概要

課題・ソリューション・導入効果
ビジネスの課題
IoT 家電の急成長によりプラットフォームへの接続が大幅に増加
日立グループの主力事業者として、家電製品や空調機器の開発・製造・販売、エンジニアリング、保守サービスを手がける日立GLS。IoT プロダクト事業を成長領域に位置付けている同社は、スマートフォンと家電がつながり、ユーザーに新たな付加価値を提供する日立の『コネクテッド家電®』の提供を 2018 年より開始しました。
サービスを提供するプラットフォームは、IaaS 形態のクラウド環境に構築して運用してきましたが、接続台数が増加するにつれクラウドリソースの増設が頻繁になる等、対応が難しくなってきました。「10 万台接続が見えてきたあたりからシステムアーキテクチャ上の課題が顕在化し、クラウドリソースの増設で対応できなくなる懸念がありました」と語るのは、IT システム本部 主管技師長の立川敦氏です。
そこで、同社は 2021 年より 600 万台接続を見据えて新たなプラットフォームの構築を検討しました。
ソリューション
マネージドサービス/サーバーレスサービスを積極的に採用
新たなプラットフォームは、リソース拡張の容易性などを考慮して PaaS、SaaS 形態のクラウドを検討。出荷済みのコネクテッド家電製品との接続性、セキュリティポリシーの適合度、プレミアパートナーの存在、同業他社の IoT プラットフォームでの採用実績などを踏まえて AWS を採用しました。
「決め手は、出荷済製品との接続性です。各社のクラウドを評価した中で、MQTT/HTTP プロトコルにより、出荷済製品のソフトウェアを変更することなく利用できる高い適合性を示したのが AWS でした」(立川氏)
一方で、600 万台の接続に耐える性能の確保には検証が必要でした。そこで開発プロジェクト発足前に PoC による性能確認を実施しました。具体的には Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) で家電に見立てた負荷ツールを作成し、Amazon EC2 を 100 台立ち上げてピークトラヒックを発生させ、処理性能測定して目標性能を満たしていることを確認しています。「家電を利用する時間帯は製品により異なるため、最大 220 万台の同時接続を想定し、1 秒間に 2 万パケットのデータを流して試験しました」(立川氏)
これらの評価フェーズを経て、2021 年 8 月から本格的な開発プロジェクトをスタート。アーキテクチャ設計、構築、テストなどを経て、まずは 2022 年 6 月にロボットクリーナーからプラットフォームの切り替えを開始しました。以降、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなど新型モデルの発売のタイミングで新プラットフォームに切り替え、2023 年 3 月に移行を完了しました。
アーキテクチャの設計において、同社は AWS IoT Core、AWS Lambda、Amazon Kinesis、Amazon DynamoDB などマネージドサービス/サーバーレスサービスを積極的に採用し、アプリケーションはコンテナ化して、実行環境を Amazon ECS on AWS Fargate で構築しています。さらにビジネスニーズに短期間で対応することを目的に、CI/CD パイプラインを構築しました。
「パートナーからヒントをもらってコンテナの採用を決定し、さらにマネージドサービスで運用負荷の軽減を図ることにしました。CI/CD パイプラインは以前から注目していた技術で、ついに実現させることができました」(立川氏)
今回のプロジェクトにおいて、開発主管の IT システム本部 デジタルシステム開発部が新たにチャレンジしたことはアジャイル開発への取り組みです。家電製品開発の現場は歴史的にウォーターフォール開発が根強く、同社にとっても初めての試みでした。
「30 年以上ソフトウェア開発に携わってきた中で、以前からアジャイル開発に興味はあったものの、機会はありませんでした。今回、パートナーからの薦めもあり、アジャイルを実践して勉強することにしました。社内からは“品質は担保できるのか”といった指摘もありましたが、“まずは私たちが実績を作ります”と説得しました」(立川氏)
具体的には、4 ~ 8 名で構成した複数のスクラムチームが開発を担当し、デイリーミーティングで日々の課題をクリアしながら、1 週間スプリントで新たな機能を実装していきました。IT システム本部 デジタルシステム開発部 技師の中谷良平氏は「最初の 1 か月は慣れるのに精一杯でしたが、徐々にアジャイル開発の良さがわかってきました。機能を先行リリースし、後から開発者やユーザーの声を参考に機能を追加できるアジャイル開発は“もの作り”の現場においても有効な手法であることを実感しました」と語ります。
導入効果
インフラコストを約 50 % 削減し、管理工数も大幅に低減
新たなプラットフォームには、2023 年 9 月時点で海外からも含めて約 20 万台のコネクテッド家電が接続し、現在も毎月 1 万台のペースで拡大を続けています。リリース後も新機能を週 1 回のペースで追加し続け、CI/CD による自動デプロイの回数は 1 年半で 100 回に及びます。システムは安定運用を続け、何らかの警報が発生しても即座に対処できる体制を構築しています。IT システム本部 デジタルシステム開発部 主任技師の川村敏雄氏は「Amazon CloudWatch のダッシュボードで監視し、警報検知時は即座に Slack に通知する仕組みです。アクセスのピーク状況や警報なども毎朝のデイリースクラムで確認しながら、問題解決は当日中に図るなど、予兆を捉えた運用が実現しています」と語ります。
AWS への移行により、システムメンテナンスの作業負荷を軽減することができました。効果はそれだけにとどまりません。
「これまではパッチを当てる際に夜 0 時から朝の 5 時までシステムを止めてファイルを入れ替えていました。現在は、サービスを止めることなくファイルの入れ替えができるため夜間のメンテナンスはありません。結果としてお客様がスマートフォンから家電を操作できない時間がなくなり、早朝のお弁当作りや深夜の洗濯などで、ご迷惑をかけることがなくなりました」(中谷氏)
インフラコストも従量課金制に変わり、接続数の増加に応じてリニアに変化するようになったことで、結果として従来比で 50 % 削減。さらに現在は、バッチ処理の実行間隔に応じてコンテナを分割し、必要な時にリソースを起動する運用でコスト最適化を実現しています。AWS への移行プロジェクトは同社の組織文化にも大きな影響を与えました。立川氏は「ウォーターフォール型の開発が“正しい”と思われてきた企業文化の中で、アジャイル開発、スクラム開発を実現できたことは組織の成長にもつながりました。結果として別の部門からも、“こんなことはできないか”といった相談が寄せられるようになっています」と語ります。今後は、日立 GLS の中でさまざまな AWS 関連の開発案件が発生するケースに備えて、CI/CD パイプラインやセキュリティポリシーのガイドラインなど、AWS 活用における共通領域を整備・標準化しながら、他の開発部門や関連会社にもアプリケーション開発のプラットフォームとして提供することを構想しています。

ウォーターフォール型の開発が“正しい”と思われてきた組織の中で、アジャイル開発、スクラム開発を実現できたことは組織の成長にもつながりました
立川 敦 氏
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 IT システム本部 主管技師長アーキテクチャ

日立グローバルライフソリューションズ株式会社
取組みの成果
600 万台 - IoT 家電の最大接続数
週 1 回 - スプリント開発/自動デプロイのサイクル
50% - インフラコストの削減(従来比)
エンジニアリング文化の変革(アジャイル開発)
本事例のご担当者
立川 敦 氏

川村 敏雄 氏

中谷 良平 氏
