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KDDIアジャイル開発センターの AWS 生成 AI 事例:Amazon Bedrock で営業活動をサポート – 議事録と提案書の作成時間を削減

本ブログは、KDDIアジャイル開発センター株式会社 プロダクトオーナーリード 佐々木 祥氏、同 エンジニア 大坪 悠氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 新谷 が共同で執筆しました。

KDDIアジャイル開発センター株式会社(以下、KAG)は、サービスデザインとアジャイル開発手法によりビジネス創出からプロダクト開発を一貫してサポートするプロフェッショナル集団です。同社は Amazon Bedrock 統合の Slack チャットボットを開発する等、生成 AI を活用した社内外の課題解決に積極的に取り組んでいます。本ブログでは KAG の寄稿により、Amazon Bedrock を活用した営業支援プロダクト「議事録パックン」で、一連の営業活動を効率化し、営業知見の収集と利活用サイクルを構築した事例をご紹介します。実際に KDDI株式会社(以下、KDDI)の営業担当者が本プロダクトを利用し、議事録と提案書の作成時間を最大 1 時間短縮できるという効果が得られています。

導入背景

本事例は KDDI の営業社員が感じていた課題感を起点としています。営業活動は、過去のアプローチや商談結果に基づく知見を利活用して提案内容を検討することがありますが、この営業知見の原資となるのが個人の「日報」です。しかし、営業社員が忙しさから日報を書き残す時間を十分に取れなかったり、日報を収集して有効に利活用できるメカニズムを構築できていない点が課題でした。実際に、営業社員へのインタビューの中でも「議事録と日報作成の手間」や「情報共有が属人的」等の点に課題感を感じているという声が上がっています。そこで、KAG は日報の重要性とその作成負担を鑑み、日々の営業活動の自動収集・知見出力の自動化に取り組み、営業活動全体の業務フローを一気通貫で支援、改善できるプロダクトの開発を開始しました。

生成 AI で営業活動を一気通貫に支援「議事録パックン」

KAG は、営業活動の業務フローを生成 AI で一気通貫に支援するプロダクト「議事録パックン」を開発しました。日々の営業活動では ① 議事録作成を通じて活動履歴を残し ② 議事内容から商材検討の上顧客提案を行い ③ 日報・週報の作成通じて知見を利活用可能にする、というサイクルが重要です。各フェーズに対し「議事録パックン」は生成 AI を活用し ①’ 議事録生成機能 ②’ 提案骨子生成機能 ③‘ 日報・週報生成機能 を提供します。

1. 議事録生成機能

会議の録音・録画 ファイル、又は電話会議ツールの書き起こしテキストファイルをアップロードすることで、議事録を出力できる機能です。議事録は「参加者」「概要」「結論」「次回の議題」のように項目に沿って要点が提供されます。工夫した点として、一度出力された議事録に対しても、ユーザーが項目別に修正方針を入力し、再整形することが可能です。例えば「結論」の項目を「箇条書きにして」等と指示すると、指示に従って再整形した議事録を出力し直します。

2. 提案骨子生成機能

生成した議事録を活用し、提案骨子を出力できる機能です。ユーザーが案件名や対象とする議事録を入力すると、自動的に社内で保有している関連商材や他社の競合製品を検索し、比較表を生成します。このような流れで収集した情報に基づき、最終的には次回の顧客訪問に向けた提案骨子を生成します。

3. 日報・週報生成機能

日報・週報を出力できる機能です。ユーザーが期間を入力すると、案件毎にその期間で「議事録パックン」を通じて生成した情報に基づき活動履歴を要約し、日報・週報を生成します。

