Amazon Web Services ブログ

第 8 回 AWS ジャパン 生成 AI Frontier Meetup ~学びと繋がりの場~【開催報告】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS ジャパン)が実施する「生成 AI 実用化推進プログラム」は、生成 AI の活用を支援する取り組みです。お客様のニーズに合わせ、カスタムモデルによる課題解決に取り組む方向けの「モデルカスタマイズコース」、公開モデルによるビジネス課題解決を狙う方向けの「モデル活用コース」をご用意しております。

その「生成 AI 実用化推進プログラム」の参加者や、GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)の関係者、生成 AI に関心を持つ企業が一堂に会する「生成 AI Frontier Meetup」が、2026 年 8 月 27 日に開催されました。2024 年 11 月の第 1 回、2025 年 2 月の第 2 回、2025 年 4 月の第 3 回、2025 年 8 月の第 4 回、2025 年 11 月の第 5 回、2026 年 2 月の第 6 回、2026 年 5 月の第 7 回に続き、今回が第 8 回となります。本記事では、イベントの模様をレポートします。

本イベントの司会進行は、AWS ジャパン 戦略事業開発本部 プリンシパル 戦略事業開発マネージャー 塚本 陽子が務め、全体を通じて登壇者の紹介やセッションの案内を行いました。

開会のご挨拶

イベントの冒頭では、塚本が開会の挨拶を行いました。

塚本はまず、AI を取り巻く環境の急速な変化について言及。日本政府が AI と半導体を含む戦略分野へ 2040 年までに官民累計 370 兆円超を投資する方針を示したことや、自律型エージェントを運用するインフラが整いつつある現状を説明しました。

一方で、S&P Global の調査を踏まえ、AI 実証実験の 46% が現場ニーズとのミスマッチや組織的な準備・運用体制の不足で本番導入前に打ち切られている課題もあると指摘。AWS はこのギャップを埋めるべく、構築から運用、セキュリティまで包括的なサポートを強化してきたと語りました。加えて、OpenAI 社との連携拡大や Amazon Quick のような自律型エージェントの進化についても触れました。

続いて、「LLM 開発支援プログラム」や「生成 AI 実用化推進プログラム」、「フィジカル AI 開発支援プログラム」など AWS のこれまでの支援実績の歩みを振り返りました。経済産業省と NEDO が主導する「GENIAC」プロジェクトへの継続的な支援実績を報告するとともに、今後は「フィジカル AI 開発支援プログラム」を「生成 AI 実用化推進プログラム」へ統合して窓口を一本化し、より柔軟な開発支援を提供していく方針を示しました。

最後に、本ミートアップを通じた AI 活用の加速に期待を寄せて挨拶を締めくくりました。

AWS セッション

AWS セッションの前半パートでは、ゲストスピーカーである Weights & Biases Japan AI ソリューションエンジニア 山本 祐也 氏(写真上)が登壇。後半パートでは、AWS ジャパン プリンシパル スタートアップ ソリューションアーキテクト 針原 佳貴(写真下)をモデレーターに、対談形式でセッションが行われました。

山本氏はまず、ディープラーニングの実験管理ツールを提供する同社の歩みを紹介した上で、3 年以上にわたり運営を続けている日本語 LLM リーダーボード「Nejumi」の取り組みについて語りました。「Nejumi」は日本経済新聞社の「AI モデルスコア」にもデータ提供を行うなど、国内の生成 AI 開発における重要な指標となっています。山本氏は「網羅的かつ継続的に評価を続けること自体が業界貢献になる」と、その意義を強調しました。

続いて、LLM 評価トレンドの変遷を解説しました。2023 年から 2024 年頃は人間が比較採点する形式が主流でしたが、AI が高度化するにつれて人間の採点限界を超えてきています。そのため、API の利用実績をベースにした OpenRouter や、多面的に測定する Artificial Analysis など多様な手法が登場しています。

一方で、現在の評価における大きな壁として「ベンチマークのデータ汚染」と「評価コストの爆発」を挙げました。特にエージェント機能の評価においては、1 つのモデルの評価だけで最大 100 万円規模の費用が発生する「ベンチマーク破産」のリスクに言及。同社では、難易度を分散させたハイローミックス設計を行うことや、トレースデータを分析して極端に負荷のかかるタスクを特定・改善することで、コストと信頼性を両立させている旨を解説しました。

対談パートでは、針原からの問いかけに応じる形で、日本語モデルの現状や実践的な評価設計について議論を行いました。山本氏は、米中モデルが先行する中でも国内モデルは着実に進化していると言及。一般的なビジネスユースケースでは十分な実用性を備えていることに加え、データ主権を守る「ソブリン AI」としての需要も高まっていると説明しました。AWS 側からも、Amazon Bedrock Marketplace 等を通じた国内モデルの普及支援の重要性が語られました。

さらに議論は、製造やロボティクスといった物理空間で動作する「フィジカル AI」の領域にも波及。実世界でのタスク遂行に向けたモデル開発や、現場導入を見据えた評価の重要性についても意見が交わされました。

最後に山本氏は Weights & Biases 社のサポート体制に言及。「基盤モデルの開発だけでなく、Claude Code や Codex などの API 利用のトレースまで幅広くカバーしている」と語り、あらゆるフェーズの生成 AI 開発者を支援する姿勢を示してセッションを終えました。

カスタマー事例

ここからは、生成 AI 実用化推進プログラムに参加する各社の代表者が登壇し、自社の取り組みを紹介しました。AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 AI Specialist SA の鯨田 連也(写真右)と Senior GenAI / Agentic AI Sales Manager の官能 翔一(写真左)がモデレーターを務め、登壇者に質問を投げかけつつ進行しました。

