なセンサーを車両に搭載する企業もあるなか、御社がこの方針を選んだのはどうしてでしょうか。
山本:人間が車を上手に運転できるのは、決して視力が抜群に良いからではありません。視覚情報に基づいた高度な判断や、他の人々や車のことを理解した行動ができるからこそ、適切に運転できるわけですよね。逆に言えば、センサーの種類を増やしても意味が薄い。人類が自動運転を実現できていないのは、人間と同等レベルの優秀な判断機が作れていないからだと考え、私たちはそこを目指しているためです。
Amazon SageMaker を活用した AI・ML 基盤
三室:クラウドとして AWS を活用している理由や、便利だと感じている点を教えてください。
井ノ上:AWS には便利なサービスが多数存在しています。そのため、何か実現したいことがある場合に調査してみると、用途に合ったものが見つかることが多いです。複数のサービスをうまく組み合わせて、多種多様なアーキテクチャを構築できるのは、AWS を使う大きな利点だと感じます。
TURING株式会社 エンジニア 井ノ上 雄一 氏
山本:それから、AWS を利用しているユーザーの層が厚いのも良いですね。多くの人がブログなどで情報を残しているため、インターネット上で調べるとすぐに必要とするリファレンスが見つかります。
松田:完全自動運転 EV の開発・運用では、具体的に AWS のどのサービスを活用されていますか。
井ノ上:私たちは現在、カメラで取得した映像をもとに AI でハンドルを制御し、決められたルートを走行する実験をしています。取得した動画データや車両の走行データは、Amazon S3 にアップロードされるようになっています。
その後続の処理は Amazon SageMaker で構築されたパイプラインによって実施します。Amazon SageMaker Processing によって前処理を行い、動画データを静止画データへと変換します。さらに、Amazon SageMaker Training Job によってモデルのトレーニングを行い、できあがったモデルを車に搭載したノートパソコンに落としてきて推論を行います。
実証実験の様子。山本 氏は自身の SNS で、開発の途中経過などを積極的に投稿している。
松田:開発効率の向上や自動運転の精度向上のために、今後実現したいことはありますか。
山本:山ほどありますが、たとえば動画・静止画データや走行データに対して、自動的にメタデータを付与できるような仕組みを構築したいですね。現在は、そうした作業を人間の手で実施する必要があり、それなりの工数がかかっています。なんらかの方法で自動的にメタデータを付与し、開発効率を向上させたり、メタデータによる情報の検索を可能にしたりといったことを実現したいです。
松田:TURING 社は AWS のソリューションアーキテクトによる技術サポートも利用されていますが、感想や要望はありますか。
井ノ上:技術サポートは、何か質問をするとすぐに対応してもらえて、AWS の適切な活用方法を知ることができるため非常にありがたいです。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ ソリューションアーキテクト 松田 和樹
松田:最近は、以前と比べると御社からのお問い合わせの頻度が減っている印象ですが、何か理由はありますか。
井ノ上:理由は 2 つあり、まず現在は AWS を用いたアーキテクチャの新規構築ではなく他のタスクに注力していること。それから、質問する内容をうまく自分たちでまとめきれていないときに、相談しあぐねていることもあると思います。漠然とこういうことしたいなというのはあるけれど、どこから手を付けていいかわからないというケースですね。
松田:そんなときこそ、ぜひ気軽にご連絡いただければありがたいです。プロジェクトの方針が決まっていない段階から、壁打ち相手としてソリューションアーキテクトとコミュニケーションをとってくださるお客さまはたくさんいます。お客さまとディスカッションをしつつ方針や課題、解決策などを徐々に明確にしていくことも、私たち AWS の重要な役割ですから。
井ノ上:そう言っていただけると安心です。これからはもっと気軽に相談します。
より多くの才能が、完全自動運転 EV の領域に集まってほしい
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 三室 佑貴
三室:事業やサービスの今後の目標を教えてください。
山本:私は近い将来、人類が確実に完全自動運転を実現できると思っています。直近ですと、中国のインターネット検索大手の百度(バイドゥ)は、ハンドルの取り外し可能な自律走行車を公開しました。また、アメリカのカリフォルニアや中国の深センなどでは、ロボタクシーの運用もすでに始まっています。
もちろん、「レベル 4 の高度運転自動化であるロボタクシーを実現すること」と「乗用車でレベル 5 の完全自動運転を実現すること」の間にはまだまだ高い技術的な壁がありますが、直近の数年間で大幅な技術革新が起きているのは事実です。
こうしたことを前提として、これから 10 年先に、完全自動運転車が影も形もない未来はあり得ないと思っています。にもかかわらず、今の日本国内には完全自動運転の領域に携わる人が本当に少ない。より多くの才能が、この領域に集まってきてほしいです。
個人的な所感としては、現在の日本の自動車産業は、ソフトウェアを扱う人たちとハードウェアを扱う人たちがすごく離れた世界にいると思っています。両者が協力し合って車を作れば、より良いプロダクトが生まれるはず。今回のインタビューで出てきたように、完全自動運転 EV の開発に AWS を活用するという発想もその一例ですよね。
TURING 社内には、各種車両システムや電子回路などハードウェア関連の機器もズラリ。幅広い技術領域を扱う同社の特徴がよく表れていた。
井ノ上:山本さんが話してくれたように、世界には完全自動運転車の実現という難易度の高い課題に挑んでいる人々が数多くいます。私たちも遅れをとらないように、日本発のスタートアップ企業として、完全自動運転車を開発していきたいです。
世の中には、完全自動運転 EV のためのハードウェアを作っている会社も、ソフトウェアを作っている会社もありますが、その両方を扱う会社は少ないです。完全自動運転車に関連した幅広い技術を扱っている自分たちの強みを生かして、今後も努力していきます。
三室:これから、さらに開発組織を拡大させていくと思いますが、どのようなスキルを持つエンジニアに参画してほしいですか。
山本:完全自動運転 EV を実現するには、ハードウェアやソフトウェア、UI・UX デザインなど多種多様なスキルを持ったエンジニアが必要です。そのため、各レイヤーのエンジニアを募集していますが、今回は AWS のブログに掲載されるということで、あえて限定すると AWS に詳しいエンジニアにぜひ来てほしいです。
AWS に関連するタスクをまるっと任せられるような、優秀でくじけない心を持ったエンジニアを求めています。他社ではなかなか経験できないようなシステムの構築に携われますし、働いていてきっと面白いはずです。
三室:御社が完全自動運転 EV を実現する未来が楽しみですね。今回はありがとうございました。
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