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Amazon Transcribe が音声基盤モデルに基づき 100 言語以上に対応する新しい音声認識システムを発表
Amazon Transcribe は、アプリケーションに音声認識機能を簡単に追加できる、フルマネージドの自動音声認識 (Automatic Speech Recognition; ASR) サービスです。この度、数十億パラメータから構成される次世代の音声基盤モデルに基づいた、100 言語以上に対応する音声認識システムを発表できることを嬉しく思います。この記事では、このシステムのメリット、企業がそれをどのように活用しているか、そして利用開始方法を紹介します。また、本記事の下部には音声認識結果の例も記載しています。
Amazon Transcribe の音声基盤モデルは、自己教師あり (self-supervised) アルゴリズムを用いて学習されています。これにより、人間の音声の普遍的なパターンを言語やアクセントを越えて学習できます。本モデルは 1 億時間以上、100 言語以上のラベルなし音声データを使用して学習されています。言語間の学習データのバランスを取るように最適化された学習方法を用いているため、従来対応できていなかった言語でも高い精度が得られます。
Carbyne は、緊急通報対応者のための、クラウドベースでミッションクリティカルなコンタクトセンターソリューションを開発するソフトウェア会社です。Carbyne のミッションは緊急対応者による救命の支援であり、言語の壁がその妨げになってはいけません。このミッション達成のため、Carbyne では Amazon Transcribe を以下の通りに活用しています:
「AI を活用している Carbyne ライブオーディオ翻訳は、家庭で英語以外の言語を話す 6,800 万人のアメリカ人と、年間最大 7,900 万人の外国人観光客の緊急対応の改善に直接役立つことを目的としています。Amazon Transcribe の新しい多言語基盤モデルに基づく音声認識機能を利用することで、Carbyne は誰もが等しく大切な存在であるという理念のもと、生命救助の緊急サービスをより多くの人々に提供できるようになるでしょう。」
– Alex Dizengof, Carbyne 共同設立者兼 CTO
Amazon Transcribe の音声基盤モデルを活用することで、ほとんどの言語において認識精度が 20%-50% 向上しました。また、電話音声は認識の難易度が高くデータが不足しがちな領域ですが、こちらでも 30%-70% の精度向上を実現しました。大幅に向上した認識精度に加え、この大規模音声認識モデルは、句読点や大文字小文字をより正確に認識できるので、書き起こしの可読性も向上させます。生成 AI の登場により、数千もの企業が Amazon Transcribe を利用して、音声コンテンツから豊富なインサイトを引き出しています。精度が向上し 100 言語以上のサポートを実現した Amazon Transcribe を利用することで、このようなあらゆるユースケースで良い効果が期待できます。バッチモードで Amazon Transcribe を利用している全ての既存および新規のお客様は、API エンドポイントや入力パラメータを変更することなく、音声基盤モデルに基づく音声認識を利用できます。
新しい音声認識システムは、100 以上の全言語において、使いやすい利用形態、カスタマイズ性、ユーザーの安全性、プライバシーなどの主要な機能を提供します。句読点の自動付与、カスタム辞書、自動言語識別、話者識別、単語レベルの信頼度スコア表示、カスタム辞書フィルタなどもこれらの機能に含まれます。異なるアクセント、ノイズ環境、音響条件への対応の拡大により、より正確な文字起こしができるようになり、音声認識技術をお客様のアプリケーションに効率的に導入できます。
さまざまなアクセントやノイズ条件下での Amazon Transcribe の精度向上、対応言語の拡大、付加価値をもたらす機能の充実により、数千もの企業が音声コンテンツからのインサイトを抽出し、音声やビデオコンテンツの可視性や見つけやすさを向上できます。例えば、コンタクトセンターは顧客との通話を文字起こししてインサイトを得た上で、顧客満足度やエージェントの生産性向上に活用しています。また、コンテンツ制作者やメディア配信事業者は、Amazon Transcribe による自動字幕作成を利用してコンテンツのアクセシビリティを向上させています。
Amazon Transcribe の利用開始方法
AWS コマンドラインインターフェース(AWS CLI)、AWS マネジメントコンソール、および AWS SDK を使用してバッチ文字起こしを行うことができます。従来と同じ StartTranscriptionJob
API を使用して、コードやパラメータの変更をすることなく、性能が強化された自動音声認識モデルを利用できます。AWS CLI とコンソールの使用方法の詳細については、AWS CLI による文字起こしと AWS マネジメントコンソールでの文字起こしをそれぞれ参照してください。
最初のステップは、メディアファイルを Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) バケットにアップロードすることです。S3 は、あらゆる量のデータをどこからでも保存および取得するために構築されたオブジェクトストレージサービスです。S3 は極めて低コストで、業界をリードする耐久性、可用性、パフォーマンス、セキュリティ、ほぼ無制限のスケーラビリティを提供します。書き起こしを独自の S3 バケットに保存するか、Amazon Transcribe に安全なデフォルトのバケットを使用させるか選択できます。S3 バケットの使用方法の詳細については、Amazon S3 バケットの作成、設定、操作 をご覧ください。