株式会社みずほフィナンシャルグループ デジタル戦略部 テクノロジー第二チーム ヴァイスプレジデントの皆川 拓 氏は、同行が推進する「みずほ LLM」の開発と実務活用の取り組みを紹介しました。

独自 LLM を開発する背景として「データの機密性・主権の確保」「金融規制・法令対応の担保」「専門業務への適用・競争力の源泉化」の 3 点を提示。AWS 上に構築された基盤「みずほWiz Base」を軸に、内製開発体制で迅速な実装を進めている体制を説明しました。

開発プロセスにおいては、行内資料等を活用した追加学習によって金融基礎知識の正答率を約 9 割まで高めた後、実務適用フェーズへと移行。融資判断など複雑な業務に対応すべく、社内有識者の知見をもとに確認論点や次アクションを評価するデータセットを作成し、ファインチューニングや RAG を組み合わせて精度を向上させている現状を解説しました。

今後は行員が実際にモデルを試用できる環境を整え、現場のフィードバックを反映した改善を継続するほか、独自 LLM を組み込んだ安全かつ高効率な AI エージェントの技術検証を進めていくと展望を語りました。

株式会社Sapeet AI Solution 事業部 Senior Project Manager / Senior Systems Architect の村上 大昌 氏は、仰星監査法人における「監査リスク分析 AI」の開発事例をもとに、ノーコードからコードベースへの移行戦略と実践知見を語りました。

立ち上げフェーズではノーコードツールの Dify と Amazon Bedrock を採用し、非エンジニアも巻き込んだ迅速なプロトタイピングにより作業時間 87% 削減を達成。しかし、プロダクトの成長に伴い「ワークフロー肥大化による見通しの悪化」「複数人開発におけるコンフリクトやバージョン管理の難しさ」「標準チャット UI の表現力の限界」という 3 つの課題に直面しました。

そこで同社はコードベースへの移行を決断。実行基盤に Amazon Bedrock AgentCore、エージェントのワークフロー記述に Strands Agents を採用しました。Dify の資産を活かした設計により実質 2 週間という短期間で移行を完了し、業務に最適化したダッシュボード UI も実現しました。

村上氏は「フェーズに応じた適切な技術選択が重要」と強調。初期に求められるスピード感と成長後の拡張性・保守性を両立させる実践的なアプローチを示しました。

株式会社rh labo R&D部 プロダクトマネージャーの金田 洋平 氏は、既設の防犯カメラと生成 AI を活用し、賃貸住宅のゴミ置き場における放置・散乱問題の解決に挑む取り組みを発表しました。

ゴミ出しのルール違反は物件の資産価値や入居率に直結する一方、従来は定期巡回や通報頼みで対応が後手に回る課題がありました。そこで同社は、防犯カメラ画像を Amazon EventBridgeAmazon ECS を介して取得し、Dify と Amazon Bedrock を連携させて画像解析・Slack 通知を行う仕組みを構築。個人情報保護法への配慮として Amazon Rekognition を前段に配置し、人物が写り込んだ画像を除外する設計を施しました。

運用においては「誤検知しても人に無駄な通知が飛ばない」設計思想を徹底。前日画像と比較する 2 段階判定や AI の確信度スコアを活用することで、PoC において誤アラート率を 0.41% まで抑え込み、低コストでの本番稼働を実現しました。

金田氏は、本取り組みによりゴミ問題の発生率や放置日数が指標化できたと説明。「今後は注意喚起や回収手配までを AI エージェント化し、より自律的な課題解決を進めたい」と展望を語りました。

株式会社BTM DX推進事業 ITエンジニアリング事業部 部長補佐の瀬崎 優太朗 氏は、「非エンジニアでもできる障害調査」をテーマに、AI エージェントを活用したシステム運用保守の効率化ソリューションを紹介しました。

システム障害の問い合わせ対応では、その連絡を受けた非エンジニア(営業やカスタマーサポート)と技術チーム間で複数回のやり取りが発生し、解決までに多くの時間とコミュニケーションコストを要する課題がありました。

同社はこれを解消すべく、チャットツールから自然言語で入力するだけで、AI エージェントが Amazon CloudWatch LogsAmazon Aurora を直接調査・要約して即座に返答する仕組みを構築。電話対応中に約 1 分で一次回答できる体制を整え、調査工数を最大 95% 削減しました。

システム基盤にはAmazon Bedrock AgentCore を採用して疎結合な運用管理を実現。破壊的 SQL の実行を遮断するツール側の制限や各種ガードレールを組み合わせた「多層防御」により、安全性を確保しています。瀬崎氏は「専門知識を要する調査を AI が代替することで属人化を解消できる」と語り、さらなる業務改善を進める姿勢を示しました。

クロージング

クロージングでは塚本より、次回の「生成 AI Frontier Meetup」が、2026 年 11 月 10 日に開催予定であることを説明しました。加えて、生成 AI 関連の開発・運用において参考になる技術ブログも紹介しました。

参加者交流会の様子

ネットワーキングの時間では、各セッションで議論されたテーマを踏まえ、参加者同士が知見を共有し合う熱気あふれる交流が行われました。業界の垣根を越えて「学びと繋がり」を深める本イベントらしい活気にあふれ、新たな共創の可能性を感じさせる場となりました。

会場内には、技術的な相談に応じる「Ask an Expert」コーナーや、各種の疑問を気軽に相談できる「よろず相談」コーナーも設けられ、参加者の方々の質問に回答いたしました。

おわりに

第 8 回を迎えた本イベントでは、生成 AI の最新技術トレンドや実践的な評価手法について深い知見が共有されたほか、参加者の方々がネットワークを広げる貴重な機会となりました。AWS ジャパンは、今後もコミュニティの活性化や技術支援を通じて企業の生成 AI 活用を後押しし、その実用化と発展に貢献してまいります。