導入効果

実際に KDDI 営業担当にて本プロダクトを活用し評価を行なった結果、議事録と提案書の作成時間を最大 1 時間短縮することができました。また、生成された「議事録」「提案骨子」「日報」に対して「そのまま営業日報に使えるレベル」「部内の横展開もしやすく、業務品質は上がると思う」「提案材料を探す手間が減り、どう提案するかに力がさけるようになる」等のポジティブな声が多くあり、本プロダクトが営業活動を効率化し知見蓄積を促すために有効であることが確認できました。一方で、録音文化の醸成やファイルアップロードの待ち時間、具体的な知見の利活用などの観点での課題もフィードバックされており、これらの点は改善の余地があります。

アーキテクチャ

「議事録パックン」のプロジェクトは 企画から開発、評価に至るまで約 3 ヶ月で完了しました。そのうち、実際の開発期間は約 2 週間です。 Amazon Bedrock を中心に AWS マネージドサービスをフル活用したことで、短期間で生成 AI アプリケーションを開発することができました。そんな「議事録パックン」のアーキテクチャをご紹介します。

まず、議事録生成機能では、会議の音声データがアップロードされると、Amazon Elastic Container Service (ECS) で起動したコンテナが、Amazon Transcribe を呼び出して書き起こしテキストを取得します。このテキストを元に、 Amazon Bedrock の Claude 3 Opus に要約を指示して議事録を生成させます。議事録に対しユーザーから再整形を指示された際は、指示内容をプロンプトに付与して再度 Amazon Bedrock を呼び出します。提案骨子生成機能では、 LangChain の ReAct Agent を活用し、必要な社内外の情報を動的に取得しています。 Agent は、社内文書を格納している Amazon Bedrock Knowledge Bases から自社商材を検索する Tool や、他社製品や業界情報を取得するために Google 検索を行う Tool を使いながら、提案商材の検討・比較を行います。最終的には、取得した情報と議事録に基づき提案骨子を生成します。生成された情報は Amazon DynamoDB に蓄積し、日報・週報生成機能で利用しています。ユーザーに指定された期間の生成物を Amazon Bedrock に要約させることで、日報・週報を生成します。運用面では、 Langfuse を活用し、生成内容をトレースしながら評価やプロンプト管理ができるようにしました。

所感と今後の展望

Claude3 Opus の日本語生成精度が大変優秀だったため、当初時間を要すると思われた LLM のプロンプトやコンテキストの入れ方に関するチューニングがほぼ不要であった点が開発を一段と簡単にさせました。特に議事録生成機能は利用部門で好評となっており、営業メンバー本人が書く議事録と遜色がないレベルとのコメントも頂いております。プロダクト開発初期から Langfuse などのオブザーバビリティにも力をいれていた点も、開発速度向上に繋がりました。オブザーバビリティについては、より一層 Amazon Bedrock との親和性が高いマネージドサービスが出てくることを期待したいです。
(KDDIアジャイル開発センター株式会社 エンジニア 大坪 悠氏)

今回は議事録生成および議事内容から推測される次の打ち手の骨子程度の提案までにとどまりましたが、今後はさらにその先の、会社の戦略・ビジョンに関わる提案の支援や、プレゼン資料自体の作成等まで発展させ、利益創出の原動力となるプロダクトを目指したいです。その上でエージェント機能の進展は欠かせないと感じています。 AWS らしいカスタマイズ性は残しつつ、多岐にわたる知見の自律的活用が可能な AI 機能拡張に期待したいです。
(KDDIアジャイル開発センター株式会社 プロダクトオーナーリード 佐々木 祥氏)

まとめ

本ブログでは、KDDIアジャイル開発センター株式会社の Amazon Bedrock 活用事例「議事録パックン」をご紹介しました。議事録や日報作成といった、日々の活動記録・レポートに上手く生成 AI の力を取り入れることで、営業活動全体を効率化しています。社内業務の課題を起点とした生成 AI ユースケースとして、皆様の参考になれば幸いです。

著者

佐々木 祥
KDDIアジャイル開発センター株式会社 ビジネスデザイン部 プロダクトオーナーリード

大坪 悠
KDDIアジャイル開発センター株式会社 開発5部 エンジニア

新谷 歩生
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ
シニアソリューションアーキテクト