音声認識の出力結果
Amazon Transcribe の出力は JSON 形式です。書き起こしの結果は、テキスト形式とアイテム形式の 2 つの異なる形式で出力されます。API エンドポイントや入力パラメータに違いはありません。
テキスト形式は、まとまったテキストとして書き起こしを提供します。一方で、アイテム形式は時系列で順序付けされた 1 つ以上の書き起こしアイテムの形式で、各アイテムごとの追加のメタデータとともに提供されます。書き起こし結果のファイルではこれらの 2 つの形式が両方出力されます。
書き起こしジョブの作成時に選択するオプションに応じて、Amazon Transcribe は書き起こしを作成します。次の出力結果を参照してください:
各項目の説明は以下の通りです。
- 書き起こし –
transcripts
要素で表され、書き起こしのテキスト形式のみが含まれます。複数話者、マルチチャネルの場合は、すべての書き起こしが 1 つのブロックとして連結されています。 - 話者 –
speaker_labels
要素で表され、話者ごとにグループ化された書き起こしのテキスト形式とアイテム化された形式が含まれます。この項目は、話者識別 (Speaker partitioning/diarization) 機能 が有効になっている場合にのみ利用できます。 - チャネル –
channel_labels
要素で表され、チャネルごとにグループ化された書き起こしのテキスト形式とアイテム化された形式が含まれます。この機能は、マルチチャネル機能が有効になっている場合にのみ利用できます。 - アイテム –
items
要素で表され、書き起こしのアイテム化された形式のみが含まれます。複数話者、マルチチャネルの場合は、アイテムには話者やチャネルを示す追加のプロパティが含まれます。 - セグメント –
segments
要素で表され、書き起こしのテキスト形式とアイテム化された形式が含まれます。代替書き起こしのまとまりでグループ化されており、代替文字起こし機能が有効になっている場合に限りこの機能が利用できます。
訳註: 例えば日本語の書き起こしデータ (transcripts
) は以下のように出力されます。(こちらの動画の 1:55- 以降)
えではですね、あ、こんにちは。ではですね。あの私の方からま、今回のイベントのですね。あのジェネラルセッションということで、あのAWS、こんなこと考えてますとか、ま、こんなことができますっていうですね、概要をご紹介させていただいて、後続のですね。あのより深掘りをする楽しいセッションに繋いでいくというお話をしていきたいなという風に思っていますので、よろしくお願いいたします。あ、よろしくお願いします。はいえーではですね。まもしかしたらご存じない方もいらっしゃるかもしれないので、ま、そもそもAWSって何ぞやって話をですね、ちょっとだけしたいなという風に思っています。で、AWSまアマゾンウェブサービスということで、ま、アマゾンの仲間の一員ということになるんですけれども、あのアマゾンとですねま、AWSえ、我々はですねま、地球上で最もお客様を大切にする企業でありたいという風に考えています。で、アマゾンのビジネスモデルなんですけれども、あのより多くのお客様にですね、満足をいただくとで、そうすると、さらにたくさんのお客様がいらっしゃって。で、その場を使ってですね、ビジネスをやりたい人も増えるだろうと。そうすると、品揃えが増えて満足につながるよね。ま、これをぐるぐる回しましょうっていうところが一つと。あと、あのだんだん大きくなってくるにつれて、まオペレーションのコストとかも発生してくると思うんですけれども。ま、それを低コストでですね、回していくことで、え?お客様にですねえ、低価格という形で還元をするということをアマゾン全体では考えていて。で、AWSもですね、あの、その同じ考え方が、あの息づいているサービスということになっています。
まとめ
AWS では、お客様のために絶えずイノベーションを起こしています。Amazon Transcribe の対応言語を 100 言語以上に拡張することで、多様な言語背景を持つユーザーへのサービス提供が可能になりました。これはアクセシビリティの向上や、世界規模でのコミュニケーションと情報交換の新たな機会の創出にも繋がります。この投稿で議論した機能の詳細は、機能紹介ページと新機能のお知らせ (What’s new)をご覧ください。
本記事の執筆者紹介
Sumit Kumar は AWS の 言語系 AI サービスチームでプリンシパルプロダクトマネージャーを務めています。様々な分野において 10 年のプロダクトマネジメントの経験があり、AI/ML に情熱を持っています。趣味は旅行と、クリケットやローンテニスです。
Vivek Singh は AWS の 言語系 AI サービスチームでプロダクトマネジメントのシニアマネージャーを務めており、Amazon Transcribe 製品チームのリーダーです。AWS に入社する前は、コンシューマーペイメントや小売など、Amazon の他の組織でプロダクトマネジメントを行っていました。Vivek はシアトルに住んでいて、趣味はランニングやハイキングです。
本記事の翻訳は Solutions Architect 安藤が担当しました。原文はこちらです。